思い出作りの始まり
眠ると君は、今日過ごした記憶を全て失って死んでしまう。そして次の日の朝、決まって6時に目を覚ます。失ってしまう記憶は、その日の人と過ごした記憶。例えば話した内容や、訪れた場所など人と過ごした時間だ。勉強の内容や学校の場所などははっきりと覚えている。そんな呪いにも似たようなもののおかげで、小学生の時は随分苦労したそうだ。だが中学生になってからは、毎日の出来事を日記に書いてその日の記憶をできる限り次の日に繋いでいるそうだ。そんな彼女(神谷 恵美)と僕(諏訪 翔)が出会ったのは、高校3年の春。桜が少しずつ散りだした時期だ。
「おっはよーございまーす!!」
僕の席は窓側の後ろから2番目の席だというのに彼女の声はよく聞こえた。彼女はすぐにクラスのほとんどの人と仲良くなっていた。
「かける〜、恵美ちゃん元気だよな〜。」
朝から僕の名前を呼ぶのは、中学からの友達の北島 光輝だ。もう1人中学からの友達の三笠 大輝と言うやつもいるが今日はまだ来ていないようだ。僕ら3人は3年間同じクラスだったので3人とも神谷さんと同じクラスになれていないのだ
「恵美ちゃんってお前、友達にでもなったの?」
僕は光輝の発言を聞いて1人取り残された感を感じていた。
「昨日の休み時間大輝と話してたら、話しかけられてその流れで友達になったよ。」
「なんで教えてくれないんだよ。てか、いつの休み時間だよ?」
「お前トイレ行ってたじゃん。」
どうやら僕は本気で取り残されたらしい。
「翔、一緒に帰るぞ。」
2人が誘っているが僕はその誘いには乗れない。
「今日日直で日誌出しに行くから、先行っててくれ。」
「そうか、頑張れよ。」
そう言って2人は先に帰ってしまった。さぁ、日誌を出しに行こう。
「諏訪くん。学校は慣れましたか?」「はい。もう大分慣れました。」「それは良かった。ところで、教室の鍵は閉めましたか?」「あ!」
僕は急いで教室の鍵を閉めに行った。閉まる前にもう一度教室を確認しようと思い扉を開けた。
「わっ!!ビックリした。」
そこには神谷さんがいた。
「そんなに驚かなくても。こんな時間に何してるの?」
彼女の机を見ると日記を書いているようだ。
彼女は少し笑いながら聞きたい?と聞いてきた。
「クラスの有名人の話なら聞きたいね。」
彼女は真剣な顔で話してくれた。僕は真剣な彼女の横の席に座って話を聞くことにした。
「実は私ね、夜になると死んじゃうの。そして人との記憶を失って、また朝生き返るの。」
僕は思わず、「何言ってんの?」と言ってしまった。
でも普通の人間ならこんな反応をするのが当たり前である。むしろ僕は普通の人間の反応だと思った。
「なんだ〜、その反応は!まさか信じて無いな!」
「いやいや、普通の人ならそんな反応だから。てかその話が本当だとして、君は前世で何をしたんだ?そんな呪いみたいな病気にかかるなんてよっぽどの悪だったの?」
僕はすごく真剣に彼女の話の感想を返した。
「わっははは。たしかに。私相当な悪だったのかも!」「それ笑いながら言うこと?」
彼女はもしかしたら少しおかしいのかもしれない。
「今の話、全部本当の話だよ。じゃないと、こんな日記書いてないよ。」
確かに、もっともな意見だ。僕は彼女に興味が湧いてきた。
「どう?興味が湧いてきたでしょう?」
お前は超能力者か!なんて言うツッコミを心の中でした。
「そんなクラスメイトの話、興味しか湧かないよ。」
「翔君って面白いね」「それはどうも」
「翔君!付き合ってよ!」「は?」
思わず僕は立ち上がってしまった。当たり前だ。普通の男子なら、急に女子からこんな話をされて驚かないわけない。
「何驚いてるの?」「いやいや、普通驚くでしょ。」
「付き合うって、思い出作りだよ?」「へ?」
僕の口から間抜けな声が出た。
「だから、思い出作りだよ!今から2人でどっか行って、今日の思い出を作るの!」
なんだ、そんなことか。僕は安心した。すると彼女は急に、「ん?もしかして彼氏彼女の関係に私がなろうとしたと思ったの?」「翔君もしかして彼女欲しいの?」
彼女はイタズラが成功した小学生のような顔で僕に言ってきた。僕は少しイラッときてしまったが彼女が言ったことも本気で否定はできなかったので、話を変えることにした。
「で、どこ行きたいの?」
彼女は少し考えて「ファミレス!」と答えた。
僕は今神谷さんと2人でファミレスに来ている。ファミレスで彼女はポテトを食べたりパフェを食べたりしていた。
「そんなに食べてたら、晩御飯たべれなくなるよ?」
「デザートは別腹なのです。」「太るよ?」
「女の子にそんなこと言う?」「言うよ」
「わっははは、やっぱり翔君面白いね!」
どこが?なんてツッコミを入れたくなったが抑えた。
彼女はたべ終わるとまた日記を書き出した。
「何書いてるの?」「日記」
もっともな意見だがイラッときた。
「内容だよ。」
僕は少し不機嫌に言った。
「怒らないでよ〜。今日の思い出だよ。今日のこと忘れたく無いからさ。」
僕は彼女の呪いのようなもののことをすっかり忘れていた。だって目の前にいるのは普通の女子高生なんだから。
彼女は日記を書き終わるとすぐに立ち上がった。
「もう出ようか。」彼女の案に僕も賛成した。
彼女の家は僕の家の方向と逆にあるらしいが、今はまだ明るいので送って行く必要もないだろうと僕は思った。
「じゃあ。」
「翔君待って!ライン交換しようよ。」
「いいよ。」
「じゃあ!また明日。」
「うん。」
「翔君!私のこと絶対に忘れないでね!私も翔君のこと忘れないから。」
僕は笑顔で頷いた。それを見た彼女は笑顔になり家の方に向かって行った。
「忘れるわけないよ。」
そんなことを呟きながら僕も家に帰ることにした。
その日の夜すぐに彼女からラインがきた。
「今日はありがとう!」
「本当に楽しかったよ!!」
「僕も楽しかったよ。」
「ありがとう」
「後、私のこと言うの君が初めてだからね!」
「他のみんなには内緒だよ?」
「また明日!」
「おやすみなさい!」
「わかったよ」
「おやすみ」
僕は今日の彼女の話を思い出していた。彼女はこれから死んでしまうのだ。あれ程元気な彼女からはとても想像できないが、彼女の話が本当なら彼女はこれから死ぬのだ。そんな彼女のことをどう思っているのか正直わからなかった。でも僕は今彼女に生き返るとはいえ死んでほしくは無いと強く思っていた。そんなことを考えていると僕は眠ってしまっていた。