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引きこもりだけど結婚してました。

最初はこういう話ではなかったですが、最後まで書いたのでネットにあげといて、後で時々自分で読みます。

「やあ、可愛いね。初めまして、夫のリチャードだよ。よろしくね」


  え、誰?


  引きこもっていた部屋から出て、待っていたのはイケメン………え? イケメン?!

  夫って、何?


「お父様、この人が僕のお母様ですか? 誕生日プレゼントありがとうございます」

「大事にね」


  イケメンによく似た男の子もいる。

  いや、何故か私にも似ている。

  イケメンが男の子の頭を撫でた。


  いや、大事にねって。

  私は物じゃないのだから。


  何故かほのぼのとした雰囲気が流れている。

  が、わたしは騙されない。

  どういう事だ?

  私は今の今まで部屋にずっと引きこもっていた。

  何年も部屋から出ていない。

  その状況で、結婚も子作りも出産もできるわけない。覚えもない。


  はっ!

  ………まさか、もしかして。

  この異常事態はもしかして、あの契約書のせいじゃ。


 +++


  突然ですが、変な事態を考える前に私の立ち位置を紹介する。


  この世界は剣と魔法の世界だ。

  一部の人が魔法を持っている状況では、民主主義は発達しなかったのか王政の国ばかり。


  私はその王政の国の一つで、貴族の長女として生まれた。

  貴族位は比較的上の方で、侯爵だったと思う。

  後は領地をたくさん持っているので、爵位は伯爵とかいくつかある。


  豊かな貴族の家の娘として色々な責任を負っている。

  それは分かっていた。

  ウチには三姉妹の女しかいないから、誰かが婿をとり、誰かが有力者に嫁がなくてはならない。


  やはり、長女の私が婿を……?


『あら、お姉さまは難しく考え過ぎよ』

『そうそう、逆に考えなくていいから楽ですわ。結婚した殿方を好きになればいいの』

『貴族の殿方なんて誰もお顔はそこそこ。性格も矯正されてるから嫁に行っても婿をとってもそう酷いことにはならない』

『うふふ、楽しみですわね。結婚』

『ですわねー』


  とは、双子の妹達の言葉だ。


  しかし、私には受け入れられなかった。

  何故か。

  前世の記憶があるからだ。

  前世、日本で一般庶民として自由に暮らして生涯を終えた記憶が。


  私に今は恋愛結婚は許されない。

  けれど、日本では好きな人と一生を過ごした。


  今は貴族としての色々な重い責任がある。

  恵まれている分、責任を果たさなければならない。

  でも、日本では何もかもが自由だったのに。


  私は自分の状況から目を背けて、ひたすら部屋にこもるようになった。


 +++


「リコットちゃん、あなたずっとそういう風にしてるつもりなの?」


  今日もドアの外から声がする。

  いつまでも部屋の中にいて、両親に頼ってちゃダメだってわかってる。


  だけど……。


「ごめんなさい、お母様」


  貴族の世界は怖くて、私もうダメなの。

  皆が私をクスクス笑うわ。

  私が貴族らしくないって。

  面と向かっては、身分の高い私に言えないからって陰で。

 

「分かったわ。でも結婚はしなさい」


  お母様が部屋の外から無茶を言う。

  部屋から出れないのに、どうやって。


「そうよ、お姉さま。お姉さまは婿を取るとよろしいですわ」

「私たち、妹として張り切ってお姉さまの得になる人に嫁ぎます」


  妹達がさえずった。


「あなたは普通の生活を送ってていいわ。引きこもってなさい。ただし約束して。結婚して子供を産むわね? 貴族として」


  お母様の覚悟したような硬い声色がする。

  それと同時に一枚の魔法紙がドアの隙間から差し込まれた。

 

  この世界の字は渋々覚えた。

  だから何て書いてあるかは分かる。


 リコット・タージ・ノクリスはただちに結婚し、子供を産みます。

 婿を侯爵とし、間にできる子供を次期侯爵とします。


 その代わりとして、下記の権利が認められます。


 部屋に好きなだけ引きこもる。

 不自由のない生活を送る。

 』


  と書かれていた。


  私はお母様の気分が変わらない内にサインした。

  魔法の紙に書かれている事は絶対に破れない。

  部屋に引きこもりながら、どうやって結婚し子供を産むのか分からない。

  分からないけれど、それでいいと言うのだ。

  もう、私はそれでいい。


 サインした魔法の紙が、契約成立でほのかに光るのを確認した。

  それを見届けてから、ドアの隙間に紙を押し込む。

  紙はすぐにドアの向こうから引っ張られて消えた。


「やはり、お姉様は良いお人なのですわね」


  意味が分からないが、妹が扉の向こうでポツリと呟いた。


 +++++


  それから私の本格的な引きこもり生活は続いた。


  定期的に食事がドアの前に置かれる。

  読みたいと思った本のタイトルをメモで外に置いておくと買ってきて貰える。

  食事やメモは、寝ている間にいつの間にか作られていたドアの下の小さい小窓からやりとりした。


 そうそう、 一度、その小窓をちょうど開けた時にびっくりする事があった。

  もう読んで覚えた要らない本を小窓前に置く時に、食事の置かれるタイミングだったから手が見えたのだ。

  ちょうど食事を置こうとする手が確かに見えた。

  小さく悲鳴を上げたものだ。

  だってスラリとしている若い男の人の手だったから。

  綺麗でスマートな、でもがっしりした手だった。

  人の様子に悲鳴を上げたけれど、それはそれ一回きりだった。


  それはそうと引きこもり生活は続いた。

  きちんと毎日ご飯を食べ、備え付けのお風呂に入る。魔法で掃除もしているから、部屋も綺麗だ。

  雑巾に魔法の言葉で掃除をしろと言いつけた。


  後は、引きこもりだからって太るのは嫌だから運動もしている。

  これでも前世の学生時代はダンス部だった。


  だから、運動はしているのに、部屋から出ないのが悪かったのかもしれない。有り得ないくらいお腹が出てしまった時はショックだった。

  しかも、ガス腹になったのかお腹をポコポコとガスが移動して痛かったりした。


  だけれど根気よく運動を続けた。

  たまに中庭に向かってカーテンを開けて日光浴したりもした。もちろん、中庭に誰もいない事を確認してだけども。


  その甲斐あってか、いつのまにかまた痩せていった。


 +++++

 

  また何年か経った。

  正確な年数は覚えてないし、数える気もない。

 

  最近、時折扉の外で子供の声がする。

  男の子の可愛らしい声で、キャーキャー騒ぎながら走り回ったりしているのだ。

  ウチの屋敷には男の子のなど居なかったと思う。

 

  気になる……。

  幽霊……?


「ハッピーバースデー! アベル! 今日は6歳の誕生日に今まで内緒にしていた事を教えよう」

「もしかしてこの扉についてとうとう教えてくれるのですか、お父様」


 今日は気になる会話が扉の外で聞こえた。

 もしかして、私の部屋のドアを開けるつもりなのでは?


 私は気が気でなく耳をそばだてた。


「使用人たちもこのドアの中に何があるのか教えてくれなくて」

「あはは、アベル。君が無理矢理ドアを開ける事のない年齢まで待ってたんだよ」

「酷い、お父様。僕は小さい頃から約束はちゃんと守れます!」


 にこやかに会話してる。

 子供と大人だ……この人たちは誰?


「実はこのドアの中に居るのは、私の奥さんで君のお母様だよ」

「やったー! やっぱり僕にもお母様はいたのですね」


 そこで私は耐えきれず何年かぶりに、とうとうドアを開けた。

 鍵を解除して何年かぶりに開けたはずのドアは案外軽く開いた。


 目の前には私好みの金髪碧眼のイケメンとそのミニチュアみたいな男の子がいた。


 全く知らない人だった。


 +++++


「リコット、私の奥さん。部屋から出てきてくれて嬉しいよ。引き続き、貴族の面倒くさい事は私が引き受けるから、リコットはこの屋敷の中で自由に暮らしていていい」

「お母様、僕と家の中で遊びましょうね」


 信じられないけれど、自分の夫と子供がにこやかにそう告げた。


「リコットちゃんが久しぶりに出てきてくれて嬉しいわ」

「お姉様久しぶりですー」

「久しぶりですー」


 自分の母親と妹たちも揃っている。

 私が部屋から出た事で、家族が勢揃いしていた。


 影が薄かったお父様はうっすら涙を浮かべている。

 もう侯爵としての仕事は、私の夫(?)であるリチャードにほとんど引き継いでるそうだ。

 少し離れたところに建てた屋敷でお母様と暮らしている、とさっき聞いた。


 妹たちはどちらも侯爵家に得になる所に嫁いだらしい。


 +++++


「起きてるリコットも素敵だね。結婚のサインも子作りも結婚生活も全て寝ている君と済ませたけど、それはちょっと寂しかったから良かった」


 騒がしかった皆が帰ってから、夜に2人きりになってからリチャードにそう言われた。

 私はほぼ頭が真っ白で何も考えられない。


「もしかして太ったように思った時期があったのは」

「それはアベルを妊娠していたからだね」

「出産は……」

「さっきから私の事を全く聞いてくれないけれど、私は資産だけはたくさんある伯爵家の三男なんだよ。お金を積んで王都の聖女さまに手伝ってもらった」


 計画出産だね、とリチャードが付け加えた。

 金髪碧眼のイケメンがにっこりと笑う。


「ねぇ、好きなだけ引きこもる事は良いけど。夫の私が寝ている時に入っていけないわけないよね?」


 リチャードの笑顔に、私は何も分からなくなっていく。

 私は貴族なのに責任を果たさず親に甘えて引きこもっていた。

 その結果なのだろうか。

 リチャードの顔をよく見る。

 すっきりとしたキラキラしい私好みのイケメンだ。

 きっと私が貴族だからこんなイケメンと結婚出来たのだろうか。


「あなたはそれでいいの?」


 私がそう聞くと、リチャードは花が開いたようにふんわりと微笑んだ。

 そのイケメンぶりに見惚れてしまう。


「ようやく私に興味を持ってくれたね。そう、私には貴族なのに困った好みがあってね。内向的に家にずっと居てくれる私だけの奥さんが欲しかったんだ。貴族は社交がほぼ義務みたいなものだから、そんな相手が居なくて。そんな時、侯爵様から話を聞いた」


 とうとうとリチャードが語り続ける。


「部屋にずっと引きこもる内気な姫と結婚する者を探してる、と。私は顔を見た事もない君に恋した。大量の持参金も持って駆けつけたよ」


 私は指先が、全身が震えているのに気づいた。

 リチャードの事は嫌いではない、むしろ顔は好きなのに恐ろしい。


「君が寝てから部屋に入って、安心したように寝ている君に胸を撃ち抜かれた。ああ、自分だけの姫に会えたんだって。それからはリコット、君が寝てから部屋に入って更に起きない魔法をかけて色々済ませただけだよ」

「へ……変態」

「外は私以上の変態がいるかもね」


 いや、居ないでしょ。

 かと言って、もうここまで話が進んでしまってはもう。


 ああ、異世界って怖い。

 引きこもりだけれど、結婚してました。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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