197、三度目のカムイ
村の中央広場でアレクに膝枕をしてもらって横になってる。全然疲れてないけど何となくそんな気分なんだよね。今日もハードな一日だったもんなぁ……まだ昼だってのに。
アレクに膝枕されたら大抵はすぐ眠ってしまうんだが、今は全然眠くないなぁ。むしろ目が冴えてる? ネクタール四口は飲み過ぎなのか……でもポーションの容器に換算すると一本いくかどうかってとこだしなぁ。
何もないどころか体も元気いっぱいだし、ここまで都合がいいと逆に心配になるんだよなぁ。いきなり億万長者になってしまいドッキリを疑う真面目な貧乏人ってこんな心境なんだろうか?
「おーい兄貴いーできたぜー!」
「緑刃蜥蜴のマイティベイジ漬け焼きだぜー!」
「こっちぁ鬼裂水牛の香草焼きだからよぉ!」
おお、もうできたのか。こいつらにしては手際がいいじゃないの。では、ありがたくいただくとしよう。ちなみにアレクはお茶を用意してくれた。気が利くんだからもう。
まずは味噌漬け焼きみたいなやつから……おお、うまいじゃん。皮目のとこもパリッと焼いてあるし味もよくしみてる。確かこれ系の料理って焦げやすいんじゃなかったっけ? それが絶妙の火加減で焼いてあるとは……チンピラエルフのくせにやるなぁ。美味い。
そんでこっちは……おお、これも美味いじゃん。香草焼きとか言ったな。風味はバジルっぽい。ほぉ、厚めに衣が付いてるのか。片面だけなのね。これもいいなぁ。肉がレアの色だけどちゃんと火が通ってる。一口大にカットされてるけど断面がきれいだわぁ。チンピラエルフのくせに丁寧な仕事してんじゃないの。美味い。
村長悪いね。お先にお昼いただいちゃったよ。今ごろ頑張ってくれてるんだろうなぁ。カムイのわがままのせいで悪いねぇ。
「ガウガウ」
ははは、おかげで蟠桃が食えるだろって? そりゃそうだ。カカザンの元気が蟠桃の実り具合にも影響するだろうしね。あいつが現役の間に上手いこと族長交代してくれないもんかね。カカザンの倍以上でかい猿もいるらしいけど頼りないらしいし。
「ふー、おいしかったよ。ご馳走様。お前らやるじゃん。ありがとな。」
「へっへー。まぁざっとこんなもんよぉ」
「この村じゃよくある料理だしな」
「そもそも緑刃蜥蜴も鬼裂水牛もそのまま焼くだけでうめーしなぁ?」
一理あるね。いい食材を用意するのは大事だね。
『できたぞカース殿。取りにくるがよかろう』
おっ、すっごいグッドタイミング。狙いすましたいかのようなタイミングじゃん。
「村長から伝言が入ったよ。もう出来たんだって。ちょっと貰いに行ってくるね。」
「あら。それなら私も行くわ。食後のお散歩にちょうどいいわね。」
「ガウガウ」
ちなみにサンドラちゃん達は食後のお昼寝中だ。セルジュ君の腹枕で。コーちゃんも丸くなって寝てるし。いい陽気だもんね。春だねぇ。
アレクと腕を組んで村長宅までほんの数分の散歩道。いい気分だねぇ。昼寝でもしたいところだけど全然眠くないし、もうこのまま蟠桃をゲットしに行っちゃおうかな?
「ガウガウ」
当然だって? お前はもう少し落ち着けよ……
「村長ぁー、わざわざありがとね。こいつのわがままを聞いてもらっちゃってさ。」
「なぁに。我らにも利のあることだと言ったであろう? おかげで今夜も宴が開けるというものよ。」
「そうなの? じゃ、ありがたくいただくね。十本もいいの?」
「もちろんだて。ちなみにそれで半分だの。むしろこちらが半分もろうてすまなんだといったところよ。こちらこそありがとうなぁ。」
これがウィンウィーンな関係か。
ヤクルトが入ってそうなサイズの陶器にコルクっぽい蓋。カカザンに飲ませるのは一本で充分だし、思わぬお土産ゲットだな。
「ガウガウ」
ぺこりと一礼。かわいい奴だぜ。ありがとうと言ってるけど翻訳するまでもないね。
「ほほほ、これでカカザンの奴が若さを取り戻すかどうかは分からぬが、狼殿の気が済むならそれでよいとも。」
「じゃあ早速行ってくるよ。カムイが早くしろってうるさくてさ。」
「うむ。儂は夜に備えてひと眠りするでの。」
うーむ、大仕事した後なんだから当然なのに、なぜか昼間に仕事さぼって居眠りして夜の宴会に備えているダメサラリーマンに感じてしまったな。そんなわけないのに。
さあ行こうか。エンコウ猿の縄張りにさ。
おっと、その前にサンドラちゃん達を起こさないとな。特にサンドラちゃんを置いていくと後で文句言われそうだからね。
到着、と思ったら目前の谷の前で降ろせと来たもんだ。どうあってもカムイは一人で行きたいのか。それは構わんけどせっかくのエルフの飲み薬を落とすなよ?
ちゃんとカカザンに飲ませられるのか?
「ピュイピュイ」
おお、コーちゃんが一緒に行くって? それなら安心だな。いいよなカムイ?
「ガウガウ」
堪えてやるって? 生意気な奴め。
コーちゃんは尻尾で器用に瓶をくるりと掴み、自身はカムイの首に巻きついた。
これでカムイがピンチになったら呼びに来れるね。
「ガウッ」
なるわけないって? お前がそう思うのは構わんけど、油断するなよ? マジで……
「ガウガウ」
あいつが元気になったら一撃で殺してやるって? お前も変な奴だよなぁ……殺すのにわざわざエルフの飲み薬みたいくっそ高く売れるもんを飲ませてやるとか。
あ、行ってしまった。ひゅー、こんだけの谷をひとっ飛びかよ。相変わらず意味の分からん身体能力だわ。これ何メイル飛んだんだ? 二十メイル以上あるんじゃない?
「カカザンに薬が効くのか気になるけど、後でカムイに聞くしかないね。」
「そうね。どうしても一人で行きたいみたいだし。カムイも自分に厳しく生きてるのかしらね。」
そうかぁ? 隙あらば手洗いを求めてくる野生みのない狼だぜぇ? まっ、アレクの言うことも分からんでもないよね。
カカザンとの勝負も今回で三回目だし、いい加減本当の決着をつけたいんだろうなぁ。生きるか死ぬかのさ……
まったく、カムイは馬鹿な奴だわ。




