194、全体化
終わった……
やっと終わった……
すっごい疲れたんだけど……
今日はもう何もしたくないぞ。村長はこんなことを毎日やってんのか? 化け物すぎるだろ……そりゃ美味い酒ができるわけだ。あ、スペチアーレ男爵もか? 酒造りって大変なんだな……
「村長ぁー、終わったよ。」
「おお。終わったか。ではせっかくだ。この中から一樽選ぶといい。ささやかながら礼ということでな。」
全然ささやかじゃないよ。一昨日も一樽貰ったのに。まあ、あれはネクタールだけどさ。
「ピュイピュイ」
はは、コーちゃんが選ぶんだね。もちろんいいとも。
「ピュイピュイ」
おっ、決まった? そんじゃそいつをゲットだぜ。
「村長、あれを貰うよ。ありがとね。ちなみに名前は?」
「ほう、そいつか。さすがは精霊様、お目が高い。名前はブロリアーデンスだ。濃霧森林で採れた果実を多く使っておるからの。」
「濃霧森林? そんな所があるの?」
そういや宴会の時の草笛の曲名で聞いたような気もするな。
「いつ行っても濃霧に覆われた森での。果実一つ捥ぐにもひと苦労だて。」
「へー、面白そうな所だね。ここから近い?」
「そうだな。カース殿なればすぐ着くの。行ってみるか?」
あー、ゆっくり飛んだら遠いってことね。歩きで行くなんて考えられないレベルで。まあ、行く気はあんまりないけど。濃霧ってことは『暗視』も『遠見』も効かないわけじゃん? そんな危険な場所は行かないに限るね。
「おっ? 狼殿らが帰ってくるようだの。この時間ということは危なげなく蟠桃を手に入れたというところかの。」
相変わらず村長は鋭いな……
「その感じだと後何分ぐらいで着きそう?」
「そうさのぉ……十分といったところか。」
鋭すぎだろ! ミスリルボードを飛ばしてんのは舎弟エルフだろ? てことはそこそこ速いはず。なのに十分かよ。どんだけ広範囲をカバーしてんだよ。
では外でアレクを出迎えるとしようかな。あ、その前に聞いておくことを思い出したぞ。
「ちなみに村長ってあれだけの樽に魔力を込めるのってどのくらい時間がかかる?」
私は三時間半ってとこかな。濃密な時間だったわー。
「ものの数秒といったところか。来るがいい。見せてやろう。」
「はあぁ!? 数秒!? マジで!?」
「真面だとも。そう聞かれると思うての。こっちの樽にはまだ魔力を込めておらぬのよ。」
マジか……まんまと質問しちゃったよ。
また別の部屋があるのね。広い地下だわ。
「ここだ。まあ見ておれ。」
見ておれって……
一瞬で終わったじゃん……マジかよ……
「どうだの? 面白かろう? これは『全体化』といっての。この樽一つに魔力を込めればそれと同じ効果を全ての樽に齎すことができるというわけだて。」
「え……何それ!? めちゃくちゃじゃん! そんな都合のいい魔法があんの!?」
「ふふふ、あんのよ。もちろんその分の魔力は消費するがの。うっかり魔物の大群などに使うとあっさり魔力が尽きることもあり得るがの。」
「あー、使いどころが大事なのね。」
私の場合だと……思いつかないな。でも絶対便利だよな?
「さてカース殿よ。覚えたそうな顔をしておるの?」
「そりゃあね。教えてくれんの?」
「もちろんだとも。後で少しばかりイグドラシルに魔力を込めてくれればよいぞ?」
その程度なら安いもんだよ。全開で込めてやるとも。
「では、ゆくぞ?」
「え?」
村長が私の額に手を当てて、魔力が、流れて、うおっ!?
「どうだ? 使える気がするであろう?」
「え……あ、マジだ。使えそう……」
何これ……どうなってんの?
魔法って普通は詠唱から始めて少しずつ使えるようになっていくもんだけど……
逆に言うと詠唱のない魔法って覚えにくいんだよね。私の狙撃も詠唱なんてないから余人には教えにくいし。
「後はあれこれ使ってみて覚えるがよかろうて。」
「うん、ありがとね。やっぱ村長すごいね。」
おっ、嬉しそうな顔してる。
「ふふふ、そうであろう? 儂はこれでも始祖様から直々に天才ハイエルフとのお言葉を頂いた身だからの。他に覚えたい魔法があれば言ってこられいの。」
「マジで!? じゃあその時はお願いするね。」
何か思いついたらマジで頼もう。あんなことこんなことできたらいいもんね。不思議な村長に叶えてもらおう。このじいちゃんマジでバケモンだわ。底が知れないぜ……
おっ、私の魔力探査にも反応あり。アレク達がそろそろ帰ってくるな。ふふ、蟠桃楽しみだわー。結局まだ酒を蟠桃で割るやつってやったことないんだよね。そろそろやってみたいよね。それをアレクに飲ませて、しっぽりと……ふふふっ。




