166、甲水角犀
村長の魔力がイグドラシルに流れ込んでいる。
「あれって何やってんの?」
「んあー、俺もよかぁ知らねーんだけどよー。なんかぁ、イグドラシルと繋がるとかって言ってたぜー?」
んん? それってハイエルフ村長と同じ状態ってこと!? イグドラシルが持ってる魔力を好きに使える的な?
「へー、すごいじゃん。それよりクライフトさんさぁ、またちょこちょこ頼んでいい? 今日の話じゃないけどさ。」
村長のことはまた後で聞けばいい。それよりもこの機会にアレクに贈る指輪を何とかしたいからね。
「んあ? 何か作るんかぁ? 悪いなー、今ちっと無理だぜー?」
あらら、やっぱそれどころじゃないか。村が瀬戸際だもんなぁ。
「あぁ、村が大変だもんな。また落ち着いたら頼むとするよ。」
「いや、違ぇーよ。それもあるけどよー。実ぁさー、蓄魔石がねーんだよ。」
「ちくませき? 何それ?」
初耳だな。魔石?
「んあー? 知ってんだろぉ? おめーが魔力を込めてくれたじゃねーかよ。」
「あぁ! あの箱? あれ、ちくませきって言うの? で、ないってどういうことよ。」
言われてみれば覚えてるな。私が魔力を込めた箱だろ? クライフトさんたらあれを両足で挟みながら作業してたよな。
「んあー、毒沼に飲まれちまったんだよぅ。あん時ぁ余裕がなかったからな。まぁ命があっただけ儲けもんってやつだけどなぁ……」
あぁ……あの時ね。もちろん私は見てないけど、マウントイーターが村で大暴れしたんだよな? だからばあちゃんが禁術・毒沼を使ったわけだ。
となるとダークエルフ達は逃げるしかないわな。あれに触れたら即死だもんな。
「クライフトさんさぁ、あれがないと何もできないの?」
「んあ? なめんなよ? できるに決まってんだろぉ? ただ今はちいっとばかし都合が悪いからよぅ。次に来た時にぁ蓄魔石があろうとなかろうと作ってやんぜぇ!?」
面白っ。言ってみるもんだな。根っからの職人肌か。
「期待してるよ。ところでクライフトさんは行かなくていいのかい? 魔物がどんどん来てるっぽいけど?」
「んあー、まだいいだろ。俺らぁやわじゃねぇーんだからよぉ。」
知ってるよ。ダークエルフが弱いだなんて思ったことねぇし。
「ならいっか。お代わりいる?」
「んあ、いいのかぁ。これよぉ、えらく濃厚でさぁ、青棘山羊の乳酒みてぇでなぁ。うめぇやなぁ。」
何だそれは……初耳だらけだぞ。
「アレクが淹れてくれたお茶だからね。そりゃあ美味いよ。」
「誰が淹れても美味しいわよ。カースったら。ところでクライフトさん。その青棘山羊はこの辺りによく棲息してるのかしら?」
おや、アレクは気になるのかな?
「んあー、昔はな。今ぁ知らねーぞ。この辺りはどっさり変わっちまったからなぁ。」
「そう。残念ね。新鮮な乳が手に入るとよかったのだけど。」
あぁ、そういうことね。城塞都市ラフォートの近くで手に入れた牛乳がもうないもんなぁ。あれは美味かったよな。また欲しいねぇ。あれ? 牛じゃなくて羊だっけ? まあいいや。
「んあー、今ぁ贅沢言えねーからなぁ。あるモンを食うさ。」
「それもそうね。幸い魔物肉には不自由しないみたいだし。」
「あー! いい匂いがすると思ったら! 僕にもちょうだいよ。」
おっ、セルジュ君が帰ってきた。うわー、結構汚れてるじゃん。泥か?
『浄化』
「セルジュ君お疲れ。もしかして苦戦した?」
「あっ、カース君ありがとう。いやー苦戦ってほどでもなかったんだけどー。やたら泥で汚れた甲水角犀でさぁ。あと、やたら硬くて手こずった感じかな。」
「おお、五メイル級のカミスライノル三匹を相手に手こずった、で済むなら上出来だよね。セルジュ君無傷みたいだし。」
魔犀獣の一種だったかな。肉はあんまり美味しくないけど角や皮膚装甲が高く売れるんだっけ。
「どうにかね。スティード君一人だったら苦戦したかも知れないよ。いくらノロい魔物でもデカいのは厄介だもんね。」
「だよねー。デカい魔物ってそれだけで強いもんね。あと解体が面倒だよね。あれ、そういえばスティード君とサンドラちゃんはまだかい? 解体でもしてんの?」
「そうそう。僕だけあんなに汚れちゃったからさ。先に戻ったの。きっとカース君が何とかしてくれると思ってさ。助かったよ。」
もし私がいなかったら……たぶん適当に水でもかぶるんだろうなぁ。浄化一発で解決できてよかったね。泥の汚れはしぶといから。まぁ血汚れよりだいぶマシな気はするけど。
「お見事だったわね。はいセルジュ君お待たせ。」
「あっ、アレックスちゃんありがとう。ふうぅ、美味しいね。初めて飲む味わいだよ。」
バター風味のお茶ってローランド王国にはないもんね。やはり旅はしてみるもんだねぇ。




