106、決着ノーサイド
スティード君は一歩ずつゆっくりとシュガーバに近づいていく。シュガーバは一射ずつ確実に狙っているが、すべて叩き落とされている。残り五十メイル……
「シュガーバさんって言ったかな。すごいね……あれだけ離れててあの威力。明らかに普通の弓矢じゃないよね。」
「そうだね。秘密は弦なんだけどさ。あのポールにも何か秘密がありそうだよね。」
一応説明しておこう。弦の原料について……
「へえぇー、メタリックサンドスライムメタルって言うの? ほとんどミスリルなのに弦にできるほど伸縮するの!? 意味分かんないけどすごいね!」
実際の弓だと弦が伸び縮みしたりはしないよなぁ。弓のしなりで矢を飛ばしてるわけだし。ん? よく見ればあのポールもたわんでない? 弓ほど分かりやすくはないけど多少は反ってるか?
「あっ! 今度は二本同時に撃ってる! さすがのスティード君も打ち落とすのは一本だけかぁ。厄介だね。」
セルジュ君が実況と化している。悪くないね。もう一本は足元を狙われたもんだならあっさり避けたんだよね。残り三十メイル。
「それにしても変じゃない? さっきからシュガーバさんずっと同じ間隔で撃ってるよね? 何か狙いがあるのかな?」
「あー、どうなんだろうね。あいつのことだから悪どいこと考えてそうだよね。」
普通に考えたら土壇場でタイミングをずらすためってことになるけど……そのぐらいスティード君だって分かってるだろうしなぁ。
それにしても……矢にとって二、三十メイルってほぼ一瞬だよな? そりゃあ私の狙撃とは比べ物にならないにしてもさ。スティード君はよく真正面から叩き落とせるよなぁ。うおっ、危ね! シュガーバの野郎、矢のすぐ後ろにもう一本矢を放ってやがった。一本目を叩き落とした直後なもんでスティード君の態勢が少し崩れてたぞ。それでも当たらなかったのはさすがだな。少しは冷やっとしてそうだけど。
残り二十メイル……サービスで私が引いておいた十メイル線まで残り十メイル。
おっ! 今度は叩き落とした直後に前転? おお、上から矢が降ってきたじゃん。シュガーバやるなぁ……どうやってんだよ。スティード君もよく避けたな……
残り十五メイル。スティード君の勝利まで五メイル。ゆっくりとシュガーバに近づいていく。矢は一射ずつ断続的に放たれている。残り二メイル……
「ど、どうなるんだろう……ドキドキするね……」
スティード君は歩みを止めて剣を構えている。場の緊張が高まってるな……
ん? 石? おお? スティード君が消えた? あ、いた! めっちゃ飛び上がってんじゃん! あのまま落下すれば……シュガーバの位置か!? うっわ、シュガーバもめっちゃ迎撃してるし。スティード君も前方に落下しながらよく打ち落とせるよなぁ……
動きが止まった。決着か。
近寄ってみよう。
「あらま。これはどっちの勝ちなんだろうね?」
スティード君は剣をシュガーバの額の前で寸止めし、シュガーバはスティード君の腹にナイフを突きつけている。ついでに言うとスティード君の服装の一部が破れている。かすり傷だけどさ。
「僕の負けかな。この傷が付いた時はまだ十メイル以上あったからね。」
「ちっ、これが実戦だったらオレの頭ぁカチ割られてんだろ……オレの負けでいい」
あらまぁ。二人とも謙虚なのね。だったら最初から争わなければよかったのに……まあ戦って初めて分かることってあるしね。
「じゃあ引き分けだね。やるじゃんシュガーバ。まさか引き分けに持ち込めるとは思ってなかったぞ。」
「お情けじゃねえか……ったく魔王はダチまでバケモンかよ……」
「さすがカース君の配下だね。矢だけじゃなく礫まで飛んできたんだから。さすがに参ったよ。避けきれないからとっさに飛んじゃった。」
「二人ともやるじゃん。いい勝負だったよ。スティード君達はこのまま散歩する?」
スティード君的にはスタミナ余りまくってるだろうしね。
「うん、そうするよ。今度はゆっくり景色を見たいしね。いやぁ疲れたよ。」
嘘つけ……涼しい顔してるくせに。
「行ってらっしゃい。夕食ぐらいには戻ってきてね。」
「分かったよ。じゃ後でね。行こうか二人とも。」
行ってしまった。三人仲良く連れ立って。この城壁を歩いて一周すると二、三時間ってとこかな?
「やれやれだったぞお……これが戦士は大戦士を呼ぶってやつかあ? なんか褒美くれよ……」
「何がいい? 金貨なら多少あるぞ。」
「マジか! 金貨くれんのかよ! ありがてえ!」
そんなにか? ここで金貨の使い道って女を買うぐらいだが……あ、なるほど。納得した。
「ほれ。大事に使えよ?」
三枚プレゼント。二ヶ月がんばったボーナスも込みで。
「おおお! さすがあ魔王だぜあ! ありがたく貰っとくぜえ!」
えらく喜んでくれるじゃないか。気分がいいね。
さ、館に帰ろう。アレクとゆっくりまったりするのさ。




