102、ご機嫌スティード
さて、マーリンはいるかな?
正門の魔力錠を解除。
『風操』
絶妙な出力でゆっくり開ける。門番なんていないからね。
「さあ、入ろうか。ようこそ我が家へ。」
我が家って言えるほど慣れ親しんでないけど……
「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
おっ、スッと出てきた。初老のロマンスグレー執事だ。あれ? 初老って何歳ぐらいから言うんだっけ?
「ただいま。今回は一泊か二泊する予定だから。この三人は僕の親友ね。」
「サンドラ・ムリスです。」
「スティード・ド・メイヨールです。」
「セルジュ・ド・ミシャロンです。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
ふふ、コーちゃんもカムイもただいまだって。いい子達じゃないの。
「家宰を仰せつかっておりますメイジア・ダムートンでございます。ようこそ当家へお越しくださいました。精一杯おもてなしさせていただきたく存じます。どうぞごゆっくりされてくださいませ」
おっとそうだった。ただの執事じゃなくて家宰だったな。私が言ったことなのに。
「久しぶりね。何か困ってることはないかしら?」
「お嬢様もおかえりなさいませ。おかげさまでつつがなく過ごさせていただいております。それもこれも旦那様の雷名の賜物でございます」
長いこと留守にしてて問題がないってのはありがたいことだね。庭木とか枯れまくったり落ち葉だらけになりそうなもんなのに。ありがたいことだね。外壁も城門もきれいだし。
「ささ、お入りくださいませ。お茶などご用意いたしましょう。あぁ、マーリンさんは昼前に来られる予定となっております。昼食はこちらでお召し上がりになりますか?」
「そうだな。全員分頼むよ。夕食もね。」
「かしこまりました。」
マーリンの料理も久しぶりだよなぁ。うちの母上の料理よりお袋の味っぽいんだからさ。楽しみだね。
ふぅ。お茶がうまい。外が涼しかった分、程よい暖かさだね。
「買い物には昼から出るとして、それまで何してようか?」
「あ、じゃあ私はお庭が見たいわ。ゆっくり散歩しつつね。」
「あっ、それなら僕も行くよ。どんな庭か興味あるし。」
「ガウガウ」
あらま。これは珍しい。サンドラちゃんとスティード君の散歩にカムイが付き合うだと? どうせお前途中で日向ぼっこしながら寝る気だろ。
「カムイも行きたいって。連れてってやってよ。」
「もちろんいいわよ。相変わらず素晴らしい毛並みね。どんなお手入れしたらこうなるのかしら。」
私の手洗いの賜物だね。乾燥からブラッシングまできっちりするし時々オイルも塗るしね。
「あれ? セルジュ君は行かないの?」
「たまには二人きりにさせてあげないとね。そこら辺はお互い様だからさ。」
ほぉ……一妻二夫ってのも色々気を使うよねぇ。ほんっと変わった三人だよなぁ。
「じゃあセルジュ君、たまにはカースと体を動かしてみるというのはどうかしら? いい汗かけるわよ?」
「ええぇ……嫌だよぉ……無茶言わないでよアレックスちゃん……」
心底嫌そうな顔してる……型稽古か錬魔循環しようかなーと思ってたが……
「それに僕達だけで稽古したらスティード君の機嫌が悪くなるよ? いや、むしろ音を聞きつけてすぐやって来るだろうね。そして『カース君やるよ!』って言うんだろうなぁ。」
「はは……それはそうだね。あっ、じゃあ三人でダークエルフの魔力訓練やらない?」
バカンス中にやることではないが……
「ああ、あれかしら。面白そうね!」
「えっ? 何それ? すっごい気になるんだけど!」
「簡単だよ。魔法に込める魔力量を相手に合わせるんだよ。例えば……」
『火球』
室内だから放ちはしないけどね。指先に留めたままで。
「これに込めた魔力と同じ魔力量で火球を作ってよ。もちろん撃ったらだめだよ?」
「なるほど……相手の魔力を正確に感知し、なおかつ自分の魔力もきっちりと制御する必要があるわけだね。難しそう……」
『火球』
「セルジュ君、もう二割五分ほど上げて。」
おお、さすがアレク。鋭いね。
「こ、こうかな……」
「上げすぎよ。一割下げて。」
「む、難しいね……」
「もう六分さげて。」
「くっ……」
「下げすぎね。三分上げて。」
「むむ……ぐっ……」
「悪くないわね。強いて言うならもう五厘上げた方がいいわね。」
「無理だよぉーー。そんな細かい制御なんてできないよぉ……」
「うん、これ難しいよね。じゃあセルジュ君、魔法を消して。」
「わ、分かった……ふぅ。」
分かるよ。これマジで難しいんだよね。魔力量は人によって違うしさ。もしかしたら歩合で言うより普通に数値で言った方が分かりやすいのかもね。でもまあそこら辺は自分で把握できるようにならないとね。私はもう歩合で把握するのに慣れすぎちゃったからなぁ。
「じゃ、次はセルジュ君ね。何か適当に使ってみて?」
「よーし、それじゃ……」
『雷球』
おっ、珍しい魔法を選んだね。電撃系って上から落としても前から当てても同じだから普通はみんな『落雷』を使うんだよね。威力も大きいしさ。まあ『避雷』を使ってたら効かないのはどっちでも同じだけど。
では、いくぜ……
『雷球』
セルジュ君たら魔力をかなり抑え気味にしてるから調整が難しいんだよな……
「八厘多いわよ。」
さすがアレク。その程度の差を感知するとは。
「よっ、と……どうかな?」
人差し指の先に雷球を集める。直接見ると目に悪いなこれ。
「もう一厘上げて。」
惜しい。よし、これだ。
「セルジュ君、さっきより三分下がったわよ。同じ魔力量を保ってね?」
「う、うん……」
同じ出力を保ち続けるのも実は難しいんだよね。だって基本的に魔法って撃って終わりだもんね。
「カースはだいたいぴったりね。さあセルジュ君、今のカースに合わせてみて?」
「よし……」
「いい感じね。というのを各自が感知できるようになるのが大事なの。じゃあ次からは私も参加するわね。」
「ピュイピュイ」
あらら……そりゃそうか。
「ごめんごめん。コーちゃんが退屈だって。だからこの部屋で狼ごっこしない? ただし椅子を倒したりテーブルを傷つけたりしたら負けってことで。」
「あら、それなら仕方ないわね。じゃ、最初の狼はコーちゃんね?」
「えっ、えっ? ここで狼ごっこ!? い、いいの!?」
「調度品に触れないように、壁や床に傷つけないように、なおかつ逃げ切ろうよ。」
たまにはこんな豪邸内で子供の遊びをするのもいいだろ。これもまた贅沢ってもんだ。
「ピュイピュイ」
「コーちゃんが張り切ってるよ。僕らも本気で逃げないとね。じゃあ、開始!」
三十メイル四方はある広い食堂で、狼ごっこ開始だ。中央に大きなテーブルはあるし、小さいテーブルも島のように置かれている。壁際には花瓶や彫刻も何点かある。こんな場所でいい歳した私達が逃げ回るんだから正気じゃないよね。でもコーちゃんの意思は最優先だからね。仕方ないよね。さあ、逃げ切るぜ。




