101、浮かれモード
貴族門ですらそこそこ混んでたし。
さて、ここからは歩きだな。ほんの少しだけ懐かしき我が家へ帰るとしよう。ここから歩くと少しだけ遠いかな。街の中心部に近いもんね。
「何が変わり映えしないよ。すっごく賑わってるじゃない。」
「カースからはそう見えるってことじゃない? ねっ、カース?」
いや、そもそも変わり映えしないなんて言ってないぞ……新しい建物が増えたぐらいとしか……まったくもうサンドラちゃんたら。
「歩いてる人はかなり増えたみたいだね。ねっ、人口はかなり増えてるんじゃん?」
「人口が増えたのか旅客が増えたのか分からないわね。でも、すごく賑わってることに間違いはないわね。」
そりゃそうだ。馬車だけ見ても商人や農家だけじゃないもんな。乗合馬車に資材運び、冒険者っぽいのまでいるし。貴族っぽいのは比較的少ないけどマジで栄えまくってるじゃん。
「いや本当にすごいよ。三年でここまで変わるんだね。驚いたよ。」
「そうだね。話には聞いてたけど、いざ見てみると大違いだね。これワンチャン王都になることもあるんじゃない?」
ワンチャン……セルジュ君が変な言葉を使ってる……
「あり得ない。と言いたいところだけど、世の中あり得ないことなんてあり得ないものよね。もしそうなったら、私達としては板挟みかしら?」
サンドラちゃんもややこしい立場だもんなぁ。そうなったら私も色々と面倒な立場だけど、まぁ気にしても仕方ないよね。たぶんあり得ないし。
「大丈夫よ。その時はカースが何とかしてくれるから。」
「それもそうね。頼りにしてるわよカース君?」
「無茶言いすぎだって……」
だいたいその時ってどのタイミングだよ……
ここが王都になった後? それともなる前? まさか最中? 無理無理。私に何ができるってんだよ……
「でもさ、その時ってみんなでクタナツに帰ってのんびり暮らしてる頃かもね。だったら僕らはクタナツの平和だけ守ればいいね!」
スティード君らしからぬ責任感少なめ発言だなぁ。近衞騎士になったとしても国王への忠誠心よりクタナツへの愛郷心の方が強いのかな。
「何なら思い切ってカース君とこの楽園に住まわせてもらうって方法もあるね。なんてったって最果て不可侵、無敵の魔王領だもんね。」
「それいいね。もちろん歓迎するよ。」
あれ? 適当に答えたけど……マジでいいアイデアじゃない? 頭脳のサンドラちゃんに武力のスティード君。そして情報、いや諜報のセルジュ君。これ最強の布陣じゃない? この三人をリリスの下に付けるのは心苦しいが、そこは堪えてもらおう。
「それ最高じゃない! わざわざクタナツに家を買わなくても済むわね。むしろ領都かどこかの取り潰された貴族の邸宅を運べばいいのよ!」
「い、いや、アレックスちゃん、それはさすがに……ね、ねぇセルジュ君?」
「そうだね。悪くない考えだけど少し先走りすぎかな? でも、五年後の選択肢としては悪くないどころか最高だね。楽園でカース君の役に立てるのなら僕らとしても本望だしね。」
おお、ハイテンションアレクに対して冷静なスティード君とセルジュ君。別にわざわざ屋敷を運ばなくても魔王の館に住めばいいんだけどさ。スティード君のサイン入り新館だってあるし。でもまあ、そこは新婚さんになる見込みだし、やはり新居の方がいいよね。もしマジで来るんならリゼットに発注してもいいし。私からの結婚祝い兼引越し祝い&就任祝いって感じで。
奇しくも楽園航路ができるかも知れないわけだし、楽園もこれからまだまだ発展するだろうし。リリスがますます忙しくなるよな。この前一人ほどリリスに右腕候補をプレゼントしてやったけど、あいつは諜報や暗殺向きだもんなぁ。内政系は無理じゃないかな。
「ねぇカース君……その話、本気にしていいのかしら?」
おっ、サンドラちゃんがマジトーンだ。人生にいきなり新たな選択肢が生まれたわけだもんな。
「もちろんいいよ。ただしその場合身分がどうなるかよく分からないね。たぶん全員平民ってことになるんじゃないかな?」
「いえ、カースが本格的に楽園に住んで領主として振る舞うならきちんと届け出をした方がいいわね。今は非公認の『魔王領楽園』ということで黙認されているけど。ほら、楽園航路の件もあるし、たぶん将来的にはノルドフロンテとも交易が始まると思うわ。そうなった時のためにも、ね?」
せ、正論だ……だが、嫌だ。貴族になり領主になるなんて冗談じゃない。そんな面倒なことをするぐらいなら全部丸ごと誰かに……あ、思いついた!
「さすがアレクだね。いい考えだと思うよ。そこで思いついたんだよね。もし、もしもだよ? その日が来たとするなら、リリスを領主にするよ。悪いけど領主なんて面倒な地位には就きたくないからね。」
「また、カース君たら……無茶言うわね……」
「なるほど……さすがカースだわ! 敢えてリリスを領主にすることで自分は自由に動ける立場を確保しておくわけね! もし、楽園を狙う敵が現れても好きなように滅ぼすことができるもの! その上でリリスを傀儡として操るってわけね! さすがだわ!」
アレクは何を言ってるんだ……あ、着いた。
「難しい話は五年後にするとして、着いたからさ。とりあえず中でのんびりしようよ。買い物は昼からってことでさ。」
「うわっ、ここが新しいカース君ち? またすごい豪邸だね……」
「スティードは壁に傷を付けちゃダメよ?」
「あはは! サンドラちゃんたら酷いんだから! いくらスティード君でももうしないよね? いよっ! 王国最強の騎士様!」
ちょっと見てみたいな。そしたら今度は何とサインしてもらうかな? 打倒剣鬼! とか? 面白すぎる……よし、めちゃくちゃ飲ませよう。
「セルジュ君も酷いよぉ! 絶対しないから!」
ふふふ、みんなハイになってるね。卒業旅行だし久々の領都だし。無理もないね。私だって浮かれモードなんだからさ。たぶんアレクもね。




