276、商都セレトゥーレ
時刻は昼前。ついに見えた。あれが商都か。
山の中腹から見てるんだけど……かなり大きい。そして城壁が高く分厚い。フランティア領都以上じゃない? こりゃあ今までの街とは比べものにならないぞ……
「驚きましたか? 商都はかように大きいのですよ」
「ああ、驚いたよ。マルキンよりもナーガバよりもだいぶ大きいな。」
「そうでしょうとも。それからあれが見えますかな? あの一際大きな建物です」
見えるとも。あれって海のそばに建ってない? 大きいというか高いというか……ローランド王都の王宮より高くないか? 円錐形の建物が無数に並ぶ中、一つだけかなり高いのがある。下手すりゃ百メイル以上あるんじゃないか? あんなのどうやって建てたんだよ……
「見える。あれは何なんだい?」
「商王様の宮殿です。周囲の小さい建物はその他の王族の方々のものだそうです」
無数にある円錐の建物に王族が住んでるとしたら……どんだけたくさんいるんだよ。
「へぇー……」
よく分からないけどあれって金属だよな? ツルッとしてそうだし。宮殿というには豪華な感じがしない代わりに高さでは圧倒的だよな。マジでどうやって建てたんだ? それだけの技術があるくせに他の街では見かけないタイプの建物だし。
「さあ、ここまで来れば商都まではもう三、四時間といったところです。もうひと踏ん張りですな」
踏ん張るのは若い方の行商人だろうけどね。ガキをおんぶしてるんだから。いくら軽くても人を一人背負っての山越えはきついよなぁ。
「そういや気になったんだけど、この道ってよく盗賊が出るの?」
この場合は山賊と言うべきか?
「いえ、実は今回が初めてなのです。山を迂回する街道沿いにはたまに出るのですが。だから私たちは山越えをしていたわけなのですよ。何せ護衛も連れていない二人旅なものですから」
それもそうか。どうせ狙うなら山越えの零細行商人よりも何台も駱駝車を引き連れた商隊の方がおいしいもんな。こんなおっさんの二人連れなんて大して旨みもないだろうに。ということは、よっぽど食い詰めた盗賊だったのか?
ようやく街道に合流すると、交通量が一気に増えた。駱駝車はひっきりなしに通ってるし、歩きの旅人すらせかせかと歩いている。
「この道はいつもこんな感じなの?」
「ええ、そうなのです。この街道は南はダラジャ領、東はガバス領にまでのびておりますから。商都はそれらをつなぐ中枢でもあるのです」
と言われても分からないけどね。この女がダラジャ領ってとこから来たってことぐらいは覚えてるけど。
要はこの街道は大動脈ってわけか。石畳で歩きやすいしね。駱駝車だってかなりスピード出してる。あれに撥ねられたら普通は即死だろうなぁ。
「見えました! あれが商都の正門です!」
「へー、大きいね。」
フランティア領都の城門より大きいな。高さだって三十メイル近くないか? こんなのどうやって開け閉めするんだろ。人力でも無理じゃないだろうけどかなり重いだろうなぁ……
「さ、こちらに並びます。それよりこの子のことですが、お任せしても大丈夫なのですね?」
「ああ、ちょっと考えがあってね。」
せいぜい利用してみるさ。これだけ大きな街なら私のお目当てだってきっとあるに違いないからな。
「次!」
やっと順番が回ってきた。見えてからここまで二時間もかかった……そろそろ夕方になっちまうぞ。
「どうもどうもご苦労様でございます。いつもお世話になっておりますカスワでございます。これはほんのお気持ちでございます」
行商人は二人とも身分証を見せながら金を払っている。賄賂込みなんだろうなぁ。女の分まで必要だろうし。
「どーも。マルキンの吟遊詩人です。それからこちらは私の主筋。わけあって名前は言えませんが、さるやんごとなき名家のお嬢様です。見て分かるとは思いますが。」
私の身分証を見せながら金を出す。相場なんて知らないからシュガーバの言うがままの金額さ。
「ふん、そっちの二人は?」
「どちらもお嬢様の下僕です。身分証はこちらに。」
さらに金を握らせる。一国の首都の門番がこれじゃあねぇ。
それにしても城門だけでなく城壁もかなり立派だよなぁ。岩の接ぎ目はあっても隙間は見えない。かなり精密に作ってんなぁ。この街だけレベルが違いすぎない?
「ふん、酔狂なことだ。通れ。遊び終わったら裏街に捨てとけよ」
ん? どういう意味だ?




