372、カースあるある
そして瞬く間に出発の朝。時が経つのは早いものだ。
昨日は男爵の樽作りを手伝ってたんだよな。高級家具の材料としても人気のトレンタール・マホガニー。本来ならしっかりと時間をかけて乾燥させてから加工に入るそうなのだが、今回は私が乾燥の魔法を使ってみた。魔物を殺す時のように一瞬で干からびさせてしまうとひび割れそうだがら、ゆっくりと少しずつ、全体を均一に乾燥させたのだ。
ただ乾燥しすぎもよくないらしく、だいたい水気が半分になるぐらいで充分らしい。後は放置しておくしかないらしい。表面にカビが生えることすら重要なんだとか。マギトレントの時はそんなの気にせず一気に切ったような気もするが。まあ完全に魔物であるマギトレントと半魔半木のトレンタール・マホガニーでは加工の仕方が違うんだろう。
というわけで今回はおおざっぱには切ったものの樽になる一歩前のように細かく切ってはいない。男爵の言うがままに切ったのみだ。それでも私の水鋸と風斬を見て男爵は大満足。「次回までに風斬の修練を積んでおきます」なんて言ってた。
そもそも男爵だって執事とたった二人でムリーマ山脈を歩き回れるほどの魔法使いのくせに。
トレント系の魔物は頑丈でしぶとい。なのにあっさり狩ってくるほどの腕前だろ。しかも枝はしっかり払ってあるが大事な幹にはほとんど傷もない。いかに男爵が丁寧にトレンタール・マホガニーを切り倒したか窺えるってもんだ。やっぱ凄腕だわ。見た目がガリガリとかって魔法使いにはやっぱり関係ないよなぁ。
ちなみにアレクは甲斐甲斐しく私がやる事の助手をしてくれた。木の位置を調整したり切り落とした端材をどけてくれたり。しかも昼なんかビーフシチューを作ってくれたし。正確にはオークや鹿やら色んな肉を使ったらしいけど。
その間コーちゃんとカムイは散歩に行ったり追いかけっこしたりじゃれあったり。楽しそうに過ごしてた。
弟子の姿は見えなかったが男爵によると何やら酒蔵で仕事をさせているらしい。
夜は夜でそんな昼間の仕事を肴に一献。いい汗かいた後の酒って美味すぎるぜ……
そして今。男爵と執事、そして弟子に見送られながらミスリルボードを浮かせた。
「カース殿! きっとですよ! 遅くとも一年以内に! 絶対に来てくださいよ!」
「ええ。必ず来ます。男爵もお元気で。」
「お世話になりました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「アレックス嬢もコーちゃん殿もカムイ殿も! 来てくれてありがとうございます! 皆さんお元気で!」
別れを惜しむようにゆっくりと。男爵たちが手を振っている。私達も振り返す。
周囲の木々より高く昇ったら『風操』で一気に加速。王都へと向かった。
「いやー楽しかったね。いつまでもいたくなっちゃうね。」
「そうね。スペチアーレ男爵ったらほんとにカースのことが大好きなんだから。少し妬けちゃうわよ?」
「そう? アレクの方が大好きなんじゃないの?」
「当たり前よ。カースを想う気持ちなら私がこの世で一番に決まってるわ。」
この世……アレクとしては無意識で使った言葉なんだろうな。アーニャは別であるかのように。スルーしとこ。
「ふふっ、ありがとね。僕だってアレクを想う気持ちなら負けないよ? 大好きだよ。」
「もうっ……カースったら……大好き。」
しなだれかかってくるアレク。瞳がまっすぐ私を見る。薔薇のような口が迫ってくる。ここは天空、誰も邪魔する者はいない。だから私も……「ガウガウ」うるせえな。何だよ?
あ、そう。悪い悪い。ついアレクに夢中になったもんでさ。
「ごめんよアレク。行き過ぎちゃった。あはは……」
ローランド王国の西、ヴェスチュア海かな。それとももっと南か……
いつ海に出たんだよ……高めを飛んでたからなぁ。
「もうっ! カースのバカ!」
「ごめんごめん。ちょっと待ってね。」
『遠見』
羅針盤を使うまでもない。真昼なんだし陸地ぐらい見えるだろ。見えた。あっちか。
十五分ほど飛んで陸地に到着。さて、王都はどっちかな? だいたい南西に向かって飛んでたから行き過ぎてもポルトホーン港周辺を通ってるはずなんだよな。北にずれればアベカシス領、南にずれてもアジャーニ領あたりだと思うが。
なんだ。やっぱポルトホーン港じゃん。船の数はバンダルゴウよりかなり少ない。四隻しかないじゃん。その代わり大型船ばっかりだ。中でも一際大きいのが今回私達が乗る『ゴッデス・アレクサンドリーネ・マーティン』だろうな。……でかくない? 先王の『バーニングファイヤーメガフレイム』より……
あれは確か全長百五十メイルぐらいだったか。これは二百メイルを超えてるよな? でっか……
周りにいるのは……宮廷魔導士か? 何やら大きい木箱を積み込んでいるようだが。
見てしまったことだし挨拶しとくか。




