237、カースの忠告
そこそこ気がかりなのが初日に聖木のところで出くわした二人組と贋金の件だ。この二件に関連があるのかどうかは知らないが。
一応ジャンポールさんに言うだけ言っておくか。
夕食後、メイドさん経由で彼の私室を訪れる旨を伝えてもらう。返事はすぐに来た。もちろんオッケーだと。
「お邪魔しますね。そこそこ内密な話があるもので。」
「わざわざすまないね。あの魔王さんがセーラムにいるってだけでわくわくなのに。それが僕の部屋を訪ねてくれるなんてどきどきだよ。で、内密の話とは何かな?」
『消音』
これで話が聴こえるのは私とアレク、そしてジャンポールさんの三人だけだ。部屋の中には秘書っぽい人と護衛っぽい人もいるが、人払いしにくかったから魔法で解決してみた。
「アレクサンドル公爵家が贋金を作ってます」
「え? 何だって?」
とぼけてる感じはしないな。本当に知らないのか?
「フランティアに贋金が出回ってます。その製造元はアレクサンドル公爵家で九割方決まりです。まだ確たる証拠は出てないですけど時間の問題ですね。セーラムのベゼル家としてはどうされます? ちなみにボルドラはすでに辺境伯家が制圧してます。」
制圧ってのは嘘だけどさ。ここまで話してジャンポールさんがアレクサンドル家とツーカーだったら笑ってしまうな。
「うーん、やばやばだね。魔王さんとしてはどんな立場なのかな?」
「どうでもいい派ですかね。ただ、どっちかって言うとアレクサンドル家よりはフランティア家に味方するでしょうね。」
フランティア辺境伯家の長男がアレクサンドル家と接近してる件は言わなくてもいいだろう。
「ふむふむ。そんな重大な情報を僕に教えてどうしたいのかな?」
「特に目的はありませんよ。セーラムが好きになったもんで凋落して欲しくないだけです。贋金なんかに関わったら一発で終わってしまいますからね。国王陛下が激怒して領内を丸焼きにされるってことだってありますし。」
「ぶるぶるだね。魔王さんは丸焼きにしないのかい?」
なーんかこいつのらりくらりしてんなぁ。なぜ私がセーラムを丸焼きにするんだよ。危機感がバグってるのか?
「もちろんしませんが?」
「うんうん。それはよかったよ。知らせてくれてありがとう。こまめに『金貨判定』を使うことにするよ。残念ながら本家に物申すことなんてできないけどね」
「気をつけてくださいね。ベゼル家が没落するところなんて見たくありませんので。」
旅から帰ってきたら領内が荒れ果てていた……なんてのはごめんだぞ。毎年アレクのワインを飲ませてもらうつもりなんだからさ。
「気をつけるとするよ。わざわざ知らせてくれてありがとう。魔王さんにそこまで気に入ってもらえるなんてうちのワインもやるもんだね」
どうも暖簾に腕押しって気もするが忠告はした。これで後はどうなろうと私の知ったことではない。いまいち本心が見えないが経営者ってのはそんなもんなんだろうね。
そこらの男爵家ってよりはもっと高位貴族の跡取りって感じもするかな。いずれにせよ頑張って欲しいもんだね。
「あ、そうそう。聖木の周辺をうろついていた怪しい二人組だけど、たぶんボルドラの間者だよ。波風たてないよう基本的には野放しにしてたけど、今の話だとボルドラはもう終わりだね。だいたい元盗賊ごときにワイン作りなんてできるわけないよね。だから聖木に手を出そうとでも考えたんだろうね」
やっぱガストンのこと知ってたのかよ。
「そうでしたか。今なら上手くやればボルドラを手に入れることもできるでしょうね。」
そうなるとセーラムが一気に広がるな。北東部のモンギョン領だって実質配下だし。南のボルドラ領までゲットしたら一気に領地が三倍? でもモンギョン領は山を挟んで反対側だし、あまり旨みはないかもね。
「あらあら、僕には荷が重すぎることを言ってくれるね。せいぜいワインの質が落ちないように努力するよ。魔王さんのご加護もあることだしね」
そう解釈するのか。まあ、なくはないけどさ。私の名前を勝手に利用する分には見逃すしね。
「アレクのワインを楽しみにしてますね。」
さすがにもういいだろ。私ってかなりセーラムに肩入れしちゃってるよな? ここまでやれば過分も過分だろ。ここはれっきとした貴族領なんだしあまり口を出し過ぎるのも無粋だよな。
今日もよく働いたなぁ。明日からはもう何もしないぞ。アレクとのんびりイチャイチャ過ごすのさ。




