168、揺れる女たち
蓑火のガストンが父上の仇だと? どういうことだ?
「なんだぁ? 知らねーのか? いつだったかマーティン卿が愚痴ってたぜ? 舐めた盗賊がいるってよぉ。部下には皆殺しにしていいと言いつつ自分はきっちり生捕りにしたんだとよ。ところがよ? どいつもこいつもろくな情報持ってねぇんだと。結局首魁にぁまんまと逃げられちまったんだとよ。今思えばそん時の盗賊がどうやら蓑火のガストンらしいってこったな。」
「あ、それ聞いたことあるわ。七、八年前だった気がする。まだソルサリエは出来てなくて、バランタウンの建設中じゃなかったっけ。クタナツとバランタウンを往復する商人が特にやられたってやつ。若い冒険者もそれなりに犠牲になったそうじゃん。」
なるほどねぇ。確かに父上から聞いた気がする。下っ端はたくさん捕まるのに全然上の奴らまで辿り着かないって。そいつが蓑火のガストンだったのか。時を経て分かる衝撃の事実だねぇ。盗賊のくせに用心深いというか頭が回る野郎め。だが、さすがに油断でもしたか、それとも幹部の統制が甘くなったか。どちらにせよ終わりだな。父上を舐めた罰をくれてやるよ。クタナツの者を襲った落とし前もな。父上にいい土産話ができるってもんだ。
それにしてもうちの両親は、いつになったらイグドラシルから降りてくるのやら……
「かっかっか。ちょうどよかったなぁ。やっぱ悪党が逃げ切れるほど世の中甘かぁねぇよなぁ。なぁラグナ?」
「なんだぁいダミアン? アタシが死んじまってもいいってのかぁい?」
「いいや? 下手に逃げねぇでカースの配下になってよかったってことだぁ。おかげで俺達ぁ出会うことができたんだからよぉ?」
「ダミアン……アタシもさぁ。色んな男ぉ食い散らかしたけど……アンタほどの男なんてボスか剣鬼ぐらいのもんさぁ。アタシぁ幸せもんだよぉ……」
なんだこれ? ダミアンとラグナがイチャイチャしてやがる。リゼットがいるってのに。
「ねぇカース様ぁ……私次はカース様のお子が欲しいですわぁ……」
あ、その発言はアウトだ。
「リゼット……浮気も添い寝も逢瀬も入浴も許すけど……私より先にカースの子を成すなんてことがあったら……」
あーあ。テーブルにサウザンドミヅチの短剣が突き立ってるよ……
「母子ともに殺すわよ……」
「ひっ、ひいいいいい! ち、違うんです違うんです! あんまりダミアン様がラグナさんばっかり構うもので! で、出来心なんです! アレックス様を差し置いてカース様とそんな関係になろうだなんて! これっぽっちしか、あ、いやもう少しだけ、ぐらいしか考えてないんです!」
「冗談よ。あなたには悪いけどカースにそれは不可能だから。次期辺境伯の母になれるんだし我慢してちょうだいね。」
「ううぅ……アレックス様の意地悪ぅ……私だってそれぐらい分かってますもぉん……ちょっとわがまま言ってみたかっただけなんですぅ……」
なんだこれ……絶対冗談じゃないよな……
「まあさリゼット。これからもマイコレイジ商会の依頼は適度に受けてやるからさ。機嫌直せよな。」
「ううぅ……カース様ぁ! うええぇーーーん!」
あらら。私に抱きついてきちゃったよ。アレクがやりすぎちゃった……って顔してる。
私の胸に顔をぐりぐり。アレクが酔った時たまにやるやつだ。
「おいおいカースぅ。ひとの正室に何してくれてんだぁ?」
「知らねーよ。お前が優しくしてやらないからだろ。ラグナばかり構ってんじゃないぞ?」
少しだけリゼットが可哀想になってきた……
「それもそうだな。コイツんとこは俺の生命線だしな。おし、リゼット帰るぜ。帰ってカールスと三人で遊ぼうぜ!」
「カールス! そう! カールスが待ってるんですもん! 帰りますわカース様! また来ますね!」
「お、おお。」
せっかく来たんだから晩飯ぐらい食っていけばいいのに。リゼットもあれこれと大変だなぁ。
「あーあ……やっぱ親子の絆ってやつにぁ勝てないのかねぇ……」
今度はラグナが面倒くさいこと言ってんな。お前は愛人なんだから立場を弁えろ。
「おや、ダミアン様とリゼットさんはもうお帰りですか?」
「悪いな。急用を思い出したらしくてさ。いいから並べてよ。全部食べるから。むしろマーリンも一緒に食べようよ。」
「まあ、そうでしたか。では遠慮なくお呼ばれいたしますわ。」
作ったのはマーリンだしね。我が家はメイドと同席することは珍しくないし。リリスは絶対同席しなかったけど……
翌日。ムリーマ山脈はトーク山に行き、残った岩を収納し領都に帰った。ついでに冒険者も四人ばかり乗せて帰ってやった。昨日運んだ奴と同じパーティーらしい。えらく感謝されてしまった。
それから昨日と同じくマイコレイジ商会の資材置き場に行き、資材担当による重量チェックを受けてから現場へ。
昨日と同じくノード川を超えた辺りまで来てみてびっくり。あのおっさん本当に現場で指揮してんじゃん。やるねぇ。




