167、アラン・マーティンの仇
到着。領都から真東、ノード川の手前まで街道はできていた。
そして納得。これだけもの岩を使うのは石畳だけでなく、ノード川に橋をかけるためだったのね。
対岸の見えないアブバイン川ほどではないにせよ、ノード川だって幅は広い。狭いところでもざっと五百メイルはあるよな。グラスクリーク入江まで街道を延ばそうと思ったら必ず橋が必要になるわな。今までは渡し船や魔法使いを利用してたみたいだけど。
というかすごいな……こんだけの川に橋なんかどうやって架けるんだろ。岩で造れるもんなのか? 想像もつかないね。
マイコレイジ商会の資材担当さんが工事の担当者と話をしている。さすがに辺境伯はいないのか。自ら指揮をしてると聞いたが。
「魔王様、お待たせいたしました。半分はこちらに、もう半分は対岸に置いていただけますでしょうか」
「分かった。じゃあまず半分な。」
魔力庫どーん。半分でも二十万トン近い岩だ。それでも橋を架けるには足りない気がするね。辺境伯も大変だよなぁ。そりゃあ贋金なんかに関わってられないかもね。領主は辛いね。
対岸にもどーん。よし終わり。
「ちなみに明日は今日の三割ほど運べると思う。石切り場で見た残りがそれぐらいだったもんでね。」
「ありがとうございます。ならばその分はここにお願いすると思います」
「いいとも。じゃあ帰ろうか。」
「はい。魔王様には何から何までお世話になります。会長が頼りにされるのも当然かと」
リゼットとは持ちつ持たれつだよな。あいつは格安で仕事を頼めるし、私はギルドの依頼では手にできないほどの大金が手に入る。やっぱ公共工事って動く金の桁が違うよなぁ。
きっと今は辺境伯もクタナツ代官も大赤字だろうけど、完成の暁には唸るほどの金が入ってくるんだろうね。なんせこの街道が国を縦断する大動脈になるんだからさ。
あー……そりゃあ儲けの輪に入れない貴族が狂ってもおかしくないな。公共工事の支払いに贋金が混ざってた日には信用が一発で吹き飛ぶし国中の笑い者になってしまう。誰が黒幕か知らんがとことん邪魔したいんだろうね。あーやだやだ。
よし。領都に無事到着。閉門まで残り三十分ってとこかな。アレクと一緒だと貴族門を通れるから楽でいいよね。
「では魔王様、私はここで。明日もよろしくお願いします」
「うん、お疲れ。また明日ね。たぶん今日よりは早く行くと思うよ。」
「かしこまりました。お待ちしております」
明日は昼前にはムリーマ山脈に行きたいな。確かあの周辺はトーク山とか言ったかな。あそこって広いもんなぁ。盆地に台地に滝に谷。いくらでもあるんだろうな。トワーダル峰って所もあるみたいだし。
さて、我が家に帰ったらまずは風呂。やっぱり自宅の風呂が一番だね。アレクもカムイも手洗いしてやるぜ。
風呂から出たらマーリンの料理。タイミングの良さが素晴らしいね。
「あ、そうだマーリン。今度新しく家令を入れることになったけど、家臣団で一番偉いのはマーリンだから気にしないでね。」
だったら家令にするなんて言わなければよかったんだけどね。つい、勢いでさ。
まあ家臣団と言ってもマーリンとリリスしかいないけどさ。あ、ゴーレムもいたか。
「まあ! 家令ですか! 私の方が偉いと言われましても……でも旦那様のお言葉は絶対ですもの。その通りにいたしますわ!」
「ちなみに元アベカシス家の執事でメイジア・ダムートンよ。知ってるかしら?」
あー、そんな名前だったね。いかにも執事って感じの老紳士なんだよな。コーヒーとミルクを高所から同時注ぎとかできそう。
「もちろん存じ上げております。あの方は領都中のメイドの憧れでしたわ。あぁ……青春時代が蘇るようです!」
アレク一家が領都に来たのがだいたい十六、七年前だからマーリンてそれ以前はどこでメイドをやってたんだろうね。聞く気はないけど。メイドと植木職人のロマンスも面白そうではあるね。きっとベタな出会いだと思うけどさ。
「でも気にせずビシバシやってね。我が家に限ってはメイド長は家令より上だからさ。」
「ありがとう存じます。ダムートン様を部下にするなんて恐れ多いことですが、気を引き締めて参りますわ!」
うんうん。我が家らしくていいね。
「おう! カースいるかー?」
「ボスぅ、帰ったよぉ!」
「お邪魔いたしますわ。」
ダミアン達だ。ちょうど飯時に来やがったな。マーリンもそそくさと食事の準備に消えたし。
「どうやらお前が捕まえた二人は大当たりだったみたいだぜ?」
もうダミアンのところまで情報が回ってんのかよ。私が捕まえたことはラグナから聞いたんだろうけどさ。
「二人? コゴスとケリガンか?」
「おうよ。あいつらどうやら昔フランティアを荒らし回った盗賊の生き残りで間違いねぇみたいだわ。それも蓑火のガストン一味のな。」
「みのびのガストン? 聞き覚えがあるな。確かモーガンから聞いた話にあったような……」
「おー、それそれ。アレクサンドル領はボルドラで名士気取ってやがる盗賊上がりよ。あの野郎は一つの場所で奪えるだけ奪ったら幹部以外の部下を全員切り捨てやがんのよ。自分で密告したり適当に皆殺しにしたりしてよ。だから今まで捕まることもなかったんだろうぜ。ごく一部に名前だけが一人歩きするぐらいでよ?」
「つまりコゴスとケリガンはガストンの一味、幹部だってことか?」
「おうよ。まだ決定的なことは吐きやがらねぇけどよ。モーガン爺がそろそろ本気出すだろうから時間の問題だなぁ。頭ぁぶっ壊す気で吐かせるんじゃねぇか?」
ん?
「もうモーガンに引き渡したのか? せっかくギルドの手柄だってのに。」
「ギルドとしちゃあ行政府にでっけぇ貸しを作った形だな。大金だって動いただろうしよ。まぁたお前に依頼が行くんじゃねぇのか?」
「まぁ、それならそれで構わんけどな。アレクサンドル領に行くついでに始末してやるよ。」
始末するのか生捕りなのかは知らないけどね。モーガンがきっちり吐かせるんなら私が生捕りする必要なさそうだよな。どうなることやら。
「まあよぉ、これでマーティン卿の仇もとれるぜなぁ?」
「ん? 父上の仇? 何だそりゃ?」
父上は死んでないっての。きっと今ごろ元気にイグドラシルを登ってるぞ?




