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異世界金融 〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件 〜 #いせきん  作者: 暮伊豆
第5章

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152、王都のカース、領都のアレクサンドリーネ

ふうーー。いい汗かいたな。三回ほど出入りしちゃったよ。


魔法を解除して窓を開ける。夕暮れの冷たい空気が心地よい。ふぅ、天国かな。冷やした水がやけに沁みるぜ。


「ピュイピュイ」


はは、冷たい酒が飲みたいのね。何か出すね。

これは、アラキ酒か。


『氷球』


氷のグラスにロックでどうぞ。


「ピュイピュイ」


『水壁』


そして私は最後の水風呂だ。はぁー気持ちいい。


ーードンドンドン


なんだよ……


「宿改めだ! 開けろ!」


はぁ? 今来たばっかなのに。しかもまだ日没前だぞ? せっかくのいい気分が台無しだ。


『風操』


扉のつっかえ棒を外す。鍵なんてない安宿だもんな。水風呂から出る気はない。


「お上の御用だ! 身分証出し、な!? 何やってんだ!?」


あれ? 何こいつ? 騎士じゃないじゃん。そこらの平民のくせに何やってんだ?


「ほらよ。」


金貨を一枚。ギルドカードは見せたくないからな。


「お、おお、分かってんじゃねぇか。へへっ、長生きするぜ?」


「お前、どこのモンだ?」


「ああ? 龍爆鬼焔党に決まってんだろ? 見慣れねぇ人間がここいらに来た時ぁ俺らがこうして平和を守ってんだよ!」


ぷっ、守れてないじゃん。金に転んで身分証チェックしてないじゃん。それにしてもまた出た龍爆鬼焔党。手広くやってんだねえ。民間人が宿改めなんて絶対お上の御用じゃないだろ。タチ悪いわー。


「龍爆鬼焔党と言えば(かしら)はえらくいい男だって聞いたことがある。たしかケリガンって言ったか。どんな男なんだい?」


「ばっ、バカ! 呼び捨てにすんじゃねぇ! 殺されんぞ! あの人ぁ魔物だろうが人間だろうが気に入らなきゃあすぐ殺すってヤベェ噂があんだよ! いい男がどうかなんて知らねぇよ!」


ちっ、顔を見たこともない下っ端か。つまりケリガンはそれなりに用心深いタイプなんだろうか? それなのによく似顔絵なんか描けたな。


「ふーん、分かった。ありがとよ。行っていいぞ。」


「お、おお……」


大人しく帰ったか。欲をかいてもっと寄越せとか言うと思ったが。


ふーむ。それにしてもケリガンにしてもコゴスにしても好き放題やってるみたいだな。

思うに、さっきの奴が本当にチェックしたかったのは私が女を連れ込んでないかってことだろうな。ばあちゃん経由でない女をさ。

そっち方面の法は詳しくないが、確か娼館としての許可とそこから女を派遣する許可は別のはずなんだよな。だから例えば街でナンパした女の子を宿に連れ込んだら場合によってはお縄になりかねないんだよな。取り締まる側に悪意があれば……街娼行為の延長だ、とか言ってさ。街娼がどの街でも禁止されてるのは私でも知ってる。


さっきの奴は私が女を頼まなかったもんだから頃合いを見てチェックに来たんだろうね。むしろ女を引っ張り込んでて欲しかったんだろうなぁ。難癖つけて有り金かっ剥ぐためにさ。やれやれ。タチの悪い場所だね。


よし。体も頭も冷えたことだし、寝ようかな。夜はこれからなんだけどさー。なんだかもう出歩く気分じゃないからね。たまにはこんな日があってもいいよね。アレクのいないベッドで寝るのは少々寂しいものがあるけど、でもコーちゃんがいるもんね。


「ピュイピュイ」


あら、もうしばらく水風呂に入ってたいのね。いいもん……一人で寝るから……


『範囲警戒』を張ってと……

『氷壁』で扉と窓を塞いで……

これで安心。


『快眠』


ぐう……






一方その頃、アレクサンドリーネは。


「ひっひっひ。よく来てくれたねえ。」


「お招きに与り恐縮ですわ。」

「ガウガウ」


カムイと共に魔法学校校長、バーバラ・ド・アベカシスの自宅を訪れていた。彼女は普段の魔法使い然とした黒いローブに三角帽子ではなく、ごく一般的な貴族婦人が自宅で纏う簡素なドレスを身につけていた。


「さあ入っとくれ。広いだけでなーんにもありゃしないけどねえ。」


「失礼いたします。これはほんのお土産、私とカースからですわ。」


小さな酒樽だ。おそらくアレクサンドリーネがヒイズルで購入したものだろう。バーバラの傍に控えていた執事に手渡した。


「開けずとも薫ってくるねえ。いい酒だ。ありがとうよ。あんたはいい生徒だ。」


「お気に召していただけると幸いですわ。」




食堂に案内されてアレクサンドリーネは息を飲んだ。


「これは……」


「ひっひっひ。分かるかい? さすがにお目が高いねえ。」


家具の素材として最上と謳われるトレンタール・マホガニー。さほど大きく育つ魔物でもないためアレクサンドリーネは驚いたのだ。十メイルはあろうかという一枚板のテーブルに。


「ついでに椅子も同じトレント素材さね。贅沢させてもらってるさ。」


一体のトレントからテーブルと椅子を作り出したらしい。


「贅沢などと、これは校長先生が自ら倒して手に入れたトレンタール・マホガニーでしょう? 噂には聞いたことがありますわ。さすがのお手並ですね。」


「なに、運良く遭遇できただけのことさね。それより私ぁ腹がへったよ。メイジア、料理を運んでおいで。」


「かしこまりました」


執事のメイジア。灰色の短髪、仕立ての良い燕尾服。バーバラと同じほどの高齢であろうに背筋は微塵も曲がっていない。


「それで、私を招待していただいた理由は何でしょう? 先に料理を食べてしまうと依頼を断りにくくなるとカースが言っていたもので。」


もっとも、カースならば料理を食べようが贈り物を貰おうが条件が合わなければ断るだけだろう。おそらくアレクサンドリーネも。


人の少ない屋敷。豪華なシャンデリア。テーブルの上ではよく磨かれた銀の燭台が淡く輝いている。


「ひっひっひ。さすがに氷の女神は甘くないねえ。なあに、大したことじゃないさ。正直私としてはどうでもいい話でねえ。ちいとばかり本家筋の頼まれ事があってねえ?」


「本家筋……ですか?」


バーバラ・ド・アベカシス。紛れもなくローランド王国四大貴族の一つ、アベカシス家のことだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一筋縄ではいかない頼まれ事でしょうか。
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