111、荒ぶるラグナ
ギルド内が朝っぱらから血と臓物の匂いで最低だ。くっさ。となりは酒場だってのにさ。
「お、お前、何、ものだ……」
「あぁん? 四つ斬りラグナぁ知らねぇってのかぁい? アジャスト商会も落ちたもんだねぇ!」
「ラグナ……ダミアンの愛人が……なぜこんな所に、いる……? 魔王に乗り換えいぎぃいいぃ!」
あーあ、余計なこと言うからまたナイフが増えた。足の甲に何本刺さってんだよ。
「うちのボスぁお嬢一筋なんだよ! アタシなんざぁ相手もしてくれねぇさ! で? ここのギルドを乗っ取るってぇ? ほぉらやってみなぁ? ほらほらほらぁ!」
うわぁ……両足を床に固定されたゴーマンの頬を……ラグナがザクザク斬ってる。えげつな。
「こ、この俺を誰だと思ってやがる……アジャスト商会を敵に回してフランティアで生きていけると思ってんのか……」
「はあぁ? アジャーニ家がそんなに偉いってぇのかぁい? 宰相ぉ? 代官ん? 呼びなぁ。この四つ斬りラグナに文句があんなら誰でも相手んなってやんよぉ!」
おっとラグナ。その発言はアウトだ。関係者が聞いてるわけないとは思うが。
「ラグナ、そこまでにしとけ。カルガ、邪魔したな。後は好きにしてくれ。」
「ちょっとボスぅ! アタシぁダミアンをバカにされたんだよぉ!? ケジメぇ取ったっていいだろぉ!」
「それは構わん。が、今の発言をもしクタナツ代官が聴いたらヤバいぞ? そいつもお前もまとめて殺されるだろうぜ。ま、いいさ。後はカルガに任せておきな。」
「ああ。任せてくれていい。さっきの発言は何も聞いてない。だから問題ない。」
ラグナだってそれぐらい分かってるくせに。お前だって誰かが『ラグナ? 連れてこい! 相手してやるよ』なんて発言したことを知ってしまったら『行く』だろ。こっちに筋が通らない状況だろうと。
「ふざけんな! 言ったよな! この女はアジャーニ家上等なんだよな!? もう遅いからな! このままじゃあ済まさんからな!」
顔中血まみれで両足動かないくせに元気じゃん。
「お前が心配することじゃない。お前がやったことは重罪だからな。ギルドの規則通りに粛々と処理させてもらう。色々と吐いてもらった後にな」
「舐めんな! 誰が歌うかよ! 俺が戻らなかったらアジャスト商会が動くからな! その時に後悔しても遅いからな!」
その頃にお前はもう終わってるけどな。
「じゃあ魔王。手間かけたな。ありがとよ」
「ああ。うちのラグナが悪かったな。上手く処理しておいてくれ。」
カルガだって最初から殺す気ならあっさり終わってたんだよな。今朝まで同じギルドの仲間だった奴らなもんだから命だけは助けようとしやがってさ。だからラグナに獲物を奪われてしまうんだよ。私が止めてもよかったけど、そもそも手出しをする気もなかったしね。
「忘れるなよ! お前らがアジャスト商会に手を出しっぅぶぉぉぉ……」
あーらら。口枷されちゃったね。仮にこいつがただの鉄砲玉だとして、ここからどうやって状況を知らせるつもりなんだか。まぁ、カルガが聞き出すよね。適当に拷問でもしてさ。
「なあ、お前らってカルガがやられたら困らないのか?」
少し気になったから話かけてみた。事の最中にヤジだけ飛ばしてた奴らに。
「別に困らねぇなぁ。あいつがやられたら次ぁ俺があいつらぶちのめすだけだからなぁ」
「そーそー。だいたいあいつぁ甘すぎんだよ」
「あれじゃあ組合長にはなれねぇな」
ん? あ、分かった。そういうことか。
「もしかしてお前らって次期組合長の座を狙ってんのか? 今のところカルガが近いもんだから素直に助けてやんないって感じでさ。」
さっき見た感じだと、こいつらってカルガには及ばなくても中々のやり手だったよな。そこらの七等星だと相手にならない程度にはさ。
カルガと敵対する気はなくても、タダで助けてやる気もない。そんな微妙な距離感ってとこか?
「ま、まあそんなとこだ。あいつが組合長になんのは構わねんだけどよ。ちっと甘すぎんとこをどうにか直してやりたいたぁ思ってんわけよ」
「どうよ魔王? 何かいい考えないんか?」
「あんなやべぇ女ぁ使ってんぐらいだからよ。あんだろ? 一つや二つよ?」
あるわけないだろ……
「無茶言うな。俺だって母上から甘さを直せって言われてるぐらいなんだからさ……」
そりゃあ……アレクの命と引き換えなら、ヒイズルを海の藻屑とすることだって躊躇いなくやってやるけどさ。迷わず十万トンメテオ落としてやるさ。でも、それはそれ。今はそんな話ではない。
「やっぱ魔女は違うってわけか……」
「アステロイドがイカれるだけあるよな……」
「俺だって魔女には痺れてんぜ……」
おお。母上を話題に出したら一気に静かになった。これが本物の雷名ってやつだよな。私はまだまだだ。
「じゃあな。俺らはもう出るから。カルガによろしくな。」
今度こそクタナツに帰ろう。
「おう。四つ斬りがカルガを助けたことに違いはねぇ。恩に着るぜ」
「またな魔王」
「魔女によろしくなぁ」
そう言われても知らないぞ。うちの両親は一体いつイグドラシルから降りてくるんだろうね……オディ兄にマリー。それからベレンガリアさんも。
さて、後は野となれ山となれ。クタナツに帰るとしよう。朝から疲れちゃったよ。見物しかしてないのに。




