109、ソルサリエの変事
どんな奴か気になったので見に行くことにした。貴族にしては言葉遣いが酷いのも気になったんだよね。
どれどれ……酒場の端からひょっこり顔を出して見物してみる。
んん? あの服装は……商人かよ。平服だし籠手や革鎧といった防具を装備してない。金がないのか? だから依頼料をケチってるとか? バカだろ。命の値段だってのに……
「カース、そろそろ行く?」
「あ、うん、そうだね。行こっか。」
もう少し見物していたい気もするが、後はギルドの者が始末をつけるだろう。
「俺はアジャスト商会のゴーマンだ! お前ら俺の顔覚えとけよ! いずれアジャスト商会がフランティア全域の商売を仕切るんだからよ!」
アジャスト商会だと? 領都一の大商会じゃないか。リゼットのマイコレイジ商会もかなり大きいがアジャスト商会には及ばないんだったか。
そのアジャスト商会がなぜわざわざこんなフランティアの端まで来てんだ?
それはともかくギルド職員が動揺しているように見える。組合長がいないからか? 副組合長はいるだろ。今はそいつが全権だろ。
「おおぅ魔王。昨日はありがとな。どうよ。よく眠れたか?」
「おお、カルガだったか。ありがとな。よく休めたよ。お前は寝てないんじゃないか?」
「おお、あのガキどもに説教してたからよ。何か食ったら寝るとするぜ」
ご苦労なことだ。よくやってるよなぁ。ならば私も少しだけ……
「これ、取っておいてくれ。ガキどもの分もあるってことで。」
金貨を一枚。ソルサリエを支える冒険者への寸志ってとこかな。
「おお、こいつはすまんな。ありがたく貰っとく。あいつらにたらふく食わせてやるとするさ」
やっぱ面倒見いいんだな。真似できないぜ。
「お前ら! やっと現れたやがったか! もう少し遅かったら他の護衛雇うとこだったぞ!」
ん? さっきの商人だ。こっちの話に割り込んでくるんじゃねぇよ。
「こいつらに何か用かよ?」
「誰だお前は! 俺はこいつらの雇い主! アジャスト商会のゴーマンだぞ!」
「す、すんません……城門入れんかったもんで……」
「こいつらぁお前んとこの専属か? それとも今回限りの護衛か、どっちだ?」
「ふん、サヌミチアニからの往復だ。仕事ぶりによっては今後も考えてやる約束でな! それをこいつら! ちょっと寄り道するだけでどれだけ時間かけてやがる!」
あー、こいつらマンティス何とかって言ったか。確かサヌミチアニの七等星だっけ。つまり? アジャスト商会はサヌミチアニにも支店か何かあるってことか。やっぱ手広くやってんだな。
「だ、だってゴーマンさんが……イービルジラソーレの種を取ってこいって……」
「俺らぁ間に合わんって言ったのに……」
「言い訳するな! お前ら冒険者は俺の言うことに従ってればいいんだよ!」
スリーアウト。こいつ冒険者を護衛で雇っておきながら別の仕事させやがったのか? しかもイービルジラソーレだと? あれが生えてるのってグリードグラス草原の東側だぞ? こんな思っ切り西側ではあんまり見た覚えないし。
「そこまでにしとけ。アジャスト商会だろうが冒険者を使う以上はギルドの規則に従ってもらうぞ」
「冒険者風情が口を挟むな! 俺とこいつらの話だろうが!」
「そうはいかん。俺は六等星『夜烏』のカルガ。組合長代理ってとこだからな。大人しく話を聞かないってんなら制圧することになるが?」
それにしても……今さらだけどまだ引退してない冒険者がギルド側にいるってのも妙な気分だな。これはギルドの人手不足か、それとも実力不足か。両方かな?
ギルドってのは時には冒険者を腕尽くで『分からせる』もんだしさ。
「何ぃ? この痩せ烏が! おいお前ら! こいつをぶちのめせ! そしたら帰りも雇ってやるぞ!」
ゲームセット。そもそも最初のワンナウトの段階でほぼ終わりだったんだけどさ。スリーアウトどころかいきなり試合終了かよ。
「い、いや、む、無理ですって……」
「相手にならんすって……」
「ゴーマンさんやめた方が……」
「何びびってんだ! こんな六等星かどうかも疑わしい痩せぎすなどに! 誰でもいいからやれ! 今後はアジャスト商会が面倒見てやるぞ!」
うわぁ……こいつアジャスト商会潰す気か? 実はダミアンが仕込んだ獅子身中の虫だったりするのか? さすがに違うか……
「げっへっへへぇ。聞いたぜぇ? 間違いねぇんだろぉなぁ?」
「ひっひひひ。アジャスト商会がバックに付くんかよ? 装備の心配なくなんぜぇ?」
「ちょうどあのおっさんぁ気に入らんかったからよぉ?」
「ちょうどいいぜぁ! 俺らでギルド乗っ取れんじゃね!?」
マジかよ……こんなのに呼応するバカが十数人……
こいつら人生ぶん投げ過ぎだろ。私より先のこと考えてないじゃん。よく今まで生きてこれたな……
いつもご愛読ありがとうございます。
本年もいせきんをよろしくお願いいたします。
2023/1/1 暮伊豆




