108、ソルサリエのギルド
あれから、私が眠いと言うとすぐに客室に案内してくれた。なんと組合長室に。ここは執務室としての機能以外に客室としても使えるらしい。組合長ってどんだけ働くんだよ……
私なら嫌だぞ……仕事場の隣が寝室だなんて……クタナツ代官レオポルドンもここで寝泊まりしたのかねぇ。むしろあの人って寝ずに仕事してそうだよな。真似したくないなぁ。
『浄化』
だって野郎の匂いがするんだもん……しかも風呂なしかよ。街に一つぐらいないと大変だと思うけどなぁ。そういや大昔私が置いて帰った鉄湯船はどこに行ったんだろうねぇ。あの頃は城壁どころか石垣だったよなぁ。
『消音』
酒場からの喧騒がひどい。代官や組合長はこんな状況で仕事してたのか……大変すぎるだろ……
「カース? どうしたの?」
「いや、何でもないよ。寝よう。」
寝ようとは言いつつ夜はこれからなんだけどさ。
……朝か……まだ眠いな。うるさくはないが振動で目が覚めてしまった。安普請か?
『浮身』
眠るアレクを起こさないように腕を抜く。朝のギルドがどんな感じか見るだけ見てやろうと思ってさ。
組合長室を出て廊下を歩く。下を見渡せる場所へ。
おおー、やっぱ混んでるね。みんな早起きだよなぁ。朝のギルドってのはこんなもんだよね。
「そりゃあ俺が狙ってた依頼だぞこらぁ!」
「早いもん勝ちに決まってんだろが!」
「おっしゃ! オーク五頭ぶち殺してくんぜぇ!」
「ガゼルコヨーテを十匹かぁ。よっしゃあ、いったらぁ!」
うーん。みんな頑張ってるね。偉い。
「おー魔王ぉ! 何か受けるかぁ!?」
「おっ、魔王じゃねぇか! 大物でも狙うってか!」
「うっわ、あれマジ魔王さん? すっげ……」
「クタナツに何か運ぶような依頼ってないか? 人でも物でもいいが。」
今日帰るからちょうどいいんだよね。
「護衛依頼ならあるけど割が悪いぜ? だから残ってんだよな」
あー、護衛依頼って普通は七等星以上が受けるもんだしな。それなりに報酬もいいから冒険者で取り合いになることも珍しくないんだよね。なのに残ってるのね。
「条件はどんな感じ?」
「クタナツまで片道で五人と馬車一台だな。そんで銀貨三枚だ。ギルドもこんな依頼よく通したよなぁ?」
まったくだ。銀貨の桁が間違ってんじゃないか? どうせ帰るんだから少しぐらい割が悪くても受けてやろうかと思ったけど。これは受けちゃだめなパターンだな。むしろギルドが断れよって話だ。もしかして慣れない新人職員が断りきれなかったとか?
どちらにしても受ける冒険者なんかいないだろうね。
「ちなみにその依頼いつから出てんの?」
「昨日の昼らしいぜ? 駆け出しでも受けねぇと思うけどなぁ」
「だよな? まあいいや。じゃあクタナツに行くような依頼は他にないよな?」
私は職員でもない冒険者に何を聞いてんだか。
「ねーんじゃね? 何よ、もうクタナツに帰るんかぁ?」
「本当は昨日クタナツまで帰るつもりだったんだけどな。少し遅くなったもんでな。じゃいいわ。わざわざ悪かったな。」
「おう。魔王にゃでけぇ仕事やって欲しいしよぉ」
それは買いかぶりだ。そもそもなるべく仕事したくないんだからさ。
腹へってきたな。アレクはまだ起きないのかな。そろそろカムイも腹へったって催促してくる頃だしな。
「ピュイピュイ」
と思ったらコーちゃんが来た。アレクが起きたのを知らせに来てくれたんだね。ありがと。じゃあ朝食にしよっか。
ギルド併設の酒場。喧騒の中で朝食。やはりメニューはオークのジンジャー焼き定食。早い、安い、旨い。たまに食べたくなる味だよなぁ。おいしっ。
「どおなってんだよ! なんで誰も依頼受けねんだよ!」
ん? うるさいな。酒場にまで聴こえてきたぞ。何事だ?
「ギルドは俺らに死ねって言ってんのかよ! そうなんだろが! 足元見てんじゃねえよ!」
ここからだと声しか聴こえないけど、さては依頼者か? ギルドにケンカ売ってもいいことないのに。
「舐めてんだろ! こんなショボいギルドなんざ潰してやんからよ!」
あらら……あいつ終わったな。今の一言は完全にアウトだ。近いうちに消されるんじゃない? 魔境で死んだら証拠なんか残らないって知らないのか?
「おうお前らぁ! ここまで来るぐらいだから腕自慢なんだろが! 誰か依頼受けてみろよ! 腕次第でうちのお抱えにしてやるぞ!」
お抱え? 貴族なの? 貴族のくせに依頼料をケチってるの?
そしてツーアウト。ギルドを介さず依頼をしようとしたな? しかもギルド内で……
うわぁ……頭沸いてんな。
本年も異世界金融にお付き合いいただきありがとうございます。
来年もできることなら毎日更新するつもりですので、引き続きご愛読いただけると幸いです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
2022/12/31 暮伊豆




