107、ソルサリエの没落貴族
案内されたのはソルサリエのギルド。何でも代官がここに滞在する時はギルドの組合長室を使うらしい。まだ代官府を建ててないのかよ。後回しにしているだけか? 確かにギルドの方が優先順位高そうな気もするけど。私達にとってはね?
「おーい! 珍しい客だぞ。クタナツの魔王が来たぜー!」
「代わりにカルガが外に出ちまったけどな」
「あぁ!? 魔王!?」
「あっ! マジで魔王じゃん!」
「おお魔王! おれおれ! 俺だよ!」
おれおれって言われてもな。顔に見覚えはあるけどさ、名前までは知らないぞ……
「ところで組合長は?」
いるんなら挨拶ぐらいしとかないとな。
「いないよ。ここの初代は元五等星モーリーっておっさんだったんだけどな。先月死んだわ。コカトリスに食われてな」
あらら……元五等星のくせにコカトリスにやられるって……よっぽど油断してたのか、それとも……よっぽど鈍ってたのか。
「で、まだ次の組合長が決まってないってわけね。騎士もいないのか?」
「ああ、組合長も騎士もいない。来月には来るって話だけどな」
騎士がいないってのは変な話だが、私が気にしても仕方ないね。カルガみたいな謹厳実直な冒険者がいるから任されてるんだろうか?
それにしても、謹厳実直な冒険者って……めちゃくちゃ矛盾してんな。無垢な娼婦、初心な男娼ぐらい?
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
おっと、ごめんごめん。
「とりあえず飲もうぜ。腹も減ってるしさ。」
コーちゃんが酒はまだかと言い、カムイは早く肉を食わせろと言う。さっきまで食べてたくせに。
「お、おお、すまんすまん。こっちだ」
「お前らも集まれ! 魔王を囲むぞ!」
囲むって言われると袋叩きにされそうだよな。でも行くけどね。
「シャンパイン・スペチアーレはないのかぁい?」
「いいギルドね。とてもいいギルドね。」
ラグナは傍若無人。アレクは私が丁重に扱われているので喜んでる。
「ほら魔王! これ飲んでくれ! 女神もほれぇ!」
「んあ? 蛇がもう飲んでんぞぉ!?」
「それ俺の酒ぇ!」
活気があるなぁ。さすが魔境の最前線だけあるな。私の楽園やノルドフロンテは除くけど。
「さ、アレクも飲もうよ。せっかくだからね。」
「ええそうね。いただくわ。」
おっ、エールだ。あまり冷たくないエール。塩で味付けた肉によく合うんだよな。これはハーピーの胸肉かな? 一口サイズに切ってあり旨い。
「め、女神さん、デュフフ……こ、これも飲んでュフフ……」
「オウフ女神さんこちらも飲んでみてコポゥ?」
「サーセン女神さんこれ絶対おいしいからフヒヒっ」
アレクが……イケメン三人組に囲まれてる……何こいつら? さすがにフェルナンド先生には及ばないけどさ……キラキラしてさぁ……イケメンすぎない? 少ぉーしムカつくなぁ……
「いい味わい……悪くないわ。でも気が利かないのね。カースの杯が空よ? さっさと注ぎなさい。」
「オウフ! これは失礼をば。デュフフ魔王さんさあさあ一献」
「お、おう……」
舞台俳優にいてもおかしくないイケメンが私に酒を注ぐ。これでも冒険者だよな?
肉にエール。いいよね。コーちゃんも満足してる。
「ところでさ、なぜカルガは俺にそこまで気を使うんだ? 放っておけばいいのにさ。」
「フォッ? そんなの当たり前ですデュフフ。貴殿がどれだけのことをしたのかクタナツの冒険者なら皆知っておりますコポォ」
「しかりしかりヌフゥ。オウフ魔王殿は無自覚系ですかコポゥ?」
「いいから飲むでござるフヒヒ」
変な奴らだなぁ。これが俗に言う残念イケメンってやつか? ところで無自覚系って何だ?
「お前らって何等星?」
「デュフフ我らクタナツの七等星でござるぞ?」
「魔王殿が知らぬのも無理はないコポゥ。我ら後輩ですコポゥから」
「ベレンガリアやオディロンとは同級生でヌフヒヒっすな」
マジで? あれ、でもオディ兄の同期の奴らって……
「オディ兄達の同期ってほぼ全滅したんじゃなかったっけ?」
「デュフフそやつらのことなど知りませぬぞ? 我らはクタナツ初等学校の同級生ゆえにフヒッ」
あ、そうか。冒険者の同期と学校の同級生は別物だわな。勘違い勘違い。
オディ兄の同級生ってことは私の三歳上、二十歳ぐらいか。
「ふーん。なのに後輩ってのは?」
「デュフフ我ら没落貴族ゆえっフヒヒ」
「冒険者歴わずか二年の若輩者でコポゥ」
「それでも最前線で戦えば見えるものもあろうと切磋琢磨する日々でフォフォウフ」
あらら、元貴族なのね。それにしては変な奴らだなぁ。面白いからいいけど。むさ苦しい野郎どもの中に可憐なアレクと王子イケメン三人組、もふもふカムイ。阿婆擦れラグナは余計かな?
あとは吟遊詩人がいたら完璧だよな。そういえば、新進気鋭の吟遊詩人ノアは今頃どこにいるんだろうね。




