106、開いた城門
開いた城門から出てきたのは数人。シルエット的に冒険者か?
「おお、何か用か? それとも一緒に肉食うか?」
酒は分けてやらないけど。
「い、いや、確認だ。あんた……本当に魔王なのか……?」
「当たり前だろぉがぁ! うちのボス以外に魔王がいるってのかぁい!?」
「待てってラグナ。確かに俺はカース・マーティンだが。ギルドカードの確認するか?」
「いや、ここらで魔王の顔も知らねぇなんてモグリもいいところだ。この距離なら分かる。あんたは確かに魔王カースだ」
顔で判別されるとは嬉しいじゃないの。さすがクタナツに近い街だけあるね。
「で、確認したらどうするんだ?」
「見れば分かるだろう。城門を開けた! あんたを野宿なんてさせられるわけがない。しかもアレクサンドル家の令嬢だっているんだ。ぜひ中に入ってくれ!」
あらら。意外な展開だな。いかなる事情があろうとも日没後は城門は開かないはずなのに。まあいいや。せっかく開けてくれてるんだから遠慮なく入ろう。
『水滴』
火を消して……と。
『風壁』
『風操』
鉄板は元から浮いてたので囲ってから動かす。肉がたくさん乗ってるんだからさ。
「それなら遠慮なく入らせてもらう。うちの者がわがまま言ったな。悪かったよ。」
「いやいやいや! あのまま朝まで放っておく方がヤバいって! さあ早く」
いつまでも開けておけるもんじゃないからな。
私達が中に入ると門はゆっくりと閉じていく。ん? なんだあの声は?
「うぉーーーい! 待て待て! 待ってくれぇ!」
「開いてんじゃねぇか! 入れてくれぇ!」
「ツイてるなぁ! 走るぞぁ!」
「うおおおおおおお!」
冒険者か? よくは見えないが声は近付いてくる。
だが、城門はすでに閉ざされた後だ。
「なんでだよぉ! たった今まで開いてたじゃねぇか! もう十秒ぐらい待ってくれたっていいだろ!」
「おらぁ! 開っけろやぁ! 俺らぁ誰だと思ってんだぁ!」
「ちょっとぐれぇいいだろぉ! なっ! なっ?」
「うおおおおおお!」
あーあ。城門をドンドンと叩いてる。いくら入りたくてもそれは悪手だぞ……
「うおらぁ! てめぇらどこのモンだぁ! 閉じた城門に触れたらどうなんのか知らねぇのかおぉ!?」
私達を迎え入れてくれた者が、素早く城壁の上に登った。どこの街でも閉門後の城門に触れたら問答無用で奴隷落ちだ。その上クタナツに至っては城壁に触れても同様だからな。知らないで済まないのはいつもの事だ。さっきラグナが叩いたのはスルーされてるようだが……
むしろ警告で済ませる方がおかしい。やっぱあいつ騎士じゃないんだろうな。
「分ぁかったってぇ! 俺らが悪かったってぇ! でもなんでだよ! 今入った奴がいただろぉが! さてはてめぇ同郷贔屓してやがんだろ!」
「俺らぁサヌミチアニの七等星マンティスブラディハクアッシュテンペスターだぞ!? おおこらぁ!」
「てめぇどこのモンよ! おお!? どうせクタナツ者ばっか贔屓してんだろがコラぁ!」
「うおおおおおおおお!」
蟷螂? 血まみれ? 鉤斧? 嵐を起こす者?
意味がよく分からんな。きっと血気に逸る若者達に違いない。七等星でここまで来れたのなら新人卒業ってとこかな?
「ほぉう? よぉく言ってくれたなぁオイ。俺ぁクタナツの六等星『夜烏』のカルガだぁ。てめぇら駆け出しだなぁオイ? せっかくだぁ……魔境の規則ってもんを勉強していけや。体でなぁ!」
あ、飛び降りた。せっかくだから見物するかな。
「あ、ちょっとボスぅ。これ開けてよぉ。」
「ほらよ。」『風壁解除』
ラグナは食い気が勝ったか。いや、コーちゃんにカムイも……
「私は待ってるわね。」
「うん。ちょっと見てくるだけだから。」
『浮身』
さて、六等星って言ったな。何やってくれるんだろうね。つーか何で六等星ほどの冒険者が見張りやってんだよ。いや、六等星だからか?
城壁から身を乗り出し、下を覗き込む。
『暗視』
あ……もう終わってるし……ちょっと大人気なくない? 素手で六人ともタコ殴りかよ。
「おーい、この後はどうするんだ?」
登れないなら浮身を使ってやってもいいが。
「せっかく招待したのに悪ぃな。俺ぁ今夜のところは中に入れない。すまんが後のことはあいつらに任せる! 聴こえたよなぁ、サトゥーキにポルテイル! 適当に頼む!」
あいつらとは……城門を閉める時に両側にいた二人のことだな。下から「あいよ〜」って感じの声がした。
それにしても律儀な奴だな。規則を破ってまで私達を招き入れて。自分は治安維持のためにやむなく外に出ただけなのに。それでも規則を守るってのか。それもう冒険者じゃないじゃん、騎士じゃん。
おまけにバカな若者に教育まで。偉いね。他の城門で同じことやったら奴隷落ちしてたもんな。
「悪かったな魔王。俺らは止めたんだけどな」
「おおっと、別にお前らが邪魔って意味じゃないぞ。ようこそソルサリエへ」
「ありがとよ。今さらだけどいいのか? 俺は知らんぞ?」
「ああ、相手がクタナツ代官クラスなら開けていいってことになってる。今のところは、だがな」
「で、相手が魔王なら絶対開けるってカルガの奴が言うもんでよ」
あー……きっと代官はよく出入りしてたんだろうな。ほんと働き者だわ。
『浮身』
『風操』
山岳地帯の肉をどすんとお裾分け。解体はそっちでやってくれ。七人もいるんだからさ。
「おー! 魔王ありがとなー!」
城門の向こう側から声がする。余計なことをしたばっかりに自分は野宿。立場が入れ替わっちゃったね。バカな奴だよ……夜烏のカルガ……




