104、ノルドフロンテの今
しばしの沈黙。せっかくの昼休憩が重苦しくなってるぞ……
「とまあ、そんなこともあってな。もしカースが南の大陸に行くのであれば、何かしらの変化を期待せずにはおれん……といったところよ。」
期待されるのは悪い気分じゃないけどな。最後の旅だし南の大陸に行くとも決めてないしね。でも、少し気になってきた。もともとコーヒーやケイダスコットンが欲しいってこともあったし。
「色々あるんですね。勉強になりました。あとお昼もご馳走様でした。」
「ご馳走になりました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「うむ。いつまで居れるのだ?」
「おじいちゃん達に挨拶したらクタナツへ帰ります。」
ここで一泊したらまた数日ぐらいのんびりしてしまいそうだからな。他にも理由はあるが。
「そうか。そなたも忙しいものよな。達者でな。」
「ありがとうございます。先王様もお元気で。どうか。」
全員に見送られながら街へと飛ぶ。おじいちゃんの居場所だって分かってるしな。元気にしてるといいな。
ああ、もうすぐ夕方か。おじいちゃん達と話していたらあっと言う間だったな。
「な、なあカースや。もうすぐ日が暮れるぞ。何もこんな時に出発せずともよかろう? な?」
心配半分の引き止め半分か。気持ちはありがたいんだけどね。
「いえ、ここは居心地がいいのでいつまでも居たくなっちゃうんです。だから行きます。また来る時までおじいちゃんもおばあちゃんも元気でいてね。」
「その時は私、カースと結婚していると思います。だから絶対お元気でいてください。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
ふふっ、やっぱにやけてしまうな。
「おお、おお。もちろんじゃとも。生き抜いてみせるからの。絶対顔を見せにくるんじゃぞ!」
「楽しみにしているわ。本当に。」
祖父母というものは少し見ないだけで老けていく……おじいちゃん達ほど魔力があれば長生きしてくれるとは思うんだけど。
「はい。じゃあまた。行ってきます!」
祖父母がいるならそこは実家みたいなものだ。だからこの挨拶も間違ってない。きっと。
水平線に沈む夕日を右に見ながら、私達はヘルデザ砂漠の西側を飛んでいる。途中でラグナを拾って。
「心細かったよボスぅ。こんな所に置き去りにされちゃあ……死ぬしかないからねぇ。」
「だったら一緒に来ればよかったのに。」
そう。ラグナの奴、ノルドフロンテに入るのが怖いだなんて言い出しやがって。だから途中の岩山で下ろしてやった。こいつを待たせてるのが一泊しなかった理由の二割ぐらいだろうか。こいつなら一晩放っておいても死にはしないと思うけどさ。
「前の国王にゼマティスの前当主がいるんだろぉ……怖くて行けるわけないさぁ……」
まったく。ラグナらしくもない。
そして、メインの理由は……
「先王様もおじいちゃん達も……やつれてたね……」
「そう……ね。城壁の見張りも人数が増えていたもの。」
想像はつく。魔物の襲来が激しいんだろう。冬の間に少ない餌を求めて大襲撃が起こることもあれば、春になって魔物が活発になることだってある。それでも先王はいつも通りのことをしていた。普段通りの姿を見せることで全員を安心させるとかそんな感じの理由なのだろう。
そんな状態にもかかわらず、先王もおじいちゃん達も……城壁の見張りさえも。私達に助けを求めようとしなかった。自分達の街は自分達で守るという矜持だろう。
そこに私達が宿泊して、魔物の夜襲でもあったら……私は容赦なく手を貸すだろう。自分がやりたいように全滅させるに違いない。後先考えずに。
「これでよかったのかな……」
「どっちでもいいわよ。カースは好きに動けばいいの。」
ノルドフロンテの今後を考えれば手なんて出さない方がいいに決まってる。ただ、そのせいで運悪く全滅なんかしたら……
いやいや、大丈夫。先王どころか校長に組合長までいるんだし。元近衞騎士や宮廷魔導士だっている。負けるわけがない。余計な心配だよな。こっそりお土産を多めに置いてきちゃったけどさ。
「なんだいボスぅ。何かあったのかぁい?」
「いや、何もない。見ろよ、綺麗な夕日だ。ノルド海に沈んでいくぜ。」
「ボスにしちゃあ風流だねぇ。でも変だねぇ? てっきりお嬢みたいに美しいとかって言うかと思ったのにさぁ?」
「バカやろ。アレクの美しさが沈みゆく夕日なわけないだろ。真夏の太陽より眩しいんだからよ。」
「も、もうカースったら……//」
「あーはいはい。聞いたアタシがバカだったよぉ。ったく……早くダミアンに会いたくなっちまったじゃないのさぁ。」
ラグナは元々バカだろ。何を今さら。
「楽園では遊びまくったんだろ? ダミアンよりいい男はいなかったのか?」
「んー、そうだねぇ。やっぱ六等星だらけのせいかそれなりにヤレる男が多かったねぇ。でもまぁ、アタシと一番合うのは間違いなくダミアンだねぇ。しっかり確認できたさぁ。ありがとねぇボスぅ。」
「お前が楽しめたのなら何よりだ。」
やっぱこいつバカだな。他の男とやりまくったからダミアンとの相性を確認できたってか? さっぱり理解できないね。
それにしても……ラグナには真人間になる契約魔法をかけてるんだが……
我ながら真人間が分からなくなってきた。
少しのんびり飛びすぎたか。海に沈む夕日がやたらいい感じだったもんだから。
すっかり暗くなってしまった。どこで夜営しよ……




