98、解体と宴会
熱い戦いが続く。互いに一歩も譲らぬ攻防戦。一進一退。私が攻撃すればアレクも反撃をする。一度受けにまわれば、嵩にかかって攻め込んでくる。
常に上の取り合い。息もつかせぬ熱戦が続いた。
先に根を上げたのは私の方だった。数回目の魔力放出の後に、ついに空っぽになってしまったようだ。しかし、アレクは手を緩めてくれなかった。もっともっとと貪欲に私に勝負を挑んでくるのだ。
ならば私とて逃げるわけにはいかない。男の価値は女の満足。アレクを満足させ得ずして何が男か。クタナツ男の意地を見せてやる、とばかりに……そして、私は意識を……
「カースぅ? 寝たら浮気するわよぉ?」
「ね、寝てないし! 夜はこれからだし!」
今何時なんだろ……さっき朝飯を食べたと思ったけど……
「そうこなくちゃ。ほらぁ、もっとぉ。ね?」
「当然だし! ガンガンいくし!」
灰になるまで……抱きしめるぜ……
「あれー? ボスったらこんな真っ昼間からお楽しみかぁい? アタシも交ぜて欲しいもんだねぇ?」
ラグナか……
「何か用か……」
「いやー、昼から宴会するって言ってたじゃないかぁ。それが全然来ないからどうしたもんかと思ってさぁ? 冒険者どもぁ集まってるよぉ?」
『浮身』
汚い魔物を寝室で出したくはないが、仕方ない。床に触れないように浮かせて……
「これ持ってけ。で、先に始めてろ。そのうち行く……」
「もぉーボスったらぁ。朝も夜もあったもんじゃないねぇ。いくらお嬢が魅力的だからってさぁ。そんじゃ、ありがたく貰ってくよぉ。ボスも早く来てねぇ?」
「ああ、すぐいく。」
「すぐいったらダメよ?」
「さすがぁお嬢だねぇ。くくっ。」
アレクはまだまだ元気だな……私だって……!
「……ピュイピュイ……」
「……ガウガウ……」
ん……寝てたか……
あぁ、お腹すいたのね。宴会やってんじゃないの?
「ピュイピュイ」
コーちゃんは毛虫が欲しいのね。そういえば夜まで待ってねって言った気がする。そっか、もう夜なんだ。よし、じゃあ起きるとしようか。うおぉ……体がめちゃくちゃダルい……途中から身体強化まで使ったしな。
「アレク、気分はどう?」
ぐっすり眠っているけど、一応声をかけてみる。
「う、うぅん……カースぅ……も、もっとぉ……」
おお……いい夢見てるんだね。これは起こすには忍びない。
よし、コーちゃん。悪いけどリリスかバトラーを呼んできてくれる? 忙しそうだったらメイドでもいいから。バトラーにもメイドにも伝言が使えないからな。
「ピュイ」
よし。昼からの予定がもう夜だからな。さすがに私だって待たせて悪いって気持ちぐらいあるんだぞ。かと言ってこの部屋に無防備なアレクを置いていけるはずがない。普段この近くに冒険者などの来客はないけどさ。それでもその気になればここの警備はザルだからな。無邪気な顔で眠るアレクを目撃した日にはトチ狂ってもおかしくない。見張りが必要だ。
「旦那様。お呼びでしょうか。」
「おお、リリス。忙しい時に悪いな。リリス本人でなくてもいい。メイド達かバトラー、誰かにアレクが目を覚ますまで見張りをさせてくれ。見ての通り疲れ切ってるもんでな。」
「かしこまりました。では私とバトラーで交代してお護りいたします。ついでにシーツ交換などもしておきます。」
普段はシーツがどんなにぐっしょり濡れても私が洗ってるんだけどな。今はさっき起きたもんだから何もしてない。聖なる香りがむんむんと部屋を彩っている。
「頼む。」
よし。少しだけ心配だけど冒険者達のエリアに行くとしよう。コーちゃん、カムイ、待たせたね。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
『浄化』
『換装』
ふう。黒い着流しに雪駄。魔境には似合わないがやっぱお洒落だよなぁ。
『浮身』
『風操』
身一つで飛び、あいつらの所へ着地する。
「よう。待たせたな。」
「うわぁお!? ま、魔王かよ……」
「やっと来やがったか。おらぁ肉がねぇぞ!」
「酒もだぁ! ええ酒持ってんのぁ聞いてんぞ?」
「おう。あるぜ。酒はあんまりないけどな。」
まずは肉。鳥系が多いんだよな。オーガ系もそこそこ。あと鹿系も結構いるぞ。
「解体すんのかよぉ。だりぃなぁ」
「おろ? でもこの鹿……あんま見たことねぇぞ?」
「この鳥もだ。珍しくね? ばか、魔王これ羅刹鳥じゃねぇか! しまっとけよ!」
「おおっ!? これ、もしかオドリタケかぁ!?」
「山岳地帯の魔物だからな。よく見ろ。刺裂角鹿だぜ。こっちの大きいのは斑尾駝鹿な。」
鹿のくせにギザギザした角はかなり凶悪なんだよな。おっと、羅刹鳥は身も血も猛毒だったな。羽根なんかは高く売れるけど。
「山岳地帯かよ……魔王らしいぜ……」
「しゃあねぇな。解体すっかよ」
「こんな時にマツライトの奴がいたらなぁ。獲れたての肉でも熟成してくれんのによぉ」
「あいつがわざわざこんな所に来っかよ。俺ぁそのままの肉も好きだぜ?」
何だかんだ言いながらも手際いいよなぁ。私じゃ相手にもならない。やっぱこいつら熟練の冒険者だよなぁ。
「骨や内臓は欲しい者が持っていきな。ただし、解体した奴が優先な。」
「おっ、悪ぃな魔王。ありがたくもらうぜぇ?」
「おっしゃ、そんなら俺ぁこの角もーらい!」
「そんなら毛皮だぁ! もらったぁ!」
「んじゃ俺ぁ魔石だぁ!」
「魔石をやるとは言ってないぞ。それはこっちに寄越しな。」
「ぎゃはははぁ! こいつぁ一本とられたなぁ」
「確かに言ってねぇもんな!」
「おら、阿呆雷鳥の羽毛でも貰っとけよ。こいつで布団作っと温ぃよなぁ」
「お、おお。貰っとくぜ!」
素材を貰えるとあって我先にと解体に群がるかと思えば、そうでもない。指を咥えて見てるだけの奴らもいるな。まあ、ここにはここの序列でもあるってことか。
よし。肉の準備はこんなもんか。では、宴会スタートだ!




