94、楽園への帰還
結局男二人が風呂から上がるのに合わせて女達も出ていった。残る業務はお見送りかな。最後までしっかりサービスしないとね。リピーターになってもらうことも大事だもんね。
よし、カムイの手洗いも終わった。さあて、のんびりしよう。
「やっぱりここって人気なのね。」
アレクは湯浴み着を脱いでいる。やっぱこっちの方がきれいだよなぁ。当たり前か。
「嬉しくなるね。作ってよかったよ。」
本当は作るより維持する方が大変なんだけどね。つまりリリスの功績が絶大なんだよな。ボーナスを惜しむべきではないね。あ、もう渡したばっかりか。次は何をあげようかな。
「ガウガウ」
お前もこの湯船が大好きだよな。はぁ、いい気分。
「おっ、先客か」
また一組の男女が現れた。私達はもう上がることだし気にすることもあるまい。
「いや、もう出るところだ。おっ先ぃー。」
やはり冒険者だな。だが見覚えはない。だって百人からいるんだからさ。
「んんん!? ちょ、ちょい待てぇ! そ、そっちの女ぁ! な、名前を教えてくれぇ! じ、次回指名するからよぉ!」
「ちょっとぉー! 私の前でそれ酷いですぅー!」
ん? ああ、従業員と勘違いしてんのか。それなら仕方ない。一度は許そうじゃないか。
「悪いな。この子はここの女じゃねー。俺の最愛の女なんだよ。諦めろ。」
「あ、ま、待てよぉ! 待てって!」
私は足を止めて話しているのに、アレクったら何事もなかったかのようにすたすた歩いていく。換装も使わずに……
だから透き通るような美しい後ろ姿が……こいつからも丸見え……瞬きすることすら忘れて、食い入るように見つめる冒険者。いや、分かるよ。そりゃあ分かる。あんな美しい後ろ姿なんて初めて見たろ? 一流の絵師が描いた裸婦画どころじゃないもんな。王宮に飾ってあるいかなる絵よりも美しく扇状的な後ろ姿だと思うよ?
「よかったな。お前は幸運だぜ。」
「はへっ?」
「いいもん見れたろ?」
「お、おほぉおお!」
「俺以外で初めて氷の女神の一糸纏わぬ後ろ姿を見れたんだぜ? 最高だろ?」
「お、おお、おお!」
白磁のような背中に張りと柔らかさを最高のバランスで併せ持つお尻。そんな背中に流れる黄金の髪ときたら……まじ女神だぜ、アレク。
「え……氷の女神……!?」
おっ、やっと気付いたか。
「あっ! 旦那様! あの、新入りのチアキナです!」
従業員も私に気付いたか。
「おう。頑張ってるみたいだな。偉いぞ。」
この前連れてきた子かな。どことなく見覚えがある。
「ま、まさか……魔王……か?」
「おう。というわけであの子はダメだぞ。名前を聞くだけで指一本触れようとしなかったことは評価してやるよ。ちゃんと遊び方を分かってんだな。やっぱ一流の冒険者はそうでないとな。じゃ、お先。」
「お、おお……」
つくづく思うのは、ここまで来るような冒険者ってモラルは比較的まともなんだよな。遊び方も分かってないような若造はそうそういない。他の街なんかでよく私達に絡んでくるような低級者ってあんまり見たことないよな。ゼロではないと思うけど。
さて、それはそうと……
アレクは脱衣所で私を待っていた。服を着ずに。
「アレク、さっきのはどうしたこと?」
「何かしら?」
「あいつが入ってきたのに換装を使わずにそのまま出ていったよね。あいつ、アレクの後ろ姿をめちゃくちゃ見てたよ?」
「後ろ姿? 具体的にはどこを見てたと思う?」
そんなもん……磨き抜かれた宝玉のようなお尻に決まってる! 背中も美しいけど生尻に決まってる!
「アレク、寝室に行こうか。そこでじっくり話そうね。」
「そうね。じっくりと、ね?」
まったくもう。アレクは悪い子なんだから!
「ガウガウ」
乾かしてからブラッシングが先だと? 分かってるっての……くそう。
〜〜削除しました〜〜
「……ピュイピュイ」
ん……コーちゃん……
ああ、お腹が空いたんだね……もう夕方ぐらいかな。
ふぅ、やっぱ楽園の自宅、その寝室だと燃えるね。誰の邪魔も入らないんだから。最高。
さて、どうしようかな。冒険者達と宴会もしたいところだが、それは明日でいいだろう。今夜は私達だけでのんびりしたい気分だしね。
そうなると、アレクの料理を食べたいところだが……まだ起きそうにないから……
『リリス、夕食をお任せで四人前。寝室まで頼む。急がなくていい』
伝言の魔法は便利なんだよな。リリスは仕事中かも知れないが、あいつが料理をするわけでもないしね。確か料理担当がいたはずだし。
じゃあコーちゃん、その間にカムイを呼んできてくれる?
「ピュイピュイ」
あいつはあいつで玄関前に小屋があるもんな。ブラッシングした後はそこでのんびりするって言ってたし。
よし。では料理とカムイが来るまでは錬魔循環してよっと。わざわざ意識してやらなくても魔法を使うたびに自然とやってはいるんだけどね。敢えて意識しながら魔力を廻すことに基礎の重要さがあるんだよな。
基礎か……もう魔力量でキアラに抜かれてんだろうなぁ。魔力の質でも追いつかれそうだし。その上あいつはしっかり勉強してるんだろうしなぁ。
春休みの間には王都に行ってキアラにも会いたいと思っていたが、さっき玄関で時の魔道具を見たらもう四月中旬だったし。春休み終わってんじゃん。キアラと遊ぼうと思ってたのにさ。のんびりし過ぎたか……
スティード君やセルジュ君、そしてサンドラちゃん達とも。あの三人はもう三年生か。いよいよ今年卒業だね。みんな偉いよなぁ。
私もがんばろ。




