93、裸の付き合い
いやーいつぶりの楽園だろう。二週間ぐらいかな? 空から見る我が楽園は今日も平和だね。周囲をグリーディアントに囲まれてるなんてこともないしね。
自宅前に着地。さあてまずは風呂だな。我が家自慢のマギトレント湯船でまったりしよう。
「ピュイピュイ」
おお、銀湯船に魔力と水が欲しいんだね。いいとも。ほいっ。
玄関横に置いてある汚れ銀の湯船。昔は私の魔力を全て込めても満タンにできなかったんだよな。全魔力で四回分ぐらいだったかな。それが今では一割も減ってない。我ながら成長したもんだよなぁ。
「ピュイピュイー」
やっぱり私の魔力が一番? ふふ、嬉しいことを言ってくれるね。
それにしても娼館の客が必ず通る玄関横に置いてるってのに盗まれないもんだな。意外だね。そりゃあ私の魔力が充満してるから魔力庫に収納はできないけどさ。あ、そっか。盗む価値ないんだった。せいぜい触れて魔力を吸うぐらいのもんか。いや、それも無理か。
玄関の扉が開く。客のお帰りか?
「お帰りなさいませ旦那様、お嬢様。」
「おお、ただいま。リリス達に土産があるから昼か夕方に食べるといい。あと別に、これはリリスに。一人でこっそり食べた方がいいぞ。」
蟠桃だからね。
「ありがたくいただきます。ペイチの実のような色ですが形は違いますね。」
ペイチの実は真球に近く、蟠桃は潰れ気味だからな。
「エルフも大好き蟠桃だ。一個しかないから大事に食べてくれよ?」
「旦那様のお志、ありがたくいただきます。」
ここで変に遠慮をしないのがリリスの良いところだよな。私のことをよく分かってるね。
「お食事はいかがなされますか?」
「いや、いつものように放っておいてくれていい。今から風呂に入ったらのんびりするから。」
「かしこまりました。それでは失礼いたします。」
リリスにこう言っておくと本当に放っておかれるのだからありがたい。他のメイドや女達が挨拶に来ることもない。まったく、リリスはよく出来た女だね。いや、代官か。
「よしアレク。お風呂行こうよ。で、のんびりしようね。」
「ええ。それがいいわ。何だかすごく久しぶりに帰ってきた気がするもの。」
「ガウガウ」
カムイは手洗いから乾燥からブラッシングまで全部やれと言っている。もちろんやってやるとも。
あ、ラグナのこと聞くのを忘れてた。まいっか。
脱衣所に一人……ネコ耳ゴーレムメイドのアンか。てきぱき動いてるじゃないか。掃除かな?
「旦那様。おかえりなさいませ」
「ただいま。掃除してんのか? 偉いぞ。」
「その通りです。もうすぐ終わります。失礼します」
それにしてもゴーレムか……すごい技術だよなぁ。完全フルオーダーのワンオフ物とはいえ、掃除ができるまでに成長しているなんて。辺境伯家に預けて正解だったな。
『魔力探査』
中にいるのは四人か。いつも通りってとこだな。
「アレク、中に四人ほどいるよ。男女比は分からないけど。服装どうする?」
私はいつものように全裸で行くけどさ。
「カースはいいの? 私が裸で入っても?」
ぬうっ!? アレクが悪女スマイルしてる! 他の男に肌を晒す悪い私をお仕置きして、のスマイルだ。それはそれでありだけど……
「だめ! 湯浴み着を着てね!」
一瞬あいつらに見せてやるのもいいかなーと思ったんだよな。自慢も兼ねてさ。でも直前で独占欲が勝った。
「うふふ、分かったわ。」
『換装』
白く柔らかそうな湯浴み着。これはこれで濡れると体のラインがはっきり出るし、少し透けるんだよな。
「かわいいよアレク。」
「カースこそ。背中の頼り甲斐が増してるわよ?」
ふふふ。そう? くそ重い不動を振り回してるもんな。これからもがんばろ。
「邪魔するぜ。」
「お邪魔するわよ。」
「ガウガウ」
自分ちなのに邪魔するもないけどさ。一応先客だしね。
「おーう。おめーも泊まりかー?」
「若ぇーな。何等星ぇー?」
「だ、旦那様!」
「お、お先に失礼しております!」
さすがに従業員は私の顔を覚えてるよね。
「おう。気にしなくていいぞ。浴室ではみんな平等ってことで。ああ、俺はろく、いや七等星な。こっちの子は八等星だ。」
ギルドカードって失くすと再発行に金貨一枚かかる上に一等星降格だもんなぁ。
「ん? 旦那、さま?」
「てことは……もしかして?」
「お前らも気にしなくていい。いつもうちで遊んでくれてありがとな。」
こいつらが落とす金が私に回ってくるんだもんな。
「い、いや、俺ら今回が初めてで……」
「お、おお、一度ここの風呂に入ってみたくてよ……」
「おっ、そうなんだ。いい風呂だろ。どっちにしても来てくれてありがとな。堅苦しいことはやめようぜ。お互い冒険者なんだからさ。」
「そ、そうだよな……」
「ま、魔王、なんだよな?」
「よせよ。そんなこと気にするなって。のんびりしようぜ?」
「そ、そう、な……」
「お、おお……」
客を緊張させるのはよくないな。だからってさっさと出る気はないけどな。
「あの、旦那様……そちらの方がもしかして……」
「氷の女神様……ですよね?」
「ええ、そう呼ばれることもあるわね。」
おお、女達はアレクにも興味津々か? でもお前ら仕事中だろ。男を放ったらかしてアレクとお喋りするのはよくないぜ? 注意する気もリリスに言いつける気もないけどね。
「あ、あのよ、魔王ってまあまあ最近ここに現れたって聞いたのに、全然見なかったよな?」
「お、おお、森にでもこもってたんか?」
「二週間ばかり山岳地帯に行ってたもんでな。肉はたっぷりあるから近いうちに宴会やるぞ。」
「山岳……地帯かよ……さすがだな……」
「何でまだ七等星なんだよ……」
「ちょっとした事故があってな。ギルドカードを失くして六等星から降格しちまってな。」
「魔力庫あんだろ……どうやったら失くせんだよ……」
「魔王は魔力庫もすげえって聞いてんぞ……」
「色々あってな。宴会の時にでも話してやるよ。今はのんびりしようぜ。」
こうして他の冒険者と会話を楽しむのも悪くないが今はそんな気分じゃないんだよな。アレクとのんびりイチャイチャしたいんだよな。もっともアレクはガールズトークに巻き込まれちゃってるけど。いや、むしろ憧れの先輩に話しかける女子高の後輩って感じか?
「ガウガウ」
もう少し待てって。後でちゃんと洗ってやるって。
はぁー、いい湯だなぁ。あははん。




