673、天道宮の女中達
結局さっきの建物内に戻ってみた。
すると……おっ、ようやく最初のメイドさんを発見した。つーか結構な騒ぎになってるのに呑気な奴もいたもんだな。野暮ったいメイド服だなぁ。どっちかって言うと作業着に近いのかも。
「ああもう忙しい! 何が起こってるのよ!」
バタバタしてるね。
「やあメイドさん。忙しいところを悪いね。僕らは天王陛下に呼ばれて来たんだけど案内してもらえるかな?」
「は? 私メイドじゃなくて女中だし! つーかこんな時間に陛下に来客なんて聞いてないんだけど?」
こいつ口が悪いな。天王の客だっつってんのに。本当の賓客だったらどうすんだ?
「天王陛下直々に招かれた私達に随分と丁寧な対応をするものだわ。女中、名を言いなさい。お前のような無礼者は天道宮にいるだけで陛下の名を汚す。処分してもらわねばならないわ。さあどうした! 名を申してみよ!」
おお……さっきからアレクの上級貴族モードが凄いぞ。惚れ惚れしちゃうね。
「ひっ、ち、違うんです! ちょ、ちょっとその、つい、ご、ごめんなさいごめんなさい! 許してください!」
おおー。あっさりだな。さすがアレクの貫禄だね。権力でごり押しする悪い貴族だね。
「分かったなら陛下のもとへ案内せよ。お待たせするわけにはいかないわ。」
「はっ、はい! え、えっとた、たぶんこちらです……」
ちょろい。さっきの天道魔道士といいこの女中といい……それもこれもアレクのオーラがすごいからだな。後は天道宮内であれこれ起こってるからでもあるんだろうな。まさかここが襲われるなんて普通思いもしないよな。よく見ればあちこちで役人らしき奴らが慌ててるし。
「何かあったのかい?」
「そ、それが分からないんです……あちこちに穴は空いてるし水浸しだし……赤兜の人たちもいないし……」
あー、出会った奴らを全員始末したから?
だから情報が伝達されてないのか? おまけに私達はいい服着てるしとても襲ってきた賊には見えないだろうな。
「まあいいさ。僕らは天王陛下にお会いできればそれでいい。きっちり案内してくれよ。」
「は、はい!」
うーんチョロい。チョロすぎる。
女中の後ろを歩いていると赤兜ともすれ違うが、どいつもこいつも急いでいるようで私達に注意を払うことなどない。こりゃ楽でいいや。
「あの……ところでそちらの方は赤兜さんですよね……? なんで座ってるん……ですか?」
アーニャだけムラサキメタリック装備で鉄ボードに乗ってるからね。さすがに私達は降りてる。
「任務で負傷したらしい。だがそれでも陛下に報告することがあるらしくてな。こうして運んでるわけだ。」
「そ、そうですか……」
だいたい来客と赤兜が一緒にいる時点でおかしいって話だけどな。なんで招かれた客が赤兜の面倒見てんだよ。この女中さんもしかして新人か? チョロくて助かるけどさ。
「ちょっとコトネ! 何サボってるのよ! 忙しいんだから!」
おや、新たな女中さんが登場か。
「え、いや、あの、こちらのお客様を陛下のところにご案内しないといけなくて……」
「変ね……お客様、私は天道宮総取締カスガ様配下の女中頭トシミ・サイトルと申します。陛下にどういったご用件でしょうか?」
ちっ、まともな奴かよ。
「お招きにあずかったから来た。それだけのことよ。私はローランド王国四大貴族が一つ、アレクサンドル家のアレクサンドリーネ。こちらはカース・マーティン。先だってシューホー大魔洞を踏破したローランドの魔王と言えば通じるかしら?」
おっとアレクのナイスフォロー。
「なっ!? ろ、ローランドの……アレクサンドル家!? 魔王!?」
「さっさと案内なさい。お待たせしては申し訳ないわ。」
確かに招かれてるし、待たせてもいるかな。二日ぐらい。
「確認をいたします。少々お待ちくださいませ。コトネ、御側御用人のタノクラ様に今夜の陛下のご予定を確認を。行きなさい」
「は、はいっ!」
ほう。すぐに冷静になりやがった。しかも自分はこの場を動かず、下っ端女中を行かせやがったか。仕事できる奴だね。
「しばしあちらでお待ちください。ご案内いたします」
『麻痺』
『快眠』
だから二人とも寝ててもらおうか。確認されたら困るんだよ。
「なっ!? 何を! だれ『永眠』か……」
危ない危ない。上司の方は何か魔道具でも持ってやがるな? 最初の魔法が効かなかった。
「さて、仕方ないからまた僕らだけで探そうか。適当に奥の方にでも行ってみようかね。」
「そうね。カースの魔法が効かなかったから少し驚いたわ。こんな所で働いているだけあってそれなりに警戒してるみたいね。」
案内役がいなくなったのは残念だが、気にせずしれっと歩くとしよう。この女達はそこら辺に寝かせておけばいいだろう。
さて、どっちに行こうか。




