636、東の孤児院の院長
ふぁーあ……まだ全然寝足りないのに……範囲警戒に反応あり。帰ってきやがったか?
カチッと鍵の開く音がして扉が開く。中に入ってきたのは、四十代の男。七三分けの公務員って雰囲気だ。
「よう。邪魔してるぜ?」
「誰だ。ここは孤児院だ。安宿じゃない」
うおっ!?
いきなりかよ。危ね……
「いいもん持ってるな。てことはお前、番頭か。第二か第四だな?」
短筒を持ってやがる。しかもいきなり撃ちやがった。とっさにムラサキメタリックの胴体部分を出して弾いたが。
「ネズミのくせに頭は回るようだ。もうこんな所まで来ているとは。つくづく行儀の悪いネズミだ」
「名前ぐらい名乗れよ。院長のくせに行儀悪いな。」
「お前はネズミや虫ケラ相手に自己紹介などするのか?」
生意気に狙いは付けているが撃ってきやがらない。そう何発も撃てるもんじゃないだろうからな。
「ドブネズミ以下のクズ野郎のくせに大きい口叩くじゃないか。第二番頭ムグラザ・ウオヌよぉ? 確か北の方の街を担当してるんだったか。」
「ほう? 虫ケラにしてはまともな頭を持っているようだ。いかにも私が第二番頭ムグラザ・ウオヌだ。なぜ知ってる?」
マジか。言ってみるもんだな。第二か第四の二択だもんな。南のトツカワムの第四番頭は蔓喰との抗争の後処理で身動きが取れない可能性があるからな。第二の方が確率は高いと思ったんだよな。
「全部知ってるぜ? お前だけじゃなく第一や大番頭の名前までな。本当は街ごと潰してもよかったんだがよ? 俺は慈悲深いんだ。民を巻き込むことは本意じゃない。だからこうして一軒ずつ回ってんのさ。」
「ふっ、街ごととは大きくでたな。こんなウジ虫どもがどうなろうと私の知ったことではない。単にお前が臆病なだけだ。やれるものならやればいい」
ふーん。やっぱそんなタイプか。お前らだって客がいなくなれば困るだろうに。お客様を大事にしない商売は長続きしないぜ? もっともこいつらは金持ちの客は意外と大事にしてそうだよな。身内はちっとも大事にしないくせに。
「ところでその短筒、何発撃てるんだ? せいぜい五か六発だろ。さっき一発撃ったから残り四か五発か。おまけにまだ試作品の域を出ないらしいな。せいぜい暴発に気をつけな?」
銃に限った話ではないが、新作の魔道具ってのは性能が不安定なのがお約束だもんな。しかもこいつは普通の金属にムラサキメタリックの弾を装填してるんだろ。銃身など内部にかかる負担はかなりのものと見た。
「何を知っている」
「バカなお前らには分からないことさ。さて、そろそろ睨み合っているのも飽きてきた。撃て。撃ってみろよ。」
撃鉄……にあたるパーツはない。つまり、魔力を流すことがトリガー代わりになってるってことか。弾はどこに収納されてるんだ?
こんな物が開発されてるとはな……メリケイン連合国め。
「バカはお前だ! くらえ!」
『風球』
右手の短筒ではなく左手から魔法を撃ってきやがった。目くらまし程度の水魔法を。だから風球で迎え撃ったのだが……
『旋風』
横に倒れ込みながら私の足を狙ってきやがった。いいガンアクションするじゃないか。だが残念。そっちからは見えないだろ? ソファーの背を入口に向けてるからな。私は床に立ってるんじゃない。ソファーの上に膝立ちしてるんだよ。
そして旋風で部屋ごとシェイク。さほど広くない部屋が洗濯機状態だぜ?
「ちっ!」
攪拌されながらも短筒を手放さないどころか、私目がけて撃ってくる根性は買う。だが、そんな状態から当たるわけないだろ。いくら旋風が私を中心に回ってるからってな。そのままゲロ吐くまで回してやる、むっ!?
「味な真似をしてくれた。お前もう終わりだ」
あの状態から換装を使いやがったか。ムラサキメタリックのフルプレート。勢いよく床に叩きつけられたものの平然と起きやがった。
右手に短筒、左手に盾。妙な組み合わせだが、厄介だな。
『徹甲弾』
『榴弾』
「うおおおお!」
危ね、この野郎……盾を構えたまま突進してきやがった。この狭い部屋では有効だよな。徹甲弾を弾いても勢いが止まらず、危うく体当たりをくらうところだったじゃないか。まあまあ細身のくせにやるな。
だが、接近戦なら……
『身体強化』
後のことなんか知ったことか。最強の棍で相手をしてやるよ。
「くく、そんな棒っきれで何ができる。ああ!?」
ちっ、私が不動を構えたと見るやすかさず撃ってきやがった。だが、当たるかよ。身体強化ってのは上手く使えば目や反射神経にまで作用するんだよ。弾の出どころを注視していれば避けることはそこまで難しいことではない。左の脇腹を少しばかり痛めたが……内部までめり込んではいない。ドラゴンの装備を舐めんなよ?
「くく、それで避けたつもりか? 貫通しないとは恐れ入ったが、なぁ!」
バカが! いくら無防備だからって頭を狙うとはな! 当たるわけないだろ。頬にかすりもしてない。
『榴弾』
数百発のベアリング弾を短筒に集中させる。盾より前に突き出してるといい的なんだよ!
当然ぶち壊れ、ぐっ……ま、マジかよ……そんな偶然が……
「くく。苦しそうだな。まさか暴発した弾が当たるとは日頃の行いが悪いらしい。心配するな。当分の間殺したりはしない。エチゴヤ流のもてなしを受けてもらうからな」
しかも迷宮で空いたウエストコートのわずかな穴に命中しやがった……こんなことって……マジか……




