634、東の孤児院
テンポを乗せてムラサキメタリックを少しだけ回収。さっき火を着けてしまったからな。もうここには戻れない。だが構うことはない。こんなところなんて燃えてしまえ。
クタナツだと放火は終身奴隷の大罪だけどヒイズルの法など知ったことではない。
「おう、生きてる奴ぁいたんか?」
ドロガーも戻ってきた。
「いた。だが、全員殺してきた。」
「……おめぇもかよ……俺もだ……悪ぃがローランドのモンかどうか確かめちゃあいねぇ。あれじゃあ生きてる方が地獄だぜ……」
ドロガーも同じように考えたのか……そりゃそうか。あんな状態で故郷に帰っても誰が面倒見てくれるってんだ……殺してやるのが情け、だよな……
「行くぞ。治療院はギルドの近くにあるんだろ?」
どこの街でも治療院というものはギルドの近くか、もしくは一等地にあるものだ。
「ああ、とりあえずギルドを目指してくれりゃあいい。」
よし。だいぶ私も天都の地理が分かってきたからな。ここの色街って結構ギルドから遠いんだよな。これはローランドではあり得ないことだ。つまり天都では金を持ってる客層は冒険者ではないってことだな。どうでもいいけど。
よし到着。
「テンポのことは任せたぞ。俺はもう行く。」
「あんま無理すんじゃねぇぞ? おめぇに限って万が一なんざねぇたぁ思うがよ?」
「ああ。こいつが治ったらファベルのジノガミ詰所に戻っておいてくれ。俺も日暮れまでには戻るから。」
「おう。こっちぁ任せとけ。そんじゃ後でなぁ?」
「ああ。お前ら二人はドロガーと動け。」
ここからは隠密行動だからな。コーちゃんと二人だけの方がいいだろう。
ドロガーはテンポを連れて治療院の中へ。ドロガーなら金もどっさり持ってるから治療に何の問題もないだろう。さて、私はどこを狙うか……もう色街には戻れないから……
行くだけ行ってみるか……東の孤児院とやらに。
ここか……苦労したぞ。東ってことしか分からなかったんだからさ。あちこちで着陸しては道を聞くはめになってしまった。
さて、門の前には赤兜が立っている。それも四人も。西の孤児院の赤兜は本物っぽかったがこっちはどうなのかねぇ? もっとも、空からいきなり内部に入るから関係ないんだけどね。今の時間は子供達って何をしてるんだろうか。前回は昼過ぎだったから外で遊んでいたようだが……
隠形に消音まで使ってるからな。そうそう気付かれることはあるまい。まずは声のする方から探ってみようか。
ここは……教室か? 孤児院にそんな部屋があるとは……中から声がする。
「はい! 殺せばいいと思います!」
「ぼくもそう思います!」
「私も!」
ん?
「はい! 命令には従うべきだと思います!」
「僕もそう思います!」
「私も!」
んん?
「はい! エチゴヤは素晴らしいと思います!」
「僕もそう思います!
「私も!」
はぁ!?
マジかよこれ……エチゴヤってのはここまで徹底してやがるのか……
子供が小さいうちから組織への忠誠心を植え付けてるってわけか……
思い返してみれば……魔石爆弾なんて子供に扱えるもんじゃないぞ? 下手に触るといつ爆発するか分かったもんじゃないんだから。つまり、こうやって思想教育だけじゃなく、ありとあらゆる英才教育を施してるってわけか。その過程でついて来れなかった者でもそれなりの使い道もあると……
だが解せんな……
私達が西の孤児院を襲ったことぐらいとっくに知ってるだろうに。この警戒の薄さはどうしたことだ? 無警戒なのか、それとも余裕か?
だがどうせ私が子供に手出しをすることはない。いくらエチゴヤの手先になるからって……
ん? 子供を……?
このケースってどこかで見たような……
あ! バンダルゴウだ! 港湾都市バンダルゴウや城塞都市ラフォートなんかで今もしぶとく生き残ってる『ヤコビニの子供達』と似てるんだ。あれも確か孤児を集めて殺し合いとかさせて、生き残った者に忠誠心を叩き込みつつ育てるとかそんなことをしてたはずだ。ヤコビニとエチゴヤ……人を人とも思わないところが酷く共通してやがる。
人間を的にして投げ槍や魔法を当てて楽しむ外道に、人間を解体して見世物にする外道。とても偶然とは思えないよな……
そもそもヤコビニ派や聖白絶神教団がムラサキメタリックを手に入れられたのって絶対エチゴヤ経由だよな? 外道ってのはどこかで繋がってるもんなんだろうな。
さて考え事はここまでだ。狙いは院長。それなりの大物だったりしないかな。確か隠し部屋になってるんだよな。前回はぶち切ったけど。まだ姿を現すわけにはいかないな。警戒してないように見えるが、本当に警戒してないわけがないんだから。どうしよ……
おっ! グッドタイミング。前からここの職員らしい者が歩いてくるではないか。こいつにしよう。
周囲に『消音』
こいつに『麻痺』
よし。ではどこか手近な空き部屋へ行こうか。あるよな?




