614、受付嬢キリカ・ロクロ
確かキリカって言ったかな。受付嬢が何の用だい?
「魔王様……先ほど話されていたことは本当でしょうか?」
「何についてだ?」
ちゃっかり聞いてやがったか。
「エチゴヤを潰すということです」
「本当だ。それがどうした?」
「いくつか条件を守っていただければ……協力をお約束します……」
「なっ、キリカ……」
おやおや? おっさんの顔色が変わってるぞ? どうせ自分で喋るはずだったんだから同じだろうに。
「言うだけ言ってみろ。その条件とやらをな。」
「まず確実にエチゴヤを潰してもらうこと。これは後ほど契約魔法をかけさせていただきます」
「いいぞ。もっとも逃げた奴を地の果てまで追いかける気はないからな。」
さすがにそんな面倒なことはやってられないもんな。
「次にハンダビラの者の安全を保証すること。エチゴヤから守れとは言いません。これ以上手を出さないでいただきたいのです」
「問題ないな。情報を提供してくれるならこちらも手を出す必要はない。」
「以上二つをあなたの父の名に誓ってください」
こいつ……私のことをよく理解してやがるのか……契約魔法などよりよっぽど効くぞ。
「いいだろう。その代わりお前らもヒイズルにいるローランド人奴隷の情報を寄越せよ? エチゴヤなんぞを潰すのはそのためなんだからな?」
「もちろんです。あなたの真意が分かった以上、協力しない手はありません」
てことは何か? 本当なら私に協力したかったけど、いまいち私の行動が理解できなかったから静観してたってことか? 行き違いなのかねぇ。まあいい。
「エチゴヤは潰す。ハンダビラに手は出さない。この二つを父アランの名に誓う。」
「聞かせていただきました。では改めて、私はギルドで受付をしておりますキリカ・スニタニ。本当の名はキリカ・ロクロと言います」
ロクロ? どこかで聞いた気がするな。
「ほう? お前もしかしてナバーラ・ロクロの娘ってことかぁ?」
おっ、ドロガー鋭い。なるほどね。
「はい。スニタニは父の姓です」
へー。これもうギルドと闇ギルドが癒着しまくりじゃん。
「まさかそのナバーラがここの会長ってことはないよな?」
「もちろん違います。こんなことが知られたらクビになるどころか首から上がなくなります。私もグルドも」
そりゃあそうだろうけどさ。
「ここの会長は人畜無害だぜ。保身が大好きなおっさんだぁ。適当に金ぇ掴ませときゃどうにでもなるぜぇ?」
保身が大好きなのに金を受け取るタイプか。保身できてないじゃん。
「まあいいさ。それじゃあ詳しく話そうか。そんで昼からエチゴヤを潰しに行くとしよう。」
「ではこちらにどうぞ。秘密の漏れない談話室があります」
この場合、誰かの秘密をこっそり聞くための部屋としか思えないが、今回は漏れても困るのは私じゃないんだよな。
「ところでここまでの話をドロガーはいいとして、こいつにまで聞かせてよかったのか?」
「構いません。ペサタはハンダビラのよき隣人です」
「お前そうなの?」
「あ、ああ……自分ではそう思ってる。ハンダビラを裏切る気はない……」
ふーん。私は全然構わないけどね。さっきグルドはファベル野郎って言ってたくせに。演技か? グルドには契約魔法が効いてることだし、姉ちゃんが言うことが本当かどうか確認に使わせてもらうとしよう。
「改めまして魔王様、これまでのご無礼の数々をお詫びいたします」
うーむ。こうやって頭を下げられると弱いんだよな。最初はムカついた姉ちゃんだけど、ギルドの受付としては真っ当な行動だもんな。
「いや気にしてない。話を進めようか。まずはさっきの約束について契約魔法をかけるんだったな? 構わんぞ。」
「いえ、もう必要ないかと。父君の名に誓っていただきましたので。では具体的にエチゴヤをどう潰すのか計画を聞かせていただきたく思います」
「特にないな。大番頭がいるところを教えてくれると手っ取り早いが。会長でもいいな。」
エチゴヤにも会長はいるはずなんだが、ナマラの旦那が船に刻んだ名簿にも載ってなかったんだよな。
「エチゴヤの会長は私達も知りません。ですが、大番頭カンダツ・ユザの居場所ならご案内できるかと」
「じゃあそれでいい。とりあえず今日のところは大番頭を仕留めるだけでも上出来だろう。」
「軽くおっしゃいますけど、計画もなしにそんな……」
それは約束をする前に聞くことだろうに……
私が潰すと言った時に具体的な手法をさ。まあそんな手法なんてないんだけどさ。いつも通りごり押しでいくだけの話だ。相手方にフェルナンド先生みたいな達人でもいない限り闇ギルドなんか敵ではない。
……まあ深紫の大軍に囲まれてもやばいかな。
「魔王のヤバさに比べたらエチゴヤなんざ子犬みてぇなもんだぜ。お前ら敵対しなくてよかったなぁ?」
「やはりオワダでの出来事は本当のようですね」
なんだ、やっぱ知ってんじゃん。
「居場所さえ分かればすぐに仕留めてやるぞ。というか天都イカルガのエチゴヤ勢力は大番頭以外に誰を仕留めれば潰したと言える? 会長が分からないんじゃあ難しくないか?」
他の街に第一番頭とか第二番頭とかいるんだよな。
「いえ、実質的にイカルガのエチゴヤを取り仕切っているのは大番頭カンダツ・ユザですから。奴さえ仕留めれば格段に動きが悪くなります。また他の街のエチゴヤとの連携も欠くことでしょう」
「それなら問題ないな。さて、おっさんよ。ここまでの話で姉ちゃんの言葉に嘘はなかったな?」
「……ああ、ない……」
悲痛な顔してどうした? 他人の力でエチゴヤを潰すのが気に入らないのか?
「じゃあ昼飯食ったら行くぞ。場所はドロガーにでも伝えておいてくれたらいい。ペサタは帰れよ。」
「俺も行くんかよ。別にいいけどよぉ。」
「エチゴヤに……そうだな。足手まといにしかならないな……」
やっぱ道案内がいないとね。
さて、その前に昼飯だな。コーちゃんだってお腹すいたって言ってるし。
「ピュイピュイ」
待ってろよエチゴヤ。いよいよ王手だ。




