293、夢の雫とアレクサンドリーネ
「ガウガウ」
おっ、来た? マジで? 言ってみるもんだな。
遠くに見えるのは男が一人。いや黒装束だから男かどうか分からないけど。まあ男だろう。
「カムイ、捕まえてきてくれる? 殺すなよ?」
「ガウガウ」
頼れる仲間って素敵。一瞬にして黒装束に肉薄したカムイ。勢いそのままに頭突き。吹っ飛ぶ相手を追いかけるカムイ。追撃を……あ、飛び上がって避けた? 魔法なしで十メイル近くも? あいつやるなぁ。
追いかけるように飛び上がるカムイ。あ、あいつ何か投げたぞ? 空中では避けられ……えっ!? 避けた!? カムイはどうやって!?
そのまま空を駆け上がるかのようにあいつの上を取り……肩に飛び乗った? かと思ったら思いっきり蹴り落とした! あれは危ない……『水壁』
どうせカムイも受け止めてやらないといけないしね。
よし、ナイスキャッチ。数秒遅れてカムイも落ちてきた。いい働きだったぞ。さすがカムイ。「ガウガウ」
今夜はアレクと二人がかりでワシャワシャだな。
カムイは水壁から出したけどこいつはそうはいかんな。いつも通り顔だけ出して体は固定と。予定よりちょっと魔力を使い過ぎてるな……
「よう。よく来てくれたな。お前は会長か? 番頭か?」
「そこまで知ってるのか……番頭のアカダだ……」
おお、素直に喋ってくれるじゃないか。よかった。魔力の無駄遣いをしなくて済むな。
「ねえ。あなた達が拐ったクラヤ商会の長女ヤヨイだけど、もちろん無事よね? きっとさぞかし大事にされてるんでしょうね。」
「なぜそこまで知ってるんだ……」
もしかしてこいつって口が軽いタイプなのか? そしてアレクの勘が大当たり。
「どうせそのヤヨイから情報を得てたんでしょ? いつどこをどのぐらいの規模の商隊が通るって。だからクラヤ商会だけを狙い撃ちにすることもできた。でもいつまでもそんな方法が通じるはずもないし、ヤヨイが疑われる日もそう遠くない。そんな時にオワダのクウコ商会との縁談が迫ってきた。逃げる機会だってそう多くない。クウコ商会はエチゴヤとも繋がってるもの。そんなクウコ商会とクラヤ商会がなぜ縁続きになろうとするのかは分からないけど。それで? ヤヨイといい仲なのは誰なの?」
なんと……アレクはそこまで考えていたのか。確かに盗賊はクラヤ商会関係ばかり狙うって言ってたもんな。そこの娘なら情報ぐらい手に入るだろう。オワダのクウコ商会がエチゴヤと繋がってるのは私だって覚えてるし。そんなクウコ商会との縁談は確かに不自然だな。まあどうでもいいけど。
「くっ……その通りだ……ヤヨイさんはうちの若と結婚するはずだったんだ……でも領主とクラヤの所為で……」
「違法薬物で捕まったそうね。領主とクラヤ商会の陰謀なのね?」
「そうだ……きっとヤヨイさんがうちに遊びに来た時の護衛が……隙を見て仕込んだに違いない……」
なるほどね。若旦那といい仲なら遊びに来るのは普通だわな。それなら大抵の場所には薬を隠せるわな。エゲツなぁ……
それに領主の悪どさを考えれば、その護衛が失敗していたとしてもガサに入った騎士に薬物を持たせておくぐらいしそうだよな。自分の魔力庫から出しておいて、ここにあったぞって。うわぁ最低。
「ガウガウ」
ああ、他の奴らも来たのね。
「アカダを離せ!」
「冒険者か!」
「生きて帰れると思うなよ!」
どいつもこいつも黒装束だな。よくいる盗賊よりはスタイリッシュかな。
「だいたいの話はこいつから聞いた。お前らは今後どうするつもりなんだ? ヤチロから遠く離れるのか? それともヤチロに攻め込むのか?」
「お前にぁ関係な「待て。私が話す。」
おっ、ボス。いや会長か? それにしてもよく商人が盗賊に転身なんてできたよな? 番頭は少し手強かったけど。
「盗賊団 夢の雫を率いているヒチベだ。冒険者にしては妙な服装をしているが名前を聞かせてもらえるか?」
「カース・マーティン。六等星だ。ここに来たのはうちのお姫様の望みだからだ。じゃあアレク、交代ね。」
さあて、アレクがなぜこの依頼を受けたがったのか教えてもらおうかな。
「私はアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。八等星よ。ローランド王国では魔王と恐れられているカースにお願いしてまでここに来たのは理由があるわ。まずは話を聞いてもらおうかしら?」
「いいだろう。こちらも勝ち目のない戦いなどしたくないからな。」
おお、会長は素直じゃないか。
「助けてあげるわ。」
え?
「はっ? 今、何と言った?」
「助けてあげるって言ったのよ。もちろん条件付きだけどね?」
「ほう……その条件とやらを聞かせてもらおうか……」
アレクの考えは一体?
「簡単よ。この魔王カースの配下になりなさい。そして魔王が欲するものを用意しなさい。」
「配下だと? 我らなどを配下にしてどうする? 領主のみならずクラヤ商会をも敵にまわすことになるぞ?」
「うふふ、これは私の予感だけど……領主もクラヤ商会も永くないわよ? あなた達、ヤチロに帰りたいんじゃない? いやむしろ、もう帰るための準備は終わってるんじゃない?」
「…………」
ヒチベは喋らない。
「配下になるための条件を伝えるわ。カースは畳を欲しがってるわ。私もね。でも今のヤチロではとてもまともな畳を作れるとは思えないわ。いくらフォルノが凄腕でもね?」
なんと! アレクはそこまで考えてくれていたのか。確かにこいつらは元々畳問屋だし、あれこれ有用な気がする。
「そうだな。たった一人では一日で五枚が限度。その上君らのようなお大尽が求めるほどの品質を追求すれば……一日一枚でも難しいかも知れないな。それに材料の手配だって簡単ではない……」
「納期は急がんぞ。ヒイズルを歩いて一周するまでに百畳あればいい。」
しかも他の街に寄る度にもこうして何かしら起こるだろうしね。
「むっ……」
おっ、考え始めたな? どうせヤチロに攻め込むか何かする気だったんだろ?
私にとってはヤチロの街が荒れようが領主が変わろうがクラヤが潰れようがどうでもいい話だ。畳さえ用意できるならな。
さあ、どうする?




