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最終決戦に向けて2

 しばらく休憩して屋敷から出発したアリスたち。向かうはジャバウォックがいるであろう方角――ハートの女王が住まう城だ。


 「結局はレヴィもついてくるの?」


 先程の話では、アリスがジャバウォックと戦い、時間を稼ぐ。その間にレヴィが〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を取りに行くというものだったが……

 レヴィはアリスの隣でのんびりと歩いていた。


 「別に僕の体全体が『鏡の国のアリスむこう』に行かなくてもいいからね。取ってくるなら、片手があれば十分だからね。それこそ戦いながら探すということも可能だよ。まあ、それは難しいから、結局はアリスの活躍次第になるかな?」


 「ふーん、便利ね」


 何かとレヴィが持つものは便利だとアリスは思う。

 同時に、自分の持つものは相手を倒すことしか使い道がないのに、同じ記憶持ちで、ここまで差が出るのはおかしいとも思ってしまう。


 「ここから女王のところまでは、そう遠くないはずだ。約数分といったところだろう。作戦を考えるのもありだけど、〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉があれば、アリスはジャバウォックを倒せるからね。だから、僕が探している間に、どうやって時間を稼ぐかを考えて欲しいかな? その間に僕は〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を探すとするよ。今からでも、探していた方がいいだろうし……〈法則破りの切符ルールブレイカー〉展開っと!」


 レヴィは上着のポケットに手を入れる。通常のポケットでは底が浅いため、底まで手を入れても腕は曲がった状態になる。

 しかし、レヴィはポケットの底を打ち破るかのように、腕を伸ばしきっている。この時点で、レヴィは『鏡の国のアリス』と繋がっていることが見て取れた。


 「……で、どう?」


 「うーん、微妙。実際に見てないから、僕の記憶だけで場面を思い出してるからなぁ……捕まえた――ッ! ……なんだ、トランプ兵の槍か」


 レヴィが掴み取ったのは槍。ポケットから、どうやってレヴィの身長以上もある槍を引き抜いたのかは疑問だが、気にしたら負けだ。


 それからレヴィは次々にポケットから武器らしきものを取り出していく。

 槍。槍。杖。槍……槍が多いのはトランプ兵の数が他よりも多いからであろう。ちなみに、槍の先はトランプ兵のマークで統一されており、レヴィはハート、クローバー、スペード二つを取り出していた。


 「前から思ってたけど、クローバー型の槍って、槍というよりか薙刀なぎなたに近くない?」


 アリスは手に取った槍を振り回す。その様はまさに、槍というよりも薙刀と言われた方がしっくりくるものであった。


 「よくそんなものを軽々と振り回せるね。もう、それでも十分に戦えるんじゃない?」


 アリスの槍(?)捌きを見て、レヴィは呆れるような視線を向ける。


 「いや、無理。なんか知らないけど、アイツに触れた瞬間に、こっちの武器が破壊されるの。私がアイツの攻撃を受けても怪我するだけなのに。ほんと、よくわからないわ」


 「いや、あんな怪物の攻撃を受けても戦えるアリスの方がよくわからないよ」


 「失礼な。かすり傷程度よ。腕がもがれたりしたら、流石に無理よ」


 レヴィは自分のことをなんだと思っているのだろうか……と思ったが、十代で化け物と戦っている自分の方がおかしいと気づく。


 (あれ? 私って中々に理不尽なことさせられてる……?)


 が、時はすでに遅し。物語が変わった今では、自分にジャバウォック退治を任せた白の女王に文句を言うことはできない。

 アリスは心の中で、密かにわき出す憎悪を抑えるしかなかった。


 「んー、あれじゃない。これじゃない――」


 アリスの隣では、レヴィは今も淡々と〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を探し続けている。しかし、出てくる武器は槍ばかり……あっ、ついにダイヤ型を取り出した。


 (あれが一番、強かったなぁ……)


 アリスは遠い昔を思い出すような感覚に襲われる。

 トランプ兵の中でも実力差があった。その中でもダイヤのトランプ兵には苦戦させられた。

 群を抜いた技術も苦戦させられた一つの要因だが、何よりも脅威だったのは、息一つ乱れぬ統率力。個人で戦うアリスにはジャバウォックの次に苦戦した敵と言っても過言ではない。

 ちなみにトランプ兵最弱はクラブだ。彼らは突くよりも振り回す方が真価を発揮する武器を使いこなせていなかった。

 トランプ同然の貧弱な腕と体では、槍を振り回すことは不可能だったのだろう。アリスが何もすることなく、自ら散っていく姿は哀れなものであった。


 「あっ、城が見えてきたわ」


 雑談している間に、随分と移動していたようだ。アリスの視界に城の上部が木々の上からひょっこりと顔を出している。


 「レヴィは大丈夫……そうではないわね。これじゃ、戦う前に〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を見つけるのは無理そうかなぁ……」


 アリスはこれから起こる苦労を予感してため息が出る。

 

 (しっかし、よくもまあ、あんなに武器を出せるわね……)


 アリスは自分たちが通ってきた道を振り返る。いや、自分たちというよりも、レヴィのと言った方が正しい。レヴィが通った後には大量の武器が地面に突き刺さっていたり、放り出されたりしている。


 (しかも槍ばっかり……何かの才能があるんじゃないかしら……?)


 剣の一本でも掴めばいいのにと思う。それくらい、レヴィは槍しか引き当てていなかった。


 「これならレヴィが直接、取りに行った方が早いんじゃ……」


 「何を言ってるんだい、アリス――ッ! それだったら僕がアリスの逃げ惑う姿を見れない――あっ」


 「それが本音か――ッ!」


 思いがけない理由にアリスは声を荒げる。レヴィが『鏡の国のアリス』に行かなかった理由が、こんなしょうもないものだとは……


 「ま、まあ、それはジョークだよ。ジョーク。レヴィジョーク」


 「全然、面白くないんだけど」


 なんとかしてレヴィは取り繕おうとしているが意味はない。アリスの冷めた心をレヴィの寒いギャグでさらに冷やしただけだ。


 「そんなつまらないことを言ってないで探しなさい……そろそろ森を抜ける頃かしら? 随分とアイツの気配も近くなってきたし……人々の逃げ惑う声が聞こえるし。多分、トランプ兵のものね」


 森の出口に近づくにつれ、ジャバウォックの気配がハッキリとしたものになってくる。同時に、ジャバウォックから逃げているであろうトランプ兵たちの絶叫もアリスの耳に入ってくる。


 「あっ、そういえば。女王はどうなったのかしら? あの処刑好きの。どうせならアイツが処刑してくれたらいいのに」


 「さっきジャバウォックに武器が効かないって言ったのは誰でしたっけ?」


 「だって面倒くさいもん。それにほら、女王なら本気でやりそうじゃない?」


 「素直に否定できないね」


 レヴィもハートの女王の正確を知っているだけに、アリスの言っていることもあり得ると思ってしまう。


 「まあ、無理なことはわかってるけど……あっ、やっと出口ね。いよいよ宿敵とご対面というわけね……」


 アリスは気軽に言っているが、内心は穏やかではない。相手は勝ち続けているとはいえ、命を賭けて戦ってきたジャバウォックである。

 物語上、アリスの勝利は約束されていたものだったが、死闘を繰り広げたことには変わりない。

 さらに今は物語が変わっている。どんな結果が待っているのかわからないのだ。


 「まずは相手の位置の確認ね。ゆっくりと隠れながら――」


 「もう無理だ! 逃げろ――ッ! ――ッ! こんなところに人が!? おい、あんたたち! あの化け物をなんとかしてくれないか!?」


 森の中に逃げてきたトランプ兵――その中の一人にアリスは肩を掴まれ、前後に揺らされる。


 「ちょ――ッ!? いきなり何!? ってか、揺するのやめてくれない? すごく気持ち悪い……」


 「お願いです! お願いです! お願いです――ッ! お願――」


 「気持ち悪いって言ってるでしょ――ッ!」


 「グフゥ――ッ!」


 アリスは我慢の限界。怒りが最高潮まで達したアリスは話を聞かないトランプ兵の腹に鋭い蹴りを放つ。

 すると見事にトランプ兵は放物線を描きながら飛んでいく。


 「うわ、最悪。今からジャバウォックと戦わないといけないのに、頭がクラクラする……」


 ジンジンと頭の奥から来る痛みにアリスは手で支えるが大した意味はない。単なる気休めだ。


 「ハ――ッ! こんなことをしている場合ではない! お二人方、私たちを助けてください!」


 「うわっ! もう復活した!」


 アリスは渾身の一撃を放ったはず。それをトランプ兵は正面からまともに受けた。無事で済むはずがない。

 しかし、トランプ兵はダメージなど喰らっていないかのように、素早い動きでアリスとの距離を詰めてくる。


 「お願いです!」


 「なんなのよ、コイツ!?」


 アリスは初めて恐怖を感じる。それも、帽子屋やジャバウォックと戦ったときに感じた恐怖ではない。

 どこか、心の底から根本的、本能的に言葉では説明できない、得体の知れない恐怖――それを、たかがモブのトランプ兵が放っていた。


 「お願いです! 話を――」


 「わかった! わかったから――ッ! 話を聞くから黙りなさい!」


 「本当ですか!? ……ごほん、では……」


 アリスがヤケになってようやく、トランプ兵は静かになる。静かになったトランプ兵を見て、アリスは心の底から安堵する。


 「では、自己紹介から。私の名前は――」


 「別に要らないから。さっさと用件を言って」


 「……はい」


 トランプ兵の名前など、どうでもいい。いまさら聞いたところで……


 (あれ? コイツらって名前あるの?)


 言ってしまってから疑問に思ってしまった。だが、すでに遅い。トランプ兵は用件を話そうとしていた。


 「実は、この城に化け物が……」


 「それも知ってる。ソイツがいる場所を教えて」


 「あっ、はい。その化け物はいつの間にか、女王が管理する城の庭に現れたんです」


 「庭か。確かにあそこなら、アイツも自由に動けるだろうし……で、今はどうなってるの?」


 「今はクラブのトランプ兵が足止めしています」


 「へぇ、弱いのにがんばってるんだ?」


 「いえ、ただの壁です」


 「だと思った」


 最弱トランプ兵がジャバウォックとやりあっている――わけはなかった。一瞬でも期待したアリスだが、クラブがジャバウォックの相手などできるはずがなかった。


 「とりあえず、戦場は戦いやすいか……後は時間との勝負ね。行くよ、レヴィ!」


 「まだ見つからない……本当にあるの?」


 レヴィは〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を探し続けている。しかし、今もまだ見つからずにいた。


 (アイツに会う前に手に入れることは無理か。じゃあ、私がなんとかして時間を稼ぐしかないようね……)

 

 ジャバウォックと対面する前に〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉を手に入れることは不可能。ならば、アリスがジャバウォックとの戦いで時間を稼ぐしかない。

 

 (どうやって逃げるか。距離が近すぎると〈真理を司る剣ヴォーパルソード〉がないから、攻撃を受け流すことはできない。かといって、離れすぎるとブレスの餌食になる。なら、その中間の距離……いや、尻尾でのなぎ払いもあるから、現実的ではないか……)


 アリスは歩きながらも、自分が持てる策を一所懸命に探し出す。しかし、これといった方法が思いつかない。


 (どうするべきか……)

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