零話。そうして物語が始まる
これからお願いします。カクヨムからの移植です。出来る限り評価してくれると嬉しいです
時刻は夕刻を過ぎ、辺りは人の賑わいで溢れている。
人々の流れは絶えることは無く、ただロボットの様に感情なく行き交うだけであり、そこにはつまらなさしかないように見える。
それをじっくりと一人の男がとあるビルの三階の窓から眺めている。
男は眼鏡を掛けていて、歳も三十半ばぐらいだろうか、そのため、色に濁りのある金髪から大人の苦味というものが染みでるかの様だ。また、西洋人にしては陽気そうに見えないのは恐らく目の鋭さからくるのだろうと予測できる。
側にはまだ幼いながらも可愛らしいが、妙に色気があり、黄金色に輝く金色の髪に、碧眼であるため、察するに男と同じく西洋から来たと予想できる。
また、男は普通のスーツだが、少女はドレスであるため、さながら少女と少女を護衛するSPという構図に見えなくない。
しかし、少女の癖なのだろうか、少女はキャンディーをくわえてせっかくのドレスなのに椅子にだらしなく座っている。
「飽きないよねぇ、サンチョも。上からの命令を忠実にこなすためにこんなつまらないことするなんて、私には想像できないよ」
そう言って少女は男、サンチョを見てため息をつく。
しかし、そういう風に言われてもなお、サンチョは窓越しから人々の行列を見ており、言葉を返さず、ただ黙々と見続ける。
「何よ。私の言うことは無視するつもり?全く、これだからワーカーホリックと仕事はつまらないから嫌なのよ」
すると、今まで窓を見ていたサンチョは不機嫌そうな声に気づいたのか、少女の方を見ないながらも話始める。
「ああ、すまなかった、アリス。確かに仕事に夢中になっていたのは悪かったが、君はもう少し真面目に仕事に取り組んだらどうだ」
すると少女、アリスは面倒くさそうな顔で「だって楽しくないもの」と、見た目の通りの高飛車な回答をする。そして、
「あんたこそ、陽気なスペイン人とは思えないぐらい働くわね。まるでこの国の人みたいよ」
「失礼だな。俺はあの方に関係することでなければ真面目にやらん。それにだ、今回の仕事は俺達にとっても利益のあるものだからな」
そう言って再び沈黙が始まる。
「けど彼も災難ね。まさか、私たちに狙われるなんてね。けど、本当に彼は現れるの?」
するとサンチョはニヤリと笑いだす。
「何。絶対に来るさ、いや、来なければならないというべきだろう。もうすぐ俺達が仕掛けた罠が作動する。その時が待ち遠しいな」
静かに、しかし、黒さを感じる声を聞き、アリスは少し笑う。
「彼も大変ね。こんな主人の為に生きるキチガイみたいな男に狙われて」
だが、そんなのはサンチョに聞こえていないのか、まだ笑っている。
「待っていろ、樺八坂直……、あの方の為に、絶対に『世界』に目覚めさせはしない………、絶対に……!」
サンチョは小さくそう、呟いた。