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全知全能のモラトリアム

作者: 潮路

チートの先にあるもの。

「全知全能になっても、悩みって消えないのな」

「突然どうした」

「俺って異世界転生した時に、全知全能の力を手に入れたんだよ」

「へえ、そうなんだ。初耳だったよ」

「自分でも欲張ったと思ったけど、神様が快く叶えてくれたんだ。それで、魔王すらもデコピンで倒せるような力を手に入れたわけだよ」

「ふうん」

「ハーレムも作りたい放題で、内政もやりたい放題。これでもかってくらいに自由にやらせてもらった」

「あの内政は、一村人である俺から見ても酷かったな……それで、どうして悩みが出てくるんだ?」

「うん。悩みって程でもないのかもしれないが……なんというか」

「なんというか?」

「もっと、楽しいものだと思ってたんだ。全知全能って」

「お前……全国津々浦々のチートラブボーイズに、丑の刻参りされる発言だぞ」

「そもそもな、チートを手に入れたところで、敵がいなくなるわけじゃないんだ。同じレベルのチーター同士で、別次元の争いが始まるだけなんだ」

「全知全能なんだろ?勝つように運命を捻じ曲げればいいじゃないか」

「それは相手も同じことだろう?そうなると結局は、より高度な次元の想像をした方が、勝利するという事になる」

「どういうことだ?」

「世界より宇宙。宇宙より次元。次元にも七次元やら十二次元なんてものがあって、次は虚数。それで次は……」

「つまりは、より優れた「想像力」を持っている方が勝つと」

「やろうと思えば、冗談抜きで永久に戦えるがな。なんたって駄々をこね続けるだけで、負けがなくなるんだから」

「創造神に子供が多いのは、わがままさが起因していた……?」

「あながち間違ってないかもな」

「だがよ。他の人間を支配することだって出来たんだろう?それって良い気分なんじゃないのか?」

「最初こそは支配してたな。だが、一週間もすれば、専ら自分で創るようになってたよ」

「どんな美女でも創りたい放題か……」

「頭の中で浮かべるだけでいい。数秒の後に、美女の花園が出来上がっている」

「それなら尚の事、素晴らしいじゃないか」

「本当にそう思うか?」

「当たり前のことだろう」

「なるほどな。それじゃあお前は、これから話す言葉も、どんな行動を取るのかも、極端な話、いつ、どうやって死ぬかすらも、あらかじめ分かっている状態で、楽しく会話出来るって言うんだな?」

「それは……」

「ああ。やろうと思えば、操作していることを忘れることも出来るぞ。思い出しさえしなければ、な」

「うう……」

「忘れた際に、うっかり好みまで変わった時は悲惨だったな……何の為に生み出したかすら分からないキャラクターがまた一人……」

「分かった。分かったから、もう許してくれ」

「世界を使ったおままごとをしているようだ。とても退屈で、割に合わない作業だ」

「ここまで聞くと、なんていうかさ……」

「なんだ」

「お前、創造神に向いてないよ」

「今更の指摘だな。だが、その通りだと思うよ。俺は創る側に回るべきじゃなかった」

「だがよ、後悔したって何になる。まさか全知全能を失う訳にも行くまいし」

「その選択もアリかなって思い始めてる」

「やめとけやめとけ。絶対に後悔するから」

「絶対なんて言葉、全知全能になってすら、気安く使ったりしないぞ」

「普通はな。だが、今回ばかりは後悔すると自信を持って言えるぞ」

「何故?」

「お前自身が、まだ『何を求めているのか』分かっていないからさ」

「察しは付いているつもりだが」

「それは全知全能の力が引き起こす錯覚みたいなものさ。それとも、『これが自分の望みである』なんて暗示を掛ける気かい?」

「いいや。それでは、LEGOブロックで出来たハーレムと変わらなくなってしまう」

「そうだな。だったら、特段焦る必要なんてない。結局、全知全能……神になったところで、我々は脳で考えることをやめられない。答えを知りたければ、生きてみるしかないだろう」

「なんだか、転生前と同じような生活になりそうだな」

「いざとなれば全知全能でいくらでもやりたい放題なんだから、それだけでも気持ちが楽になるだろう?」

「ヘンテコな話ではあるな。自分を見出した周囲の奴らが羨ましくて、わざわざ異世界転生までして、自分を創ろうとしたのに。結局異世界で自分探しの旅をするというのも」

「アイデンティティは重要な概念さ。立場が変わろうが、年齢や性別がどうであろうが、自分を見出す為の期間を、そうそう簡単に終わらせるべきではないんだ」

「お前はどうなんだ。もう既に自分を見出しているようにも見えるが……」

「全然。隣の芝は青く見えるとは、よく言ったものだ」

「そんな風には見えないが」

「いいか。人間なんていうのはな、『自分はこれでいいんだ』なんて騙し騙し生きているんだ。自分を必死に納得させて、妥協を重ねた上で、何とか答えをこじつけようとしているんだ」

「だが、お前は全知全能を選ばなかった。俺と同じ転生者なのに、わざわざ村人の道を選んだんだろう?」

「ああ。意外と悪くないぜ。『悟った村人』ごっこもな」

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[良い点] どんな能力を手にしても、何らかの悩みは付きまとう、生まれ変わってもそれは変わらない―生きていく上での教訓のようなものを感じました。また、喋っている二人の正体が少しずつ明らかになるところなど…
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