とある夏の日
これは、私がまだ五つの頃の話である。
私の家は、緑豊かな自然に囲まれたのどかな田舎にあった。隣家に車で行かなければならないほど離れているなんてことはザラで、友達がいなかった。共に遊ぶ兄弟姉妹もおらず、両親は畑仕事で忙しい。その為、私はいつも一人だった。
ある日、私は久しぶりに家の裏手にある小山へ遊びに行った。山の麓から続くゴツゴツとした石階段を上っていくと、てっぺんに古びた赤い鳥居が立っており、その先にとても小さな神社がある。蝉の鳴き声を除けば閑散とした場所で、地面を揺れる木々の影や蟻の行進を眺めるのが好きだった。
いつものように観察を始めて、五分ほど経った頃だろうか。私の肩を控えめにトントンと叩くものがあった。振り返ると、そこには私とそう歳の変わらない色白の少女が立っていた。
「遊びに来てくれたの?」
少女は嬉しそうな笑顔を見せた。「一緒に遊ぼう」ではない彼女の言葉に僅かな違和感を覚えたが、声をかけられた嬉しさでそんなことはすぐに忘れてしまった。
それから私達は、かくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり……とにかく、一人ではできない遊びをたくさんした。友達と遊ぶことがこんなにも楽しいことだとは知らなかった私には、あっという間の時間だった。気がつけば、太陽は西の空に沈み始めていた。もう帰らなきゃ、と少女に言おうとしたその時、
「かなちゃーん! もう日が暮れるよー! 早く下りてきなー!」
と、小山の麓のほうから、私を呼ぶ母の声が聞こえてきた。
「……今日は楽しかったよ、また明日一緒に――……あれ?」
話しながら振り返った視線の先に、少女はいなかった。私に何も言わず、先に帰ってしまったのだろうか。……まあいいか。明日来たら、彼女もまた遊びに来ているかもしれない。
私は鳥居の手前まで小走りに駆けると神社のほうに向き直り、声を張り上げて言った。
「また明日、一緒に遊ぼうねー!」
身を翻して階段を駆け下りた私の背中で、その声が響いていた。