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第66話 サルザンカの宝-『優秀なお嬢様とぬいぐるみ』

「私は、エルフィンズ、ナンバー2。ユウナ。夢をこの世にとどめる者。私と、妹たちの命のため、貴方たちの未来、食させていただきます」

 ユウナは声と共に両手を交差するように振る。すると、彼女の手に空気と多種の粒子が集まり、ミル達を閉じ込めている物と同じ直径2mほどのガラス玉が二つ現われイルたちへと飛ばされた。

「ここはおいっちに任せるにゃ」

 先頭に立っていたイルはウサギのように飛び下がり、代わりにジャックが前に出る。

「ガラスはおいっちも得意にゃよ」

 笑みを見せてジャックは両腕のミサンガを一本ずつ引き千切る。すると、上半身だけのガラスゴーレムが現われた。そのゴーレムたちはジャックに命令される前に自らガラス玉へと突進する。

 すると、ガラス玉は簡単に割れてゴーレムをガラス片が覆う。だが、ガラス片は一点に集まろうとする。それはゴーレムをも取り込んで小さなガラス玉へとなる。そして、そのガラス玉は、ゴーレムを飲み込んで粉々に砕けてなくなった。

「ユウナのガラス魔法は、隔離管理抹消です。人や物はもちろん魔法を閉じ込めることができるわ。さらに、彼女の意思で出したり消したりできる。直接触れると危険ですよ」

 メネシスの忠告にジャックは退く。だが、代わりに前線の騎士イルが飛び出る。

「おいおい、突貫かにゃ」

「ノープログレム。アイムストロングデース」

 ウサギの容貌をしたイルは、ジグザグに跳びながらユウナに接近する。

「甘いですよお姉ちゃん」

 ユウナは、イルに向って先ほどとは比べて小さめな直径1mほどのガラス玉をたくさん投げつける。だが、初速が最速と同じイルは襲い掛かるガラス玉たちを難なく避けてユウナとの距離を縮める。

 そして、ユウナの眼前に飛び跳ねてイルは、その丸く白い綿製の腕を体の後ろへ送り真っ直ぐ突きだす。

「インパクトショット」

「守って」

 イルの拳をユウナはガラス玉を出現させて防ぐ。だが、ガラス玉を超えてイルの拳はユウナの体に触れる。しかし、ユウナの保険である二重防御の魔法障壁がイルの拳の威力を奪った。

 威力を奪いながらも、ユウナの体は飛ばされ草花をすりぶしながら転がった。

 だが、その代償でイルはガラスの粉に囲まれた。だが、すぐに逃げることもせずその粉末に包まれたイルは身を小さくする。

「イル。引くよ」

「アイサー、マイベストフレンド」

 メネシスの声にイルは体を丸くして答える。すると、ジャックの後ろで待機していたメネシスは、その右手を強く後ろへ引く。

 すると、その右手から伸びていた見えない紫の糸がピンと張る。そして、その糸の末端にいた小さな体のイルを急速にガラス片から離脱させた。

 その直後、ガラス片は一点に集結。そして、粉砕。一瞬の迷いもなく突撃したイルの勇気と、絶妙なタイミングで糸を引いたメネシス。二人のコンビネーションが接近戦相手に強いユウナの守りを簡単に砕いた。

「痛い……イル姉さんがそこまで自立しているなんて」

 ユウナは殴られた左頬を摩りながら立ち上がり目線のずっと下にいるイルを睨む。だが、イルは余裕のポーズを決める。

「ユウナ、マイパワーは、インフィニティーデース」

 イルは、その指のない右腕を天に向けて挑発する。おそらく本人は中指を立てている気持ちなのだろう。だが、ユウナは予想以上の威力に苦い顔しかできなかった。

「イル、調子に乗らないの」

「アイサー、マイベストフレンド」

「にゃるほど、殴って退く。ヒットなんとかにゃね。プリンセスちゃん。準備できたかにゃ」

 イルが退いたことで先頭になったジャックは後方のプリンセスに聞く。

「あと150秒で整います」

 それを聞いたジャックは、口物を白く輝かせて笑う。

「了解にゃ」

 ジーンズのポケットに手を入れたままのジャックは、地面を強く蹴ってユウナに近づく。

「させません」

 ユウナは、ジャックの攻撃範囲に入る前にガラス玉をばら撒く。だが、ジャックは腕ではなく、左足を横に上げて空を力強く蹴る。

「ぶんってやって飛ぶのにゃ」

 ジャックの左足は、彼を中心にして風を起こす。その風は、ジャックに触れる前にガラス玉の進行方向をジャックからユウナへと変える。

「いまにゃ」

 ユウナの危険なガラス玉の群れがなくなって、ジャックは簡単にユウナの懐に入る。

 そして、彼女の赤い服の胸倉を掴むと、そのまま彼女の頭を下にして地面へと叩きつけようとする。だが。

「太陽。その光、凝縮せしとき、小さき主となる」

 天地逆転させられながらもユウナは掌サイズの小さなガラス玉を一つ出す。そして、そのガラス玉を無防備に見せられているジャックの胸板に押し当てた。

「にゃにゃ」

「ジャック、体の力を抜きなさい」

 胸元で急速に高まる魔力反応。叩きつける攻撃のために多くの魔力をその腕にまわしていたジャックは、魔法防御のための魔力を爆発までに胸元に集めるのは時間がたりなかった。

 だが、彼は背後から突かれるような感触を背中に感じた。

 その感触と彼女の声を信じて、ユウナを手から離し体の強ばりを緩める。

「戻ってきなさい。私の人形。強制退場」

 メネシスは再び左手を強く引く。すると、ジャックが後ろへと引っ張られて動く。だが、その不愉快さにジャックは足に力を入れてしまう。そして、メネシスの紫の糸は簡単に切れる。

光の放射群(ランビル・ランクリル)

 中途半端なところに立たされたジャックは、ユウナのガラス玉がはじけるのを目の前に見てしまった。

 そのガラス玉は、光が集められたものであった。一度入った光は閉じ込められて出る事はできない光の牢獄。そして、その牢屋が砕かれた今、光は自由に飛び交う鳥のようにユウナを中心にして閃光となって周囲のものを貫く。

「来るのにゃ」

 光が放たれる前にジャックはガラスのゴーレムを出す。

 だが、光の閃光はガラスのゴーレムを通り抜け真っ直ぐに進む。そして、ジャックの茶色い肌を貫く。

 さらに、その光はイル、メネシス、プリンセスをも貫く。そして、その光は地上に太陽が落ちたかのような眩い光を放ってゆっくりと消えた。

「……にゃ、無傷にゃ」

 爆心地に一番近いところにいたジャックは、自分の体を見て不思議な気持ちに陥る。

 何十本もの閃光に貫かれた体は、怪我はおろか血の一滴も流れていない。体を閃光が貫いたとき、みなが若干だが痛みを感じていた。だが、それに見合った跡がないのだ。

「アイサ〜、やっちまったのデース」

 不思議に思っているジャックの後ろで、がっかりしたような声をイルが出している。

「イル、後どれぐらいで発動しそう」

「ん〜、ジャスト300セコンドデース」

 300秒と言われてメネシスは足元に魔法陣を広げる。

「イル、ジャックと協力して時間作って……300秒か。ギリギリかな」

「アイサー、マイベストフレンド」

 メネシスの命令にイルは跳ねるようなスキップでジャックの隣に立った。

「うにゃ、どうしたのにゃ」

「さっきのアタックは、ユウナの嫌なマジックなのデース。時間が来ると、ドッカーンなのデース」

 ユウナの使った魔法、光の放射群(ランビル・ランクリル)は、彼女を中心として強烈な光を放つ魔法だ。

 その魔法の特徴は防御不可能と未来攻撃である。

 あの攻撃は、盾や鎧などの物理防御も魔法陣や魔法強化の魔法防御をも貫く防御ができない魔法である。唯一の回避方法は、光の届かない所にいること。

 だが、その光は太陽と同じである。その攻撃範囲は広大で、今回はまだ小さい方だったが、ユウナが本気を出せば大陸一つ飲み込むことができるのだ。

 それほど広域な魔法攻撃だが、太陽の光が届かない影の所には攻撃が届かないのだ。なので、現実的な回避方は、木の陰に隠れるのが最適であった。

 だがここは、草花と小さな痩せた木しかない草原だ。さらに、朝日が周囲を照らす現状、回避は無理であった。

 そして、この攻撃の最大の特徴、時間差でダメージが訪れることだ。

 光を浴びてから数秒から数日の間にダメージが被害者に訪れる。その時間は、攻撃範囲が小さければ小さいほど短いのだ。

 その威力は体を構成する粒子の種類一つを光属性に強制変換させることだ。これは、生物の粒子構成理論で言うと、体に不必要な粒子が生まれて必要なものがなくなるということ。

 つまり、体の維持ができずその者は激しい光を放って消えてしまうか、何か別の物質になってしまうのだ。

「時間差攻撃かにゃ。解除方法はあるのかにゃ」

「あるわ。術者に受けた回数ぶん魔法攻撃を入れるか、闇属性の魔法を大量に受けるか、もしくはかけられるかのどれかよ」

 それを聞いてジャックは良い顔をしなかった。

 それは、それが困難だと思えたからだ。なぜなら、彼は闇属性の魔法が使えない。プリンセスは使えるが、今は彼女が苦手な朝なのでそこまで純度の高い闇属性は使えない。

 さらに、優に20発以上体に攻撃を受けていた彼らだ。それと同じ回数ぶん攻撃を加えるのは無理な話だ。

「絶望的な条件なのにゃ」

 だが、一人だけ余裕に前に出てその小さすぎる胸を張る。

「ノープログレム。マイベストフレンドにナイスアイディアがあるデース」

 ウサギ姿のイルは、そう言ってユウナへと飛び掛る。だが、ユウナは自分自身をガラスの玉の中へと閉じ込める。

「パワードブレイク」

 その薄いガラスの膜を叩き割ろうとイルは、その白い綿の両手を組んで振り下ろす。

 だが、鐘の鳴る音のような鈍い音がするだけでガラスにはひび一つすら入らない。

「無理ですよイル姉さん。朝は私の独壇場ですから。私の魔法壁は簡単に壊せませんよ」

「そのとーりデース。バット、マイベストフレンドは、ユーを凌駕するナンバーワンウィザードデース。ジャック、カモーンデース」

 イルに呼ばれてジャックもユウナの元へとかけつける。そうさせないとユウナもガラスの球で弾幕をはる。だが、ジャックも目が慣れてきたのかそれをギリギリの所で避ける。

 そして、その回避のスピードが乗った拳でユウナを守るガラス壁を殴る。だが、イルのときと同じで、鈍い音がして終った。

「うにゃ、何て硬さにゃ。んで、おいっちに何をさせようと」

 イルがガラス壁を殴ると小さく軽い体は弾き飛ばされる。それと入れ替わるようにジャックがそれを蹴るとそれは大きく波打つ。そしてジャックはすぐに後ろに退く。

 それに代わってイルが殴る。そしてまたジャックと、交互に攻撃をあたえ続ける。

 正直言ってまったく効果がなく拳を痛めるだけである。

「時間作りデース。マイベストフレンドが、ナイスマジック作っているデースそれまで……」

「ジャック様、イル。離れてください」

 イルの言葉を叩ききってプリンセスの声が二人に届く。それに振り向くジャックはすぐにユウナから離れた。しかし、メネシスとイルは青ざめた顔をしていた。

「星よ。刃向かえぬ光に隠される時なれどそなたらは我が頭上に。われを見守り続ける星たちに再び願う。集い流れる赤き流星は、闇と空と命を縫う糸なりけり」

 イルとジャックが前線でユウナの気を引き、その後ろではメネシスが何か魔法の準備をしている。さらに、そのずっと後ろには戦いが始まってから黙々と魔力を練っていたプリンセスがいる。

 彼女の魔力は朝になると極端に弱まる。だが、多くの時間と集中力でそれを補えば夜と同じ魔法が使えるときがある。

 魔法使いとは、剣士を盾にして砲撃をするものである。まさにプリンセスの得意とする状況であったのだ。

 その魔法使いプリンセスの周りには、108個の赤い点の光が彼女を包むように飛んでいる。

 そして、プリンセスはゆっくりと右手を前へ伸ばす。その指先の軌跡のように赤い光が続く。そして、プリンセスは人差し指をユウナへと向けた。その右腕を伝って集まる赤い光たちは、その指先絵へと集結して一つの小さな赤い光の球へと変わる。

「ストップデース」

「待ちなさい。今のユウナに魔法は」

 さらにプリンセスの体へ光が集まる。その集まるキーンと言う音が急激に大きくなり、周囲の音という音がなくなる。その音の中には二人の忠告も含まれていた。

「音を超える速度で飛べ。真夏の赤き流星群キフル・ディケス・ペイン

 音もなく赤い光は、108本の触手に似た線を放つ。その線は、迷わず乱れず一斉にユウナへと進む。

 そして、108の流星はユウナのガラス壁に直撃。その赤い光は沈む夕日に似た色をしているが明るさは朝日を凌駕していた。

 その攻撃を受けたユウナはさしずめ朝に見える夕日とでも言うだろうか。太陽のように輝いていた。

 その太陽の周りの草木は燃え、石はおろか土までも赤くなり溶け出す高温。それなりに距離をとっていたジャックでさえ水の防御壁で自分の身を守らなければ大火傷するほどだ。

「どうですか。夜の太陽に焼かれる気分は」

 全力を出し切ったプリンセスは、額に大きな汗を浮かべながら笑みを太陽へと向ける。だが、その太陽からは涼しげな声が聞こえた。

「さあ、どうでしょう。体験してみてはどうですか」

 その声に反応したのか、太陽の光は次第に小さくなり一箇所に集まる。それは、ユウナの伸ばした人差し指であった。

「そ、そんな、無傷だなんて」

 ユウナの指先は真っ直ぐプリンセスに向けられている。そして、その指先に集まる光、その魔力反応、どれを取っても自分の放った魔法と変わりないものだとプリンセスは悟った。

 威力と防御するのに必要な魔力。全部考えてプリンセスには膝を地面につける選択が一番楽であった。

「それじゃ、返しますね。あなたの魔法。真夏の赤き流星群キフル・ディケス・ペイン

幕引き(ドローザカーテン)!」

 真夏の赤き流星群キフル・ディケス・ペインが放たれるのと同時にメネシスの声が爆発する。

 すると、赤い108の流星は、地面を大きくえぐった後、軌道を大きく変えて空へと上り大きな花火を上げた。

 だが、プリンセスは直撃を避けられた。右肩に軽い焼けどはできたが、怪我のうちに入らないほど小さなものである。

「さすがお嬢様ですね。素晴らしい回収魔法です」

 ユウナはゆっくりメネシスの方へ目をやる。

 メネシスの後ろには、イルの他にジャックとプリンセスさらにはリョウまでいた。

 メネシスは自分の糸を結んだ物を瞬時に自分のところへ飛ぶことができる。視界に入っているという条件は付くが、この戦闘が始まってからこの魔法で何度も助けられているものもいる。

 今までプロの戦いを見せられていたリョウは、初めて言葉を口にした。それは、彼の素朴な疑問であった。

「お嬢様って……」

 リョウの疑問に答えるためか、メネシスは一人前へ出てユウナの前に立った。

「エルフィンズオリジナル。最大の愛を注がれし者メネシス。ユウナ、貴方の振る舞い、見逃す訳には行かないですね」


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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