第65話 サルザンカの宝-『正義の味方集結』
「まあ、よい。それじゃ、リョウよ。見ておれ。魔法剣士相手にどのように戦えばよいか。この身に叩き込んでやるからのぉ」
聖竜王は、右手に銀の剣を持ち軽く手首を回す。
「何を言っているか分かりませんが、行かせてもらいます」
プリンセスは、赤い刀身の刀を両手で持つ。そして、二人の間には僅かな沈黙と停止が生まれる。
プリンセスと聖竜王の開戦は、朝初めのスズメの鳴き声をきっかけに始まった。
プリンセスは刀を右肩の上付近まで持ち上げ、刃を天に向けて地面と水平に構える。そして、地面を蹴って、飛ぶように前進、聖竜王に近づく。その刀を聖竜王の心臓に突き刺そうとする。
だが、プリンセスの両足は地面から離れている。聖竜王は銀の剣を下から振り上げて、刀の剣先を力ずくで空へ向ける。
足腰に踏ん張りが利かず、力で負けたプリンセスの刀は、聖竜王の右側の髪を少しきるだけで終った。
続けてプリンセスは刀を反転させて、刃を聖竜王の右肩へと向けて振り下ろす。
それに対して、聖竜王は軽く左に一歩動いただけでそれを避ける。
大きく刀を地面に向けてしまったプリンセスには、大きな隙が生まれてしまった。
無防備なプリンセスの右側に、聖竜王は剣を横に薙ぎ払いプリンセスを吹き飛ばす。
地面を転がるように飛ばされたプリンセスは、すぐに立ち上がろうとするが脇腹に攻撃が入ったようで、数本折られている痛みを体が主張して命令を聞かなかった。
だが、聖竜王の一撃は剣の腹でたたいたものだ。それだけであばら骨を折られるほどの威力であった。剣の正しい使い方をされていたら、体を二つにされていたかもしれない。
「しばらく大人しくしておれ。……主分かったか」
いきなり話かけられたリョウは、聖竜王の質問に即答できなかった。
「え、なにがだ」
「剣の扱い方じゃ。剣や刀は、振り下ろす。斬り上げる。薙ぎ払う。突き出す。叩く。この五つの動かし方があるのじゃ。対して、剣士の防御方は、避ける。受け止める。そらす。これがあるのぉ」
聖竜王は、一つ一つ丁寧に説明をする。リョウの剣での戦い方は、今までアヌビスやアレクトの真似事をしているだけで、理屈や意味を理解せず戦っていた。
戦いに直感や真似することはよい成長に繋がるが、戦いの軸にするのにはよいとは言えない。
武器の使い方や数多くある基本の戦い方を身に付けたからそれらが役に立ち始めるからだ。
基本を知らないリョウにしては、入る順番が逆なのであった。
「獣神は、身体能力が高いからのぉ。相手の攻撃を避けるのは難しくはない。だが、剣一本だと避けきれない攻撃が多い。じゃが、竜神は鋼の鎧をまとえる。じゃから、小さな攻撃ぐらい避けずにすむ。さらに、竜神は瞬間的な力が強い。鍔迫り合いや相手の防御を砕いて切り裂くことができるからのぉ。竜神の力を使い慣れてきた主は、力任せに剣を振るうことから覚えた方がよいかも知れぬな」
今まで、リョウが真似していたのはアヌビスの剣技を重点にした戦い方だ。
どのように相手の急所に剣を入れるかのみを考えた戦い方で、剣の動かし方や振り方をばかり気にしていた。
だが、リョウのメインの能力である竜神は、その際には鎧としての機能しかはたしていなかった。
竜神の力は、人間とは違う力がある。それと剣を組み合わせることで、腕力で相手の体勢を崩しながらの攻撃が可能になる。
剣を上手く扱って斬撃を入れるのではなく、斬撃を入れるために体の力を使う。竜神を始めとする獣神の者達の戦い方の基本的なスタイルはそのようなものである。
なので、昔アンスに教えられたことの方が正しいのである。
獣神は、武器の扱いを覚える前に、素手で戦って自分の体に慣れることから始めなければならないのだ。特に、戦いに慣れていないリョウならなおさらな話である。
「完治……いきます」
少し聖竜王から離れていたプリンセスは立ち上がる。
プリンセスの得意な夜ならば、折られて数秒で完治していた怪我だが、苦手な今の朝だと数分かかった。
先ほどの技を受けてから、プリンセスは不機嫌だ。
好戦的ではない彼女にしては、積極的に攻めているのがその証拠だろう。
それは、格下だと思っていたリョウに手加減されたからだ。
プリンセスをこの場所から追い払ったり時間稼ぎをしているのだとしても、先ほどの攻撃は明らかに馬鹿にされた気分である。
魔法や適した武器ならばともかく、ただの長剣である。斬る為に作られた武器で叩かれて飛ばされたのだ。みねうちよりもたちの悪い見下した攻撃であった。
「竜神の剣の使い方を教えてやろうかのぉ。……こられよ、未熟者」
聖竜王が手招きすると、プリンセスは朝露を振り払うように赤い刀で空気を切った。
すると、赤い刀身は輝き真っ赤な光の刃になった。
「赤色一閃……火竜の爪!」
プリンセスは、刀を右手のみで持ち体の後ろまで下げて姿勢を低くする。さらに、余った左手からは、十数本の赤い糸が溢れ出しプリンセスを包む。その糸は一本一本が生きているかのように動きプリンセスを守っているかのようである。
そして、赤い糸の装甲をまとったプリンセスは、その足を一気に伸ばし前方へ跳躍する。
ほんの一瞬の移動だが、彼女の攻撃は周囲に大きな変化を与える。
彼女を守る赤い糸は、彼女が動くのに連れて各々が地面や岩や木を焼き切る。
そして、その糸に斬られたものはその切り口から炎を吹き出し瞬く間に炎の固まりになる。
彼女の通った後には赤い炎の道が刻まれた。そして、彼女と聖竜王がぶつかると、二人は爆発の炎に飲まれてリョウの視界から消えた。
その炎が消えると、プリンセスと聖竜王が鍔迫り合いで固まっている。
その光景に驚いたのはリョウ以上にプリンセスであった。
今の技は炎と光属性の混合技。物理的防御を無効化する光線と、物質を溶かす高熱の炎を合わせるプリンセスの特技だ。
そして今の動きは、戦闘術を得意とするジャック直伝の半瞬間移動の技だ。初速と最速がほぼ同じその移動は、獣属性と力属性の二つを合わせた力任せのものである。
この二つを組み合わせると、対象物にぶつかるまでプリンセスの刃と糸に触れるもの全てを融解することができる。接近戦が苦手なプリンセスにとっては、切り札に近い上位の技であった。
「これが受け止めるじゃ。先ほどの攻撃。こやつの周囲を無差別に焼く技じゃ。避けると、その糸に焼かれるかも知れぬ。振り上げたり、叩いたりして剣先を逸らしてもよかったのじゃが、そうした場合わっちに隙ができるからのぉ。その隙を斬られるとさらに悪いの」
プリンセスは、赤い糸で聖竜王を包もうと考える。だが、鼻先が触れ合うほど近くにいる聖竜王にその攻撃を向わせると自分自身を焼いてしまう。
一度力押しで聖竜王を飛ばしてから一斉に赤い糸で攻撃をする。そうしたかったが、プリンセスが刀で何度押しても、それを受け止めている銀の剣はピクリとも動くことなかった。
「竜神の力ならば受け止める衝撃ぐらい耐えられることが多いからの。相手が力属性で大きく強化してなければ、これが当面の防御としてのオススメかの」
「打撃や斬撃の攻撃はそうかもしれないが、魔法攻撃はどうしたんだよ。さすがに鋼の鎧じゃ無理だろ」
リョウは以外と鋭い。確かにプリンセスの攻撃は盾や鎧を突き抜ける防御困難な赤閃光だ。
これを防ぐには魔法で中和するか、魔法で強化した盾など魔法系の防御策が必要になってくる。
だが、竜神が使える魔法は鋼属性の魔法しかない。物理系の攻撃には強力なものだが、魔法攻撃には弱いのである。
「主、忘れておるな。邪竜眼があるじゃろ。それを使うのじゃ。今回のこやつの技は、糸と糸との間を見つけ出しての回避で、それなりの経験が必要な難しい避け方じゃ。だが、今ほどの技は珍しいものじゃ。今のは特例じゃと思え。ほとんどの魔法攻撃は、邪竜眼で落ち着いてみれば避けられるものがほとんどじゃ」
攻撃魔法には大きく分けて二種類ある。一点集中型と全方位型だ。
全方位型は中心部から全体を飲み込むもので、攻撃範囲全てにダメージを与える。
これは回避が非常に困難で、逃げ切るのが最善策となっている。だが、全方位型は広域に攻撃するために大量の魔力を消費する。
なので、全方位型の魔法を何度も打つような魔術師は少ない。例えいたとしても、非常に威力の低い魔法の場合が多い。
全方位型は攻撃ではなく、治癒魔法や補助魔法など、多くの対象に向けてすると効果的な魔法の時に使われることが多い。
魔法攻撃の主流はそれとは逆の一点集中型である。
一点集中型は文字通り力を一箇所に集める小さいが強力な魔法のことだ。回避される率は全方位型と比べて格段に高くなるが、威力は強力である。さらに、無駄を省いているので同じ魔力を使った場合、こちらの方が数多く発動させることができる。
さらに、当てることができたとしても、全方位型は防御されるとダメージが激減してしまう。
だが、一点集中型は防御をも貫けてダメージ減少率も少ないのだ。
よって、両者に長所と短所がある。魔法使いはどちらをメインにしているかによって戦い方も変わる。
全方位型ならば前線から離れ、後方でゆっくり大量の魔力を溜めて攻撃する後方魔法使い。
一点集中型ならば前線で武器を片手に持って戦う魔法剣士となる。
ちなみに、プリンセスの先ほどの技は、一点集中型の技を無数に出して攻撃範囲を広げて、半全方位型にしたものだ。
一点集中型を多く発動させたので魔力消費が多いが、確実に当てたいと言う彼女の考えが見える。その戦い方からも分かると思うが、プリンセスは全方位型がメインだ。
赤い糸は一点集中型の魔法だが、これは接近戦のとき使うものだ。
大量の魔力と長い詠唱時間を有する全方位型ばかり極めては、自分で自分の身を守れない。
赤い糸は少量の魔力でなおかつ短時間で出せる魔法である。接近戦を苦手とするプリンセスがそれをしなければならない時の貴重な攻撃方法であり防御方法だ。
魔力と物の動きを確実に捉えることのできる邪竜眼があれば、全方位型はともかく一点集中型を避けることができる。
さらに、避けることができるだけの瞬発力も竜神にはある。防御に優れた鋼の鱗の鎧。一瞬だが他に力負けしない筋力。相手の攻撃を見切ることができる眼。それだけ多くの能力を持っていれば、どんな武器を持ったとしても優れた戦士となれるだろう。
だが、あえて剣を選んでいる理由。それは、全ての武器の精通が剣であり、基礎状態の体で扱う武器に一番適しているからだ。
なにより、聖竜王の属性が鋼であり、彼女が好きな武器だからだ。
「まあ、こんなところじゃ。次回までに実戦で自分を見つけておくことじゃな」
プリンセスと鍔迫り合いを続ける聖竜王は、力を軽く抜く。すると、突然のパワーバランスの崩壊にプリンセスの体は前へと崩れる。
崩れたプリンセスの右脇腹に横蹴りを入れて距離を作った聖竜王は、苦い顔をするプリンセスに冷たい目を見せた。
「主も、ちとは接近戦を学ぶべきじゃの。わっち相手とは言え、この体での打撃ごときでひびが入るような軟弱な体で、この小娘の前に出てきたとゆうのか」
「な、なぜ。……まさか、気付いていたとでもいうの」
聖竜王の発言についていけないリョウを無視して、プリンセスは聖竜王を問いただそうとする。しかし、聖竜王はリョウの顔で笑って誤魔化す。
「さてのぉ。わっちにはわかりやせん。ただ、……主達が神代行を気取っているのをわっちたちが気持ちよう見ているとでも思うておるのか。……リョウ、体は返すぞ。主も精進せよ」
ぐったりと顔色を変えてうなだれるプリンセスの前に立つリョウの体。その体から銀色の靄が抜け出すと、その靄は空気に溶け込むように消えた。
そして、宙に漂っていたリョウの意思は、あるべき体へと戻る。
「戻った……んだよな」
リョウは、別れていた自分の体の感触を確かめながらプリンセスへと目をやる。すると、プリンセスはリョウの胸倉を掴みその金色の瞳で彼を睨みつけた。
「リョウ! 知っていたのならなぜ邪魔をする! あいつがどれだけ危険な存在か分かっているのか!」
「いや、さっきまでの俺は聖竜王で、俺も奴が言っていたことの意味分からないし……」
ありのままを話すリョウだが、プリンセスは納得がいかないのかその手を放してはくれなかった。
「いい加減やめるのにゃ。それよりも、そろそろ始まるのにゃよ」
彼女はらしくないほどに怒りをあらわにしている。そんな彼女の襟首を掴んで後ろへ引き、リョウから引き離した人物がいた。
茶色く焼けた素肌に赤いアロハシャツを羽織り、わざと切り裂いたかのようなジーンズ、黒いサングラスを掛けていて、ビーチサンダルの夏真っ盛りな男性。
逆立てた水色の短い髪と両手首に何本も結び付けたミサンガ、首からかけた多くのドリームキャッチャーが印象的な魔物を統べる者の一人ジャックだ。
「ジャック様。あ、あの」
「言い訳はいいにゃ。とにかく、あの子をどうにかしなきゃいけないにゃ」
建前を作り私闘をしたこと、ジャックの退却命令を無視してここにいること、沢山の言い分という名の言い訳がプリンセすにはあったが、ジャックはそのようなものを聞くつもりはなく、現状の解決しか頭になかった。
「黒ジョーちゃんところの……リョウとかいったかにゃ。あの子達は、ちみのところの仲間かにゃ」
ジャックの登場に何をされるか分からなかったリョウは身構えていた。だが、その砕けすぎたしゃべり方に緊張を解かれて彼の指さす方を見た。
そこには、ほのかに青い二つの巨大なガラス玉の中に閉じ込められたミルとルリカの姿があった。
二人は、ガラス玉の中で心地よさそうに眠っているが、決して正常といえる状況ではなかった。
そして、そのガラス玉を両肩上空に携えた女性はリョウたち三人に微笑む。
「あら、思ったよりも早く済みましたのね。それに、子猫が一匹追加ですか。きっとあの子も喜ぶことでしょう」
16歳ほどの彼女の髪は露出した肩が隠れる長さほどで、癖に似たゆるいウェーブのあるジャックより若干濃い青色だ。
赤い瞳は、アヌビスの深く真っ赤な物やミルの赤茶気味とは違い、ガラス玉のような透き通った透明感のある赤だ。
それだけでも目を引くというのに、彼女は真っ赤で白いフリルが多く装飾されている服を着ている。
その服は夏用なのか袖がなく、白い腕が見えている。両手首には白いシュシュがありそこには足首まで届く細長く黒いリボンが付けられていた。
さらに、短いスカートから下は、黒いタイツで妙な魅力を放っているが、赤い靴を履いているあたりはまだ子供っぽいと思わせる部分もある。
ずっとめそめそと泣いていた彼女からは、想像もできない自信に満ち溢れた表情にリョウは驚き声がでなかった。
「ちみがユウナにゃね。一つ相談にゃんだが、その子達を解放してくれにゃいかにゃ。かわりに、今回はちみを見逃してやるのにゃ」
ジャックの申し出にプリンセスが睨みに似た目でジャックを見る。だが、話し方とは違いジャックの表情はいたって真面目なものであった。
だが、彼女は笑ってそれを拒んだ。
「お断りです。私もお腹が空いていますの。それに、そろそろ朝食の時間ではなくて? 食事前の軽い運動は、健康によろしいのですのよ」
彼女は笑みを見せながら両手を広げる。すると、ミル達を閉じ込めているものと同じ大きさのガラス玉が5個表れた。
それを戦闘意思有りと判断したプリンセスは、後方に下がり赤い光の球を右手に構える。
「仕方ないにゃ。リョウ、ちみはどうするかにゃ」
ジャックはジーンズのポケットに手を入れたまま首を曲げてリョウに聞く。
「正直な所、今のおいっちとプリンセスちゃんだけだと、ちょっちきついにゃ。できれば手伝って欲しいのにゃけど」
敵のはずのジャックがミルとルリカを助けてくれる。そんな意外な展開とチャンスが訪れた。
本当なら、一人で解決する自信のないリョウはすぐに協力するのが正しい判断だろう。
だが、ジャックを信じきれないリョウは、すぐには答えることができなかった。
「もういいにゃ。ちみは隅に隠れているといいにゃ」
たった2,3秒で考えていたリョウに見切りをつけてジャックは前に出る。
戦いにおいて僅かな思考停止が死につながる。特に前線で戦うリョウやジャックはその影響を大きく受けるだろう。
この程度の質問の返事に悩む者を今から闘う奴の前に出しては、ただ死んでしまうだけだとジャックは戦力外であると判断したのだ。
「ジャック様。私は……」
何か言いたそうなプリンセスの声は暗い。だが、ジャックはその暗さを晴らすかのように明るく砕けた言葉を優しく彼女にかけた。
「分かっているにゃ。おいっち頑張るから、プリンセスちゃんはゆっくり自分のペースで魔法を完成させてにゃ。退化中だからって、中途半端な魔法を撃ったら許さないにゃよ」
「は、はい。ジャック様」
ジャックの励ましの言葉でプリンセスの表情に自信と明るさが宿る。だが、今度はジャックの表情がよろしくなくなった。
「でも、おいっち一人はきついにゃぁ」
ヘスティアとナナとの戦い。時間をかけて怪我を治してここに来たジャックだが、魔力消費と疲労は相当なものである。
明るく余裕に弱みを見せずがジャックのこだわりであったが、相手のオーラの混沌さについ弱音を吐いてしまった。
「でしたら、私が協力しましょうか」
すると、リョウたちの頭上から声がした。
その声は、金属同士が擦れるキーキーという音の中から聞こえる。三人が頭上を見上げるとそこには機械で作られた竜がいた。
そして、そこから白い何かが落ちてきて、ジャックの目の前にふわりと着地する。
小さな膝まで届きそうな真っ直ぐで長い黒髪。作り物のような青い瞳は若干銀色を含んでいる。
彼女のイメージカラーである白のミニスカートとゴスロリ服には黒く細いリボンでの装飾があり、その服の手首まで隠す袖にはピンクのリポンが生地を縫うように飾られている。
足の露出を防ぐための白いニーソにも太もも付近にピンクの細いリポンが控えめだが目に付くように施されている。
そんな彼女は手作りのような継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみを大切そうに抱きしめていた。
そのぬいぐるみは、以前のような人間か動物か分からないものではなく、はっきりとウサギと分かる形になっていた。
真っ白な体。長く伸びて折れて垂れている耳。口は縫い目のギザギザで表現され、その目は大きなボタン二つで作られていた。
その軍人という名ではなくお嬢様と呼ばれそうな少女メネシスと、彼女を守るぬいぐるみの騎士イルが三人の前に現われた。
「おはようございます皆様。お困りのようでしたら、お手を貸しますが」
「グットモーニングだぜ」
突然の登場にリョウとプリンセスは呆気に取られているが、ジャックだけは笑っていた。
「いいにゃ、いいにゃ。まさかちみが手を貸してくれるとはにゃ。喜んで借りさせてもらうにゃ」
ジャック、プリンセス、メネシス、イルの4人に見つめられた彼女は、戸惑いの表情をしながらも、首を振って落ち着きを取り戻そうとする。
「そんな……どうして……。う、ううん。落ち着くのよ。そう、勘違い。私の勘違いなのよ。だから、大丈夫、大丈夫……例え、本物だとしても、今は私の方が有利なんだから」
そして、一度下ろされた顔だったが、彼女はその凛とした表情を取り戻して、メネシスたちを見つめ名乗りを上げる。
「私は、エルフィンズ、ナンバー2。ユウナ。夢をこの世にとどめる者。私と、妹たちの命のため、貴方たちの未来、食させていただきます」
この物語はフィクションです。
登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。
実際に存在するものとはなんら関係がありません。
一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。