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第58話 サルザンカの宝-『話をさせてください!』

「さ〜て、あたしの舞台の始まりだ。言っておくけど、あたしの歌は少し刺激的だからな」

 ヘスティアとジャックの周りを12色の粒子の淡い光たちが彩っている。その光景を見たジャックは感心したかのような口笛を吹く。

「すごいにゃ〜、……あ、ちょっち待ってにゃ〜」

 12色の光を浴びながら、ヘスティアは旗を大きく振りかぶってジャックに近づく。その進行をジャックは声で止めようとしたが、彼女が止まることは当然無い。

「うにゃ〜、しゃ〜にゃい。実力行使にゃ」

 ジャックは、がっかりと少し呆れを顔で表現してヘスティアを馬鹿にする。そして、右手を軽く振って、二体の上半身だけのゴーレムをヘスティアへ向わせる。

「集って、硬く、強くなぁ〜れ、鋼精霊群」

 ヘスティアの声に従い、大地・空・空気中と周囲の空間から溢れた粒子の中から、全ての鋼属性の粒子だけがヘスティアの旗に集まる。

 すると、風になびいていた旗は鋼の板となり、黒く漆が塗られた3mの棒も鋼へと材質を変える。

「砕け散りやがれ!」

 ヘスティアは、鋼の棒を横に力強く振る。そして、一体目を無理矢理に動かし、二体目にぶつけ、二体まとめて横に建ち並ぶ民家へとぶつける。

 中世の鎧のような形だが、所詮ガラス製のゴーレムだ。二体はレンガの壁にぶつかると、粉々に砕け散った。そのガラスの破片……と言うより粉末が宙に舞って、粒子の光と混ざり合い幻想的な風景を作り出す。

「次はてめぇだ!」

 そんな幻想的な風景に見とれているジャックを、現実世界に叩きつけるかのようにヘスティアは吠える。

 鋼が無くなり残り11色となった粒子と、ダイアモンドダストのようなガラスを全身に浴びて、輝くヘスティアはさらに速度を上げジャックの心臓目掛けて旗を突き出している。

 このまま見とれていたら、ゴーレムのようになってしまう。そこまでジャックは馬鹿ではない。

 ヘスティアがガラスの中に入ったことを確認したジャックは、ミサンガを一本引き千切る。

「光の反射。曲がり集まり虚像を生み出す。其は魔力をおびし逸脱しせりもの。存在定理の元集結しせり時、其は現実のものとなりけり」

 サングラスを怪しく輝かせ、笑うジャックに小さな危機感を感じていたヘスティアだが、攻撃をやめるつもりは無く、その足はさらに加速を続けた。

「くるのにゃ、裏切りのガラス兵士」

 ジャックが千切ったミサンガを宙へ投げると、ミサンガの糸は解けほどけて空気中へと消える。

「今更何かしてもおせぇよ」

 ヘスティアが旗を構える。だが、彼女がガラスのダイアモンドダスト区間からでようとすると、そのダストたちがヘスティアの目の前に集まり始める。

「またゴーレムか。馬鹿の一つ覚えって言うんだよバーカ」

 目の前に障害ができたヘスティアは、安全策のために強く地面を蹴って空へと上がる。そこからだと少し距離はあるが、ジャックに一撃入れることのできる場所へ降りられるだろう。

 だが、ヘスティアの目の前にダストの靄が追いかけてきていて、彼女の障害となった。

「追いかけてきやがって、邪魔なんだよ!」

 元はガラスだが、所詮粉末の靄。多少の目くらましにはなるが、防御壁にはならない。

 ヘスティアはそう判断して、落下後のジャックへの攻撃を上げるために、獣粒子を集めだす。

「足へ、最速獣。腕へ、筋肉の獣。おいで、獣精霊群」

 ヘスティアの声に答えて、オレンジの粒子がヘスティアの体の中へ吸い込まれてゆく。すると、ヘスティアの容姿は変わらないが、腕と足に獣の力が宿った。

 腕の腕力と足の脚力を上げた。力を上げるのなら、力属性の粒子の方が上昇の割合がよい。だが、力属性が維持できるのは一撃だけだ。

 それに対して、効力は劣るが、獣属性の長期効果を選んだ。それは、長期の接近戦になると踏んでの体の構成変換を選んだからだ。

 そう、ヘスティアは正しかった。正しかったが、詰めが甘かった。

「靄ごと叩き潰してやる!」

 ヘスティアが大きく旗を振りかぶりながら落ちてゆく。それと共に靄も下へ動く。

 すると、その靄は一点に集まりだし形を作り出す。

 小さな体。沢山ある短めの三つ編み。ベレー帽。装飾の多い服。そして、振りかぶっている長い棒。その棒の先には風になびく大きな布。

 そう、ヘスティア自身。ヘスティアを鏡に映したのかと疑いたくなるように瓜二つ。ただ、体全身がガラスでできているのを除けばだが。

「なっ、あ、あたし」

 だが、所詮ゴーレム。そう思ったヘスティアは、ジャックへ向けるはずだった力のこもった旗を、ヘスティアゴーレムの左肩へ打ち込む。

 叩き潰した。確かな感触を感じ取ったヘスティアだが、迂闊であった。

 ヘスティアゴーレムもヘスティアの動きを真似していて、ヘスティアが打ち込むのと同時に、ヘスティアの左肩へガラス製の棒を打ち込んでいた。

 ゴリッ。

「ぐっ」

 鈍い音を耳のそばで聞いたヘスティアは、ヘスティアゴーレムが粉々に砕け散るだけと言う割の合わない結果に苦い顔をして、地面に叩きつけられた。

 

 地面に叩きつけられると、ヘスティアの体が一度はねて、全身からオレンジと銀色の粒子が吹き出し、その粒子たちは消えていった。

 地面に叩きつけられたヘスティアは、タイルを叩き割り、空を見上げるように仰向けにさせられている。

「にゃはは、ちみ〜、考えなしに暴れるのは、いくないにゃ〜」

 左肩の激痛に苦しみ、起き上がるのが嫌になりそうなヘスティアだが、ジャックの声を聞き咄嗟に立ち上がる。だが、痛みのあまり、一度は立ち上がったが、崩れるように膝を着いて動けなくなった。

「うるせぇ!」

 ヘスティアは、ジャックを睨みながら、左肩を抑えて精霊を集める。

「集って、力を貸して、治して、力精霊群」

 今度は、紺色の粒子がヘスティアの左肩部分に集結する。すると、ほんの数秒でヘスティアは立ち上がり、左肩の感じを確かめながら旗を持ち構える。

「ひゅ〜。すごいにゃ〜。やっぱり、精霊使いって、万能なのかにゃ?」

「今頃気付いたか馬鹿。あたしは、グロスシェアリングの中で最強の騎士だからな」

 ヘスティアは胸を張っていっているが、ヘスティアが精霊以外で使える魔法は、力属性・風属性・光属性の三つだけだ。そして、召喚師以外に治癒術師が彼女の戦闘隊形だ。

 召喚の次に得意としている治癒術を自分に施しただけ。さらに、精霊の力もあって、効果は即効性で大きなものでった。治って当然なのだ。

「うんにゃ。落ち着いたみたいだにゃ。それじゃ〜」

「叩き潰す!」

 ジャックが話し始めようとすると、ヘスティアは病み上がりの体でまた走り出した。

 それに呆れてジャックはミサンガを一本引き千切る。そして、再びヘスティアゴーレムを作り出した。

 ヘスティアゴーレムも作り出されてすぐに走り出し、ヘスティアと寸分狂わぬ動きを見せる。

「同じことが二度きくともうなよ馬鹿」

 だが、ヘスティアも同じミスをするようなことは無い。急ブレーキをかけて止まる。すると、ヘスティアゴーレムも止まる。

「集って、流れる、冷たい、水精霊群」

 ヘスティアが地面に旗を刺すと、それを真似してヘスティアゴーレムもガラスの旗を刺す。

 だが、二人の決定的な違いは、魔法が発動するかしないかだ。

 ヘスティアゴーレムの方はもちろん何も起こらない。だが、ヘスティアの旗には青の粒子が集まる。

 緑色だった旗に青い粒子が集まり、青く染まる。そして、地面に突き刺していた旗をヘスティアが引き抜いた。

「溺れろチビ!」

 ヘスティアが叫ぶと、地面に開いた穴から大量の水が噴出した。その水は群れを成し、大群でヘスティアゴーレムとジャックを襲う。

 だが、水量が少ない。ジャックの腰付近ほどにしか届かない川のようなものだ。足に踏ん張りを入れれば流されることの無いものだ。

「力不足かにゃ?」

 不思議を通り越して半分馬鹿にしているジャック。だが、ヘスティアが真面目で鋭い目付きをしているのを見て、何か見落としているのではと周りを見た。

 そこには、脇付近まで水に浸かったヘスティアゴーレムがいた。

「集って、回れ回れ、ぐるぐる回れ。あたしの風と共に回れ。風精霊群」

 ヘスティアが大きく旗を振ると、緑の粒子が旗を中心に渦を作りながら集まる。

 粒子の渦は風となり、竜巻となる。そして、ヘスティアゴーレムとジャックを飲み込んでいた水は、その風につられて回り始めた。

「くく、にゃるほど。水流。渦潮にゃね」

 ジヤックは強く足に力を入れる。だが、足が持っていかれそうになり動けずにそこに留まるので精一杯であった。

「てめぇはどうでもいい。チビがいなくなればな」

 そう、ヘスティアの目的は体の小さな自分と同じヘスティアゴーレムであった。

 体のほとんどが渦潮の中にあったヘスティアゴーレムは、簡単に渦の中へと飲み込まれて出てくることは無かった。

 小さな自分の体の弱点は、自分自身が一番よく知っていると言うことだ。ヘスティアは、自分の小さな体の脆さに、作戦が成功していながら悲しくなっていた。

 ヘスティアゴーレムがもし平気だったら、ヘスティアは少し喜んでいたかもしれないぐらいだ。

「にゃ、不味いにゃ」

「集って、作って、水を走るもの。機精霊群」

 ヘスティアが左手を天へかざすと、灰色の粒子がその手に集まる。機粒子。機械を作り出す魔法だ。

 ヘスティアの手には、2mほどの楕円形をした灰色の板が舞い降りた。

「水上舞台。あたしの新しい試みだ」

 灰色の板を小脇に抱えたヘスティアは、その板を渦潮に叩きつけて板に飛び乗る。

 すると、ヘスティアを乗せた板は、渦に飲み込まれること無く、真っ直ぐジャックへと進む。

「ま、まず、不味いにゃ」

 ジャックは渦潮でその場所から動けない。

 動こうと思えば動けるだろう。だが、足が滑って渦に飲み込まれたら最後。浮かんでくることはできないだろう。

 ゴーレムに空中から助けてもらう。その選択肢もあるが、そのゴーレムを叩き潰されたら、渦の中に崩れた体勢で落ちるかもしれない。

 ジャックの得意技。空間移動。これが脱出手段に最も適している。だが、動けないこの状況では、入り口に飛び込んだりはできない。

 したがって、ゲートは足元に広げるしかない。足場が無くなりゲートに入るか、渦に体を持ってかれるか、どちらが先かジャックには分からなかった。

 それに、無事ゲートに入ることができたとしても、そこから大量の水も入ってくる。空間移動中や出口から出た途端、大量の水で溺れる。そんなことも十分考えられるのだ。

 そして、ここで出したジャックの答えは……。

「一撃ぐらい我慢できるにゃ」

 我慢。覚悟を決めてジャックはドリームキャッチャーを一つ手に取りヘスティアの打撃を待った。

 その威力から考えて、打ち上げられるか突かれれば外へ飛ばされて、叩かれれば渦潮の中に叩き込まれる。

 後者は最悪だが、ヘスティアも始めて使う水上移動機械。その動きはフラフラしていて、今にも落ちそうだ。

 旗を前へ突き出す槍のような構えからみても、体当たりのような攻撃を仕掛けてくる。叩きつけるような足場に踏ん張りが必要な技をヘスティアがするはずが無い。ジャックは自分の天性の運を信じた。

 だが、ヘスティアはさらに上を行っていた。

「集え、集え、ビリビリ、全身に走る痛み。雷精霊群。混乱、筋力減、呪精霊群」

 板に乗ったまま、恐れを知らないヘスティアは旗を大きく振る。そして、黄色と紫の粒子を集めた。

 雷を帯びた旗。その全体からは紫色の不気味なオーラが漂っている。

 魔法強化は予想していた。だが、そこまでとはジャックも思っていなかったようだ。

「二つも同時なんて卑怯にゃ」

「黙れ馬鹿! 叩ける時に叩く。それがあたし流だ!」

 旗をジャックの胸元に突き立ててそのまま渦潮の外へ押し出す。

 そして、ジャックはいち早く空間移動で退避しようとする。だが、ヘスティアの攻撃は流れるような動きで隙が無かった。

 ジャックを斜め上へ持ち上げて旗を強く押す。

「呪われた雷撃弾。発射」

 突き出されたジャックを襲ったのは、紫色をした雷撃だ。その雷撃と押し出された威力で、ジャックは数十メートル先まで飛ばされた。

「にゃ、ぐ、体が、あれ?」

 ジャックが立ち上がろうとする。だが、動くのは右腕だ。逆に右腕を動かそうとすると首が動く。

「雷撃での筋肉痙攣。さらに、呪魔法での体の混乱。しばらく思い通りに動けねーからなバーカ」

 ヘスティアがジャックを馬鹿にして、周囲に残った粒子たちを見て大きく背伸びをした。

「残ったのは炎・地・光・闇・風が少しだけか。結構使ったな」

 ヘスティアはゆっくりジャックへ近づく。ジャックは抵抗なのかあちこちの体を動かし続けていた。どうにかして体を思うように動かしたいのだろう。だが、そんな努力をヘスティアは無意味だと言い張る。

「探っても無理だぞ馬鹿。定期的に入れ替わるから、読み解くのは不可能だ。大人しく解けるのを待ってな馬鹿」

「にゃ、そんな感じだにゃ。でもにゃ、二箇所だけ動かせられれば、それでいいのにゃ」

 にゃやりとジャックは笑うと、器用に探り見つけた右手の人差し指と親指をあわせて、音を鳴らした。

「悪夢の元を捕獲するのにゃ」

「呪い! いや、光か!」

 音と共に突然現われた広域の魔力をヘスティアは探した。あまりにも巨大で、全空間からその力を感じて、すぐには位置を特定できなかった。

 だが、魔法が動き出してすぐに分かった。

 空。そこには、真夜中の空の星を結ぶような白線。蜘蛛の巣のような規則的なものではなく、不規則なもの。大きな網目や小さな網目、手作りのようなそれ。巨大なドリームキャッチャーがヘスティアの上空に広がっていた。

「月影の〜縛りとどめる。悪夢たち」

「く、逃げ切れない」

 その捕獲魔法。それは、メネシスのものと同じで、ドリームキャッチャーの影内部にあるものを捕獲するものだ。

 ヘスティアは必死に走った。だが、ドリームキャッチャーの影は巨大で、その影の領域からヘスティアは逃げ切れなかった。

 全身に糸を結ばれたかのように、ヘスティアは体の自由を奪われその場に座らされる。

「くそ、あたしの、馬鹿野郎」

 糸の影に縛られたヘスティアは、なんとか立ち上がったジャックを睨む。

「にゃ〜、ようやく止まったにゃ〜。さ〜て、呪いが完全に解けるまで、お話でもするかにゃ」

 ジャックは、まだ全身が震えている。それでも、自分の方が断然有利だとヘスティアに言うかのように笑って見せた。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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