第56話 サルザンカの宝-『昔話もほどほどに』
金属パイプを繋いだような腕と足と肋骨と背骨。肩や骨盤などの広い部分は、鉄板がその形を作っている。
全身金属の体。その体で人間の皮膚があるのは、顔と右足の一部分だけだ。そんな人間の体の形をしているが、手首から生えて肘にまで届く三日月のように弧を描く刃が両腕にある。人間を捨てた戦闘用の体だとそれは語っていた。
その右足も、肉がない部分があり、そこからは金属パイプが覗いている。
頭部から生えているのは、彼自慢の黒髪ではなく黒く細いコードの群れだ。その一本一本に針のような端子がついている。さらに、それを束にして太いものにしたものが彼の両肩から生えていて、左右対称に24本ある。
それらより太く地面に着くほど長い一本のコードは、尻尾のようだ。その先端にも一本の細い針が付けられている。
そんな人間の体とはいえない姿を、極力隠すように彼はボロボロにされた緑色のローブをまとっていた。だが、ほとんどの部分が人前にさらされている状況だ。
まあ、今彼の周りにいるのは、声を出せなくなった人間たちと、生きることができなくなった魔物しかいない。唯一話すことができるのは、メネシスと彼女のベストフレンドのイルだけである。
この秘密はリョウを除くアヌビス部隊の仲間と、グロスシェアリング騎士団の数名ぐらいにしか知られていない。もちろん、敵軍人に知られるのは、彼にとって屈辱である。
敵に知られていないのには理由がある。このポロクルは軍師や学者の彼ではなく、処刑執行部隊の異名を持つアヌビス部隊のポロクルなのである。そんな実力主義の部隊の彼は、罪人を逃がしたことが無いのだ。
そんな記録を持つポロクルだが、メネシスとイルが徐々に姿勢を変えていくのを見て、全身からゆるく蒸気を出した。
「まあ、流石の私でも、リクセベルグ最強魔術師を自負するメネシス相手に、無敗記録を維持できるとは思っていませんが……」
その金属の頭蓋骨の中の脳みそで簡単な確率の計算をして、ポロクルは夜空に停滞する機械竜と真夏の星の位置を読む。
「別れてから12分。ミル達の足を考えると、あと23分で街の外。さらに15分で安全区域。38分の時間稼ぎが理想。……成功率14%ですか」
金属の体で唯一残された人間の顔。その四割は金属がむき出しになっていて、微細な動きができない。だが、確実にその顔は笑っていた。
「すみませんねヘスティア。この体に残った学者の脳の私は、逃げろと叫んでいます。ですが、私のこの体は、戦って仲間を守れと叫んでいます。ヘスティア、貴方なら分かってくれますよね。……もし、もう一度初めからやり直すときが来ても、貴方だけは、私の側にいてくれますよね」
ナイフの刃が並んだような右手を重々しい表情で見つめながら、ぼそぼそと小さな声で独り言を繰り返していたポロクル。その小さな独り言は、離れているメネシスたちには届いていなくて、メネシスとイルはポロクルに攻撃を仕掛けられる体勢であった。
「その体。魔物……いいえ、あの子と同じ機械人形ね」
メネシスは自分の人形である上空の機械竜を指さす。だが、ポロクルは首を振る。
「そうですね……少し、昔話を聞いてもらえますか」
そのガラス玉のような赤い瞳で見つめるポロクルの台詞に、メネシスは少し拍子抜けをする。
だが、戦闘をしないでここで時間を過ごすと言う相談は、メネシスにとっても都合のよい話であった。だが、それに感づかれないように、メネシスはいつものように小馬鹿にしながらその方向へと運ぶ台詞を選んだ。
「あら、よろしいのかしら。お仲間達を助けに戻らなくても」
「ええ、アレクトがいるのです大丈夫でしょう。それに、ヘスティアもいます。私がいなくとも問題ありません」
思うような返事をしてくれたポロクルに、メネシスは悟られないように策が成功した喜びを殺す。そして、彼女は目の前にいる2本足で立ちながらポロクルの攻撃を待っていたイルを抱き上げる。
「マイベストフレンド。どうしたデース」
メネシスとポロクルの暗黙の了解を理解できないイルは、小さな体には不似合いな大きな頭を持ち上げてメネシスの顔を見る。
メネシスは子供にも分かりやすいように説明をイルだけに聞こえるように耳打ちする。
「彼が何を考えているのか分からないけど、時間をくれるらしいわ。私の魔法はまだ発動中。彼がそれに飲まれるまでの時間を稼ぐには丁度いいわ。それに、貴方もそれ以上動くと、終曲まで踊れないでしょ。体のことを考えないで、初めから全力で踊るのは貴方の悪い癖よ」
「ソーリー。マイベストフレンド」
落ち込むイルを慰めるかのようにメネシスは強く抱きしめる。
「ふふ、でも、頑張り屋さんの貴方は大好きよ。さてと、少し舞台を降りましょうか」
再びポロクルを見て、メネシスはイルを抱いたまま地面に座り込んだ。
それが了解だと判断したポロクルは、長い尻尾を地面に突き刺して、姿勢を崩した。
「では、話しましょうか。私のこの体の話を」
ポロクルがそう切り返すと、メネシスはパチパチと手を叩いた。
「シルトタウン。は、ご存知ですよね。リクセベルグの武器製造を一手に担っているヘスティアの治める街です。そもそも、シルトタウンが武器の街になったのは、3000年前までに戻ります」
3000年前。それは魔法が最も栄えた時代だ。魔法が栄えるのに比例して、魔法によって動く物や兵器が多く作られた。そして、世の中は魔法を中心とした世界となっていく。
すると、今の世界を変えようと、対魔法兵器を作り出す一派が現われるのは、考えられないことでもない。
「12神の粒子に支えられた魔法中心の世界。そんな世界に疑問を持った魔法反対組織の巣窟が、今のシルトタウンがある山だと言われています。魔法兵器に対抗する彼らの強力な武器である対魔法兵器の開発には、もちろんのこと対策対象となる魔法兵器が必要です」
ある強力な魔法兵器がある。それに対して対魔法兵器が作られる。その対魔法兵器を超える魔法兵器、それを越える対魔法兵器。
それの繰り返しが3000年前のシルトタウンで行われていた。武器開発と言う枠でくくるのなら、今のシルトタウンとなんら変わらないのかもしれないが。
「そんなことがあり、巣窟が崩壊させられた今、残されたシルトタウンの山を削れば、魔鉱石と共に大量の魔法兵器と対魔法兵器が発掘されます。その兵器や過去の歴史を研究するために、各地から多くの学者が集まり、自然と家ができ、町ができ、そして、今のシルトタウンが生まれました。そんなシルトタウンに訪れた学者の一人が私です」
「ようやく歴史のお勉強は終わりですか。私が知りたいのは貴方の生い立ちです。ねぇ、イル」
「アイサー。そんな魔法歴史、アホのクミでも知っていることデース」
「ゴホン。二人とも、私語は慎んでください。まったく、話の腰を折らないでいただきたい」
講義の最中に茶々を入れられたポロクルは、わざとらしく注意をする。体の見た目は、機械なのに、中身は教師のポロクルとなんら変わりない。それに、メネシスもイルも敵のポロクルにしたがって大人しく話を聞いている。
戦闘意欲が殺がれた。そう思われるかもしれないが、双方にはそれなりの考えがあっての停戦状態なのだ。
「シルトタウンで私は、魔法兵器の発掘と再現の研究をしていました。発掘されるもので、完全な状態のものは皆無で、動かないものばかりです。今の学問や資料では、それを修繕するすべは少なく、使い物にするにはかなりの時間を有しました。それでも、100%の力を再現できたとはいえませんでした。中には、魔道書の内容が必要なものまであるほどだからです」
ポロクルが時間稼ぎをするのは、アレクトたちのためだ。
彼女達は子供であるミルとルリカと共に逃げている。ヘスティアの魔法で体力と身体能力を上げているとはいえ限界がある。
メネシスの目的が、ミルとルリカの争奪だと知った今。彼女達の所へメネシスを向わせないのがポロクルの目的だ。
最も理想なのは、メネシスとイルを倒すこと。だが、先ほどの戦闘でその実現の確率が限りなくゼロに近いと計算したポロクルは、別の方法としてこれを選んだのだ。
「発掘した兵器を修理しながら過去の技術を知る。私には最高の街でした。そんなある日、私はある古代兵器を発掘したのです」
メネシスの目的は、洗脳魔法の成功と体力の回復がある。
「その古代兵器は、多くの部品の集まりでした。一つ一つを発掘して、一つにまとめると、それは人間の形をした……まさにこの体のような人形でした」
「まさか、貴方がその古代兵器だとでも言いたいのかしら」
メネシスの機械竜の影に覆われたこの一帯は、彼女の洗脳魔法の領域だ。先ほどのルリカの変わりようで分かるように、その洗脳魔法の効果は、メネシスの誘惑の言葉に飲まれてしまうことだ。
その洗脳魔法の効果と領域の広さのため、実力者を洗脳成功するためには大量の時間を有する。そのためにポロクルをこの場所に縛り付けることが彼女の目的の一つである。
洗脳魔法さえ成功してしまえば、他者が解除するか、対策魔法を自分で施していない限り、逃げるすべはなくなる。
自分で自分の頭を割ってみて。メネシスが優しく呟くだけで、洗脳された者は何のためらいも無くそれを実行してしまうほどだ。
「半分正解。半分不正解ですね。その古代兵器には核となる部分が破損していました。自己判断装置と粒子収束装置と魔力製造装置です。兵器としては致命的な欠陥です。魔力製造装置は、若干ですが修復できましたが、後の部分はまったくと言っていいほど直すことができませんでした。特に、主力となる自己判断装置は皆無です」
メネシスのもう一つの目的。それは、イルの体力回復がある。
イルはその体の作りから、魔物の統括者クラスの強力な魔法を使うことができる。さらに、その獣じみた身体能力をもつ。まさに、それはエルフィンである。
「そして、粒子収束装置を作り出そうとした時、事故が起きました。古代の収束機に現代の器を使ったのが不味かったのでしょう。昔の収束能力を現代の器が耐え切れず破裂。実験室もろとも、古代の粒子爆弾により吹き飛びましたよ」
だが、その膨大の力を持つイルには、体力がない。それは、体の維持が深く関係している。
今までイルが見せていた魔法属性は、地・力との苦手属性の関係にあたるものだ。さらに、公開されてはいないが、イルが使える魔法属性は他に獣・鋼・炎・雷・光・風と8種類にも及ぶのだ。
「さすがの古代兵器ですね。山の肌を大きく削る爆発でも、古代兵器は無傷で残りました。まあ、私が全身で守ったからかもしれませんが。……おかげで、私の体はほとんど吹き飛び、無傷で残ったのは、この脳だけでした」
体内に二組の反属性を持つイルの体が崩壊しないのは、メネシスの力が関わっているからだ。
これは、魔法学の一部で難解なものなのだが、簡単に言うと、全身が均等に崩壊していく体に、一種の多量の粒子を注ぐ。すると、それを中和しようと、他の粒子が崩壊しあうのを止め、中和にまわる。それによって、体の崩壊を防ぐのだ。
「当初は、脳だけを残す手段を検討されたそうです。ですが、私の師であり憧れの学者である人物が、私の体として古代兵器を使う案を出してくださったのです」
イルの体を構成している粒子の中には、風・光・獣・力・雷があるのだが、これは、呪の苦手属性となっている。
イルの体内に呪属性の粒子を注ぐことによって、それら5つの粒子が呪属性を中和し始める。したがって、イルの体に残るのは、炎属性と地属性と鋼属性だけとなる。
もちろん、中和に回るだけであって、その属性の魔法は使うことができる。だが、その中和に回っている5属性を大量に使うと、バランスが崩れるのが早くなり、体力切れも早くなるのだ。
「古代兵器に足りなかったのは、自分で判断をして行動する自己判断装置。空間中に漂う粒子を体内に取り込み、一点に集める粒子収束装置。取り込んだ粒子を繋ぐために必要な魔力を作り出す魔力製造装置でした」
そのため、イルは戦闘をする際には、メネシスに呪属性の粒子を体内に補充してもらわなければならないのだ。
本来なら、メネシスの演目魔法の度に補充されるのだが、後先を考えないイルの行動で、予想以上の消費をしてしまっていたのだ。
「足りないそれらを私の体を使って、私の足りない体を古代兵器を使って、私はここにいます。人間の脳と能力を持ちながら、体は古代兵器。差し詰め、私は生きる古代の遺産と言った所でしょうか」
それを取り返すために、イルに再充電する時間が必要なのだ。
「さて、私の生い立ちはここまでです。……時間が足りませんね。これだ話しても、あと21分。成功率24%と言った所ですか」
二人が目的を達成する時間。どちらが早いか。それが勝負の分かれ目であった。
だが、先に動いたのはまだ時間が足りないポロクルである。
ポロクルが動くと、メネシスもイルを抱いたまま立ち上がる。
「イル。足りないと思うけど行ける?」
「アイサー。マイベストフレンドを守るのは、マイ、ポリシーデース」
イルは元気に返事をすると、メネシスの腕の中から飛び降りた。
メネシスが心配するのも無理はない。補充できたのは30%程度だ。負けはしないだろうが、それなりの結果が生まれそうだと不安がある状況である。
「やれやれ、この体になると、乱暴な解決策しか思いつきませんね。軍師として、悩ましい体です」
「ノット、スピーク。ネクストステージ。イッツ、ショーターイム、デース」
無いはずのメガネを持ち上げる仕草をするポロクルを無視して、イルが走る。
イルの中には単純な考えしかない。用は自分の体が崩壊する前にポロクルを倒せばいいだけの話だ。
その走り方と勢いで、イルの考えはメネシスにもポロクルにもバレバレである。だが、ポロクルは動かず対策を見せない。
「イル。不用意に飛び込んでは」
「ドント、ウォーリー。マイベストフレンド」
余裕を見せるイル。だが、メネシスの目には、不安が見えた。
それは、ポロクルの体だ。彼の尻尾のような太いコードと、肩部分から生えていた24本のコードの先端が全て地面に突き刺さり、その姿が見えないことだ。
「まさか。イル、戻って!」
「あ、アイサー?」
いつにない大きな声を出したメネシスに驚き、イルは砂煙を上げながら急ブレーキをかける。
だが、イルの足はポロクルの罠の内部に入ってしまっていた。
「貴方の罪。読ませてもらいます」
イルが振り返ろうとした時、イルの足元の地面が割れて、そこから蛇のようなコードが何本も現われた。その先端は針のような端子があり、その端子全てがイルに向いている。
そして、その端子は、イルの体を突き刺そうと次々と襲い掛かる。それはまるで、一本一本が意思を持ったかのような動きである。
「ノンノンノン。ベリーイージーな、アタックデース」
だが、攻撃があてにくい小さな体に加えてイルは、急発進と急停止の組み合わせで、小刻みな動きをしながらその攻撃を避け続ける。
そして、小さなジャンプ。それでも避けられない時は、自慢の豪腕で叩き落す。それを繰り返しながら、その場に留まり続ける。決して、メネシスの元へは戻ろうとはしなかった。
「イル。戻って来て」
「ソーリー。マイベストフレンド。それはノーなのデース」
今、ポロクルの標的になっているのは自分だけだと思っているイルは、メネシスのところには戻れない。
確かに、メネシスのところに戻れば力を補充できる。だが、それはメネシスを危険にさらすことになる。メネシスを守るイルの考えに反するのだ。
だが、力の補充が完全ではないイルの動きは、急激に悪くなった。その一瞬の停止が、紙一重の回避術の失敗になった。
「おっと、ミステイクデース」
「計測開始」
苦く笑うイルを、ポロクルの端子の針が襲う。
「イル!」
メネシスの叫ぶ声も意味無く、柔らかい白い布と綿の体に針が突き刺さる。そして、イルが宙へと持ち上げられて動かなくなる。そして、ポロクルもピクリと動かなくなる。
相手の記憶を読む力。読心術とは違い、相手の忘れた記憶でも読むことができる技だ。
深く暗い風景。
呼ぶ声で光がまぶしく輝く。
そして、目の前に映る二つの影。
大きな影は自分に微笑み、小さな影は自分を抱き寄せる。
黒く長い髪が頬に触れこそばゆい。
「パパ、ありがとう」
「はは、いつも一人にしてすまなかったね」
ぎゅっと抱きしめられる圧迫感。苦しくなく心地良い。
低い目線。揺れる風景。温かい背中。
初めて見る絵。初めて見る地図。初めて見る家。
どれもが初めて、不安が心を突く。
だけど、頬をくすぐる黒髪と、彼女の声がそれを忘れさせる。
「私の初めてのお友達。パパから貰った初めてのプレゼント」
「ユーアーネーム?」
あやふやな記憶が口を動かせる。
そのぎこちない自分の言葉に、彼女は笑った。
笑った。笑ってくれた。
何て幸せなんだろう。そして、何て暖かいんだろう。
「私の名前はね―――」
「イルから離れて!」
ほんの数秒ほどの夢。その夢からメネシスの獣の爪で切り裂かれて、叩き戻されたポロクルは、尻尾とコードを回収して両腕を構える。
だが、メネシスの追撃が無く、メネシスはイルを抱きしめて後ろへ大きく退く。
「イル。大丈夫。イル、返事をしてよ」
小さな白いぬいぐるみを抱きしめながら、メネシスは何度も魔力を注いでいた。そして、イルはゆっくりと動き、メネシスの濡れた頬を撫でる。
「グット、モーニング。マイベストフレンド。アイム、ユア、フレンド。ずっと、ずっと、ずっ〜と、友達で〜すよ」
「あの〜、二人の感動を邪魔するのは、大人として反省すべき点なのですが、戦いの最中だと言うことをお忘れですか」
ポロクルの言葉にイルは向きなおす。だが、体力切れのイルは動きがぎこちない。メネシスの補充がされたが、メネシスの演目魔法無しでは戦える状況ではないだろう。
「イル。動かないで、私が時間を稼ぐから」
「それはノーなのデース。彼は、戦闘型になっているのデース。マイベストフレンド一人には、辛い相手なのデース」
だが、イルの忠告を聞かず、メネシスはイルを地面において一歩前に出る。
「大丈夫。私、強いんだから。意味も無く長女を名乗っていないわよ。それに、そろそろだから。彼女が来るまでなら……」
と、メネシスが鋭い刃のような瞳でポロクルを睨むと、彼ら三人を切り裂くかのような魔力が流れた。
それは、刃のように冷たく研ぎ澄まされていて、人間とも魔物ともいえない混沌とした魔力。
だが、その中には、野生の感を刺激させられるような、狩られるような、獣の瞳に睨まれている錯覚も受ける。
「今の魔力は何ですか……」
今までに経験したことの無い類の魔力に、ポロクルは片膝をついて周囲を警戒する。だが、その魔力は、爆風のようなもので、一度しか訪れなかった。
ポロクル以上の反応を見せていたのは、戦う決意をしたメネシスとイルの方である。
「今のは、彼女の魔力」
「イエース。シスターズデース。バット、ミステリアスパワーデース」
「ええ、今は真夜中。あの子ならともかく、なぜ彼女の魔力が……」
メネシスはイルを抱き上げると、ポロクルに一礼する。
「すみませんが、これにて失礼いたします」
「それで、はいそうですか。と、見逃すとでも思うのですか」
「ご安心を。もう、シルフエル家の娘とかの話どころではありませんので」
メネシスは、軍人としては大罪の職務放棄をその口にした。
「職務放棄……それこそ信じられませんね」
強気に出ているポロクルだが、メネシスがこんな事を言い出したことぐらい自分の体を見ればすぐに分かることである。
「信じてもらわなくとも結構です。ですが、私たちには、国以上にやらなくてはならないことがあるのです」
メネシスが右手を上げると、ポロクルを指さした。ポロクルは抵抗しようと身構える。だが、全身に満ちた呪属性の粒子の暴走を抑えることができなかった。
「その体、糸が切れたかのように動かないで」
メネシスの優しい言葉に従うようにポロクルは膝を着いてしまう。
メネシスも急遽発動させたようで、自殺させるほどには行かず、体の自由を奪う程度で済んだようだ。
ポロクルの動きを封じると、メネシスは機械竜を大地に着地させる。
「それでは、また会う日があれば。その時は、終曲までお付き合いください。……腐れ切った神の政治に踊らされた者達の、遺産でできたゴミ屑野郎さん」
メネシスはそれだけを言い残して、夜空へと飛び去って行った。
この物語はフィクションです。
登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。
実際に存在するものとはなんら関係がありません。
一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。