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第55話 サルザンカの宝-『メネシスのベストフレンド』

「さあ、演劇の始まりよ。演目は『継ぎ接ぎされた子供のワルツ』。作者は、その才能を世の中に知られていない私の大好きな演劇作家、サルザンカよ」

 メネシスの差し出した右手に答えるかのように、地面に置かれていた動物とも人間ともいえない継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみが2本の足で立ち上がる。

「サルザンカですって」

 ポロクルはメネシスの言葉に露骨な反応を見せる。それもそのはずだ。サルザンカは、学者としてみるなら、エルフィン理論。芸術家としてみるなら、子供の館を含む名作たち。その二つの分野に関しては、独特の世界観を持ち優れているとして有名なのだ。

 そんな彼が演劇作家という話は、ポロクルでも知らないことであった。

 新しいサルザンカの秘密を知ったポロクルは、妙な嬉しさが生まれていた。

 だが、今は戦闘中。ポロクルは高ぶる興奮を振り払ってメネシスを視界に捕らえる。メネシスも戦う意欲があり、メネシスの言葉に従いながらぬいぐるみが動き出した。

「第一曲、生れ落ちた罪。イル、行くよ」

 メネシスの呼びかけに、ぬいぐるみは傾いていた頭をぎこちなく上げ、その二つの黒いガラス玉を輝かせた。

「アイアイサー。マイ、ベスト、フレンド」

 その了解をした途端。ぬいぐるみの動きがスムーズになる。その聞きなれない言葉と本格的に動き出したぬいぐるみを警戒して、ポロクルはぬいぐるみに銃口を向ける。

「銃弾は水。数は1。連続自動射出。引金を引き開始とする」

 ポロクルは詠唱とともに右手に持った5cmほどの青い光る棒を空中に走らせる。すると、リクセベルグ国で使われているネザー文字が青い光で書かれる。その文字はポロクルの詠唱と同じで、書き終えるとポロクルの左手に握られた銃に吸い込まれていく。

 そのポロクルの黒い銃は、回転式拳銃と呼ばれるリボルバー式の銃ではなく、弾倉と呼ばれるマガジンがある自動式拳銃の方だ。

「銃弾確保。安全装置解除。照準前方ぬいぐるみ」

 ポロクルがぬいぐるみに銃口を向けると、ぬいぐるみも戦闘開始だと理解して、動き出す。その小さな両腕を広げ、小さな足を小刻みに動かしながらポロクルに近づく。

「キキキキキ、一撃は、肉を裂き〜。二撃は、骨を折る〜。三撃目えぇで、バァラバラ。イッツ、ショ〜タイム」

「させませんよ」

 ポロクルが地面を走る小さなぬいぐるみを捉えた。そして、引金を引く。

「イル、ジャンプ。舞うように回り、ご挨拶」

「アイサー」

 弾は射出されたが、銃弾が届く前にぬいぐるみはメネシスの命令を実行する。

 ぬいぐるみは、高速で走っていた足を一瞬で止めて、その場から垂直にジャンプする。ポロクルに、その小さな体にどれほどの力があるのかと、疑問を持つほどのジャンプ力を見せ付けた。

 30cmほどの身長しかないぬいぐるみが、5mの垂直跳びを簡単に成し遂げる。

 白いぬいぐるみの体が暗闇に目立ち輝く。そして、真っ直ぐポロクル目掛けて落ちてきた。

「銃弾再補充。数は12」

 ポロクルは銃を軽く叩き失った弾を補充する。さらに、相手のあの動きは銃弾一発で当てられるものではないと判断して多めに補充した。

「空中ではその俊敏な動きもできないでしょう」

 多めに補充した銃弾の入った銃を空からゆっくり落ちてくるぬいぐるみに向ける。そして、12発全て発射した。

 空中では高速で動く銃弾を回避するすべは少ない。だが、ぬいぐるみもメネシスも慌てるそぶりを見せない。

「イル。叩き潰して」

「アイサー。バンバンバーンのドッカーン。マッスル、マッスル、マックスアームパワー」

 暗い闇を進む12発の青い銃弾。それが群れでぬいぐるみを襲う。

 だが、ぬいぐるみは、その小さな体には不似合いな太い両腕を振りかざす。白い布で作られたその2本の腕は、糸の縫い目が見えて弱々しいものに見える。

 だが、その両腕とぬいぐるみ全身に紺色のオーラが集まり始める。

 そして、その魔法で強化された腕で、ポロクルの銃弾を叩く。本当なら、布と綿で作られたぬいぐるみの腕で魔法弾に触れたら、何の抵抗も無く腕が吹き飛ばされる。

 だが、ぬいぐるみの両腕は魔法で強化されている。そのぬいぐるみの腕力も加わり、銃弾に負けない力で銃弾を殴り潰す。

 水属性で作られた魔法弾は、殴られると水しぶきとなって消えていく。

「駄目ですか」

 自分の攻撃では止められない。そう判断したポロクルは、真上に落ちてくるぬいぐるみから少しでも距離をとろうと、動きにくいローブを引き摺りながら後退する。

 銃弾の群れを全て水しぶきに変えて、ぬいぐるみはポロクル目の前に着地する。落下の勢いと、その強化された腕の力を合わせて地面を叩く。

 すると、タイル貼りの道に着地したぬいぐるみ周辺のタイルが、突風に吹き上げられた枯葉のように舞い上がる。

 銃弾のお返しのように、タイルの群れがポロクルを襲う。一発一発は地味な攻撃だが、群れで襲われて、ポロクルは緑のローブの袖で顔を守った。

「キキキ、肌を少し切った。イッツ、ウイークポイント」

 守って致命傷は避けたが、ポロクルの頬には切り傷ができて、一筋の血が流れていた。

 そんなかすり傷よりも、ポロクルはぬいぐるみの力に疑問を持ち始めてしまう。そして、戦闘意欲より研究意欲が溢れ始めて、戦闘に集中できなくなってきていた。

 ポロクルの目的は、メネシスをアレクトたちが守るルリカとミルのところへ向かわせないことだ。

 このまま自分を犠牲にして時間稼ぎをするのも作戦だが、ぬいぐるみだけで十分だとメネシスが判断したら、すぐに向うだろう。

 だから、勝つ事ができなくとも、負けすぎない程度に戦うのが必須だ。

 だが、メネシスの広域洗脳魔法はいまだに健在だ。長時間ここにいるのは、本格的に不味い状況である。

 ポロクルが洗脳されてしまったら、その容姿を利用されアヌビス部隊に、さらには、王都へ直接攻撃を与えることができるからだ。

 だからと言って、メネシスの前から逃げたら、メネシスはポロクルではなくアレクトたちを選ぶだろう。

 時間稼ぎも、後退も選べない。そんなポロクルにある選択肢は、完全勝利。それだけだ。

 なのに、ポロクルの学者としての頭脳が、謎の力に持っていかれてしまう。緻密に立てられた呪属性魔法使いとの戦闘プログラムの実行が上手く処理できないのだ。

「紺色のオーラ……なぜ、ただのぬいぐるみが力属性の魔法を使えるのですか」

 ぬいぐるみが魔法を使えるのは、今までの戦闘スタイルから、メネシスが力を与えているからだと予想できる。

 だが、メネシスの専門は呪属性魔法での洗脳だ。呪属性の正反対の属性で使うことのできないのは獣属性なのだが、力属性はそれから一歩手前の苦手属性になる。

 メネシスほどの呪属性魔法のスペシャリストが、無理をして力属性を習得すると、呪属性の能力が落ちてしまうのだ。

 それでも力属性を習得したとしても、自分自身の強化が関の山で、他物質の強化ができるのは皆無だ。

 さらに言うなら、力の強化であって生み出すのではない。元々力を持たないぬいぐるみに地面を叩き割るほどの力を与えるには、力属性を専門にしている者か、力属性とそれに隣接している獣か雷のどちらか二つを集中的に学んだ者位にしかできない業だ。

 呪属性のメネシスには無理な話なのだ。

「ふふふ、イル。自己紹介してあげて」

 だが、ポロクルの疑問をぬいぐるみが簡単に晴らす。

 地面を叩き割ったぬいぶるみは、軽く腰を折ってポロクルに頭を下げた。

「アイム、エルフィンズ、ナンバー1。ネイムはイル。子守をするお友達です」

「よくできましたイル。次の曲までお相手してあげていて」

「アイアイサー。マイ、ベストフレンド」

 イルの後ろには、紫色で描かれた魔法陣を広げているメネシス。本来なら、ポロクルはその魔法を阻止しなければならない。だが、イルが障害となり近づくこともできないのだ。

 ただの後方大魔法使いのメネシスが、詠唱時間を稼ぐのに一人で戦うのは不利。それなりの対策がしっかりされていると言うことだ。

 だが、ポロクルの注目点はそこではない。

「エルフィンズ……エルフィンだと。こんなぬいぐるみがですか」

「イエース。アイムエルフィン」

「エルフィンは机上での存在。実在できないのです」

「ノンノンノン。それは、現代人が出した答えなのデース。でも、昔は実現できたのデース」

 3000年前。魔法最盛期と呼ばれていた時代。その時は、12神全てが友を持ち、世界中に粒子があふれていたと言われている。

 エルフィンが現代で机上の存在だと言われているのは、その体の構成に関係している。

 エルフィンの体は、魔物のように人間には無い種類の粒子を含み、獣のように人間とは違う比率で結びついているのだ。全体は人間に近いが、粒子の比率と種類が違い、人間とも魔物とも獣とも呼べないものだ。

 確かに、粒子が豊富だった昔ならば可能な話なのかもしれない。だが、現代にエルフィンがいたとしても、この粒子の薄い現代では生きていけないのだ。

「悪いですがイル。生きている貴方のその存在が、エルフィンではないと証明していますよ」

「キキキ、信じてもらわなくても、ノープログレム。マイ、ベストフレンド。ネクスト、ステージ。オーケーですか」

 イルが振り向くと、メネシスが頷く。

「行くよイル。第二曲、……」

 メネシスが次の魔法を発動させようとする。それより先にポロクルが動いた。

「卑怯は嫌いなのですが、戦闘学の定石をさせていただきます」

 ポロクルは、銃を構えたまま真正面へと走る。それを迎え撃とうとイルもポロクルへ走る。

「イル。強いようですが、体が小さすぎますよ」

 ポロクルとイルがぶつかる寸前。ポロクルは地面のボールを蹴り上げるようにイルを蹴る。

 すると、ポロクルの細い足は、イルを簡単に持ち上げた。

「キキ。グラビティーアップ」

 宙に持ち上げられたイルは、地属性の魔法を発動させる。それは、地面からの力。重力を局地的に上げるものだ。それをイル自身の真下に発動させる。

 すると、軽いぬいぐるみのイルは、地面に吸い付くように着地した。

 だが、そのわずかな時間を縫って、ポロクルはイルの壁を抜いてメネシスに近づく。

「マイ、ベストフレンド」

 イルが慌ててポロクルを追う。だが、ポロクルはメネシスに手が届く所まで近づいていた。

「前衛剣士と後方魔法使いを相手する時は、魔法使いを先に打つのが定石」

 ポロクルが、引金を引こうとした時、メネシスの魔法陣の色が紫からオレンジに急変した。

「魔力反転だと!」

 突然の出来事に動転するポロクルは、引金を引く前に急ブレーキをかける。だが、メネシスの動きが速かった。

「第二曲、変曲。共に踊り舞う楽しみ」

「大地。盛り上がり壁になれ」

「アース、フラットワールド」

 第二曲が始まると、メネシスの橙色の魔法陣がはじける。すると、メネシスの少女の両手の爪は、黒い獣の爪へと変わった。その爪でポロクルを切り裂こうと走る。

 それを防ごうとポロクルは地属性の魔法で大地を盛り上げて、メネシスとの間に壁を作り出した。

 だが、ポロクルの後ろから迫るイルが、同じ地属性の魔法で盛り上がった大地の壁を平らな大地へと上書きした。

 結果、ポロクルの防御壁が無くなり、メネシスの爪がポロクルの胸に届く。

「引き裂いて、貴方の綿を見せてよね」

 メネシスの黒い爪がポロクルの緑のローブを切り裂き肉へと届く。

 右の爪で縦に、左の爪で横にとポロクルの胴体には、赤い十字架が描かれた。

「ネクスト。コンビネーションアタックね」

 さらに続くと思われたメネシスの攻撃を避けるためにポロクルは後ろへ体を移動する。だが、そこにはイルがいた。

 イルは、その小さな綿の詰まった腕で、ポロクルの一つにまとめられた黒の長い後ろ髪を掴み、地面へと引き寄せる。

「リトルボディーでも、ワンダフルなパワーがあるのデース」

 頭皮を剥ぎ取られそうなポロクルは、逆えびぞりになり、頭を地面へと持っていかれる。

 全体のバランスを崩したポロクルの足をイルが払う。そして、ポロクルは一瞬宙に浮いた。

 そのタイミングを狙って、イルは再び地属性の魔法を発動させる。

「グラビティー、マイ、マックスパワー」

 イルは自分が使える地属性の重力魔法を最大限の力で発動させる。その区域はポロクルの下。つまり、宙に浮いたポロクルは、強烈な重力に引き寄せられ、背中から地面に叩きつけられたのだ。

 落差はたった1m。それでも、従来の数百倍の重力で引き寄せられたので、その衝撃は、1km上空から落下したもの以上のものであった。

「ぐがぁは」

 ポロクルが口から血を吐くと、その体は数センチだけバウンドして浮いた。その浮きすら計算に入れていたイルはさらにコンボを続け。

「グラビティー。カット」

 今度は、重力をなくした。すると、ポロクルの体はふわりと浮いていく。ポロクルもこれ以上の攻撃を受けてはならないと逃げようとする。

 だが、無重力空間では体が動かせない。自分の地属性魔法で重力を生み出そうとも考えたが、ポロクル自身のキャパシティーでは、イル以上の重力魔法を扱えないと自覚していた。

 仕方がなく、ポロクルは自分の体をありったけの魔力で強化保護をした。

 それでも、イルとメネシスはポロクルの策に意味がないと言いつけるかのように攻撃を続ける。

「マイ、ベストフレンド。チェーン、プリーズ」

「いいわよ。イル、サポートお願いね」

 宙に浮いたポロクルをメネシスは、その細い足で踏みつける。すると、ポロクルは再び強い衝撃で地面に叩きつけられた。

 だが、今度は浮き上がることを許されなかった。メネシスはポロクルの右足を強く踏みつけてその場所に固定する。

「この人形。切り裂いて中に隠された宝石。見つけ出すよ」

 メネシスはポロクルの緑のローブをボロボロに切り裂く。さらに、あらわになったポロクルの白い肌に爪を刺し込む。

 両方の肺に爪を刺しこみ、そのまま横に引き抜く。まるで、ポロクルの体を縦に裂くかのようだ。

 肺を二つに切り裂かれて死がほぼ確定している状況だ。だが、メネシスの攻撃は止まない。

 その黒く長い爪で、ポロクルの胴体を切り上げる。そのタイミングと同時に杭のように押さえ込んでいた足を離す。すると、ポロクルは勢いよく空へと上がる。

「ネクスト。マイターン」

 高い空へと退避できたと思ったポロクルの背後から、死の宣告のようにイルの声が刃となって届く。

「マイアーム。パワフルパワー」

 イルは全身から紺色のオーラを吹き出す。そして、空中だと言うのにイルは空を飛ぶかのように舞い始める。

 ボロボロのポロクルの顎を持ち上げるアッパー。えびぞりになり無防備になった腹へねじりを加えた拳。その拳でポロクルの体は、くの字に折れる。そして、後頭部をイルに向ける形になってしまう。

 その後頭部の首筋に、両手を組んで作った拳を金槌のように振り下ろして首を折る。

 そのまま地面へと落下すればポロクルも楽であったであろう。だが、イルはそれを見逃さない。

 ポロクルの長い後ろ髪を掴むと、ポロクルの背中に乗る。上空10m。今までの重力を操る戦闘スタイルから考えると、地面を無理矢理見せられているポロクルには、一つしか答えを出せなかった。先ほどの落差1mでもあのダメージ。もう、計算してどうなる威力ではない。

「致し方ありませんね。学者として、エルフィンを見ることができて本望でした」

 ポロクルの全身から強ばる力が抜けた。イルはそれを諦めと捉えて、とどめの地属性の魔法を出す。

「グラビティーパワーマックス。マイ、ボディー。ヘビーチェンジ」

 重力の倍増に加え、イルの体重増加。その二つが力を合わせて、ポロクルを急速落下させる。

 落下はわずか1秒ですんだ。だが、全身から火を噴き、地面の中にめり込んだポロクルは、もう、人間と呼べる体ではない。大量の肉片と血の水溜りだけになったのだ。

 体内の物を全てぶちまけていて、もう、死んでいるとしか呼べないだろう。

 

 白い体にポロクルの赤い血がついてしまったイルは、一生懸命それを拭き取ろうとする。だが、そのイルを優しくメネシスが抱きしめる。

「マイベストフレンド。ソーリー。汚れてしまった」

 落ち込むイルの頭を優しくメネシスは撫でる。

「いいのよ。気にしないで。それよりも、ありがとうね。戦ってくれて」

「それこそいいんだよ。マイベストフレンド。フレンドを助けるのは当然なのデース」

「ふふ、そんな貴方がいてくれて嬉しいわ。……あの子達も貴方みたいに素直な子だったら嬉しいのだけど」

 落ち込みイルを抱きしめる力が強くなるメネシス。そんな落ち込むメネシスを慰めるかのように、イルは血のついた布と綿の手で彼女の頬を優しく撫でる。

「ノープログレム。マイシスターズは、ユーのことが大好き。ラブなのデースよ」

「うん。そうだったわね。さあ、早く用事を済ませて、彼女たちを止めに来ましょうか」

「アイサー、マイベストフレンド」

「待てよ。お前ら」

 イルを抱いたメネシスが立ち去ろうとした時、ありえないはずの声が二人の耳に入る。

 その声は、その声の持ち主の血だまりから聞こえてきたのだ。

「死んで……いるわよね」

 メネシスは不思議そうに再確認する。確かにそこにはポロクルの大量の肉片と血があるだけで、人間の姿とは呼べないものだけだ。

 だがその時、イルの体に染み付いたポロクルの血が動き、地面を伝いその血だまりへと集まってゆくのを見て、二人は戦闘態勢に戻った。

 周囲に散らばった血が一箇所に集まると、その血の集まりから人間の形をしたポロクルが現われた。

「貴方、その体」

「ノットヒューマン。人間じゃないデース」

 血だまりから現われたもの。人間の形をしているが、人間とは呼べないようなものだ。

 両手の指は全てナイフ。両腕の手首から肘にかけて、弧を描く刃が生えている。

 両肩と背中からは、金属で作られた太いコードのようなものが対象になるように24本ある。さらに、尻尾のように生える最も太い一本のコード。

 メガネは割れて、そこには赤い宝石をはめ込められたような両目が輝いていた。彼の長い黒髪は、無数の針のような端子のついた細いコードに変わっている。

 全身に人間らしい肌は、顔と右足部分に少しだけ。後は、金属パイプと鉄板で作られた骸骨のような体だ。その金属パイプの継ぎ目や切り口からは、蒸気が噴出していた。

「学者のポロクルは確かに死んだ。だが、それは表面のポロクル。本当の私は、この姿。裁きの天秤の番人、ポロクル。命を統べる神アヌビスの命により、貴様らの罪を量らせてもらう」


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。


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