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一周年記念読者様感謝特別物語

この物語の連載を始めて約一年。

多くの読者様に読まれて作者として嬉しい限りです。

なのに、最近暗くて疲れる話が続いてしまっています。

それで、記念も含めてたまにはリラックスしたお話を織り込めて見ました。

本編との関係は皆無なので気楽に読んでください。

 アヌビスがヴィルスタウンでゴタゴタやっているころ。主が留守状態であるシルトタウンにネイレード部隊の面々が到着していた。

 アヌビスたちと別れたネイレードの目的地はアヌビスと同じシルトタウンであった。

 なのに、ともに旅をしなかったのは、アヌビスと一緒にいると必ず厄介ごとに巻き込まれると知っていたからだ。それを回避するために、アヌビスより遠回りになる行路を選んだネイレードであった。

 遠回りになったが、戦闘回数も少なくすみ、アヌビスより早くシルトタウンに到着でき勝ち誇った気分のネイレードである。

 だが、シルトタウンの代理統領であるカリオペから……。

「あ〜、ティアちゃんはアヌビスと旅をしているんだなぁ。予定よりかなり遅くなっているんだなぁ」

 と、聞き何かしらの事件に巻き込まれていると姉のネイレードは妹を心配しているのである。

 そんなネイレードたちは、活火山を崩して作られたシルトタウン名物の温泉を満喫しながらヘスティアたちが来るのを待つことにした。これは、そんなのんきな生活を送ることになったネイレードたちの初日の話である。


「うぅ、目にしみるぅ〜」

 シルトタウン名物の天上露天風呂。山の頂上にあるその露天風呂は、大小さまざまな岩で作られたお風呂と、平らな岩畳、脱衣所もしっかりとしたもので旅を続けて川の水を浴びてきていた彼女達には最高の場所であった。

 そんな露天風呂の隅の小さな岩に座ってルビーのような美しい赤い瞳を必死に閉じている少女。いつもは白いローブのフードで隠しているピンクの短いショートの髪を泡だらけにされて洗われている。彼女はエイレ。ネイレード部隊の隊員で主に治癒魔法と魔法分析を専門にしている14歳の女の子だ。

「こら、動かないの。まったく、そろそろ自分で髪ぐらい洗えるようになりなさいよ」

 逃げようとするエイレの肩を抑えつけて岩に無理矢理座らせて髪を洗ってあげている女性。腰ほどになる長さの濃い紫の髪は、既に洗い終わっていて丸くまとめられている。彼女たちのリーダーのネイレードより濃い緑色の瞳は疲れで輝きを失いつつあるディケ18歳である。

 シルトタウンに到着して数時間。休みに来たシルトタウンだが、ディケはただ疲れに来たのかと疑問に思っていた。

「はい。お湯かけるよ。目閉じていてね」

「うん」

 全身泡だらけになったエイレの頭からディケがお湯をかけると、エイレはフルフルと頭を振って目を擦る。

「さて、体も髪も洗ったし、入ろうか」

 ディケがエイレの手を引いて露天風呂に入ろうと近づく。すると、後ろの方にある脱衣所の扉が勢いよく開き岩畳を軽い足取りで走ってお風呂に飛び込んだ女の子が現われた。

 彼女がお風呂に飛び込んだせいで、入浴を直前にしていたエイレとディケは水しぶきを浴びせられることになった。疲れと怒りが一定量を超えたディケはお湯の中に潜ったまま出てこない彼女の頭を突かんでお風呂から引き上げる。

「い、痛いって。なんだよぉ。怒ることないだろ」

 お湯から引き上げられたのは、オレンジ色の毛先にまとまりのないボーイッシュな髪と紺色の瞳をした16歳の女の子、エノミアだ。

 突然大量の水に頭から襲われたエイレは驚き涙ぐんでいた。

「飛び込んだことは許します」

「およ、意外と寛大。だったらさ、離してもらえると嬉しいんだけど」

 エノミアはディケに髪を掴まれていて、今にも抜けそうなぐらい痛いのを笑って誤魔化している。

 怒らないディケに安心したエノミアはニカッと笑って見せるが、ディケは真面目で見下ろすかのような冷たい目でエノミアを見ていた。

「飛び込んだとこは許します。エイレを泣かせたことも寛大な心で許してあげます。ですが、体も洗わずお風呂に入っては駄目だと何度教えたら覚えるのですか」

 ディケがエノミアの頭を力任せに持ち上げ、露天風呂の隅へと投げた。岩畳で落ちたら大怪我だが、戦闘時は前線で戦うエノミア、中で一回転ひねって猫のように着地に成功する。そこは、エイレの髪を洗っていた所であった。

「ネイレードが来るまでそこで反省してなさい。さあ、エイレ。馬鹿は無視して入りましょうか」

「ちょ、ディケ。ここ寒いんだけど」

 一人震えるエノミアを尻目にディケは戸惑うエイレと暖かい露天風呂を満喫し始めた。


「ごめ〜ん。遅くなっちゃって……って、エノミア、そんな所でなに丸くなっているの」

 別件で一人遅れていた彼女たちのリーダーのネイレードが露天風呂に入ってきた。

 脇より少し下ぐらいの長さの赤い髪は三度ほど折られてまとめられている。

 彼女は体にお湯をかけてディケたちから少し離れたところに入る。そして、ネイレードは唯一お湯に入らず震えているエノミアに目をやった。

「エノミア、そんな所にいないで入ったらどう。風邪をひくわよ」

 ここは露天風呂だが雲を越える山の頂上である。聖竜王の守護で気温や空気の問題はないが、人間が裸でいられるような気温ではない。

「それがよぉ、聞いてくれよネイレード」

「本人がそこがいいと言って聞かないんです」

 エノミアの訴えをすぐにディケが断ち切る。

「ひでぇぞ、ディケ。いい子ぶりやがって」

「私、初めからいい子ですから」

 噛み付くエノミアを軽くあしらうディケに何があったのか分かるネイレードは、軽く笑って一人大人しく入っているエイレに抱きつく。

「あっ、ネ、ネイレードさん……」

「ほら、こうするともっと暖かいでしょ。分かったから、エノミアも入ってきなさいよ」

 ネイレードの許可をもらえたエノミアは、なるべく波紋を立てないようにゆっくりと入りディケと一緒にネイレードたちの元に近づいて大きく息を吐いた。



 そのまま数分間。誰も話すことなく時折至極の息を吐いて温泉の心地良さを味わっていた。

 だが、エイレだけは真っ赤になりくつろげる状況ではない。ずっとネイレードに抱きつかれて、時々頬ずりをされてドキドキし続けていたのだ。

 エイレは親しい人が近づいてくるだけでも緊張してしまうぐらい臆病な子なのだ。特に、階級や年上の人には弱く、いつも一緒にいるディケやエノミアも駄目だし、とある事情から群を抜いてネイレードには緊張してしまう子なのだ。

 そのことを知らないわけではないネイレードだが、これが彼女なりの愛情表現なのだ。妹が大好きな彼女は、なかなか会えないヘスティアへの愛情をエイレに注いでいる。

 ネイレードがシルトタウンに来たのは妹に会うためでもあるぐらいの愛情を小さなエイレには受けきれないときがある。それで赤くなるエイレが可愛いと三人は思っていた。

「あ、疲れを癒している最中悪いんだけどさ。仕事の話してもいいかな」

 エイレは顔半分をお湯にいれブクブクと照れ隠しをしていて反応を見せないが、ディケとエノミアは軽く頷く。と、頷いたエノミアだが、空を見上げて意識は薄く話を覚えていそうにもなさそうである。

「今この街にヘスティアがいないのは知っているわよね。カリオペ一人だと不安だってネフテュスが言い出してね。オシリスの命令でヘスティアが帰るまでシルトタウンの警備に当たれだってさ」

 ネフテュスとはヘスティアを部下にしている人で、手薄になったシルトタウンを守るために近くにいたネイレードを貸してもらえるよう彼女の上官であるオシリスに頼んだということだ。

 ネフテュスとオシリスは、ネイレードたちグロスシェアリング騎士団をまとめる四軍神である。

「そうなりますと、本来の目的だった『ヴィルスタウンへの進軍行路の確保』はどうなるのですか」

 ディケの質問にネイレードは嫌そうな顔をしながら顎をエイレの頭の上に置きため息を吐く。

「そっちは無しになった。実はね。ヴィルスタウンにヘスティアとアヌビスたちがいるんだってさ。私たちが出なくても、何かあって、なんだかんだで道ぐらい作ってくるでしょ。それに、私アヌビスと絡むの嫌だし」

 ネイレードにしたら大好きな妹と良い待遇をしてくれる人が多いシルトタウンは疲れを癒すには最高の場所なのだが、それらの良い所を全て帳消しにするアヌビスが来ることが分かっている。毛嫌いしているものが近づいてくるのを待っていなければならないと思うと、ネイレードはエイレを抱きしめる力が強くなる。

「ネイレードさん」

 ネイレードに強く抱きしめられたエイレは、見上げるように彼女の顔を見る。

「あ、ごめんね。強くしすぎたかな」

 すると、エイレはフルフルと首を振って、モジモジしながら小さな声でネイレードに聞いた。

「ネイレードさん。胸大きくなりましたか?」

「えっ! な、何言っているのエイレ」

 そのエイレの純粋な瞳にネイレードは怒るべきか照れ隠しするべきか悩んでいると、ネイレードの背後にエノミアが回りこで、胸を鷲づかみにして確認しだした。

「ん〜、確かに、少し大きくなっているかもなぁ」

「ちょ、エノミア。なにするの」

「なにって……触診? ネイレードはサイズ聞いても嘘付くから」

「そ、その手つき、怪しいからやめてって」

 エノミアを振り払おうとするネイレードだが、エノミアもそんなネイレードが面白いのか悪ふざけが悪化し始めている。そして、ネイレードがエノミアの頭を叩いてようやくその騒ぎは収まった。

「もう……やめてっていったでしょ。次やったら一ヶ月荷物もちだからね」

「いや〜、揉み心地がたまらなくて。悪いとは思っているって」

 口では反省しているエノミアだが、その笑みは反省の色はまったく見えない。

「反省してよね。それよりも、エイレどうしたの。いきなりそんなこと聞いて」

 エノミアとネイレードが暴れているうちに、エイレはネイレードから離れ安全なディケの隣まで非難していたのだ。

「あの……この前、ミケが大人の女性の強さは胸の大きさで決まるって教えてくれたのです」

「ミケ……が」

 素直なエイレの言葉に、ネイレードは額に青筋を浮かべて宙に手をかざす。そして、一冊の魔道書ミケを召喚した。

「くわぁ〜、ん? なんだ、風呂か。……って、お前らぜん――」

 声を大きくしたミケが言い切る前にネイレードはミケをお湯の中にねじ込む。もちろん、ミケは魔道書、本なので息はしなくても問題はないが、声を防がれ熱いという感覚などはある。

 呼び出されてすぐに有無を言わず軽い拷問をミケは受けているのだ。ちなみに、本のミケだが水に入れられたぐらいでは駄目にならない。魔道書はどんな手段を使っても読めなくなったり処分したりすることはできないものなのだ。

 ネイレードは数十秒沈めた後、勢いよく投げ捨てて岩畳に叩きつける。寝起きだったミケにしたら目覚めには激しい暴行で、何も知らない彼にしたら本当に横暴すぎる行いだ。

「おい、ネイレード。どういうつもりだ……って、うぶぶぶ」

 表紙をバタバタ広げ叫ぶミケをネイレードは踏みつけて話すことすら許さなかった。

「ミケ、エイレに変なこと、教えてくれたそうね」

 ページが何枚か破れボロボロになったが、すぐに元に戻り綺麗な魔道書になったミケは、正常に動けるか開いたり閉じたりを繰り返して落ち着いて表紙を広げる。

「エイレに教えたことぉ? 沢山ありすぎて分からんなぁ」

「その……あれよ、あれ。女性の強さの見極め方」

「ああ、女は胸が大きいほど強いってか。間違ったことじゃぇねだろう」

「間違っているわよ。何よその俗説。もっと論理的な説明を付けなさいよ」

「女性の粒子結合率が一番高いのが胸だからです」

 ミケに文句を言うネイレードを止めたのは、一人黙ってこの光景を見ていたディケだ。

「女性の体を構成する粒子で、結合に魔力を多く使う部分は、胸、太もも、お尻、髪の毛、爪の順番。体内で生成されて余った魔力はその部位に集中しその部分を肥大化させる。個人差はありますが、何も手がかりがない相手と戦う際には小さいですけど目安にはなります」

「そういうディケ。あたしより強いのに胸小さいよな」

 そういいながら懲りないエノミアは、ディケの胸元に手を当てていた。もちろん、ディケも振り払って、エノミアをお湯の中にねじ込んだ。

「やめなさい乳揉み魔」

 水中でもだえるエノミアは、ありったけの空気を吐き出して暴れるが、吐き出す息が止まってもディケは許さず沈め続ける。

「ちょ、ディケ。やりすぎ」

 止めようとするネイレードだが、ディケはいたって冷静な顔だ。

「いや、大丈夫ですよ。いつも一度死んだ振りするんです」

 ディケの言うとおり、一度止まったと思った息がまた出始めた。今度は本格的で、力任せにエノミアは顔を水面に出した。

「げっほ……はあ、はあ、はぁ……水飲んだぞ!」

「そ、ここのお湯は飲んでも体にいいそうよ。効能は確か、頭が良くなるそうよ。エノミアは沢山飲んでおいた方がいいわね」

 エノミアを殺しかけておきながら、ディケは何とも思っていない顔を見せる。

「てめぇ、あたしより胸が小さいくせに生意気だぞ。この半端乳!」

 エノミアが町中に響きそうな大声を出すと、ディケは無言で宙に手をかざす。すると、その手には全長2mを超える遠距離射撃用の銃が握られた。その銃口をエノミアの胸を持ち上げるように押し当てる。そして、立っているエノミアを下から見上げるディケの瞳は狩人の鋭い瞳になっていた。

「成竜を一撃で撃ち落すこの銃。この距離なら、穴を開けるだけじゃすまないわね」

 挑発してくるディケにエノミアはまんまとのせられて、顔を赤くして宙に手をかざす。エノミアの手に握られたのは、木製で2mの持ち手となる棒とその先端に三日月のような形の刃が付いた大鎌だ。その刃の大きさは、長さ5尺一番広い所の刃幅は2尺もあり、常に高く持ち上げていないと、地面に突き刺さってしまうほどだ。この大鎌も巨大な獣を狩る際に使われる首切り鎌だ。

「上等だよ。やってやんよ。前々からあたしのランクが下って言うのは不満だったんだ。年上だからって遠慮してやんねぇからな」

 エノミアとディケのお互いが愛用の武器を手に取ると、距離を広げ戦闘場を確保する。

「ネイレードさん。顔が熱くなってきた」

 その二人を呆れて見ていたネイレードの二の腕をツンツンと突いてきたエイレ。照れているのではなく、のぼせて頬が赤くなったエイレを見てもう十分かなと思ったネイレードはエイレの手を引いてお風呂を上がることにした。

「二人とも〜。私達は上がるけど、くれぐれも壊さないように。壊しても私責任取らないからねぇ〜」

 エイレと手を繋いでネイレードは露天風呂を出て脱衣所に入った。その扉が閉まる音を合図にディケの銃声がシルトタウンの頂点で響いた。



 脱衣所の薄いすりガラスの向こうからは銃声や岩の砕ける音が聞こえる。それにネイレードはため息を吐く。ネイレードは疲れながらエイレに大きな白いタオルをかぶせてゴシゴシとすると、視界を奪われて頭を回されるエイレは酔ったような声を出していた。

「まったく、怒られても知らないんだからね。もしもの時は、エイレよろしくね」

 白いタオルを取ると、短いピンクの髪の毛をボサボサにされてフラフラと足元が定まらないエイレが出てきた。

「あらら、やりすぎちゃったか。……でも、そこがまた可愛い」

 うなるエイレをネイレードは支えるといいながら抱きしめて頬ずりをはじめた。

「うう、……でも、ネイレードさん。どうすれば、胸が大きくなるんですか」

「うっ、……お、大人になったら大きくなるわよ。それに、大きくない方が何かと便利なのよ。動いたりする時にすごく不便なのよ。これ」

「けけけ、そりゃないだろう。お前の自慢の魔力タンクだろ。何度その乳に救われたと」

 ケラケラと笑うミケをネイレードは高く持ち上げる。

「ミケ〜、もう一度沈められたいのかしら」

「冗談冗談。エイレはまだ子供、今後に期待できるし、大きさはあくまでも目安だからな。現に聖竜王なんてあの魔力で胸は皆無で涙が出そうなぐらいかわいそうだろ。気にすることはないぞ」

「あら、ミケもたまにはいいこというじゃない」

「ま、ネイレードの魔力タンクが未だにプクプク大きくなっているのは本当だけどな。よく見抜けたな。さすが俺の教え子その3だな」

「ミケ〜、炎とナイフ。どっちがいいかな」

「そうだなぁ。できればその胸に」

「この、エロ魔道書が!」

 激怒したネイレードはミケを床に叩きつけ何度も何度も踏みつける。すると、脱衣所の入り口が開いた。

「失礼するんだなぁ。ネイレードちゃん、着替えを持ってきたんだなぁ」

 脱衣所に入ってきたのは、背が高く、胸板や腕足などが程よく筋肉がついた体つき。少し短めで黒いサラサラな髪が爽やかな青年だ。少し大きめの緑色の軍服と、ネックレスや指輪などを身に付けてかなりの美青年だ。

 そんな彼が緑色の浴衣に似た変形した軍服リゾートバージョンを持って現われた。

「急に天気が悪くなって、君たちの軍服が乾くのは数日かかりそうなんだなぁ。その間、これで我慢して欲しいんだなぁ」

 ちなみに、いくつもある露天風呂の中で一番大きなここは、混浴となっている。野営の時に外で裸になることも多かった彼女達は男性に見られたぐらいでは騒いだりしない。徐々に女らしさが抜けていく自分に悲しくなるネイレードであった。

「わざわざありがとうね。忙しい代理統領を扱き使うようなことして」

 ネイレードが着替えを受け取ると、自分は軽く羽織り、エイレは頭からかぶせる形で着させた。

「気にしなくていいんだなぁ。それに、ネイレードちゃんたちが来てくれたおかげで、仕事も減って気楽なんだなぁ。…………お風呂、ティアちゃんが帰ってくるまでに直しておいて欲しいんだなぁ」

 彼は露天風呂の方を見て、すりガラスにひびが入っているのを見てガラスの向こうの惨劇を予想できてきた。それぐらい、彼の未来読みの力を使わなくとも分かることだ。

 簡単に見抜かれたネイレードは、苦笑いで誤魔化すぐらいが精一杯だった。

「ご、ごめんねぇ。最近みんな激しい運動してないから。気が立っていたのかなぁ〜」

 彼はうんうんと頷いて許してくれたようだ。

「安全な旅ができるのは何よりなんだなぁ。でも、暴れて汗を流したいなら訓練場を使って欲しいんだなぁ。それじゃ、ご飯の準備ができるまで好きにしていてなんだなぁ」

 彼が脱衣所を去ろうとする。だが、何か思い出したかのように立ち止まり振り返った。

「そうそう、ネイレードちゃん。もしかして、少し太ったりしたのかなぁ? 不規則になりがちな僕達にとって肉体管理は大事なんだなぁ。気をつけるといいんだなぁ」

「えっ、そ、そんなことは……」

 ネイレードは彼に言われて自分の全身を確認しだす。すると、ミケがケラケラと笑い出した。

「まあ、魔力が増えて胸が大きくなるってことは、肉付きが良くなることだからなぁ。よく言えば大きくなる。悪く言えば太るってことだな」

 ミケに言われて、ネイレードは脱衣所の隅にある体重計にゆっくりとのる。そして、固まり体重計の上でうずくまってしまう。その情けなく落ち込んだ後姿を見た二人と一冊は、『増えていたんだ』と同じことを思っていた。

 そして、勢いよく立ち上がったネイレードは、腰に帯をしっかり結びつけた。

「カリオペ、その訓練場って、何処!」

「こ、ここから22階下なんだなぁ」

「22か。よし。エイレ、走っていくよ!」

 ネイレードは髪を乾かしていたエイレの手を握って走り出す。

「え、え、え、ネ、ネイレードさん。私は、痩せたくないんですけど」

「減量……もとい、特訓は多い方が楽しいでしょ」

 ネイレードのやる気のある爽やかな笑顔を見せられてエイレは嫌だと言えなかった。

「ネイレードちゃん。それを、道連れって言うんだなぁ」

 カリオペの話など聞かず、ネイレードはエイレを拉致して下へと走っていった。

「うぬぅ、女の子は体の管理が大変そうなんだなぁ」

「貴様が言うと、誰でも嫌味に聞こえるぞ」

 ミケのツッコミに、カリオペは爽やかに笑ってみせる。

「それもそうなんだなぁ。僕、それでは苦労しないんだなぁ。……それじゃ、僕も行くんだなぁ」

 そして、カリオペは脱衣所を出て行った。

「…………って、俺は? お〜い、誰か〜。おい、ネイレード、せめて俺を送還してから、ってもういないし!」

 脱衣場に一人残されたミケは、なんとか出せる紫色の片手の手の平をだして、その黒く鋭い爪で床を引っかきながら進もうとする。だが、爪痕を残すだけで全然進めないでいた。

「くそー。ネイレード。謝る。今まで馬鹿にしていたこと全部謝るから、帰ってきてくれ〜」

 叫ぶミケの声も、激戦になりだしたエノミアとディケの戦闘音にかきけされて聞こえないものになってしまっていた。

 その後、ミケはお風呂上りのエノミアとディケに発見されるが、発見された時彼は脅えていた。ミケに何があったのか彼は何も語ろうとしなかった。ただ、しきりに『やめろ。俺は、俺はぁぁ』と呟いていたそうだ。

続きを書くかは考えていません。

このまま消えるか、本編で出すか……。

感謝物語なので、みなさんの反響次第、でしょうか。

では、二周年記念がかけることを願って。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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