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第45話 サルザンカの宝-『ルリカ・フォン・シルフエル』

「いらしゃいませです」

 アレスとアテナに頭を下げるルリカ。主な接客はルリカで商品とお金のやり取りはミルと仕事の分担をしている。と言うのも、二人のうちルリカしか魔鉱石や魔道具の説明ができないからだ。

 その2つはそれなりの料金のやり取りを行っているが、それ以外の武器はそれができず、アレクトが事前に表示した高めの表記になっている。なので、それは売れず主に魔鉱石が売れている状況だ。

「君たち二人だけで商売をしているのか」

 アレスが疑問に思うのも無理はない。いろんな商人が集まるヴィルスタンだが、さすがに子供二人だけの商人ギルドは見たことがなかったからだ。そもそも、子供二人だけでよくやっていけていると感心するぐらいだ。子供だけとなると旅の最中は確実に護衛を頼むだろう。さらに、肉体労働ができないだろうからそれなりの労働力も必要だ。これらを雇うとしたらかなりの出費となる。そこまで儲かっているようにも見えないので不思議な二人に見えたのだ。

 もちろん、ミルとルリカの後ろにはアレクトなどのリクセベルグ軍人であるアヌビス部隊が付いている。資金も物資も文字通り国家クラスなのでそのようなことはないし、商売は隠れ蓑のようなもので、お遊び感覚でしているものなのだ。必死にならないから彼女達に切迫感がなくアレスには余裕に見えたのだろう。

 もちろん、そんなことを易々と言っていいものだと思わないルリカは、首を左右に振った。

「いいえ、他の人は買出しなどに追われているんです。私たちは、ただの店番です。オーナーに御用ですか?」

 ルリカがそういうと、後ろで隠れて見ていたアレクトが肩を震わせて驚いた。

「いや、その必要はない。…………魔鉱石をよく扱っているようだな」

 手を振って否定するとアレスは種類ごとに分けられた魔鉱石をまじまじと見始める。アレスの真似をしてアテナは魔鉱石を見てみるが、魔鉱石は大きければ上質品だと思っているアテナには小ぶりで質重視の魔鉱石の良し悪しはよく分からないでいた。

「鉱石が目的ですか」

「元々買うつもりはなかったのだがな。これほどいいものを見つけてしまうと考えさせられる」

 アレスがその中の一つをとると光にかざして色の鮮やかさを見た。緑色のそれは小石ぐらい小さいが宝石と同じ透き通った美しさを持っている。その魔鉱石は美しさも勝ることながらその実用性もとても高い。アレスが見ている緑色の魔鉱石は、風の粒子をひきつけることのできるものだ。言い方を変えるのなら風を操ることができるものだ。港町に帆船でくる外国商人たちにしては風を自由に操れるこの魔鉱石は魅力的なものに見える。

 もちろん、船を動かせるほどの風となるとかなり上質であるのに加えとても希少なものになる。まずアレスたちが目にできるほどのものではない。これがここにあるのは、アレクトたちの店がリクセベルグ国の軍の店だからだ。リクセベルグ国は鉱石以外にも魔鉱石が大量にある山脈の国だ。魔鉱石には世界一困らない国となっている。

「しかし、これほどの大きさで金貨2枚とは……質の良さは認めるが、高すぎはせぬか」

 アレスが渋っていると、ルリカがすかさずこう続けた。

「ですが、魔鉱石は永遠のものです。何世代にもわたって使えるものと考えれば安いと思うのです」

「だがな……」

 アレスが唸っていると、今度はアテナがアレスに決心を付ける元になると思いこういった。

「アレス様。魔鉱石はあの作戦に必要なもの。出費は大きいですが、確実を手にするには軍費を裂いてもよろしいかと」

「アテナ、口がすぎるぞ」

 アレスに注意されて自分が口にしたことの意味を思い出し手で口を塞いだアテナはシュンとしてしまい小さく頭を下げる。

「すみません」

「お二人とも……もしかして、軍人さんですか」

 ルリカが伺うように聞くとアレスは隠しても仕方がないと肩を落として頷いた。

「ああ、そうだ。……このことは他言無用で頼む。お詫び、ではなく、口止め料だな。風の魔鉱石、ありったけ貰おうか」

 アレスは苦い顔で袋をちらつかせた。それを見たルリカはコクリと頷く。

「今探してくるので待っていてもらえますか」

 ルリカはミルに代わってもらいアレクトたちがいる荷台へと向った。

 アレスはしくじったと思っていたが、ルリカは二人が軍人だと分かっていた。この街で武装した人間といったら警備隊か商人の護衛か軍人のいずれしかいない。警備隊の服を着ていないのでそれは除かれる。そして、なぜ商人の護衛ではないと分かったかと言うと、アテナの持っている大剣を見たときだ。

彼女の刀身をむき出しにした大剣は薄く青い魔鉱石でできている。そこに金色の見慣れない文字が模様のように書かれている品物だ。彼女の大剣は、魔法の使えない彼女に限られてはいるが、魔法を使えるようにしてくれる魔道具だ。

 その大剣にいくつかの魔法を記憶させて発動させるものなのだが、大剣に書かれている金の文字がその魔法の魔法陣である。その大剣に書かれている文字は様々なのだが、中にルリカの魔道書で使われている文字が含まれていたからだ。

 ルリカの魔道書は彼女の母親から受け継いだもので、元々は彼女の母親が持っていたものだ。そして、彼女の母はその魔道書を読む能力と聖クロノ国の人間としては高い魔力を持っていたので、聖クロノ国軍で魔法指導員や対魔法戦などの魔法に関する仕事で働いていた。その仕事ぶりや確かな知識で名の知れた女性だったとルリカも聞いていた。

 亡くなったと連絡が入って魔道書が帰ってきて彼女のことを知る軍人が軍にどれほど居るかは分からないが、ルリカは目の前にいるアテナが母のことを知っているのではと思っていた。

 探していた母の手がかりが目の前にあるのにルリカの心の中には、母を探す少女とアヌビス部隊のルリカの二つに挟まれ苦悩している。

 前者は今すぐにでも自分の素性を話してアテナたちから母の事を聞きたい素直な女の子。後者はアヌビスたちに世話になったのに、彼たちを危険にさらしてもいいのかと考える大人がいた。正式にルリカはアヌビス部隊の人間ではない。ただアヌビスに保護と言えばいいが命を守ってもらえている立場にいる。それに、今ここにはアレクトやミルついでにリョウもいる。この三人がアレスたちに捕まったことを考えていた。

 アレクトやリョウは敵国の軍人なので間違いなく監禁、最悪殺される。それよりもかわいそうなのがミルだ。ミルはリクセベルグ国の王族の娘。ただそれだけで捕まり監禁されていた。そして、アヌビスに助けられようやく王都に帰ることができるところまで来ていた。それを帳消しにされてはと友達思いのルリカは悩んでため息を吐きながら魔鉱石を探していた。

「ルリカちゃん、ルリカちゃん。あの二人、危険だからすぐに帰るように言ってもらえるかな」

 木箱の中を見ていたルリカにアレクトができるだけ小声で話しかけてきた。アレクトの全身から緊張がでているが、ルリカは何の危険意識もないような顔だ。

「分かってる。でも、買ってくれるならお客さん。でしょ」

 ニコッと笑ってルリカは2つ魔鉱石を輝かせてお店に戻る。

「ごめんなさい……まだ、会えそうにないね。ママ」

 ルリカはアレクトの顔を見て、裏切れない自分がいることをよく理解した。


「お待たせしました。2つあったので3つで金貨6枚です」

 ルリカがアレスに新たに2つの魔鉱石を渡すと、アレスは納得したのか満足げに金貨6枚をミルに渡した。その金貨をミルが特別視せず銅貨や銀貨の混ざった袋に入れるのを見ていた二人が小さく笑う。

「面白い娘だ。金も銀も銅も関係ない。やつの娘が生きていたらこんな子に育っているのだろうな」

「ですね。口癖、みたいなものですからね。娘さんもそんな人になるでしょうね」

 何かを思い出すように笑う二人を見て、ミルは不思議にしか思わなかったが、隣にいたルリカは目を大きくして二人に飛びつきそうになった。とても聞きたい質問があったルリカだが、ここまで保っていた我慢を崩すことはしてはならないと自分で自分を縛りつけるかのように拳を握った。

「では、いい買い物をさせてもらった。また機会があったら頼むぞ」

「それじゃあね。かわいい店員さんたち」

「あ、あの」

 去ろうとしたルリカが声を出す。拳を握り締めて抑えていたルリカだったが、一つだけ聞きたいことがありつい二人を呼び止めてしまった。

「なんだ。今更値を上げたなどいいだすなよ」

 アレスが3つの魔鉱石をちらつかせながら聞く。戸惑いながらだがルリカは首を振って小さな声でこんな事を聞いてみた。

「もし…………この世界が魔鉱石も魔法も能力もない世界だったら、人間も魔物も獣も神も区別されないような世界を、軍人の貴方達は作れますか」

 ルリカの質問にゾッとさせられたアレスとアテナは、目に見て分かるほど脅えだした。

「なぜ、それを……」

「ある書物の文末に書かれている文です。軍人に会ったら聞いてみたいと思っていました」

 アレスが何かに感づきそうになる前に、ルリカはそう付け足す。それを聞いたアレスは納得をして頷く。だが、気軽に答えられないアレスであった。

「そうか、そうだよな。……すまないが、その返事はまた今度出会った時に言わせてくれないか」

「そう……ですか。では、また会える日を楽しみにしています」

 少しがっかりしたルリカだが、ミルと一緒にアレスとアテナを笑顔で見送った。

「ママ、何が言いたいの」

 ルリカは、自分の魔道書の最後のページに書かれた母からのメッセージをその子供の手でそっと撫でた。

『ルリカ、待っているわ。あなたが私に会いに来る日を。いろんな人いろんな魔物いろんな獣がいるこの世界、この世界がみんな同じだったらすぐに見つけてもらえるのにね。区別されるこの世界で私はどんな呼び名を持っているか分からないけど、ずっとあなたのママで待っているからね』


 店から離れたところまで来た二人は、大きくため息を吐いた。

「まさか、あんな子供にあの質問をされるとはな」

「アレス様。因縁ですか」

 アテナが悪ふざけに笑うが、アレスは浮かれた気持ちになれないでいた。

「その答え……買えるものならいくらでも出すと言うのにな」

 アレスは自分の手の平にある3つの風を操る魔鉱石を見つめながら自信を失いつつあった。そんなアレスに笑みを向けるアテナ。この質問を思い出すたび落ち込むアレスにいつものようにアテナは彼の支えになろうと頑張るのであった。

「アレス様。それだけ神の力を借りるのは大変だと言うことです。魔鉱石も加わり、作戦がより安心できるものになりました。あとは、私たちの名前の通り、神を相手に戦うだけですよ」

 アレスとアテナは近くなる大戦にいろんな気持ちを持ちながらその時を待っていた。


「ルリカちゃん、ありがと」

「あれが聖クロノ国の軍人なの」

 ルリカは肘を着きながら賑わう店前を眺めていた。ミルと仕事を交代したアレクトがルリカの隣に座ると小さく苦笑いを見せた。

「うん。流石に見つかるのは不味いからね。長い間任せてごめんね」

「ふーん。別に私はいいけどさ。いつもお世話になってるんだし、これぐらいならいつでもするよ」

 そういうとアレクトは嬉しそうにルリカの手を握って輝いた瞳をルリカに向けている。

「な、なに」

「ルリカちゃんありがと。あの……いいにくいんだけど、ミルちゃんとまたお留守番してくれるかな」

「どうして?」

「実は……食料がもうなくてね。お昼ご飯がないの。だから、急いで買ってくるからそれまでリョウ君と待っていて欲しいなぁって、それと、このことはアヌビスたちには秘密にしてくれるかな」

 元々食糧が残り少なかったアヌビス部隊。ここ数日ポカティでしのいできたが流石に限界に来ている。それはルリカも同じで頷くのに何のためらいもなかった。

「わかった。いってらっしゃい」

 ルリカが力なく手を振るとアレクトは小走りでお昼ご飯を求めて人ごみの中に消えていった。


「危なかった」

 アレス達がいなくなりアレクトが買い物に出かけてようやく一息つけたリョウは力が抜けて荷台の真中に大の字になって寝転がった。その隣には正座でリョウを見ているミルがいた。

「何が疲れたの?」

「いや、精神的に疲れたって言うか、流石にアレスとアテナの二人が来るとは思わなかったからさ、まだ心臓がドキドキ言ってるぞ」

「リョウが緊張しても何もできないくせに。どうせアレクトしか頼りにならないんだし」

 すると、ルリカが魔道書を小脇に抱えて荷台に入ってきた。

「おい、店はどうしたんだよ」

「そんなの閉めて来たに決まっているでしょ。そこまで必死に商売することもないってポロクルも言っていたし、無理なら閉めちゃえばいいのよ。それに、お店を開いていると、お客さんが来るからああやって敵の兵隊が来るんでしょ。リョウ一人だと私も安心してお店に立っていられないし」

「ああそうかい。悪かったな頼りなくて」

 ルリカはそう言っているが、ただ単に彼女が疲れたから閉めただけにすぎない。だが、リョウもそれを聞いて安心している。

リョウは竜神の力を持っていてその力をフルに発揮すれば彼らのリーダーのメネシスとも対等に戦えるだけの力がある。だが、それは暴走する力であり一度暴れるとリョウ一人で抑えられるか分からない力である。そんな不確かな力を使って戦ったとき、街やミル達のことを考えると使える力ではない。

 それに、リョウは人を斬ることができない。それどころか傷付けることも苦手だ。アヌビスの教育で植え付けられた種は今でも彼の悩みの種である。

 そんなことで、リョウにとって戦う可能性が減ったのは喜ばしいことであった。

 半分拗ねているリョウは丸くなってルリカたちに背を向けて小さくなった。

「ねえ、リョウ。変なこと聞いていい」

 ミルとそろって魔道書を広げていたルリカがなぜか控えめにリョウに話しかけてくる。いつもリョウのことを馬鹿にするように話すルリカをリョウは珍しいと思いながら首だけねじりルリカを見る。

「なんだよ」

「もし、もしもの話だよ。この世界に魔法も能力もなかったら、人も魔物も獣も神も区別されなくて、みんな同じように見られる世界になるのかな」

 質問されたリョウは少し天井を見上げて大きくあくびをした。それほど真面目に考えていないリョウにルリカは少しイラッとしていた。だが、リョウはしっかりと答えを考えていてくれたようだ。

「そうだな、俺のいた世界には魔法も能力って言うのもなかったけど、みんな同じじゃなかったなぁ」

「それって変じゃない。同じ人間同士でどうして違ってくるの」

「そりゃあ、違うから面白いからだろ。みんなみんな同じだったら退屈で飽きてくるだろ」

「そういうことじゃなくて……」

 ルリカは何かかみ合わないリョウにイライラしているが、自分の聞いていることがそれだけややこしい話なのだと再度理解して納得するしかないと思ってしまっていた。

「はあ、そうだったわね。12神の名前すら言えないリョウに聞いた私が馬鹿だったってことね」

「馬鹿言いやがれ、流石にもう12神ぐらい言えるって」

 12神とはこの世界にいる粒子を操る12人の神である。その12人は人間の姿でありながら獣の神である。この世界で彼らの名前はことわざや古い数え方などいろいろな所で使われている。干支と同じでありある程度勉強した子供なら12人全て空で言えるものである。

「聖竜王と邪犬王以外で言えるのかしら」

「ば、馬鹿にしやがって、ヨウキとかチョコとかチョウヒとかジャコとか……」

「はあ、大地に恵みを与える賢者、元鼠帥(げんそすい)。生物を超える力を生み出す皇帝、皇牛姫(こうぎゅうき)。混乱の病を愛する者、乱虎慈(らんこじ)。闇の覇王の翼獣、覇兎羽(はとう)。絶対なる鉱物を守る聖なる竜、聖竜王(せいりゅうおう)。生まれ育てる恵みの水の子供、新蛇子(しんじゃこ)。乱世を知らせる長、源馬長(げんばちょう)。力を持たぬ死者を導く姫、霊羊姫(れいようき)。獣の頂点を行く人、帝猿人(ていえんじん)。光を生み出す英雄、英鳥妃(えいちょうひ)。全てを運ぶ風の王、邪犬王(じゃけんおう)。消滅と滅亡の炎と戯れる子供、古猪子(こちょこ)。いい加減覚えたらどうなの」

 スラスラと12神を言いあげたルリカはリョウの額をツンツンと突いて馬鹿にしていた。流石のリョウでも魔法学や兵法さらには世界歴史や古代歴史、戦闘術学と軍人として必須の勉強に加え、兵士としての一般常識や国内事情の勉強など軍の幹部になるには必要な知識を毎日のようにポロクルに叩き込まれていては、早急に必要になるものではない12神の名前など覚えている暇がないのだ。

「第一、何だよ、それ。名前だけならともかく、何とかを何とかする〜みたいなの。さすがに頭痛くなってくるぞ」

「ああ、知らないんだ。簡単に言うと、各12神の役割を言い表したことだよ」

 ルリカは簡単に言ったが、正確にはこの世界ができてからこの世界が終わるまでを言い表した言葉でもある。つまり、大地に恵み……これは世界の大地に生きていくために必要な栄養が蓄えられ世界が生まれたことを意味し、最後の消滅と滅亡の……はこの世界の全てが燃えてなくなることを意味している。これは、神々(12神)が予言したこの世界のことであり、多くの学者はこの文の意味を調べ、現在の世界がどの部分を表しているのか研究を続けているのである。

 もちろん、それを予言した聖竜王たちはその詳細を知っていると思われている。だが、聖竜王たちはそれを語ろうとはしない。訳は分からないが、それが自然の摂理なのだと思っているからであろう。それに、人間だけが必死にそれに抵抗しているのに神々が怪訝を見せているのも事実。魔物や獣はそんな予言など気にせず生きている。人間の欲深さが神々が語るのを渋る原因なのかもしれないと一部の学者は語っている。

「ふーん。気が向いたらポロクルに聞いてみるよ」

 リョウはルリカとの学力の差を見せ付けられて拗ねて寝てしまった。

「絶対に聞かないでしょ」

「ただいま〜」

 パンが突き出た大きな紙袋を抱えたアレクトが上機嫌に踊るように帰ってきた。その荷物をミルに預けると、アレクトはリョウの前で2,3度回って見せた。

「アレクト、酒でも飲んだのか」

「もう、リョウ君分からないの」

 何かに気付いて欲しいアレクトは、しきりに胸元を主張しながらリョウにアピールしている。

「ん〜、何か……いい香りはするけど何かあったのか」

「もう、鈍いなぁ」

 アレクトはため息を吐くと、ミルが何かに気付いたようで、アレクトの胸元を指さした。

「アレクト、そのブローチ」

「ブローチ?」

 リョウがアレクトの胸元を見ると、そこには小さなガラスでできた薔薇のブローチが輝いている。ようやく気付いてくれたとアレクトは自慢するかのようにそのガラスのブローチをリョウに見せ付けた。

「やっと気付いた。ねぇねぇ、可愛いと思わない。ちょっと高かったけど、いい香りもするし売り子の女の子も可愛かったからお気に入りかな。はい、ミルちゃんとルリカちゃんの分も買ってきてあげたよ」

 アレクトはミルとルリカの胸元にまだ蕾だが同じガラス製の薔薇のブローチを付けてあげている。二人もそれが気に入ったのかミルはしきりにその香りを楽しんでいた。

「それにしても変わったブローチだな。ガラスなのに匂いがするなんて」

「リョウ君が知らないだけで装飾品では珍しくないよ。魔法錬金術では初歩の初歩だよ。それにしても、あの子、可愛かったなぁ」

 アレクトは思い出したかのように顔をニヤリと危ない笑みをしている。

「そのブローチを売っていた子、だっけ。そんなに印象深い子だったのか」

「うんうん、すっごく可愛い顔して、すっごく可愛い服着て、どこかのお嬢様って言われても分からないよ」

 酒も飲んでいないのに興奮しているアレクトから見ると、かなり可愛い子だったのだろうとリョウは好奇心が沸いていた。

「実際、本当にお嬢様だったりして」

「それはないよぉ、私が知らない子だったし」

「いやいや、アレクトの知らない貴族の子だっているだろ」

 すると、アレクトはなに思い出したのか口を塞いで苦笑いで誤魔化した。

「そ、そうだよね。あはは、いや〜、仕事柄いろんな人に会っていたから妙な根拠持っちゃっていたねぇ。失敗、失敗」

 アレクトが小さく舌を出すと、手を打って仕切りなおした。

「さあ、お昼ご飯を食べたらまたお店始めようか」


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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