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第27話 神隠し戦−『騒げ笑えそして泣く?豹変祭』

「それはとても危険な作戦だ。賛成なんてできん」

 フレッグの家でアレクトには秘密で囮作戦の話をすることになった。フレッグの家を借りるため許可を得ようとすると、隣にいたライランが口を挟んできたのだ。

「別にお前の意見など必要ない。で、フレッグ家は貸してもらえるのか」

 アヌビスに叩き落され、自分の意見を聞いてもらえずイライラしているライランの隣には難しい顔をしたフレッグがいる。

 今回の作戦はフレッグの返事次第ですぐに行動できる所まで完成していた。フレッグの家の周りをケルンの鳥達が周囲を見回るように配置され死角は無い状況。ポロクルは、町周辺の細かい地図作成。アンスは夜の戦闘を予想しての睡眠。最後のばか一人を除いてはみんな囮作戦のための下準備を整えていた。ただ、何も知らないアレクトは次ぎ作るお菓子の話をミルたちと別室で楽しそうに話しているようだ。時折、壁を挟んでの笑い声が聞こえてくる。

 そこまで準備ができているにも拘らず、フレッグは簡単に首を縦に振ってはくれなかった。

「アヌビスたちがかなりの実力者だという事は分かっている。だが、敵の姿も分からず戦えるのか」

「そもそも、戦うつもりは無い。わざと捕まって、帰ってくるのが目的だ。その過程で問題が起こり戦闘があったにせよ、先ほどの大規模なものまでにはならないと思うぞ」

 今回の目的は敵の隠れ家を見つけ出すのが目的で敵の捕縛や殲滅ではない。それをするのはこの囮作戦が成功した先にあるものだ。その時はもちろん、フレッグたちには迷惑をかけず俺達ですることになるだろう。

「分かりました。家を空ければいいのですね」

「フレッグ。いいのか」

 フレッグの言葉一つ一つに口を挟んでくるのはライランだ。ライランには直接関係ない話なのに、この中の誰よりもこの作戦に反対していた。

「別に構いませんよ。町に迷惑が掛からないのと全責任を持つと言っているんです。それに、無償でこの事件を解決してくれようとしている。家の一つ貸すのは町の長として当然だと思うのだが」

 フレッグがこちら側についたことでライランは黙って腕を組んで深く椅子に腰掛けた。これで少しは話が早く進みそうだ。

「ところで、アレクトでしたっけ、彼女が囮だと聞いたのだが、彼女が神隠しにあう保障があるのか」

 フレッグは今回の作戦の一番の問題点を指摘してきた。神隠しの原因や何を基準におこなっているのか分からない現状で確実にアレクトを神隠しの対象にするのは難しい話だろう。

 だが、そこはアヌビス、その対策は既に考えていたようだ。

「アレクトだけを狙わせるんじゃない。アレクトしか狙えないようにするんだ」

 アヌビスが自信ありげに言ったのは、アレクト以外つまり、町中の女性を夜通しで守り続けるということだ。アレクト以外の女性が真昼のような明るい所で多くの人に守られていたら神隠しの犯人も手が出せない。つまり、アレクトしか狙えなくなるのだ。猫を巣穴に隠して虎の尻尾をちらつかせるといった作戦だろう。

 だが、町中の女性をこの町の人たちだけで夜通し守るのはほぼ不可能なことだ。もちろん、この町の人たちも女性を守るためなら夜通しで見張りをしたいだろう。だが、この町に夜が来ると昼間と同じぐらいの明かりは無く、夜が明けるまで火を絶やしてはならないようになる。そこまでの多くの燃料はこの町では裕福な家でも難しいことだそうだ。

 よって、現実的な話だと町の女性は暗闇で脅えながら朝を迎えるしかないのだ。何の対策も取れない結果が五日に一人以上の勢いで女性がいなくなっている状況になっている。

「アヌビス。すまないが、この町には一晩中明かりを保つ施設も物資も資金も無いんだが」

 フレッグが恥ずかしそうに、だがはっきりと言った。だが、アヌビスは初めから期待などしてなかったようで悩まずその告白に答えた。

「それなら心配するな。こっちで準備している」

「アヌビス、大変なの大変なの。ギューンがドーンでプルンプルンなの」

 アヌビスが不敵な笑みを浮かべた時、アレクトが慌てて部屋に飛び込んできた。作戦の話が終った瞬間だったので問題は無かったのだが、アレクトが飛び込んでくるのはかなり心臓に悪い。

「アレクト、とにかく落ち着いて分かりやすく話してもらえないか」

 俺は慌てるアレクトをなだめた。彼女は頬にクリームを付けたまま部屋に飛び込んできて何か伝えようとしていた。だが、肝心なことが理解できない用語の羅列のため意味が分からない叫び声と変わりなかった。

 だが、アレクトの報告でアヌビスは立ち上がりアレクトに部屋に戻るよう指示した。どうやらアヌビスにはアレクトの報告の内容が分かったようだ。

「アヌビス。もう口を出す気はないが、あんな人で大丈夫なのか」

 アヌビスには申し訳ないが、ライランの疑問は俺も持っていたものだ。流石に今のを見せられて不安になるなという方が無茶だ。

「悪いが、アレクトは俺の仲間内で一番信頼している奴だ。数日前に知り会ったお前とは計る基準すら違う。俺にとってお前がどんだけ騒ごうとアレクトのぼやきの方が価値があるんだ」

 それだけ言い残すと、タバコの火を消してアヌビスは部屋を出ようとした。俺もアヌビスについて外に出ようとすると、フレッグに呼び止められた。

「何処へ行くんだ」

「なに、祭りの下準備だ」

 フレッグとライランは不思議そうな顔をしながら俺に目線を飛ばしてきた。だが、俺にもアヌビスの考えはよく理解できないでいた。


 フレッグの家を出ると竜車が止まっていた。その数はざっと10はあり大きな行商人が来たのかと思った。その竜車から出てきたのは緑色の軍服を着た兵士達だ。兵士といっても、鎧や武器は持たず、軍服を着ているだけだ。その点も含め、まるで軍人らしくない容姿を見ると彼らは軍人ではない。つまり、俺達が隠れ蓑にしている変装して旅をする行商人達だろう。

 その緑の集団が使っている竜車は俺達のものと比べると二周りほど大きな竜が荷を引いていた。すると、その中で一番大きな竜車の中から一人の男が出て来た。

 その男を見て俺の疑いは強固なものになった。なぜなら、今まで多くの軍人、グロスシェアリング騎士団やリクセベルグ国の兵を見てきて彼はその中の軍人の枠には入らないと思う。

 身長は俺と変わらないが、大きく突き出た腹や脂の乗り切った腕と足、まるで人間が球体になったように丸い。その丸くて太った男は緑の軍服が今にもはち切れそうで、無理矢理に着た軍服は体に食い込んでいた。

 その男は俺とアヌビスのいる所へ重い体を左右に揺すりながら歩いてきた。男は一歩歩く度に大きく息を吐き大粒の汗を流している。さらに、かけている丸メガネは彼の放つ蒸気で曇り何度もメガネを上げたりしている。どうみても、軍人には向かない男性がアヌビスに近づいてきていた。

 そして、丸い彼は黒く眉で切りそろえられた髪をかきながらアヌビスの前に立った。すると、驚くことに先に手を差し出したのはアヌビスの方だった。

「カリオペ、久しぶりだな。迅速な動き感謝する。ヘスティアの方も助かったぞ」

 丸男はアヌビスの差し出した手を握って、汗を拭きながらようやく落ち着いた。

「まったくなんだな。ヘスティア、真っ赤になって怒ったんだな。それなりの見返りよろしくなんだな」

「ああ、考えておく」

 見た目どおり話し方もゆっくりな丸男をアヌビスはカリオペと呼んでいる。カリオペとは、シルトタウンの管理者であるヘスティアの側にいる人間の名だ。もしかしたら、この丸肉団子の男がそのカリオペなのだろうかと思い始めたら、先に俺のことが気になったのは向こうだった。

 肉団子男……もとい、カリオペ候補は俺を指さしてアヌビスに不思議そうな顔を見せた。そして、俺のことを聞こうとしている。俺はアヌビス部隊に入ってまだ短い。だから、彼が俺のことを知らなくて当然だ。だが、彼がした初めの質問に俺は変な恐怖を感じた。

「アヌビス、そこの子。男の子、それとも女の子」

 真っ先に聞くことが性別なのか。もっと聞くことはあるだろう。成り行きとか名前とかさ。

「リョウは俺の部隊の新入りで男だ。残念だったな。リョウ、こいつはヘスティアの側近だ」

 アヌビスも何度も経験したかのようで簡単に答えた。

 すると、カリオペは鼻から蒸気が見えるほど勢いよく息を吐くと俺に手を差し出してきた。

「シルトタウン守護部隊。緑の部隊、ヘスティア護衛長の未来読みのカリオペなんだな。よろしくなんだな」

「前線行動部隊。黒の部隊。アヌビス補佐の副参謀のリョウです。よろしくお願いします」

 ポロクルに叩き込まれた自己紹介の名乗りをなんとか言い終えて、カリオペの手を握った。その手は人では考えられないほど熱く、タダの肉の塊を掴んだような感触だ。

「参謀……アヌビス。また好奇心で増やしたのか」

 アヌビス部隊には既にポロクルという優秀な軍師がいる。それにも拘らず、軍師として迎え入れられた俺の存在は他の部隊にしたら異質なものなのだろう。

「肩書きはそうだが、こいつ、リョウは竜神の力が扱える。さらに、知識の詰まった魔道書を読むことができる。こんな奴を部隊に入れないのは馬鹿だと思わないか」

「なるほどなんだな。また、ヘスティアと喧嘩になるんだな」

「さあ、どうだろうな。それより、祭りの方は大丈夫なんだろうな」

 祭り。それを聞いて周りのにぎやかな兵士達を見た。彼らは、酒樽や多くの食材それ以外にも装飾品や衣服などいろんなものを竜車から出してで店の準備をしていた。

「な、何事ですかこれは」

 流石にここまでになるとフレッグが家から出てきて周囲の変わりように驚いていた。カリオペが一目でフレッグを長だと見極めたようでフレッグの前に立った。

 カリオペの大きさと漂う蒸気にフレッグはたじろいでいたが、カリオペが騎士のようにお辞儀するとフレッグは拍子抜けした表情に変わった。

「この度はわがギルド長のアヌビスが世話になったそうで、今宵はその礼の代わりにて些細ではありますが祭りという催し物をお届けに参りました」

 カリオペがフレッグに詳細を話し始めるのと同時に俺はアヌビスに呼ばれてフレッグの家の中に入った。


「祭りってどういう意味だ」

「聞いての通りだ。夜通しの祭りだ。何も無しに町中のの連中を集めて、明かりを絶やさないだけだと疑われるだろ。だが、祭りという行事、その騒ぎから離れた一人の女。騒ぎの中なら誰か一人いなくなっても疑いもしない。神隠し犯としては最高の標的だろ」

「かも知れないけど……アレクトに悪い気がするなあ」

「悪いが、今回の作戦。祭りにはかなりの資金が使われたんだ。今更変更はできんからな」

 今回の祭りはポロクルが俺の百科事典から見つけた夜通し騒いでいてもおかしくないイベントだと判断したものだ。事典を元にして進められている祭りは元の世界のものと遜色ないほどのできだ。売られているもの雰囲気までもが完全に再現されていた。

「へーそんなことを考えていたんですねぇ。だから、カリオペが来たんですか」

 俺とアヌビスは後ろからの声に驚きながら振り向いた。そこにはりんご飴を持ったアレクトが頬を膨らませて仁王立ちしていた。俺は苦笑いをしたが、アヌビスは無表情のままだ。

「おかしいと思ったんです。ミルちゃんとルリカちゃんは私じゃなくてポロクルが警備してるし、子守りの変態カリオペはシルトタウンから出てくるし、変な宴が始まろうとしてるし。どんな作戦なんですか」

 りんご飴をかじったアレクトはぐいっと俺のほうに顔を寄せた。仲間外れにされたあげく囮にされたと知ったらきっと怒るだろうな。

「囮作戦だ。獣に食われる予定の兎に言う必要は無いだろ」

 さっきまではアレクトのことを虎とか獅子とか言っていたアヌビスが、本人の前では切り捨てるようなことを言い出した。だが、アレクトはアヌビスの冷たい言葉に怒ることなく肩を落としてため息を吐いた。

「そうですか。で、具体的に私は何をすればいいんですか」

「夜が更けるまでは祭りを楽しんでいてもらってもかまわん。で、ある程度夜が更けたらフレッグの家で一人で寝ればいいだけだ。後はこっちでやる」

 アヌビスは作戦の流れや安全のうぬは言わず、彼女がしなければならないことだけを言った。俺だったら不十分で色々聞きたがるが、アレクトはそれだけの情報で顎に指を当てて考え事をし始めた。アレクトが自分の安全などを気にしていないのは、それだけアヌビスを信頼しているからだろう。

 すると、しばらく考えたアレクトが一つの面白い質問をしてきた。

「食べて遊んで寝る。つまり、私、お仕事ない。お休みってことでいいの」

 アレクトの質問にアヌビスも少し考えていたが、すぐに答えた。

「まあ、町の中にいてフレッグの家で寝ることを守ればそういうことになるな」

 アヌビスに要注意点だけ修正されてもアレクトは難しい顔を嬉しそうな顔へと徐々に変えてゆき、次第に小刻みに震え始めた。強く握ったりんご飴がフルフルと揺れるのが分かるほどだ。

「もう、それならそうと早く言ってよ。うぅぅ、やったー」

 そう叫んだアレクト両手を挙げてフレッグの家を飛び出していった。

「なあ、アヌビス。アレクトってあんな奴だったけ」

「アレクトは、状況や食べた物で人格が変わる人間だ。そう気にすることじゃない」

 俺の中でのアレクトの姿は優しいお姉さんだった。なのに、今のアレクトを見ると同級生でテンションの高い女性にしかみえなかった。


 俺とアヌビスもアレクトに付いていくように外に出た。すると、外は夕日が沈み薄暗い空になっていた。だが、完成した祭り会場は華やかな光と食欲をそそる香りに満たされていて、昼間以上の活気が沸き溢れようとしている。町の人は女性だけではなく町中の人が神隠しの恐怖を忘れ作戦だとも知らず純粋に楽しんでくれている。

 その賑わいの渦の中に顔見知りのみんながいた。だが、みんな祭りの気にやられたのか本性が出てきているのか分からないが、少し変わった状況へとなりつつあった。

「おお、アレクトちゃん可愛いんなんだな。すべすべお肌は健在なんだなあ」

「触るな、抱きつくな、近づくな、この変態脂男。汗が臭いぞ、すり身にするぞ。そして、犬に食わせてやるぅ」

「強気だけど涙目のアレクトちゃんも可愛いんだなあ」

「ムキィー」

 見慣れた顔の集団で一番初めに目に入ったのはアレクトに抱きつくカリオペだ。あの油でコーティングされが頬でカリオペはアレクトに頬ずりをしている。それを必死に拒むアレクトだが、カリオペはアレクト以上の筋力を持っているようで逃げられないでいた。

「アレクト、この人誰」

 アレクトとカリオペの前に現われたのは二人の状況をよく理解できないミルだ。この状況をミルに見られたアレクトの表情は青ざめたものに変わり、代わりにカリオペの顔が輝き始めた。

「ねえねえ、アレクトちゃん。このかわゆいおんにゃの子は誰なんだな」

 カリオペがアレクトに聞いたが、礼儀正しくてよくできたミルは自分から自己紹介を始めた。

「あ、はじめまして、ミルです。アヌビスに王都に連れて行ってもらうために一緒に旅をしています。これからも、よろしくお願いします」

 一語一語をはっきりと丁寧に言いながら自己紹介したミルは俺の目から見てもとても可愛くて抱きしめたくなった。もちろん、カリオペも同じようで、いきなりミルを抱きしめた。

「ミルちゃんか。いい子なんだな。うん、本当にいい子なんだな。僕はカリオペ、よろしくなんだな」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 カリオペに頬ずりをされても嫌がる顔ひとつしないミルは意味が分からず瞳をパチパチさせていた。

「カリオペってあんな人だったのか」

「やつは女と男で対応が全然違うんだ。もし、リョウが女だといっていたらあの中にお前も混ざることになるな」

 あんな簡単な質問でここまで大きな結果を生むとは……。


「いいねぇ、いいよぉ。んじゃあ、次はこれだな」

「に、兄さん。もうやめませんか」

 次に耳に入ってきた声はアンスとケルンの声だ。二人は、地面に広げられたアクセサリー屋と隣の衣装屋の間に陣取っていた。周りの人は二人に近づくこともできず、ただ珍獣を見るかのような目で二人を見ていた。

 二人は何をしているかというと、アンスが選んだ服とアクセサリーをケルンが着てアンスが満足しているだけだ。新しい服を着せるたびにアンスは弟ケルンを異常なまでに褒めている。それに、ケルンに着せているのは全て女性用の服のようだ。

「うん。やっぱりケルンは可愛いな。よし、次はこっちだな」

「兄さん。いい加減にしてください。どうしていつもそうなるんですか。こんな兄さん嫌いです」

 強い口調でケルンに拒まれたアンスは、持っていた服を地面に落とすほどショックを受けたようだ。そして、その場に泣き崩れボロボロと涙を落とし始めた。

「嫌い……嫌い……。そうか、兄ちゃんが嫌いなのか。うっ、兄ちゃんはケルンのことをこんなにも愛しているのに……」

「泣けば許してくれるなんて思わないでくださいよ。すぐに泣く兄さんも嫌いです」

 トドメとばかりにまた嫌いだと言われたアンスは、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げてさらに泣いた。

「そうだよな。こんな泣き虫な兄ちゃんいないほうがいいよな。分かった、愛するケルンのためだ。兄ちゃんはケルンの前から消えるからな。ケルン、止めるんじゃないぞ」

「誰も止めないので、どこぞへと勝手に行ってください」

 ケルンに目も合わせてもらえなくなったアンスは、泣きじゃくりながら箸ってどこかへ行ってしまった。

「アヌビス、本当にあれがアンスなのか」

 今のアンスはいつも強気で俺についてこいって感じのアンスからは想像できないぐらいの泣き虫だった。

「戦いなら強気でいけるんだがな。それ以外だとすぐに泣く所があるな。それが奴の弱点だな。ケルン好きなのは……本人に聞け」

 聞いてもいいことなのかな。あの二人の関係に少し危ないものを感じた。


「みんな浮かれやがって、本当に分かっているんだろうな。一人でもしくじればこの作戦は100%の結果を得られないんだぞ。大体だな、自分の仕事を全力で果たそう問う考えがないから、いつも私の策が100%生かせないんだ」

「でも、ポロクル。今回、貴方の仕事は私とミルの警護。正直、作戦に直接影響する仕事かな。私にはいい仕事をもらえなくて愚痴を言っているだけに聞こえてくるけど」

 今度は珍しい組み合わせで、ポロクルとルリカの組だ。いつもの冷静なポロクルがメンバーのみんなの愚痴をこぼしている。その右手にはお酒の入ったコップが持たれていた。

「そう言いたいのではないのだよ、ミル君」

「私、ルリカです」

 肩に手を置かれたルリカはそれがまるで汚いものかのように払いのけた。

「いいかね。どんな仕事だろうと真剣にやろうと、いつも緊張感を持とうというのがだね」

「仕事中にお酒を飲んでいるポロクルもどうかと思うよ」

「これはだね……いいかい、リョウ君」

「だから、ルリカです」

 またしてもルリカは汚いかのように手を払いのけた。

「周りのみんなに合わせないと、不審がられるだろ。つまり、演技だよ」

「演技にしては凄い量だよ」

 二人のやり取りを見ていると飽きない。ポロクルは酔うとああなるんだな。それに、落ち着いたルリカが混ざると結構面白いものだ。


 いつもと違うみんなを見ていると、俺にアヌビスが飲み物の入ったコップを渡した。

「まあ、夜が来るまで仕事はないんだ。だから、リョウもあいつらみたいにこの祭りを楽しんだらどうだ」

 アヌビスはタバコに火をつけて甘い煙を吐いた。俺は、懐かしい元の世界の祭りを再現してくれたアヌビスに小さな感謝をして、元の世界にはない甘い飲み物を喉に通した。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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