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第14話 ホルス救出戦−『集結する』

「リョウが竜になった?」

 今回の戦の裏側やあの三通の手紙の意味を知った俺達は、ホルスの立てた計画を成功させようとアヌビスを探しながらポロクルの待つ街に向けて竜を飛ばした。

 ネイレードと合流した俺達の戦力は軍艦相手でも引けを取らないとのことで、ペルセウスとヘラクレスは別ルートで街へ飛んでいった。

「はい、ピカーって光って、バサって羽が生えたんです。それも、高位の魔法を簡単に使ってたんです」

 アレクトは俺の身に起きたことをネイレードに話していた。興奮気味のアレクトの説明は感情的なものだがネイレードには伝わっているようだ。

「アレクト、もう少し勉強したら。それは竜神って言って肉体強化の術よ。昔授業で習ったでしょ」

「肉体強化? でも、あれは強化というより変化に見えたんですけど。それに、魔法も使えるようになるんですか」

「効果は個人差があるからねぇ。見た目が変わらない人もいれば全身獣になってしまうこともあるの。魔法も一つだけ使えるようになるらしいね。竜は聖竜王だから鋼だね」

 ネイレードの説明にアレクトは首を傾げていた。

「鋼だけなんですか? あの時のリョウ君は呪と鋼の複合捕縛魔法を使ったんですけど?」

「なら、リョウは呪の魔法が使えたんじゃない。ね、そうなんでしょ」

「悪い、今は話しかけないでくれ」

 今の俺にネイレードの質問に答える余裕なんてなかった。なぜなら今の俺は1人で竜に乗っているのだ。

 アレクトの話だと軍で俺の肩書きは『リクセベルグ国第四軍黒の部隊所属リョウ』だそうだ。それに、俺はこれからは少数の兵をつれて前線に立ったりもするそうだ。そんな人が竜にすら乗れないのは示しがつかないということで無理矢理乗らされたのだ。

 馬と同じ感覚だから簡単だよと言われたが俺は1人で馬にすら乗ったことがない。ので、がちがちの腕で真っ直ぐに飛ばすことしかできないでいた。

「リョウ君緊張しすぎだよ。たかが竜だよ。軍艦を運転してるんじゃないから気軽に乗ろうよ」

「アレクトさん。俺は今まで軍艦も竜も馬さえも乗ったことがないんですが」

「へ、そうだったの? それにしては上手く乗ってるね。さすが竜神。同族のことはよく分かるのかな」

 ネイレードに褒められたが嬉しくなかった。彼女は竜を簡単に操り一回転させたり急降下させたりと楽しむほど余裕があるからだ。

 そのネイレードに俺の気持ちを分かってもらえず加速の命令を出した。

「全員速度上げ! 着いてこられない奴は竜を降りろ。邪魔なだけだ」

 ネイレードさん。俺、降りていいですか。

 弱気な俺を残してネイレードは速度を上げた。彼女の後ろをアマーン飛竜部隊の数十頭の竜が続く。

「ほら、リョウ君も速度上げるの」

 アレクトは俺の心が決まる前に竜の柔らかい横腹を蹴った。その蹴りは竜にとって合図ではなく生命を脅かす攻撃だったようだ。アレクトを敵と認識した竜はアレクトから逃げるように速度を上げた。敵から逃げるためだろうか速度が周りのみんなより速い。飛竜部隊を追い抜きネイレードの横に追いついた。

「リョウ、やればできるじゃん」

 ネイレードと共に飛んでいると、間にアレクトが入って来た。

「ネイレード。この先にアヌビスとアレスが戦っているそうです。ちなみにこの速度だとメネシスの機械竜が二人に接触した後、数秒後に私たちが接触できるそうです」

「そう……」

 ネイレードは後ろに続く飛竜部隊を見た。どの竜も重装備で多くの武器を持った兵士が乗っていた。

 リクセベルグ国の飛竜部隊といったらグロスシェアリングに次ぐ知名度だそうだ。

 そもそも、竜を手懐けるのは困難なことで軍事用に使うことは不可能だそうだ。だが、リクセベルグには聖竜王がいる。聖竜王の威光で竜を手懐けているそうだ。

 この世界で空を飛べるのは機械や獣しかいない。機械で空を飛べるのはとても奇異なもので、メネシスの機械竜は国家予算をつぎ込んで作り出した大作だろうと話していた。そんなことで、空を飛べて獣の頂点にいる竜を使える国は世界屈指の軍事国家だ。と、アヌビスの記憶が教えてくれた。

「それなら、飛竜部隊は二手に分かれてアレスたちを輪になって囲め。悟られないように注意しなさい」

 兵達の威勢のいい返事がした直後、飛竜部隊が見えない道をたどっていくように別れていった。一糸乱れない動きは軍隊の動きで力強さを感じる。

「ネイレード。なぜ私たちで追うことにしたんですか? もし、あの部隊に何かあったら」

 飛竜部隊を失っても恐怖や不安は感じなかった。アレクトは強豪2人を相手に戦い抜いたし、ネイレードはグロスシェアリング、それに自分の力にも少しばかし自信がある。自分の爪を振りかざせば敵は脅え、剣を抜けば敵は逃げだす。

 戦力はさほど減ってはいないがアレクトは確認をしたかったのだ。あの飛竜部隊はアマーンのものでそれをホルス名義でヘラクレスたちが借りたものだ。それをアレクトが2人から借りたものなので粗末に扱ってはならないのだ。

「心配しなくていいの。あの進行方向にはペルセウスとヘラクレスがいる。彼らに援軍として送ったみたいなもんなの。いくら彼らでも1人で3人も抑えられないだろうからね」

 俺達と別れたペルセウスとヘラクレスは機械竜を両脇から挟むように別ルートを進んでいる。

 ホルスの計画を遂行する際、最も守りが薄くなるのは彼らの所なのだ。それを好しと思わなかったネイレードがそこを補ったのだろう。

「さ、アレクトにリョウ気を引き締めてかかるよ。しくじったりしたら丸焼けかもだよ」

 真冬の雪山を降りてきて春の草原を飛んでいた俺達。草原の先には赤黒い炎が燃え上がり、その炎を乗せた風が灼熱の南風となって俺達を押し返そうとしていた。


 炎は草原を焼く。舞う灰は黒い雪のよう。そして、炎の中央で舞う二頭の竜。斧を振るう黒い鎧の男と炎を吐き出す黒衣の死神。お互いの得物がぶつかり合うたびに炎が大地に落ち草花がなくなっている。その大地に草はなく岩ですら溶けだすほどだ。

 その熱に竜は息をすることもできず徐々に飛ぶ高度が落ちてきていた。今はアヌビスが勝っているが、そのうちお互いの竜は力尽きるだろう。

 その死を間近に置いた彼らの間を機械竜が割って入って行った。機械竜はアヌビスを叩き落すようなことはせず、アレスを連れ去る最低限の目的を果たして飛び去っていく。

 アヌビスは追いかけようと竜を動かしたが既に力はなく炎へ落ちるだけだった。

「アヌビス! こっち」

 炎に落ちていくアヌビスをアレクトが呼んだ。俺達に気付いたアヌビスは屍になり行く竜を踏み台にして高く飛んだ。アヌビスは俺の乗っている竜の尾を掴むと背中まで登ってきて俺の握っていた手綱を奪い取った。

「あの機械は何だ。俺の狩の邪魔をしやがって、追ってアレスごと落とすぞ」

「待ちなさい。このまま一定の距離を保ってポロクルたちの街まで追い込むの」

 ネイレードの作戦にアヌビスは怪訝の意思を表した。

「何を悠長なことを。あの街を越えられたら完全にクロノ国の領土だぞ。そのまま逃げられることも奴らの援軍も予想できる」

「それでも大丈夫。悔しいけど、今回の最優秀戦果者はホルスだけどね」

 

 街が見えるくらい機械竜が近づいた時、真っ直ぐに速度を落とさず飛んでいた機械竜が急停止をした。

 ポロクルたちの待っていた街には飛竜部隊が進路を塞ぐように広がっていたのだ。

 さらに、地上にはアマーン・ホルス・ネイレードの三部隊の兵達が陣を敷いていた。街の近くにいたはずのアレスたちの敵兵の影はどこにもなく、まさにアレスたちは孤立している状態だ。

 そんないろんな力が存在する中に、真っ白な馬に乗った白い鎧の男がいた。年はアヌビスと同じぐらいで、両手に2本の白い槍を携えている。耳が見えるぐらい切られた金髪。青い瞳。まさに西洋の戦士のようななりをしていた。

「白い……」

 彼を見て率直な感想がそれだ。何故だろう。アヌビスは黒髪で赤い瞳、それを見たら黒いと思い。ネイレードは赤い髪に緑の瞳を見たら赤いと思った。なのに、彼のどこにも白いものはない。だけど、彼は白く輝いて見えた。ジョーカーとは違う何か白いものだ。

「ホルス……あいつ捕まってなんかないじゃないか」

 アヌビスが怒っているのか安心したのかよく分からない声音で呟いた。

「まったくだよね。清純派戦士が嘘はだめだよね」

 ネイレードの言葉に俺はなるほどと思った。彼にはアヌビスやネイレードなど外見の色ではなく、心の色を感じたのだ。確かに彼を見ていると、優しくて正直なイメージしかできない。まさに白い騎士だ。

「そろそろだな。リョウ。アレクトの竜に移れ」

 アヌビスは無茶なことを言い出した。低いとは言え軽く10mはあろう空中で隣の竜に移動しろと言い出したのだ。

「おら、早くしろ!」

 反論しようとした俺だったが、今竜の手綱を持っているのはアヌビスだ。

 アヌビスは竜を一回転させる。空と大地が逆転して俺は竜から無理矢理落とされた。落ちると思った俺は身を丸める。しかし、丸まった俺をアレクトが上手く受け止めてくれた。

「危ねぇな。殺すきか!」

 遠くを飛んでいるアヌビスは俺の文句すら聞いていなかった。その横にはネイレードもいる。2人は俺達から離れていた。

「何だよ。急に」

「2人は名乗りを上げなきゃならないからね。後ろに誰か乗せていたら示しがつかないよ」

 アヌビスたちが機械竜にある程度近づいたころ、ホルスが声を張り上げた。

「自分はリクセベルグ国第二軍白の部隊指揮官ホルス。グロスシェアリング名は白き槍。アレスならびにメネシス、アテネ。大人しく縛についてもらおう」

「リクセベルグ国第四軍黒の部隊指揮官アヌビス。グロスシェアリング名は黒衣の死神。縛を拒み逃走を試みるなら我らの力を持ってそれを阻止する」

「リクセベルグ国第一軍赤の部隊指揮官ネイレード。グロスシェアリング名は紅の宝石。私たちは貴方達の命を脅かす気はない。しかし、交戦を望むならそれを約束しない」

 ネイレードの台詞に一番取り乱したのはアヌビスだった。

「おい、こんだけ問題を起こしてお咎め無しはないだろ。両手両足を切り落としてでも足りないぐらいだ」

「もちろんそうだけど……ホルスがそう言えって言ったから。後で二人だけで制裁を加えればいいんだし、今は口上だけ」

 ネイレードの笑みにアヌビスが頷くと機械竜の頭の上にアレスが立った。

「誰がお前達の縛につくか! メネシス、上昇して振り切れ」

 機械竜が上昇しだした。それを見てアヌビスは喜び、ホルスは残念そうな顔で見ていた。

「分かってもらえなくて残念です」

 ホルスが右手を上げた。すると、ケルンを先頭にした弓兵部隊が前に出た。

 ケルンの指揮で弓兵たちが機械竜に向けて矢を放っていった。しかし、普通の矢では機械竜に大きなダメージを与えることはできず上昇を止めるのでやっとだった。

 すると、ケルンの横に1人の男性が現われた。俺より少し年上に見える兄貴のような男性だ。彼はケルンと同じ白く長いハチマキをしていた。

「アンス大丈夫だったんだ」

 アレクトの話では彼が敵地に1人で飛び込んだアンスだそうだ。

「兄さんお願い」

「おうよ。兄弟の力見せ付けてやろうぜ」

 ケルンは弓を構えた。その弓は大人ひとり分の長さがあった。そこに番える矢はアンスの持った槍だ。弓を持つのはケルンで矢を引くのはアンスだ。その2人で一つの巨大な弓を作り出していた。

「機械の弓よ。人知を超えた力により生まれた力を用いて、矢を天空へ打ち上げろ」

「雷よ。槍にまといて鋼を貫く力を得よ」

 2人の魔力が一つになり稲光が周囲に撒かれていった。その驚異的な力を見せられた兵達は二人から逃げるように離れていった。

 そして、二人の力の共鳴が限界まで達した時、槍が放たれた。

「「貫く二人の力(ラクサルセイフ)」」

 放たれた矢は機械竜を貫き一撃で竜を落とした。

 地面に落ちた機械竜は感情があるかのようにうめき声を上げて苦しんでいる。

「く、メネシス、転移魔法頼んだぞ。行くぞアテナ」

「ハイ、アレス様」

 メネシスは地面に魔法陣を書き始めた。転移魔法で逃げるつもりのようだ。

「そうはさせません。みなさん、捕縛してください」

 ホルスの攻撃許可の声に全兵隊が動いた。その中でいち早く動いたのはアヌビスだ。アヌビスが喜び竜から飛び降りた。

「アレス! 決着つけようか!」

 赤黒い炎の剣を地面に突き刺すように落ちていったアヌビスがアレスの斧と接触した。すると、爆発音とともに炎が半球状のドームができて全てを飲み込んだ。


「新しい力を手に入れたんだね。素敵だよ、アヌビス」


 アヌビスの剣を受け止めていたのはアレスではなかった。白い髪に白い服。幅の広い日本刀でアヌビスの一撃を受け止めていたのはジョーカーだった。

「ジョーカー!」

 ジョーカーから離れたアヌビスは剣を振り炎を巻き起こしジョーカーを攻撃していた。

「アヌビス。今は彼ではなく魔法陣の完成の阻止を」

「うるせぇ。それぐらい自分でしろ!」

 ホルスの命令を聞かないアヌビスはジョーカーばかり気をとられていた。

「ジョーカー。俺達に加担してくれるのか」

「そうではない。アヌビスと戦いたいから来ただけです。それが貴方達によい結果を生んだとしても自分には関係ありません」

 アレスはジョーカーに礼を言うかどうか悩んでいたようだが、軽く頭を下げてメネシスたちと共に逃げていった。

「ジョーカー、やはり敵か」

 アヌビスは剣を投げ捨てる。そして、両手に炎を持った。すると、アヌビスの影がどんどん伸びていく。その影は人の形ではなく、獣の形になっていた。

「アヌビスの暴走です。ネイレード止めますよ」

 ホルスとネイレードがアヌビスを押さえる。それでもアヌビスはジョーカーに一撃入れようと暴れていた。

「何とも荒々しい。獣そのもの。ですが、まだです。どうやらここにはアヌビスと同じ獣がいるようですね。それで今日は十分」

 ジョーカーは自分で手を切って血を流す。そして、その血に体を沈めていって消えていった。

「ジョーカー!」

 ジョーカーが現われてからずっと今まで見たことないアヌビスだった。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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