第13話 ホルス救出戦−『技術兵器』
アテナが完全に降伏したのを確認して銃に弾を込めてみた。一部がかき消され魔法陣の効果も無くなっていたのでいつも通り弾を込めらえた。
レーザーブレードをしまい銃をアテナの首筋に当てた。ブレードを使ってもいいのだが、私はその武器を気に入っていない。自分達を狩るために作られた古代兵器を使うのは気分がよくないからだ。
「くふぁ〜。よく寝た。……おう?ネイレード派手にやったな」
「ミケおはよ。起きて早々悪いけどアテナを拘束する魔法何かない?」
恥ずかしい話だけど私はグロスシェアリングの中で使える属性が少ない方になる。アヌビスの7つを筆頭にみんな5つか4つが基本になっている。3つしか使えないのは私とアマーンとヘスティアだけだ。さらに恥ずかしいことに私がその中で一番下っ端みたいなものだ。ヘスティアは治療と防御が得意な召喚師。アマーンは魔法は肉体の強化程度の格闘家。そう考えるとヘスティアの姉として恥ずかしくなってきた。
風・炎・光の3つしか使えない私は拘束する魔法を使えない。光と風の応用で似たようなことはできる。だけど、この後の尋問と護送を考えると大規模なので不向きな魔法だ。それに、拘束に向いている鋼は風の反属性。私には習得できそうにないのだ。今はミケに頼るしかないのだ。
「おう、ちょっと待ってな」
ミケが二つに開きミケの紫色の手が出て来た。ミケは魔道書に封印された魔物で、私が一部封印を解いてあげたのだ。なので、ある一定量なら体の一部を出せるのだ。その力は極限まで封印されているが、普通の魔法使いと同じぐらいの力は使えたりもする。
でも、魔力は少ない。初級魔法を使ったら3日間話せなくなるほど少ないのだ。なので、私が足りない魔力を補う。これが魔道書の仕組みなのだ。
ミケは爪で地面を引っかきながら槍に近づこうとしていた。爪だけで自分を動かすのは苦手のようで少しずつしか動いていない。見ているだけでヤキモキする。
「手伝おうか?」
「いい、もっちょっと……よし。魔力供給頼んだぞ」
ミケは槍を握り締めていた。
「鋼よ。その身を変え生まれ変われ。連なる輪は結束の力なり」
ミケの握った槍は鎖になった。ミケはそれを私に投げて渡した。見たところ普通の鎖だ。強度は普通以上にありそうだが、魔力も何も施されていないただの鎖。
「いくらなんでも手抜きでしょ。アテナをこれで拘束できないでしょ」
「いや、それで十分だ。そいつは魔鉱石がなければただの体力のある人だ」
「ちょっ、ちょっとミケ。私のことを話すつもり。それはクロノ国の機密事項なんだよ」
アテナは取り乱してミケを掴もうとした。が、両手を鎖で結ぶためアテナを地面にねじ伏せた。
「一応結んでみたけど本当に大丈夫なの?」
「ああ、アテナは魔法を使えないんだ。それなのに使えるようにするには獣神をして体力を魔力に変換するしかなかったんだな」
体力を魔力に変換することは聞いたことがある。魔法使いの才能がる人間が多いリクセベルグ国では使われることはない。
体力を魔力に変えることは戦士にとって大きな負担になる。戦士にとって体力が減るのは魔力が減るのとは訳が違う。体力が減ってしまっては戦えないからだ。戦士以外にも戦うものなら魔力より体力を優先するものだ。
さらに、この技術は魔鉱石が必要になってくる。この技術の唯一の利点は魔鉱石で好きな属性を使えることだ。だけど、魔鉱石の質や術者の体力が大きく影響してくる。獣神の体力がないとやっていけないほどだと思う。
「犬に鎖か。でも、アテナほどの力があれば引き千切れるんじゃないの?」
「それはないな。だろ、アテナ」
アテナの上からおりるとアテナは砂を軽く払った。すると、ため息を吐いた。
「犬神の力はそうそう簡単に使えるもんじゃない。全身の血を違うものに変えて体中の組織を組み替えるような荒業。一日一回が限度。それに、今回はいつも以上に無理したみたいだから数日は使えないでしょうね。犬神の力を使うくらいなら腕を切り落とした方が利口かもね」
アテナのことをどこまで信用していいか分からない。ミケを信用していない訳ではないが念のためだ。私は鎖を握り締めた。
「光よ。鋼に強き力を。かき消されることのない刻印を。別れるとき貫く白光となれ」
私は普通の鎖にある魔法を施した。まず一つ目は鎖の強度を上げた。もしこれで引き千切ろうとすると腕の骨が耐えることができないだろう。二つ目にもし切られたときのためにそれを条件にした魔法をかけておいた。これで逃げられたとしても鎖は外せない。外してしまうと腕と心臓に防御不能の特大魔法が襲い掛かる。
複雑な魔法なので耐久性はほぼない。光の反属性の闇で簡単に外されてしまう。だが、今はこれで十分だ。
「すごい念の入り用ね」
「貴方は嘘つきだからね。これじゃ足りないぐらいだよ」
私は再びアテナに銃を向けた。
「さて、ホルスのことは知らないんだよね」
「はいはい、知りませんよ。それは本当だからね」
あの手紙、なのにホルスを知らない。これを聞いてから私はまたホルスの悪い癖が出たのだと思った。ま〜、今のところ上手く行っているようなので許すとするか。でも、アヌビスは怒るだろうな。私は何度も経験したけどアヌビスは初めてのはずだ。私も初めては怒ったし、彼の性格だと腕一本切り落として謝罪しろと言い出しそうだ。
アヌビスのことも気になるけど、それより気になるものがあった。私は二つに折れた大剣をもってアテナの近くに座った。大剣は淡い青色で金色の文字が彫られていた。折れてしまい剣としては使いようがないが、魔鉱石としては異常なまでの大きさと純度を持っている。もし、この大剣を売ったとしたら金貨100枚でも安いだろう。
私が気になったのはそんな宝剣をアテナが持っていることだ。クロノ国では魔鉱石が採れないはず。なのに、この宝剣。リクセベルグ国から盗んだとしてもそんな知らせは聞いていない。
「ねぇ、この剣どうしたの?」
折れた刃だけをアテナの頬にぺちぺちと当てながら聞いた。だけどアテナは答えることなく顔をそらした。
「答えるのが嫌なの?でもね。今貴方は命を私に握られているんだよ。命を捨ててでも守るほど大事な秘密なのかな?」
「作った」
リボルバーの弾倉をクルクル回しているとアテナは小さく答えた。
「私たちの研究で魔力を持った人間で魔鉱石が作ることができるとわかった。さらに、魔鉱石を人間の体内で育てることもできるとわかった。それを繰り返していって作り出した。もちろん、その一本を作るために何百人も犠牲にしたけどね」
「人間で作った?でも、貴方の国では魔力を持った人間は少ないって聞くけど?」
現に一部隊を率いるアテナですらあのような形で魔力を得ていたのだ。なのに、何百もの魔法使いを犠牲にできるはずがない。
「……機密事項です」
「身売り。リクセベルグ国の餓鬼を買い集めたな」
ミケがアテナの変わりに話した。ミケが話し始めてアテナが嫌な顔をしていた。
「ミケ知ってるの?」
「知ってるも何も俺が教えた生物技術だ。魔法を使える使えないを別として、リクセベルグ国の人間なら大小はあるが誰でも余分な魔力を持っているからな。餓鬼を買って魔鉱石を埋め込めば十分育てることはできるだろうよ」
今、リクセベルグ国の問題の一つとして人口の減少がある。特に子供。減少の理由として最も高いのは身売りだ。中には生まれたての赤子を売る親もいるそうだ。その買い手にクロノ国があったのは知らなかった。
「アテナ……貴方達最低ね」
「違う。悪いのはネイレード貴方達の方だ。私達は自ら売りに来た子しか買っていない」
「違わないでしょ。買ったことに変わりはない」
「だから違う。親を亡くして兄弟のためにお金が必要だと泣きついてきた子しか買っていない」
アテナの言いたいことはわかる。実際、私も昔に似たようなことをしていた。売る方も買う方も。だからよく分かる。売るときの辛さも買うときの浅はかさも。
「で、簡単に殺したんだ。ふん、それじゃあ、私たちの国の身売りの方がよっぽどましだね」
アテナは顔を伏せた。彼女も良いことではないと分かっているようだ。
剣の出所も分かった私はミケを送還してアテナを見ていた。すると、高く遠くからキーキーと金属のすれる音がした。その音は槍の森のずっと上から聞こえた。私は即座に銃を両手に持ち戦闘態勢になった。音の源には大きな魔力を感じた。
「来る!」
私が身構えると槍の森がツララのように音を立てながらへし折られていった。鋼の槍をへし折っていたのは機械の竜だった。生きた肌は見えず全身鋼の機械の塊だ。赤い目が槍の間で輝いていて、それがすごい速度で近づいていた。
「くくく、あーはっはは。時間切れのようね。残念でした」
黙っていたアテナが突然笑い出した。その声は勝ち誇ったかのような自信に満ちていた。
私はアテナに構っていられなかった。アテナの自信からあれはアテナの味方。となるとあの竜との戦闘は必至。なのに、今の武器ではあの竜の衝突を防ぎきれない。盾を召喚するか。いや、間に合わない。私は竜を避けるためだけに横に転がった。
機械竜は私の背中に強風をぶつけたが傷はつけなかった。
砂煙で視界を奪われたが晴れ渡った上空から大きな笑い声が聞こえた。
「ネイレード、貴方の対魔技術を私の生物技術で次こそ潰す!」
自分の安全を優先したせいで竜に全部持っていかれた。アテナも折られた大剣も。アテナに逃げられたのは悔しかったけど私は竜の頭の上にいる少女の方に気を取られた。
あの竜を操っているのは魔力の流れで彼女だと分かる。彼女にはそれ以上の魔力を感じる。実際に剣を交えた訳ではないけど、彼女はグロスシェアリングに匹敵する力を持っているかもしれない。
高みから彼女の見下ろす目が見えた。その目は冷たく私を嘲笑うような目だった。いつもなら怒りを覚えるが彼女の力がはっきりしない今は押さえておこうと思った。
機械竜が飛び去って私は槍の森を消した。結局、アテナを捕縛するという任務は果たせなかった。でも、それもホルスの計画のうちなのかもしれないと逃げようとしていた。
「あーあ、疲れた」
私は草原の真中に丸く草の刈られた地面の上に座った。魔法陣の影響で草花を消してしまった。私は死んだ大地をいとおしむように撫でながら空を見た。青い空、ところどころにある白い雲。草の匂い、雪山からくる涼しい風。
アヌビスは戦の後のタバコが好きみたいだけど私は自然の匂いが好き。このままお昼寝に入ろうと横になった。
「ネイレードさ〜ん。生きてますか〜?」
意識が薄れてきた頃、アレクトの声がした。目を開けると青い空を黒い影が空を埋め尽くしていた。竜、10、20の数ではない。ギャザータウンの竜飛部隊すべてを引き連れているかのようだ。
その中の1頭が私の側に降りてきた。私はその竜に背を向けた。そう言えば私、昨日まともに寝ていなかった気がする。
「ネイレードさん。死んでるんですか?寝てるんですか?」
私を揺すっていたのはアレクトだった。私は眠くて不機嫌な状態だが仕事だから仕方ないと割り切った。
「生きてるよ。で、どうしたの?」
「そ、そうです。今来た機械の竜を追いかけますよ」
私の返事を聞かずアレクトは私を竜に乗せた。まったく、ホルスの計画は疲れるから嫌だ。
この物語はフィクションです。
登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。
実際に存在するものとはなんら関係がありません。
一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。