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第12話 ホルス救出戦−『彼女の武器』

 啖呵を切ったけど困ったことになった。孤独の闘技場が発動した今、外部との連絡手段が断たれたのと同じ意味で、戦力を分散して戦っている私たちにとって閉鎖魔法以上の効果を生んでいた。アヌビスは問題ないと思うけど、アレクトやポロクルの方でグロスシェアリング級の力が必要になった場合、私たち4人のうち誰かが助けに行かなければならない。

 まず、体力を考えるとアマーンは無理になる。さらに、彼の実力はアヌビスほどではないけど私やホルスより上だが彼の任務はギャザータウンの警備、それを忠実に守る彼が外に助けに行くことはない。

 次にホルスだけど、彼は今敵に捕縛されている状況。つまり、彼を抑えられるだけの実力者が敵陣にいることが予想できる。もし、敵から逃げることができたとしてもその実力者が追撃するとアレクトたちが不利になる場合が高い。さらに、彼の戦闘スタイルは味方の武将ペルセウスかヘラクレスがいて際立つもの。彼1人でも私と同じ実力はあるけど100%の力は出せない。それでアレクトたちのカバーをしながらの戦いは難儀だろう。

 アヌビスは……考えるまででもないな。実力、体力、状況どれをとっても私たちの誰よりも援助として適している。でも、彼はこのような場合には助けに行かない。それは、彼が天才だからだ。彼の考え方は単純で要点を射ている。今回の彼の頭はアレスを倒してホルスを助ける。これしか考えていないだろう。それは彼の信じる力がなせる業なのだ。アレクトはやってくれる。ポロクルは守りきれる。ネイレードならできる。彼は仲間や私を信じているから自分のやるべきことだけを見つめていられる。だから、自分の力をやるべきことにすべて使い果たすのだ。

 となると、私しかいないか。援助が必要なことがあるかもしれない。そのことを考えると力を残す必要が。

「折れろ!」

 頭上から聞こえる声。丸い空の太陽の光で黒い影になったアテナが上空から切りかかってきていた。私は咄嗟に槍を両手で持ち大剣を受け止めた。重い衝撃の後に押さえ込まれる重圧。のしかかる重圧を腕から足へと逃げるように体で受け流した。その重圧は相当なもので足場の地面がひび割れするほどだった。そのまま受け止めていたら腕の関節に致命的なダメージを受けていたに違いない。

 アテナは宙で一回転して着地と共に大剣を横殴りに振るった。防ぐために槍を縦に持ち替え受け止めたが、回転の力を得た大剣の威力は先ほどより高い。さらに、今回は地面へ力を流すことがでず力を抜いて横に飛ばされるしかなかった。

 飛ばされた私は闘技場の見えない壁に叩きつけられた。ぶつかった時のダメージは予想以上に大きかった。壁が無かったら3倍以上飛ばされて転がっていればダメージは無かったはずだ。私はいつもとは違う戦場になれないでいた。

 この状況だと、私も信じるしかないかな。誰かを助ける余裕なんてなさそうだ。

「く、これでも折れないのか」

 アテナは私にダメージを与えながら不満そうな顔をしていた。アテナの目的、それは私の槍を折ること。魔法が使えないこの闘技場では武器が力に直結する。つまり、武器を失うことになれば戦えなくなることになる。アテナは私の使える武器を少なくとも2つ知っている。私の力を砕こうとしているのだ。

 アテナにとってはそれだけかもしれないが、私にとってはそれ以外にも問題があった。もし、槍が砕かれたら私の防御手段がなくなってしまうのだ。本来の私なら盾がある。だけど、盾はミケと同じで召喚しなければならない。召喚するには多少なりとも魔力が必要になる。それなら常時持っていればいいじゃないかとこのような状況になると毎回ディケ達に言われていた。人の話は聞くものだと私は後悔していた。

「残念ね。この槍は鈍な大剣じゃ切れないよ」

 だけど、あんな攻撃を何度も受け止めるだけの耐久性は無い。魔力を注げればできるけど。

「そう、それなら直接骨を折るまでよ」

「逃げ回っていたくせによく言う」

「自分の力を慢心しすぎたのは誰かしらね。馬鹿に追いかけられたぐらいどうってことないね」

「ふん、ガラッと性格が変わったね。さっきの涙はなんだったんでしょうね」

 変わったのは性格だけじゃない。力も変わっていた。魔法を封じられたのは彼女も同じ。それなら、彼女も弱体化しているように見えているはず。だが、今の彼女の力は闘技場以前より増している。

「演技だって言ってるでしょ。でも、その強がりもそろそろなくなるんだから」

 アテナは大剣を構えなおして剣先を私に向ける。向けられた剣先に周囲の空気が集められていき、アテナは空気を引き寄せた大剣で地面を叩き割るように振り下ろす。集められた空気は収縮され地面をはいながら私に突風として襲い掛かってきた。その作られた風は槍で防ぐことはできずまたしても見えない壁にぶつけられた。

「ど、どうして風が」

「分からないみたいだから教えてあげる。私は元々魔法を使えないただの剣士だった。だから」

 怯んでいる私を大剣で貫こうと接近してきた。槍で受け止めようと構えた。だが、アテナのあの自信。避けることが容易そうな攻撃であの自信は何か企んでいる。私は地面に槍を刺してその場から逃げた。

 アテナの大剣は残された槍をいとも簡単に二つに分断した。それでもアテナの突進の威力は弱まることなく壁にぶつかり音がした。すると、アテナの背中から扇形の衝撃波が出ているのが見えた。その衝撃波は砂煙を上げ私の視界を奪った。

 砂煙が晴れると槍が刺さっていた場所にアテナがいた。今の攻撃で彼女もダメージか何か受けたらしく肩で息をしながら苦笑いをしていた。あの笑いは余裕を見せるためだろうがやせ我慢にしか見えない。

「武器での戦いは私の方が圧倒的に有利」

「でも、当たらなければ意味が無い。あんな大振りな攻撃当たる方が難しいよ」

「そうかもね。でもね、槍を守ることはできなかったみたいね」

 唯一の防御手段の槍を失った今防具以前に武器として使えるのは2本の短剣しかない。それも速さを求めた武器であの大剣を受け止めるだけの力は持っていない。

 それを思うと槍を捨てたのは誤った判断だと思う。だけど、ああでもしないと攻撃を避けられないと思ったのだ。アテナの攻撃は私を狙っていて槍を砕くものだった。その証拠にあれほど反動が大きな技を使って確実に槍を砕きに来ていた。あの槍なら半分の威力でも砕けるとアテナにも分かっていたはずだ。なのにあの技を選んだのは私に槍を捨てさせるためだ。もし、槍を持って逃げていたら剣先を変えられるかもしれないと私に恐怖を与える威力を見せ付けたのだ。確かに武器の扱いはアテナの方が上のようだ。

 それにしてもなぜアテナは風を操れるのだろう。孤独の闘技場内では魔法を使えない。それなのにさっき私を襲った突風は自然の風ではない。魔法でも自然の力でもない。となると、

「まさか貴方」

 私の予感を無言でアテナは現実のものにした。大剣を地面に刺して戦闘を放棄したアテナは腰布を取った。そこには人間には無いはずの毛並みの整った尻尾があった。さらに、長い髪をかきあげたアテナの頭には獣の耳があった。

「まさか、犬神いぬつきだったとは」

「ま〜、貴方達リクセベルグの天敵ってことね」

 犬が神化した者。獣と人間の力を持った者達のことを獣神と呼びさらにどの獣かによって呼び方が変わる。

 獣神は魔法とは違い獣の血を持っているかどうかが問題になってくる。魔法は自分の持っている魔力量を増やすことで強くなるが、獣神は生まれつきか儀式によって体内に獣の血を流さなければならない。儀式さえ行えば誰でも手に入る力だが、自分に合った血以外が体内に入った場合死にいたることもある危険な儀式でもある。

 魔法の獣属性にも獣になる魔法はある。だが、獣神より純度は落ちる。もし、同じ獣同士でぶつかり合った場合、魔力に関係なく獣神が上回るほどだ。

 それならあの風も納得できる。犬神は12神の邪犬王の使いと呼ばれているようなもので風使いでもある。さらに、私たちの聖竜王の天敵でもある。

「でも、風使いのくせに大剣をメインウェポンにしているなんて反発分子なのかな」

 風属性の魔法使いは速さを生かした戦い方をするのがセオリーとなっている。現に私も風属性を得意としている。その際使うのはこの双剣である。それなのに、アテナの武器は大剣。見たところそれ以外の武器を持っている気配も無い。大剣は威力があるが速さは無い。威力の弱い風属性の魔法使いとしては正反対の武器だ。

 だが、それはあくまでも一般論。大剣を得意とする呪属性の魔導師や弓を使う力属性の人もいる。彼女もその1人だと思う。だが、彼女は負けないといわんばかりに強い声で答えた。

「うるさい!とにかく、この闘技場で風を操れる私に貴方は勝てないの」

 大剣でアテナは攻撃してきた。私は双剣を持ち受け流すようにギリギリで避けることしかできなかった。双剣での攻撃は槍よりなれている。だが、それは風魔法が使えることが前提。双剣では大剣の攻撃を受け止めての反撃は見込めない。

「な、何むきになってるのかな?もしかして、大剣以外使えないとか」

 アテナの無作為に振り回していた大剣がピタリと止まった。その隙を見て間合いを取った。

 大剣に関した挑発をするとアテナは異様な反応を見せる。大剣に何かウィークポイントでもあるのだろうか。

「ふ、ふん。追い込まれた貴方に何を言われても怖くない」

 アテナは孤独の闘技場を発動する時大剣を地面に刺していた。まさかと思うが試してみよう。

「そう、なら、追い込まれて後ろが無いなら攻めるまで」

 私は双剣でアテナに挑んだ。双剣の攻撃は速さ。私はアテナの背後に回った。が、アテナも分かっていたらしく速さを生かした接近の対策は速い。アテナ自身を軸として大剣で円を描く。その大剣の威力と風の力でアテナ周囲のものを吹き飛ばした。

 それで私は壁に飛ばされるはずだった。だが、私は海老反りになりなから飛び宙で一回転し大剣の上に乗る。そして、足元の大剣に短剣を刺そうとした。

「ひっ、」

 私の標的が自分ではなく大剣だと知ったアテナは大剣を引いた。体勢を崩した私に攻撃をすることなく今度はアテナが逃げた。アテナにとって大剣は唯一の武器。それを失ってはいくら風が使えるといっても勝機が無くなる。だが、短剣ぐらいで粗悪な大剣だろうと折れたりはしない。

「どうしたのかな?逃げたりして!」

 私は退いたアテナの胸元に飛び込んだ。うろたえるアテナの胸に短剣を突き刺そうとする。だが、大剣で防がれることは分かっている。止められたら左手の剣で足を切る。大剣は腕よりも足に負担のかかる武器だ。特にアテナの衝撃波は足に力が入らないと威力が出ないはず。

 だが、アテナは私の予想をいい意味で裏切った。逃げたのだ。大剣で受け止めることなく距離をとったのだ。その時私は確信した。

「アテナ、貴方臆病になったのかな?」

「何を言っている」

「変だと思っていたんだよね。孤独の闘技場(ホルイン・クルト)を発動する前と今とは戦い方。特に、防御の仕方が違うんだよね」

「何が言いたい」

 強がった声、それに対して私は勝利の笑みを見せた。

「回りくどいのは嫌いだからはっきり言う。貴方、魔力持って無いでしょ」

「何を言い出すと思ったら。私に魔力が無い?そんなはず無いでしょ。それならこの魔法はどうやって作り出したというの。この大量に魔力消費をする閉鎖魔法を!」

 私は笑みでアテナの大剣を指差した。

「それ、魔法がほどこされた大剣でしょ」

 私の一言にアテナは青くなっていた。

「変だと思っていた。孤独の闘技場(ホルイン・クルト)を発動する前はあらゆる攻撃を大剣で防いでいた。高速の銃弾も悩まずに受け止めていた。それなのに、今は逃げてばかり、それどころか大剣での直接攻撃は槍を折ったときのみ。その時の技だって大剣に負担をかけないように自分に負担が来るようにしていた。それだけ大剣を大事にする戦士を私は見たことない」

 私は双剣をしまい腰に手を回した。

「さらに、あの攻撃。大剣は力でねじ伏せる武器。それなのに風属性との不似合いな組み合わせ。大剣をメインにしているにしては生かしきれない戦い。アマーンと戦っていたときとは全然違うね」

「そ、そんなの人それぞれ。戦闘スタイルはその人にあった」

「それに、貴方自分で言っていたよね。魔法が苦手って。なのに、魔道書も無いのにミケの魔法を使った。それだけの魔力がどこにあるのか。さらに、この魔法陣の維持に必要な魔力はどこにあるのか。考えると簡単、その大剣、魔鉱石でできているのね。なら、それを砕けばここを出られる」

 アテナの魔法陣は私の使った魔法陣のように力の発動が瞬間的なものではない。魔法を封じる常時型。魔法を使えないアテナが魔力を出し続けるにはそれが一番しっくりくる。

 読みが当たったようでアテナは開き直っていた。

「あーあー、そうですよ。この大剣が折られたらこの魔法は終了。オリジナルはミケの魔力で維持できるけど、ミケのいないまがい物の魔法だと常に魔力を出し続ける魔鉱石が必要なの」

 手の内を明かしたアテナだったが大剣を構えて戦う気があるようだ。

「でもね。そんな貧弱な短剣で折れるもんなら折ってみなさい」

 アテナに風が集まっている。なるほど、近づけば盲点無しの竜巻か。

 私は使いたくなかった封印した武器を手にとった。手に納まる銀色の棒の先端に赤い宝石が埋められている。

「は、そんなもので何ができる」

 私は棒の本来の姿をアテナに見せた。先端の宝石から赤い光が溢れ刃の形を保った。

「まだそんな武器を」

「アテナ、貴方の台詞一つだけ訂正させてもらう」

 アテナは私が接近してくると思ったのだろう。大剣で守りの体勢になっていた。だが、私は距離の開いているここで赤い光の刃を振り下ろした。

時空を裂く牙クルール・セル・ギリア

 振り下ろした光の剣から放たれたのは赤い衝撃波。赤い刃の波は地面の魔法陣を消し去りながらアテナの大剣を簡単に砕いた。さらに、闘技場の壁をも壊し槍の森に草花のまったく生えていない道を作った。

 魔法を打ち消す造剣(レーザーブレード)、機械技術の結晶。私たち魔法使い対策に作られた対魔法兵器。数百年前に失われた技術だ。

 私は攻撃を受けてもなお生きていアテナの背後に立つ。折れた大剣を地面に刺し、膝を折り虫の息だった。私はアテナの首元に剣を当てる。アテナの髪が音を立てて燃えて切り落とされた。

「武器を使わせたら私の方が有利」

 赤い宝石。ふたつ名の由来になった剣を見たアテナは降伏したかのように両手を挙げた。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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