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第7話 ホルス救出戦−『虎穴に入る時』

 ネイレードをメンバーに加えた俺達7人は唯一ここにくることができる階段を降り、竜が集まる洞窟へ着いた。始めて来た時は夜で分からなかったけど、朝日が差す今はここの恐怖がよく分かる。岩の柱が天井を支えているだけでここには壁がない。四角い空が360度広がっていて、どこからでも竜が飛び立つことができるようになっている。地面や天井には街の名前が書かれていてどの竜がどこへ向うか書いてあった。

 そんな旅客用の竜の群れから外れた軍事用の場所へ来た。そこには、大きく分けて二つの竜がいる。アマーン部隊用と他部隊用だ。竜の数はアマーンのほうが10倍ほど多い。

 そのアマーン用の竜の前にはアマーンがいて、その前には多くの兵が整列していた。

「アマーン、竜を3頭借りていくぞ」

「おう、アヌビスか。好きなの持っていけ。で、どこ行くんだ」

「お前の部隊と同じだ。一応聞いてみる。一緒に来る気はないか」

 アマーンは濁った大声で笑った。

「悪いが、わしゃここから動けん。もちろん、契りを忘れた訳ではないぞ。助けたくてうずうずしているからのお」

「義理人情の塊の癖に。オシリスの言いなりになりやがって、お前らしくない」

 アヌビスの嫌味にもアマーンは笑っていた。

「がはは、違いない。だがな、あの指示は聖竜王直々の指示じゃけ断ることができんかったのじゃ。悪く思わんでくれや」

 アマーンは笑顔でアヌビスとネイレードの肩を強く叩く。寝ぼけていたネイレードは驚き目を覚ましたようだ。今までふざけたようなしゃべり方だったアマーンが真面目な顔をした。

「わしゃの分も頼んだぞ。もしものときは、聖竜王を殴ってでも助けに行くじゃけ。安心せい」

 アマーンの頼みを無言で受け入れた二人は小さく頷く。アマーンはそれを見て安心したようでまた笑った。

「頼りにしてるぞ。そうじゃ、ネイレード、オシリスの命令無視じゃけ、主の部隊は預かることになったが任せておけい。それにしても、アヌビス、なんじゃその子供は、隠し子か?」

「こら、部隊取り上げなんて大事なこと、さらって流すな」

 ネイレードのことを無視したアマーンがアヌビスに向きなおす。アヌビスはミルとルリカを前に出した。

「王族の娘と、魔道書の読み手だ。この2人を王都直通で送っておいてくれ。そうだな……竜付き場に家の者に迎えに行かせる」

 急に突き出された2人はアマーンとアヌビスを交互に見ていた。俺もアヌビスの判断は正しいと思う。今まではなんとかなったが、これから行くのは戦場だ。彼女達には危険すぎる。もちろん、戦うすべを持たない自分がそんなこと言えた義理ではないがな。

 アヌビスの考えを察したのか、ルリカはアマーンのほうへと近づく。が、ミルは抗議の声を上げた。

「私もアヌビスと一緒に行く」

「ミルちゃん、分かってあげて、危ない所にミルちゃんたちを連れて行きたくないの」

 アレクトが優しく説得する。前まで2人のお姉さんに見えていたが今はお母さんに見えてきた。この優しいアレクトは本当に幾人のも人を斬ってきた軍人なのかと疑ってしまう。

 だが、ミルは子供のように退くことは無かった。ミルは素直な子だったのに今回に限って自分の意思を強く表している。

 そこに、俺と同じで一睡もしていないアヌビスが不機嫌にタバコをふかしながらミルを睨み付けた。

「はっきり言ってやる。ルリカならまだしも、戦力にも何も役立たずのお前を連れて行くわけないだろ。そのくせ、お前の安全が第一優先される。これほど足手まといな存在がいるか」

 アヌビスにきつく言われミルは小さくなる。その小さな頭をアレクトは優しく撫でていた。

「アヌビスさん、優しく言ってあげられないんですか」

「遠まわしに言っても聞かないだろうが。さっさと行くぞ」

 アヌビスは2人を置いて竜に近づいていく。だが、ミルはアヌビスを呼び止め最後の抗議をした。

「それなら、この街で待ってます。アヌビスの帰ってくるのをここで待っていていいですか」

 これでもミルなりに譲歩したのだろう。意外に頑固なミルにアヌビスは折れた。折れたというより嫌気が指したのだろう。

「ああ、面倒な餓鬼だ。アマーン、こいつが街から出ないで安全にいられるか見ていてくれよ」

「おうよ。グロスシェアリング騎士団の契りにて守りきってやりゃ」

 アマーンは握りこぶしを突き出した。それにアヌビスも拳をぶつける。

「頼んだぞ」

 俺達は、ルリカとミルを置いて竜に乗り、ギャザータウンを出発した。



「ネイレード、アマーンの言っていた。グロ、グロス」

「グロスシェアリング騎士団のこと?」

 俺達は敵国の街に向けて竜に乗って飛んだ。その街はアヌビスたちの手によって崩落し、今はアヌビス部隊の管轄下にある。ホルスの手紙が本当ならその街にホルスの部隊もしくはそれらしき痕跡があるはずだ。

 それを確かめるために最も速い竜を全速で飛ばしている。2人しか乗れないが速度は以前の竜とは比較にならないほど速い。

 だが、最速の竜でも目的地につくころには昼過ぎになるそうだ。朝早くに出発したことも含めて、一睡もしてないアヌビスは、ポロクルの操る竜の背中で寝ていた。俺も睡魔はあったが、地面に近い所を飛ぶこの竜の背中では眠れそうに無い。風が肌を切りつけ、時折舞い上がる砂煙が眠気を晴れさせた。

「グロスシェアリング騎士団っていうのはね。私やアヌビスやホルスたちのことで、4人の軍神とある女性と聖竜王に認められた12人の騎士のことなの」

 俺はネイレードの操る竜に乗っている。親しさではアレクトのほうでもよかったのだが、アレクトは竜の操縦が下手なのに加え、居眠り運転だ。身の危険を感じネイレードのほうへ乗ったのだ。

「軍神って、オシリスって言われていた人のこと?」

「ええ、そうよ。オシリス、セト、イシス、ネフテュスの4人。各軍神に3人のグロスシェアリングの騎士がいるの。さらに、グロスシェアリングの騎士には貴方のように信頼する武人が数名付いているのよ。普通、3人ぐらいなのに5人も引き連れているアヌビスは珍しい方よ」

 アヌビスにはここにいるメンバー以外にアンスとケルンがいるそうだ。

「ポロクル、アンスとケルンは強いのか?」

 ポロクルは欠伸を堪えていた。戦う力を持たない俺が軍隊で生きていくには軍師ぐらいしか思いつかない。ポロクルには悪いが彼からその座を奪うしかなく、今は少しでも部隊のことを学ぶ時だと俺は思っていた。

「アンスは槍、ケルンは弓の使い手ですよ。兄弟でなかなかの実力です。あと、彼らは補佐役も兼務してますよ。私の補佐としてアンス、アレクトの補佐としてケルンが付いているんですよ。ちなみに、リョウ、貴方はアヌビスの補佐、その役割を果たしてくださいよ」

 ポロクルは懐中時計を見るなりアレクトとネイレードに指示を出した。

「少々遅れ気味です。速度を上げてくださいよ」

 ポロクルの竜は一陣の風を吹かせ俺達をおいて速度を上げていく。それに続いてアレクトも速度を上げた。

「リョウしっかり捕まってね」

 ネイレードに言われるまま腰にまわした腕に力が入る。

 数千の軍人を引きすつれて、戦場で戦う女性戦士。その実力は国が認めるほどの実力で多くの戦果を挙げているのだろう。その彼女は俺の年齢の三つ上だそうだ。彼女の薄紅色の髪が俺の頬を撫でる。今になって彼女が女性だと強く意識してしまった。

「こら、もっとしっかり捕まりなさい」

 俺の腕を引き俺はネイレードの背中に密着させられた。アヌビスの血とタバコの臭いとは違い女性の柔らかい匂いがする。



 ポロクルたちに追いつくと、下には煙を上げる街が見えた。

「煙? 何かあったか。それにこれは……まさなかな。試してみるか」

 目を覚ましたアヌビスがタバコを一気に吸い上げ、それを街目掛けて投げ捨てる。

 すると、小さなタバコは宙で燃えて消える。その直後、俺達のところへ地面から白い閃光が無数に飛んできた。

「あの馬鹿、警戒しすぎだ」

 アヌビスは竜から飛び降り閃光へ飛び込んだ。アヌビスは剣を抜く。その剣はあの赤黒い剣だった。

「来たれ赤き炎、黒き闇と共に流星とかせ」

 アヌビスの周りを取り囲む無数の衛星のように小さい炎の球体が現われる。その炎に黒いものがまとわりつき流れ星のように降っていった。

 黒い炎は黒い尾を引きながら閃光とぶつかって消えていく。あちこちでぶつかりあいがおき、花火のように音を立てて炎の花が開いていた。

「ケルンの奴、何考えてるんだ。一気に降りるぞ、ついてこい」

 アヌビスは剣を逆手に持ち、剣先を地面に向けた。

「炎よ、剣先からほとばしれ! 我を包む障壁とかせ」

 剣先から渦を巻くように炎が現われアヌビスを包んだ。そのまま、アヌビスは地面へ急降下していった。まさに、隕石のようだ。

 地面に落ちたアヌビスの周りの大地はえぐられクレーターができた。

「続きますよ」

 ポロクルはアヌビスに続き俺達もそれに続いて地上に降りた。


 街の側に降りると、兵の死体が転がっている。それも新しいものが多い。アヌビスはそれを見るなり苦い顔をした。

「俺の兵と、アレスとアテナの兵か。どうやら本当のようだな」

「アヌビス!」

 街の方から甲高い女性の声が聞こえた。街から馬で駆け寄ってきたのは、15歳ぐらいの女の子だ。ボーイッシュの黒髪の彼女は、腰の左右に筒を提げおり中には矢が入っている。さらに、左手には弦の張られた弓を持っていた。その弓はアーチェリー用に似た形で機械的なフォルムだ。

 彼女は馬から降り、アヌビスの前に膝を折った。

「アヌビス。すみません。敵と勘違いしてしまって……」

「気にするな。それがケルンのいいところだろ。ところで、アンスはどこだ」

 アヌビスの質問にケルンは涙を流し始めた。

「に、兄さんは、兄さんは……」

「ケルンちゃん?」

 アレクトが優しく肩を抱く。ケルンは目を拭って、アヌビスを真っ直ぐ見た。

「に、……アンスは昨夜に敵陣アレスの所へ向かったきり音信不通です」

 アヌビスはケルンの報告に疑問を持ったような顔をする。ポロクルも同様のようでアヌビスより行動は早かった。

「ケルン、詳しく教えてもらえませんか」

 ケルンはポロクルに向きを変えこれまで起きたことを話し出した。

 昨日の夕方、俺達が竜に乗ってギャザータウンに向っていた頃のことだ。この街にホルス部隊のエンブレムを掲げた竜が来たそうだ。アンスとケルンは何の疑いもなく竜を警戒区域の内側に入れたそうだ。しかし、竜に乗っていたのはホルスたちではなく、敵のアレスとアテナの兵だった。幸運なことに主将2人はいなく、雑兵だけだったのでアンスとケルンの2人と食料を含め無事だったようだ。ただし、他の兵は皆駄目だったそうだが。

 竜がギャザータウンに退いて行くのを見て、ホルスに何かあったのではないかと、アンスが単騎で追ったそうだ。

「また戦果探しか。アンスを手元から離したのが問題だったか。ケルンもケルンだ。兄の管理ぐらいしておけ」

「す、すみません」

「アヌビス。ケルンをいじめても楽しくありませんよ。それより、おかしな話ですね」

 ポロクルは手紙を出してアヌビスに渡した。

「ホルスの竜が来たのは分かります。ここにそう記載されているのですから。ですが、それを操っていたのはアレスたち。つまり」

「ホルスが捕まった。もしくは、手出しできない状況下にある。そう言いたいんだな」

 ポロクルの考えは俺でも想像が付いた。それなら残りの手紙の矛盾も一気に解決し、今後の行動も決まりやりやすいのは明確だ。

「それぐらい俺でも分かる。それよりだ。ケルン、アレスの陣はどこにあるか把握しているのか?」

「はい、ここより北、ギャザータウン方向にそれらしき部隊が見えます」

「見えます?」

 知っている。なら分かる。が、見えるとは無理がある。少なくとも、竜で飛んでいたときはそれらしきものはなかった。

「ケルンちゃんの魔法だね。鳥の機械を作って索敵が得意なの」

 アレクトの説明で空の異変に気付いた。空には、隼が3羽旋回しながら飛んでいる。あの隼がその機械なんだろう。

「ですが、アレス、アテナがいません。どこかに伏せているのではないかと。残念ながらホルス部隊も見えません」

「それなら簡単な話だ。行くぞ」

 アヌビスは1人北へ歩き出した。

「どこ行くのよ」

「敵陣を裂く。それでアレスも出てくるだろうよ」

 アヌビスは剣を光らせネイレードに見せた。

「相変わらず力任せ? いい軍師がいるんだから策を使いなさいよ」

「なら、ポロクル。何か策でもあるのか?」

 ポロクルは首を横に振った。

「ネイレードには悪いですけど。今回は策が思いつきません。兵数はこれだけですよ。さらに、布陣を張っているなら平地でしょう。地形を利用した策はできません。ので、今は力押しがよいかと」

 ポロクルはオブラートに言ったが真意は違った。俺が思うに、初めから策などこの部隊に作れないのだ。実力がある騎士だけで数がない。二人で一人を攻めるなどの戦法もできない。ここは、個人の力を頼るしかなかった。

「わかったわよ。たく、あんたと一緒にいるといつもこんな仕事ばかりね」

 ネイレードはアヌビスに文句を言ったが、アヌビスは何も言い返さない。

 戦う方向でみんなが準備し始めた。が、そんな中、俺だけは違った考えでいた。

「なあ、おかしくないか」

「なにがだ?」

 俺の問いかけに真っ先に答えたのはアヌビスだ。

「なぜ、アレスたちは俺達をここに呼んだんだ」

「伏兵を出して俺達を潰すつもりだろ」

「いや、それは分かる。だが、俺達がアレスたち以上の兵を連れてくるとは思わなかったのか。そもそも、アレスたちにギャザータウンから来る軍と戦うだけの食料と兵力があるのか?」

 俺の疑問にポロクルは準備を止め聞き入っていた。

「たしかに、アレスの部隊には食料も兵も少ないと聞いています。ですが、あの街を落とせば一つ解決できます。それが目的ではないかと」

 ポロクルが後ろを指す。そこには多くの食料が約束されている。ポロクルの言うのには説得力がある。実際、アレス部隊があの街目掛けて襲撃してきていたのだから。

「それならなおさらだろ。俺達をここに来させるってことは守りが堅くなるってことだろ」

「まさか、既に罠が張られているって言いたいの?」

 ネイレードが周りを見渡したが、それらしいものはなかったようで俺を見た。

「それなら、残り2通の手紙が不自然だろ。確実にここに誘い出したいなら1通でいいだろ。なのに、他の手紙は『ここに来い』なんて書いていないだろ」

「で、リョウ。お前は何が言いたい?」

 アヌビスに結論を迫られた。だが、今の俺では何が言いたいのか分からない。問題や疑問は分かっているが、答えが出せないのだ。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」

 ポロクルがボソ、と呟いた。ポロクルからその言葉が出てくるとは思わなかった。

「リョウ、貴方の国の言葉ですよね。まさか、と思いますが……」

 ポロクルは今まで見せたことないほど、悲愴な顔を俺に見せた。

「リョウ、貴方ならいつ、虎児を取りに虎穴に入りますか?」

 アヌビスたちはポロクルの言っている意味が分からないようだ。アレクトにいたってはまったく他の所を見ていた。そのアレクトが声を上げる。

「あれネイレードさんの兵じゃないの?」

 アレクトが見ていたのは、竜に乗った女性だ。その女性を確認したネイレードは手を振っていた。

「虎穴に入る時、それは」

 竜から飛び降りた女性は形振り構わず叫んだ。

「至急お戻りください。ギャザータウンにアレス部隊が現れました!」

「親がいなくなったとき」

 アヌビス、ネイレード、アマーンの多くの兵。アレスたちの目的は、この街ではなく、弱体化したギャザータウンだった。


この物語はフィクションです。

登場する人物名・団体名・地名などは全て空想のものです。

実際に存在するものとはなんら関係がありません。

一部、誤解を招きやすい表記があるかもしれませんが、ご了承ください。

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