中華街戦
二章
前章から数日後、秋宮は目覚まし時計に起こされ眠い目を擦りながら起きると視界ARの電源を入れると時刻や体温、血圧をはじめ今日の予定が視界に簡単に表示される。
サイドテーブルの拳銃を手に取り、シャワールームに向かうと簡単に寝汗を流して出勤するための服に着替える。
ズボンは戦闘服のズボンを着用し、Tシャツも戦闘服の下に着用するものを着用するとホルスターを装着し拳銃を入れるとその上から黒いジャケットを着るとチャックを閉める。
シャワー室からリビングに向かうと冷蔵庫から簡易エネルギー食を取り出す。
それを素早く食べると玄関でバイクのキーを取りガレージに向かうとバイクに跨りキーを挿してエンジンをかける。
ガレージを出るといつもの出勤ルートを使用してEMSのプラントに向かう。
第一機動空挺課の指定されている駐車場にバイクを停めると事務室に入って行った。
事務室に入ると、すでに他の隊員たちはすでに出勤していた。
「おはよう。早いなお前たち」
秋宮はそういいながらデスクに座るととりあえずPCを起動した。
「恵一、朝一で警察から要請が来てたわよ」
佐伯が秋宮にそういいながら業務委託要請書を渡した。
秋宮はそれを受け取ると、内容を確認する。
その内容は警察の手が回らない中華街周辺の警備を一日依頼したいというものであった。
秋宮はデスクの引き出しから引き受け印を押すとそれを机に置き立ち上がり言った。
「よし、今日も朝から仕事だ。警備任務だからって気を抜くなよ。装備は普通装備で行くぞ。速やかに準備をして駐車場に集合だ」
そういうと、保管室に入ると、各自の装備をそろえる。基本的には前回の任務と同じ装備であるが、銃器が少し違った。秋宮と佐伯、伊達は市街地での警備ということもあり、21式自動小銃とM92を取り出すとそれを装備する。21式自動小銃はAK‐12を基本設計としたアサルトライフルである。ソフィアはM33狙撃銃とM92を装備した。各自それに対応するマガジンに詰められた弾薬をタクティカルベストの弾倉入れに入れると部屋を出る。
駐車場に向かうと、駐車場にある警備用の装甲機動車に乗り込むと中華街へと倉庫機動車を走らせる。
中華街に着くと広い道に機動装甲車を停め車内に伊達と佐伯が残り、秋宮とソフィアは機動装甲車を降りて街の見回りをする。
彼らのような武装をした警備員が街を警戒するのは近年増加するテロへの警戒という理由が一番である。日本という国は現在、様々な理由で国内外からのテロリストに標的にされており、治安が良いとは決して言えない。
不測の事態にもすぐに対応できるようにするには武装した警官や軍人、警備員を配置することができる限りの予防策であると考えられている。
「ソフィアは中華街にきたことはあるのか?」
秋宮がふと疑問に思いそう聞くとソフィアは首を横に振りながら答えた。
「いえ、近くを通ったことは何度もありますけど、プライベートで遊びに来たことはありませんよ」
「じゃあ、今度の休暇に一緒にご飯食べに来ないか?うまい店知ってるんだ」
秋宮がそういうとソフィアは軽く首を縦に振った。
中華街の表通りを一通り周ると裏路地の警備をする。中華街は表通りよりも裏道や路地などのほうが警備の必要がある。
裏路地などは薬物や拳銃などの取引をはじめ多くの犯罪行為が行われていることが多い。
裏路地に入ると中華料理店の排気口からもくもくと煙が出ている。
道の隅には鼠などが徘徊している。
周りを見ながら進むと、路地裏には休憩中のコックが椅子に座って隣の店の店員と話していたりする。
路地裏を適当に周ると表通りに戻り適当に警備をしていると、一台の車が路肩に駐車されている車にぶつかりながら走ってくる秋宮は道路に出て停車するようにと指示しソフィアはいつでも撃てるようにM33狙撃銃を膝撃ちで構える。だが、停車勧告をするもののその車は速度を上げて突撃してくる。
秋宮は自分たちの身が危険と判断されるギリギリまで停車勧告をし、それでも止まる気配のない車の運転手を射殺するようにソフィアに指示し、弾幕を張れるように秋宮も立ち撃ちの姿勢を取る。
ソフィアは二秒ほどスコープを通して運転手を狙うと、トリガーを絞った。
一発の銃声が中華街に響いた直後、運転席のウィンドウに血が飛び散り、死体となった運転手がアクセルを踏み込んだのだろうが速度が一瞬上がるがハンドル操作を失い路肩に駐車されている車に派手に激突して停車する。
秋宮がその車に近寄りポケットからライトを取り出して車内を照らしながら中を見ると後部座席に四角い物体があることに気づく。その物体の横で赤いランプがチカチカと点滅している。あきらかにC4爆弾であるそれを見つけた直後、秋宮は車から急いで離れソフィアにも逃げるように言って車からできるだけ遠ざかるように走る。民間人が近くにはいたが避難するように言っている時間などなかった。
「C4爆弾積んでやがる。あんまり見てないが戦車一台吹っ飛ばせるぐらいの量は積んでやがる」
数十メートル走ったところで、車は爆発し、秋宮とソフィアは爆風で数メートル飛ばされる。秋宮は道路にたたきつけられ、ソフィアは路肩に駐車されている車の屋根にぶつかった。秋宮とソフィアは強い衝撃で脳震盪を起こしていた。頭がくらくらとするなか秋宮に佐伯からBIの通信が来る。
『ハウンド1?爆音がしたけど状況わかる?』
秋宮は脳震盪でぼやける視界の中、周りを確認していた。
「あぁ、俺とハウンド3が巻き込まれたばっかだよ。俺らは無事だ。状況は車が暴走しながら入ってきてソフィアが運転手を狙撃し、その後車に積まれていたC4が爆発した。被害者数はわからんが死体がいくつか転がっているし、あたりは爆発でひどいもんだよ。近くの車も誘爆しているから相当数の被害者がいるとみられる。とにかくそっちまで一旦戻る。待機していてくれ」
『了解、待機する』
佐伯はそういうとBIの通信を切断した。秋宮は座った状態であったため立ち上がり、同じようにソフィアも車の屋根から頭を押さえながら降りていた。車は人が一人衝突しただけのことはあり、屋根がひしゃげ窓は割れている。
「大丈夫か?ソフィア?」
秋宮がそう心配の声をかけるとソフィアは「大丈夫です」と返した。
「とりあえず、機動装甲車まで戻るぞ」
そういって、最短ルートを使用して機動装甲車まで戻ろうとしている途中、中華街のあちこちで爆発する音がする。
「またテロかよ。前回からのスパンが短すぎんだよ」
「テロは組織でやってるんじゃなくてグループ加盟者が個々に集まって実行していますからね。大本を潰さない限りはこれぐらいのスパンで普通ですよ。フランスで同じような状況だったときは毎日でしたから」
そういう会話をしながら裏路地に入り装甲車の元へと走る。だが、あと少しで装甲車に着くというところで銃声が響き路地裏に入ったほうを振り返るとやけにしっかりとした装備を装備した敵兵がライフルを手にしているテロリストが民間人相手に発砲していた。
「クソッたれ。ソフィア、戻るぞ」
そういって路地裏から表通りに戻る。
途中で佐伯にBIで連絡をする。
「ハウンド2、民間人への発砲が確認されたため、戻って応戦する。そちらも気を付けてくれ。随時連絡を」
『了解、こちらでも近くで発砲を確認したため機動装甲車にて対処に向かう』
通信を切ると同時に路地裏から表通りに出ると民間人に発砲しているテロリストが三名おり、三名を背後から撃つ。ソフィアが一人を撃ち、秋宮は三点バーストで二人を撃つ。
撃たれた民間人に駆け寄り、首に手を当てて脈を調べるがすでに脈はない。
ソフィアのほうをみるがそちらも脈はないようで首を横に振る。
そうしているうちにも、次の敵兵が路地から出てくる。それに気づくと秋宮は立膝の状態で21式自動小銃を構えわずか数秒もかからないうちに発砲する。
その弾は的確に敵兵に当たり、ソフィアも確実に敵兵を排除していた。
「どれだけいるのかわからんが、このままじゃキリがないぜ」
そうぼやきながら秋宮とソフィアは背中合わせで周囲を警戒する。
『こちらEMS本社より、現在中華街に展開中の第一機動空挺課に告ぐ。プランA、プランDが発令した。十五分ほどで展開完了する。それまで最大限の対処を頼む』
その通信はEMS本社から秋宮たちに向けられたものであった。そして、そのプランというものは日本の三大民間軍事会社のうちのEMS以外の二社に援護を要請し日本國軍にも出動を要請したという知らせであった。もちろんEMS社の社員も出動している。それはEMS社がこの事態をそれほどの事態であると認識しているということだ。
秋宮たちはそれを聞きながらフォーメーションを崩さず徐々に前に進んでいたものの、狙撃を受ける。
「狙撃だ!」
そういうと、フォーメーションを崩し、近くの物陰に身を隠す。
秋宮はBIを使用し、離れた位置に隠れたソフィアに通信をする。
「どこからの狙撃かわかるか?」
『おおよそはわかりますが、詳細は。恐らく音から推察して西側であると思われます』
秋宮は顔を少しだけ出して西側の建物を見る。
西側には一階が中華料理店の古めのアパートがあり、そのほかにもコンクリート建ての建物がいくつか並ぶ。
『相手がもう一発撃てば場所を特定できます』
ソフィアがそういうのを聞き秋宮はため息をついて返答した。
「わかった。俺が撃たせるから場所を特定してくれ」
そういうと、物陰から出て西側の建物へとゆっくりと歩きながら適当に建物を射撃する。
コンクリートの壁にあたり破片がぱらぱらと落ちる。弾が切れると、弾倉を入れ替える。
秋宮はその時を狙っていた。そして、秋宮の読み通り弾倉を入れ替えている間に敵の狙撃兵は顔を出して秋宮に向かって撃った。銃声がすると共に、前にローリングする。
今まで秋宮がいた場所に弾は着弾した。
それを見ていたソフィアは場所を特定しすでに射撃体勢に入っていた。
敵が無防備な秋宮を二発目の銃弾で狙った瞬間、ソフィアの指に力が入りトリガーを引いた。その弾は敵兵の脳髄を撃ち抜き二発目の狙撃をさせなかった。
『クリア、進みましょう』
BIを使用し、ソフィアがそういうと秋宮は頷く。
時計を見ると、応援の到着まであと十分であった。
秋宮はソフィアの元に行き再びフォーメーションを組みなおすと、前進する。
中華街の中央にある関帝廟の近くに近づくと、その関帝廟の正門の前に数人の敵兵がおり、民間人に暴行を加えている最中であった。
「行くぞ。構え」
物陰に隠れながらそういうと、物陰から出て暴行を加えている敵兵を射殺し、次に近くにいる敵兵を射殺する。秋宮とソフィアで分けて制圧した。
制圧が完了すると、暴行を加えられていた民間人にソフィアが駆け寄る。
「大丈夫ですか?けがは?」
そういうが民間人の男は首を横に振る。
「いえ、大丈夫ですよ。助けていただいてありがとうございます」
男はそういうと、中華街の大門に向かって走っていった。
秋宮たちは他に敵がいないかを見渡していると、BIで通信が入る。
『ハウンド2よりハウンド1、3へ近くまで来ている。現在地点で待機してくれればピックアップする』
「了解、こちらハウンド1。現在地点で待機する。到着はどれぐらいだ。」
『到着は約一分後よ』
「ハウンド1了解」
そういってBIの通信を切ると周囲を警戒しつつ、佐伯たちの機動装甲車を待った。
だが、そうしているとき、先ほど射殺したはずであった敵兵はまだかろうじて息が合った。その敵兵の存在に秋宮たちは気づいていなかった。
敵兵は仲間に無線機を使用して告げた。
「反抗勢力だ。俺のところにいる」
そういうと敵兵は無線機をしまい自分の体に巻きつけてあるC4の起爆スイッチを取り出してそれを押した。
カチッという音と共にピピピピピピという音が鳴り響く。
秋宮はその音に間一髪のところで気づき、ソフィアに知らせるため叫んだ。
「爆弾だ!伏せろぉ!」
その叫びに気づき、ソフィアは彼女のすぐ真横にあったビルとビルの間に入り、そこにあったトタンを使ってビルの隙間を防いだ。
秋宮は隠れる場所もなく、自爆をした敵兵のいる方向と反対の方向に飛び、伏せるしか手はなかった。
爆発のする音と共に強烈な爆風と土煙が立つ。
だが、ソフィアはもちろんのこと秋宮は義体化されているということや、ヘルメットをかぶっているということなどでほとんど無傷であった。
すぐに立ち上がると周囲を警戒する。ソフィアも隙間から出て膝撃ち体勢で周囲を警戒する。そのうちに機動装甲車のエンジン音が聞こえてくる。
だが、そのエンジン音のする邦楽とは反対の方角からは敵兵が数十人押しかけてくる。
秋宮とソフィアはそちらの方向を21式自動小銃で撃つ。狙いなどつけずに弾幕を張ることだけを考えて発砲する。
だが、彼らの元に敵兵が押し掛けるよりも早く機動装甲車が彼らの元に到着する。
秋宮とソフィアは機動装甲車が到着すると共に後部座席に乗り込み、秋宮は銃座に付く。
機動装甲車には12.7mm重機関銃が備え付けられている。
「恵一!どこに向かうの?」
佐伯が助手席から秋宮にそう聞いた。
「さっき、メールで山下町公園に臨時の補給所ができたとEMS本部から連絡があった。とにかくそこに向かえ!」
そういうと、伊達がギアをRに入れアクセルを踏んで今来た道をバック走行で戻る。
秋宮は後退する間、12.7mm重機関銃の射撃をし、敵兵の群れの中から少しばかりであるが射殺する。
山下町公園はそこからまっすぐに進んだ位置にある。伊達はUターンをすることをせず、バック走行でそこまで向かう。そして、その道中にいる敵兵を秋宮は撃っていき、そのたびに12.7mm重機関銃の弾薬である12.7mm×99mm NATO弾の通常の弾薬よりもはるかに大きい薬莢が車内に落ちる。
関帝廟から山下町公園までは二分ほどで到着した。
そこにはすでにテントが立てられており、中には無線機や補給物資の弾薬などが積み上げられている。
臨時の駐車スペースに機動装甲車を駐車し、本部に向かう。
「状況はどうなってるんですか?」
無線機の前で通信機を握りあわただしくしている指揮官の一人に秋宮はそう尋ねる。
指揮官はかおだけ振り返り、秋宮たちを見ると通信機を無線機の上において彼らに向きなおり言った。
「やっと来たか。待ってたよ。君たちはすでに現場を知っているだろうが状況は理解できていないはずだ。状況と概要を説明しよう。まず、状況であるが敵勢力は自由日本共産党派グループであるということは確認できているが、その数と装備が尋常じゃない」
それを聞き、ソフィアが口をはさんだ。
「たしかに、遭遇しただけでも人数は多かったですが、装備はAK‐47などの旧式装備でたいしたことはなさそうでしたが」
「ああ、確かに個人の装備は普通のテロリストとかわらんが、総合的にみると通常では考えられん。先ほど、日本國軍の部隊が接敵したのは89式走行戦闘車だ。自衛隊時代のものとはいえそんなものまで持っている。そして、個人装備としてはスティンガーミサイルを持っている。ABCT社の偵察ヘリがこれに攻撃され、撃墜には至らなかったものの損害を受けて撤退している。装備はそんなところだ。そして人数。これは総合して200名ほどであると考えられる。かなり大規模だ。交戦し、射殺、拘束したものがいるため現在のところ90名から100名であると考えられる。そして、君たちにはこれの掃討作戦に加わってもらう。日本國軍第22普通科中隊が民間人の救助、避難を行っている。実質的にはこれの援護となると思われる。君たちの任務は民間人の救出を最優先に敵兵を射殺、できることならば拘束することだ。その辺にある補給物資は好きに使え」
そういうと、指揮官は再び通信機を手に取り元の仕事に戻った。
秋宮は三人の方向をむいて言った。
「敵は瀕死の状態で自爆してくることがある。俺とソフィアはそれに遭遇した。あらゆる事態を考え、全員フェイスアーマー、ゴーグルを装着しろ。弾薬の補給も忘れるな。予備にスモーロケットランチャーを携行する。準備は三分だ。三分後に機動装甲車に集合だ。急げ」
そういうと第一空挺課の面々は補給物資の山に向かいそこからフェイスアーマーを取り出す。フェイスアーマーは主に口と頬に衝撃感知防弾材をつめたバラクラバである。
多少の防弾効果に加えて、爆弾などの破片から身を守ることができるものだ。
ヘルメットを脱いでそれを被ると、その上からヘルメットを被り、その上からゴーグルを装着すると弾薬ケースの元に向かい21式自動小銃の弾倉を取り弾倉入れに入れる。
そして、きっかり三分後に第一機動空挺課の隊員たちは集合場所に集まった。
「よし、それじゃあ出動するぞ。機動装甲車では俺が銃座、ソフィアが後部座席、伊達が運転、佐伯が助手席という割り当てにする。乗り込むぞ」
秋宮がそういうと、隊員たちは機動装甲車に乗り込んだ。
伊達は全員が乗り込んだことを確認すると機動装甲車を発進させた。
「中華街を一周しろ。接敵したらそれで対応していくぞ」
そうして、中華街を走っているうちに街中でいくつかの爆発音がし、交戦をしているであろう銃声がいくつも聞こえる。
幸いにも、索敵開始から五分ほどは会敵しなかったが、最初に会敵した敵は歩兵などではなく、89式走行戦闘車であった。
「クッソ野郎!あんなもんに勝てるか!」
伊達が運転席でそう叫び、ギアをバックギアに入れてアクセルを全開で踏んだ。
「スモーを使うぞ。少し離れた場所に車を停めろ」
秋宮はバック走行する間12.7mm重機関銃を89式装甲戦闘車に射撃し続けながら伊達にそう言った。
そしてそこから少し離れた場所に駐車し、機動装甲車を降りる。
機動装甲車を降りると、秋宮は荷台のハッチを開け携帯スモーロケットランチャーを取り出す。
スモーロケットランチャーをベルトを使用して背中に背負うと、21式を握って前進する。角を曲がれば89式走行戦闘車がそこにいるという場所まで前進するとセンサーを89式装甲戦闘車のいる場所の方向へと投げる。
センサーを起動すると、壁などを透過して敵の姿や車両がARで投影される。
89式走行戦闘車の周りに警備の歩兵が二名いる。
秋宮はBIを使用して隊員たちに作戦を伝える。
『89式の周りに歩兵が二名いる。佐伯とソフィアは歩兵を狙撃で対処。伊達は俺の援護を。俺はスモーで89式走行戦闘車を攻撃する。
『了解です』
全員が口をそろえてそういうと、素早く行動を開始する。
ソフィアと佐伯が壁から身を出し、近くの瓦礫に簡単に身を隠しながら依託射撃体勢で敵兵を狙撃する。
そして、敵兵の排除が確認されると、秋宮が身を乗り出し膝撃ち体勢で肩にスモーロケットランチャーを肩に担いで照準器に目を当てると中央のひし形の枠の中に89式装甲戦闘車を捕らえる。
ひし形の枠が赤く点滅し、完全にロックされると点滅しなくなり枠が赤くなる。
ピピピピッという音がすると共に、トリガーを引いてスモーミサイルを発射する。
ピシュゥッという音を出しながら89式走行戦闘車に吸い込まれていく。
そして、発射から数秒後に89式走行戦闘車にミサイルが当たり爆発する。
ミサイルが着弾した場所は89式装甲戦闘車でもっとも弱いとされている砲塔の付け根の部分であった。
弾薬が誘爆したのだろう。ミサイルの爆発から遅れて89式走行戦闘車内部からも爆発が起きる。
「よし、クリア、次弾装填後機動装甲車に乗り込み次の目標を索敵する。」
そういって秋宮は発射装置に次弾を装填し、それを機動装甲車に戻す。その間佐伯と伊達は射殺した兵士の遺体を調べ、佐伯は敵兵の遺体から興味深いものを発見する。
それは韓国の民間軍事会社「大韓民国軍事備会社」の登録証でそれは今回のテロに海外の民間軍事会社がかかわっているかもしれないということであった。
佐伯はスモーロケットランチャーを二台にしまっている秋宮の元にそれを持って行く。
「あいつらを調べたらこんなものが出てきたわ。生きてないし尋問はできないけど、なんで奴らが登録証を持っているの?」
敵兵の持っていた大韓民国軍事警備会社の登録証を差し出しながら佐伯はそういい、秋宮は機動装甲車の荷台のハッチを閉めると差し出された登録証を受け取り数秒間それを見ると佐伯に言った。
「そりゃ、奴らがそこに務めているからだろ。問題はなぜテロリストに加担しているかということだ。非認可のPMCならまだしも国際的に認可されたPMCである大韓民国警備会社がインターポールに認められている国際テロ組織に人員を提供したとなれば大問題だ。調べる必要があるな」
そういうと、秋宮は本部に通信をつなぐ。
『こちらEMS所属、第一機動空挺課。89式装甲戦闘車を撃破した。そして、それよりも興味深いことに射殺した兵士を調べた結果、大韓民国警備会社の登録証を発見した。第一機動空挺課に現在の任務を続行しつつ、大韓民国警備会社の関与を調べたい。許可を』
『こちら、本部。了解した。関与の証拠集めを優先に現在の任務を続行せよ』
そう、本部司令官はいい通信を切った。
秋宮は機動装甲車に乗り込むと、そのことを隊員に説明する。
「佐伯の見つけた登録証にあった大韓民国警備会社の関与に関する事実確認をする。そちらが優先だ。これからは敵兵をできるだけ殺すな」
「了解」
隊員全員がそう返事をし、秋宮は車内から銃座につく。
しばらく車を走らせるが、敵兵には出会わない。だが、秋宮はコンクリート建ての古ぼけたビルから銃声と怒声が聞こえることに気付いた。
銃座でかがみ、伊達に機動装甲車を停めるように指示する。
伊達はそのビルからしばらく走った場所にある地下駐車場に適当に車を停めた。
再び車を降りると、さきほどのビルに向かう。
「隠れ蓑を使用する。できるだけ殺さずに拘束するぞ」
秋宮がビルに入る前にそういうと全員がうなずく。
入口から入ると、すぐに隠れ蓑の電源をオンにする。隊員たちの姿が少しぼやけ透明になる。完全に透明ではないがそれで十分である。
だが、隠れ蓑で姿を消しても足音などがしても意味がない。
階段を上るとき、音がしないようにゆっくりと登りながらBIを使用して秋宮は隊員たちに指示をする。
『伊達と俺は二階を。ソフィアと佐伯で三階を制圧する。制圧次第連絡してくれ』
『制圧したらその場で尋問する?』
佐伯がそう返すと秋宮は少し考え答える。
『いや、拘束した奴らは全員一緒に尋問する。拘束したら二階に来てくれ』
『秋宮は尋問が得意だからな。戦時中に何人尋問した?』
伊達が少し嬉しそうにそういう。
『尋問官ほどじゃないさ。俺なんてまだ序の口だよ』
秋宮の表情はフェイスマスクによって見えないが、その口元は確かに笑っていた。
秋宮と伊達は二階に到着すると、周りを警戒する。廊下は薄暗く、料理店の厨房があるためか中華料理の匂いが充満している。
廊下は音が反響しやすく、奥からは韓国語が聞こえてくる。
『韓国語が聞こえるってことは奴ら確実に大韓民国軍事警備会社の社員だな』
伊達がBIを使用し秋宮にそう言う。
『ああ、一人でいい。しゃべれる程度にして拘束するぞ』
そういうと、ポーチからセンサーを取り出し、声の方向へと投げる。
すると、センサーの反応には4名の反応があり、壁などを透過してその位置などがARで彼らの視界に投影される。
『伊達は右側をやれ。俺は左二人をやる』
忍び足で敵兵の方向に向かいつつ、BIで秋宮が伊達にそう言った。
伊達はBIで返事をせず、ただ頷いた。
敵兵は廊下をまっすぐに進んだ場所にある開けた資材搬入スペースでたむろい煙草などを吸っていた。
秋宮たちは柱に身を隠し襲撃の機会を待っていた。
そして、敵兵全員の目が柱から離れたわずか一瞬の間に隠れ蓑の電源をオフにし自らの姿が足元から現れ、始めたときにはすでに一人の敵兵の首に腕が回っており開いている方の腕にある21式自動小銃を腕で拘束している敵兵の左腕と左腹部の間から覗かせ目の前にいる敵兵を撃つ。
アサルトライフルのフルオート射撃であるため、片手では照準が定まらないが、わずか一メートルほどの距離であれば数発は当たる。
伊達もほとんど同じ要領で敵を排除し、伊達は敵兵の首をナイフで切り殺害する。
秋宮は無傷で確保した敵兵を床に押し倒し、後頭部を膝で強く押さえつけながら腕を後ろで手錠を使用して拘束する。
『こちらハウンド1、ハウンド2、3へ敵の拘束に成功した。二階の資材搬入スペースだ。そちらも拘束し次第こちらに来てくれ』
秋宮がBIを使用してそう言うと、佐伯が返事をした。
『了解、こちらももう少しで制圧完了する。あと二分ほどでそちらに到着するわ』
通信を切ると、秋宮は拘束した敵兵の見張りを伊達に任せて椅子を探しにその場をあとにする。中華料理店の調理場の扉を開けるとそこにあった木の椅子を二つ手に取ると資材搬入スペースにそれを持って行く。
ふたつを並べて置き、そのうち一つに敵兵を座らせようとする。だが座らせる前にボディチェックをして隠しナイフなどがないかを探ると刃渡りが5cmほどのナイフが出てくる。
秋宮はそのナイフをポケットにしまうと、資材搬入スペースにあった酒瓶ケースに座るともう一人の人質が来るのを待った。
そうしているうちに佐伯とソフィアが拘束した敵兵を連れてくると、空いている椅子に座らせるように言うと佐伯が反抗的なその敵兵を無理やりそこに座らせる。
「さて、君たちには聞きたいことがあるんだ。教えてくれれば危害は加えないし、なおかつテロリストに加担しているが捕虜扱いとして扱おう。お前らの所属はどこだ?」
そう秋宮が聞くと、佐伯たちが連れてきた敵兵が秋宮に言った。
「うるさい。クソ野郎。答える義務などない!」
秋宮はそれを聞くと、ニコッと笑い、酒瓶入れから立ち上がると腰にあるナイフにゆっくり手を伸ばしてナイフの柄を掴むと一気にナイフを抜き放ち発言した敵兵の顎と首の境目のあたりにためらいなく刺す。
ナイフを刺した場所からとめどなく赤い血が流れ出す。恐らく義体化をしていない生身の人間なのであろう。首からだけではなく、口からも血を吐いている。
そのまま、数秒間ぐいぐいとさらにナイフを押し込む。手は力を入れているためプルプルと震えている。シュッと一瞬でナイフを首から抜くと敵兵は椅子から前に転げ落ち首から床に血を垂れ流して血だまりを作った。敵兵の血の付いたナイフをもうひとりの敵兵のズボンの太もものあたりで拭うと敵兵は秋宮の迷いのないその行動に顔を青くしていた。
「お前は隣の奴よりは頭がいいだろう?聞いたことに答えてくれるか?」
「ああ、なんでも答えるから殺すな。頼む」
敵兵は震える声でそう命乞いをした。
「ソフィア、録音をしろ。よし、じゃあ、もう一度きくぞ?お前の所属は」
秋宮は厳しい声で訊いた。
「俺は大韓民国軍事警備会社の人間だ。奴らに雇われただけだ!」
「それはお前が個人で受けた仕事か?それとも会社が請けお前に来た仕事か?」
「会社が請けた仕事だ。俺は会社からの出動要請で日本に来ただけで装備はすべてこちらで用意されていたものだ」
敵兵の瞳は恐怖でいっぱいといったようで彼の声や表情に嘘という字はなかった。
「よし。わかった。じゃあ、最後だ。俺はお前の同僚を拘束してから殺害したか?」
秋宮は無言で敵兵に答えを強要した。
「いや、殺してない。抵抗したから殺害したんだ」
「よし、いいだろう。お前は日本國軍に引き渡し後、日本の法律で裁かれる。韓国の法律で裁かれると思うな」
敵兵は覚悟したような表情でうなずいた。
敵兵の頭部に銃口を向けつつ、機動走行車の元へと連れて行き、後部座席の中央に乗せ捕虜収容バスのいる地点まで連れて行く。
捕虜収容バスに敵兵を乗せると、秋宮はソフィアにさきほどの録音データを本部に送る。
機動装甲車に乗り込むと、しばしの休息を含めて雑談が起こった。
「まさか認可を取ったPMCがテロリストに戦力を提供してるとはな。おそらく自爆した連中は自由日本共産党派のテロリストだろうが、戦力の大多数は大韓民国軍事警備会社のやつらだろう。下手をすれば他のPMCも参加しているかもしれないな」
秋宮がそういいながら水筒の水を飲み、それにソフィアが答える。
「でも、大韓民国警備会社の評判は以前からよいものじゃないですよ。私がイギリス軍にいたころもあの会社の評判は聞いていましたし、アフガンの任務で一緒になったこともありますけど、はっきり言って頭のおかしい連中が多すぎる」
「ソフィアがそこまでいうなんて珍しいわね」
佐伯が珍しく悪態をつくソフィアに言った。
「そりゃそうです。あれは私たちの部隊が旅団への補給物資をコンボイで輸送しているときのことでした。コンボイの警備が手薄になっていたから彼らの会社に警備を依頼したんですが、コンボイの車列の後ろから来た一般車両を私たちの部隊は異常なし但し警戒する必要はありと判断したのですがあの会社の部隊が警備用テクニカルを使用して一般車両を蜂の巣にしたんですよ。一般車の確認をすれば中には老人しか乗っていなく、民間人でした。無線がつながっていたにも関わらず命令不服従という問題を起こしたんです。厳しい罰則を会社側には求めましたが、結局彼らの罰則は二週間の謹慎処分だけでした。あの会社は信用におけませんよ」
ソフィアが過去の体験をもとにそうした話をし、それに対し機動装甲車内で隊員たちは大韓民国軍事警備会社に対してため息をつき、伊達は機動装甲車を走らせ始めた。
機動装甲車を走らせ始めて5分ほどたったころである。機動装甲車の後方からヘリコプターの音が聞こえてくる。
秋宮がそちらを見ると、そこには攻撃ヘリコプターAH-1コブラの姿があった。
その色は、日本國軍のものでも民間軍事会社のものでもなかった。
「おいおいおい、マジかよ。伊達、飛ばせ。コブラだ!」
伊達はサイドミラーをちらりと見てその姿を確認すると、さらにアクセルを踏み込んだ。
秋宮は12.7mm重機関銃のトリガーを引き続け、ソフィアは本部へと連絡をし、佐伯はサイドミラーを見たりしながら伊達が運転に集中できるように周りの状況を伊達に解説する。
12.7mm重機関銃の弾がAH-1コブラの装甲にあたり、弾の命中した場所に穴が開くが、それをものともせずAH-1コブラは彼らを追尾する。
町の角を曲がるとほぼ同時のタイミングでAH-1コブラが鼻先についているバルカンで彼らを狙い、バルカンを放った。
バラララララッという明かに他の銃器とは違う銃声とともに店の窓ガラスは破砕し、それだけではなく木の柱でさえ粉砕していく。コンクリートにも大きな弾痕が残り、すう初は機動装甲車に当たる。
さすがの機動装甲車とはいえ、それは通常のライフル弾に対して設計されたもので、どんなに上を見積もっても搭載されている12.7mm重機関銃の弾を一発程度を耐え忍ぶ程度の装甲である。
そのため、弾の当たった装甲には大きな穴が開き、外の光がそこに差し込むようになっている。
「伊達、速度を上げろ!次はないぞ!」
秋宮がそう叫ぶが伊達も必死に声を張り上げいった。
「限界だ!これ以上の速度じゃこの町の道は曲がれん!」
秋宮は舌打ちをして、再度12.7mm重機関銃のトリガーを引き続ける。
だが、装甲の厚い場所に命中した場合は穴も開かず、ただ弾がはじかれるだけである。
AH-1コブラは少し高度を上げると、機動装甲車の真上に行き、真上から機動装甲車に対して銃弾の雨を降らせた。
周りの建物の屋根を壊し、コンクリートに無数の弾痕を刻み、機動装甲車にも何十発もの弾が降り注がれた。
そのうちの数十発はエンジンルームに命中し、エンジンを破壊し、車両のタイヤをはじめとする足回りも破壊した。
スリップしたまま、店に突撃し内部のエアバックが作動した。
伊達と佐伯は頭を抑えつつもドアを蹴り無理やり開け、後部座席で気を失っているソフィアを引きずりだしたが、彼らの中で最も重症であったのは秋宮であった。機動装甲車の一番防御が薄い銃座にいたこともあり、銃弾から身を守るものは何もなかったからであろう。彼の左腕は無残にも肩から先が吹き飛んでおり、右目も銃弾が掠めたためにほとんど削れてしまっている。
旧型の義体のため、血液の色は赤くなく、白色であるが、紛れもない血液がとめどなく噴出し、引きずり出した伊達の戦闘服をぐっしょりとぬらし、それだけではなく地面にも血を垂れ流している。
「伊達・・・・・・状況・・・」
薄れる意識の中、まだかろうじて意識のある秋宮はそういった。
「いいから黙ってろ。左腕と右目が吹き飛んでるんだぞ」
秋宮の視界には伊達が移っているが視覚センサーが破損しているためにひどいノイズが入っている。
「わかった・・・・俺に、有線で、直結しろ・・・・話したいことがある」
秋宮がそういうと、伊達はポーチからケーブルを取り出して秋宮の首元の差込口に挿し、もう片方を自分の首元の差込口に挿した。
『伊達、あれを撃破する方法がある。お前らがやれ。いいな?』
伊達は無言であった。それは彼が無茶なことをいうことを経験上わかっていたということが大きい。
『聞くだけ聞いてやる』
『まず、お前は俺の下に装甲車にあるスモーを持って来い。そして、お前たちは二階に向かい、上で狙撃をしろ』
秋宮はかなりアバウトに説明したが、解説をすればこういうことである。秋宮がスモーロケットランチャーでAH-1コブラをひきつけ、彼にパイロットの目を向ける。その間がら空きであるキャノピー内部のパイロットを狙撃し、AH-1コブラを撃墜しろということである。
この作戦は秋宮が危険を犯し、下手をすれば彼は死ぬ。それを伊達は理解し、結論をだした。
「撤退だ。隊長であるお前を殺せない」
そういって伊達は彼の右腕を自分の首に回し、肩を貸す形でその場所から撤退をすることにした。
「伊達は秋宮の警護、ソフィアは後方警戒、私はフロントを勤める。撤退するわよ」
現時点で一番の上官である佐伯がそう指示をして、それに全員が従う。
伊達は秋宮に肩を貸しているほうとは別の腕でハンドガンを構えて臨戦態勢をとる。
佐伯はアサルトライフルを構えフロントポジションへ。そしてソフィアは後方を警戒しながら進む。
店の裏口を見つけ、その鍵のかかった裏口を佐伯が無理やりこじ開けて裏口から出ると脱出経路を探す。
『こちらEMS、第一機動空挺課。HQ、聞こえますか?』
ソフィアがそう本部に通信をする。
『こちら本部、どうぞ』
『敵のAH-1コブラの襲撃を受けて隊長が負傷。負傷レベルはレッド。負傷箇所は左腕、右目でバルカン砲で撃たれています。至急応援をお願いします。地点はB‐3で待機します』
『了解、これよりB‐3地点に日本國軍の部隊応援を向かわせる』
ソフィアの通信によって近くにある非常ランデブーポイントに応援が来ることが決定し、第一機動空挺課の向かう場所も明確になり、しかもその地点まではわずか数百メートルである。そして、応援の到着までは約五分ほどである。
B‐3地点までは敵兵もおらず、その場所へと行くだけであった。
負傷した秋宮も早歩きほどの速さで歩き、全員それに合わせて進んでいく。
B‐3地点へは三分ほどで到着し、近くにある身を隠すことのできる店に入り、店の近くの部屋に入った。
BIを解して、日本國軍応援部隊から通信が入る。
『こちら日本國軍即応第二小隊、付近に来ている。どこにいるか教えてくれ』
それに対して、佐伯が通信に応答する。
『広東衣服店という店の中に身を隠している。現在のところ敵はいない』
『了解だ。すぐに到着する。移動準備を頼む』
そう通信が入った直後のことである。数人の武装をした敵兵が彼らの隠れている店に入ってくる。それを確認すると彼らは息を殺し、自分たちの居場所が悟られないようにした。
佐伯は足音を聞き、そこからおおよその距離を測定した。佐伯は敵兵の距離が近いと想定すると、自分の腰についているナイフに手を伸ばした。
敵兵が部屋の目の前まで来たことを感じ、佐伯は確認のためにサーモモードを使用した。
視界がサーモによって色分けされ、敵兵の姿が浮かび上がり、敵兵は佐伯の予測どおり部屋の目の前に来ていた。
佐伯は腰からナイフを抜き、扉の横に体をぴったりと貼り付けた。
敵兵が部屋に入らずそのまま引き返すことを願っていたが、それはかなわず敵兵は部屋の扉を開けた。敵兵は彼らを見つけるとライフルを彼らに向けたが、佐伯はその銃口を天井に向けさせるようにし、引き金を引くよりも早くナイフを敵兵の首に刺した。
他の敵兵に見つかるより早くその敵兵を部屋に引き入れ、音を立てずに扉を閉めた。
『こちら第一機動空挺課より、日本國軍即応第二小隊へ敵兵数名が付近に接近中。そのうち一名を排除したが気をつけてください』
ソフィアがBIでそう通信をすると、日本國軍応援部隊からは短く『了解』と返信が来る。佐伯はナイフをしまい拳銃を取り出すとしばらく待機した。そうしているうちにも秋宮は義体とはいえど大量出血の影響を受けて気を失いかけている。
そんなときである。手榴弾とは少し違うくぐもったような爆発音がし、その後数発の射撃音が聞こえる。
そして、それからしばらくして佐伯たちが待機していた部屋の扉が開かれる。そのとき、扉を開けたのはもちろん日本國軍応援部隊なのであるが、佐伯は警戒のためそれにも拳銃を向け、彼らを確認し拳銃をおろした。
日本國軍の兵士たちは秋宮の元によると、すばやく携帯担架をその横にくみ上げてそこに秋宮を乗せると店の前に止められている救護装甲車に乗せた。
「どうもありがとうございます。突然の襲撃で」
佐伯がそういうと日本國軍の兵士は微笑みながら返した。
「いや、あなた方の噂はよく聞いています。あのコブラに関してはこちらから空対地ミサイルで撃墜しましたのでご安心を。皆さんも救護装甲車にお乗りください。応急処置をいたします」
そういって救護装甲車の後部乗り込み口を指し彼らを誘導した。佐伯たちは軽く一礼すると救護装甲車に乗り込み、日本國軍の兵士は別車両の護衛車に乗り込んだ。
すでに秋宮は止血をされており、ほとんど出血はしておらず代わりに輸血をされていた。
それから十分ほどで戦闘区域外にある総合病院に運び込まれ秋宮は緊急の応急手術により一命を取り留めた。
そして、秋宮以外の隊員たちもアドレナリンの過剰分泌によって一切気づいていなかったが、佐伯は右腕の内部骨格フレームを破損し、ソフィアは腹部に5cm程度の破片が刺さっていた。幸いにも伊達はかすり傷程度であったが、第一機動空挺課の面々は秋宮ほどではないにしろ全員が負傷していたということが後になって判明したのである。
秋宮は数日間病院に入院することとなり、その他の面々は処置が終わり次第ESC本部に帰投した。
帰投してからは報告書だけを提出し、各自休息を取ることとなった。
それから二日後、秋宮は総合病院で受けられる処置をすべて終えてESC本部に帰ってきた。第一機動空挺課の事務室に入ったときの彼はまさに満身創痍といった風体であった。
処置をされてはいるものの左腕は肩からなく、右目には眼帯がされている。
「おお、意外と早かったな。秋宮!」
伊達が秋宮を見るやそういったが佐伯はそれに対し冷たく言い放った。
「もう少し寝てればいいのよ」
ソフィアはそれを笑って見ていた。そうしているところに今か今かと秋宮を待っていた千代田が駆けつけ秋宮に言った。
「ほら!次の仕事はその体じゃできないでしょ。今から義体修理に行くわよ。課長の許可はもう取っているから」
そういうと、千代田は秋宮の手を引いて駐車場へと問答無用で向かい、後部座席に押し込めるように乗せると、彼女の会社である二階堂インターナショナルコンポレーション本社へと車を走らせた。
車で一時間ほど走り、都内某所にある二階堂インターナショナルコンポレーションの本社へと到着した。
千代田が後部座席の扉を開け、秋宮は車から降りると、千代田に連れられ職員通用口へと向かった。
職員用通用口で7桁の暗証番号入力と網膜認証を行い、通用口内に入っていった。
そこからエレベーターに乗り込み36階にある社長用オフィスへと直接向かった。千代田は姓こそ違うものの二階堂インターナショナルコンポレーションの社長である二階堂 誠一とは従兄弟同士である。
スピードの速い高速エレベーターに乗って一分ほどで社長用オフィスのある36階に到着した。エレベーターを降りると、廊下を進み社長室と書かれた部屋に入る。
千代田が先に部屋に入り、秋宮はそれに続いて部屋に入ると扉の真正面にある机には社長である二階堂 誠一が座り、二階堂は静かに本を読んでいた。
千代田と秋宮の存在に気づくと、本を閉じ真後ろにある本棚に戻すと千代田たちに近づいていった。
「うん、待ってたよ。秋宮君。話は聞いてるよ。すでにパーツは用意しているから施術に移ろうか」
秋宮が一言も発しないうちにそういい、千代田は秋宮を見てニコリとした。
秋宮には説明をされずともなんとなくはわかってはいた。すでに破損箇所を知っていた千代田は秋宮が入院中であった二日間のうちにパーツ発注をしていたということを。
それから二階堂につれられて31階にある義体整備施術室へと向かう。
エレベーターから降りると、いくつか部屋あるうち、一番エレベーターに近い第二施術室に入った。
すでに入ると整備台の隣にはいくつかのパーツが置かれていた。
秋宮はもう何度も義体整備の経験があるため手順はすでに理解しており、部屋の隣にある更衣室に入り施術着に着替え更衣室から出るとなにも言われずとも施術台に寝て、施術開始を待った。施術台は横たわると首にあるコネクタに自動的に操作コネクタが差し込まれるようになっている。
部屋に入るときに別の部屋に入った千代田はそれと同じころに第二施術室に入ってきた。
第二施術室に入ってきた千代田は手術着に着替えていた。千代田は秋宮が横たわる施術台の横に立つとコンピューターを操作した。
「じゃあ、施術開始するわね。右目と左腕の交換手術ね。交換パーツは最新型の義体パーツだからあとでパワーバランスの調整をするわ。あと、これはお勧めなんだけどどうせだし両目とも変えちゃわない?最新の義眼パーツに高感度センサーが内蔵されてるんだけど、両目とも変えちゃわないとあんまり効果ないのよ・・・・」
千代田にそう勧められ、秋宮はしばらく考えていった。
「会社の経費から落としておいてください。経費で落ちるなら問題ないです」
千代田はそれを聞くとニコリと笑って施術を始めた。
施術開始の際、コンピューターを介して秋宮の意識を止めて施術を開始した。
施術開始から四時間ほどで施術は終了した。施術終了後に秋宮の意識を千代田が戻す。
意識が戻った秋宮の視界はぼやけており視界はほぼゼロといってもよいほどであった。
「秋宮君、意識が戻っているなら左腕を上げて」
それを聞くと、交換したばかりの左腕を上げる。その左腕は新しく変えたばかりでパワーバランスの調整が取れていないとは思えないほどスムーズに動いた。
「じゃあ、まずは視覚センサーの調整するわね。基本数値は前の義眼の数値を入力するから天井のモニターにある点がひとつに見えるか教えてね」
そういうと、コンピューターのキーボードをたたき数値を入力する。
秋宮の視界のぼやけは幾分ましにはなったがそれでもまだぼやけている。
「さっきよりは見えますが点は四つです」
「そう、じゃあ、これでどうでしょう」
そういって再びコンピューターに数値を入力した。
すると秋宮の視界はさらに良好になり、天井のモニターに映る点は一つになりつつあるがその点は一つだがぼやけている。
「ひとつなんですが、まだ少しぼやけてますね」
「じゃあ、これでどう?」
そういってまた数値を入力すると秋宮の視界はしっかりとしたものになった。
モニターの点は完全に一つになり、まったくぼやけていない。
「うん、大丈夫ですよ。もう完全にひとつです」
そういうと、千代田は満足げにうなずき言った。
「左腕の握力は右腕と同じにしてあるから。微調整は自分でやっておいてね。もう起きていいわよ」
そういわれると、施術台から起き上がり更衣室へと向かった。更衣室内のクローゼットから服を取り出してそれを着ると第二施術室を出る。
部屋から出ると、そこには千代田と二階堂が待っていた。
「お疲れ様、義体のお金はこっちがすべて持つよ」
二階堂がそういい、さすがに秋宮もその言葉には驚いた。
「いや、こちらの会社のほうで全額保障されますので負担していただかなくても」
「違うんだよぉ、君の義体のパーツは軍用に作ったものだけれどもまだ最終の試験段階なんだ。もちろん最高のパーツだから事故なんてことはないから安心してほしい」
「はぁ、そうか。要するに人体実験の代わりということね。そういう説明は先にしてほしいんだけど」
秋宮は半分あきれながらそう二階堂に言った。それに対し二階堂は少しお茶らけながら言った。
「いや、でも安心してほしいんだ。理由は実はその義体の設計者は仙波なんだよ。君もそれなら幾分安心できるだろ?」
秋宮は千代田の技師としての手腕は十分に認めており、信頼もしていたためそれを聞いて不信感というものは払拭された。
「まぁ、それなら・・・・・」
「うん。ありがとね。実験としてのデータがほしいから仙波が時々データを取るかもしれないけどよろしくね」
「ええ、大丈夫ですよ。それぐらいは」
そういうと、千代田が呼んでいたエレベーターに乗り、千代田は二階堂に言った。
「兄さん、乗らないの?」
「うん、僕はいいよ。君たちの後で部屋に帰るから」
「じゃあ、お言葉に甘えてお先に。今度話したいことあるからまた近いうちに。またメールするから」
そういって閉めるボタンと一階のボタンを押す。
一分ほどで一階に到着し、職員用の駐車場に向かって車に乗ると千代田と秋宮はEMS社へと帰った。
二章 完