ゴッドフリッドが語る
初めての小説投稿となります。
編集しながらの連続投稿となりますが、期待してお待ち下さい。
と、自分にプレッシャーをかけてみます。
キャラクターの絵もぼちぼち揃っております。
とても素敵な絵を描いて頂きまして…いや、絵が書けるならマンガ化にしてます!!
ジストリア国458年。人類の男女比率8:3。男の子が多く生まれる中、女の子の数は少なく、この国では女性は貴重に扱われていた。隣国であるレバールとはいつ戦争が起きてもおかしくない状況下、幼い頃から学ぶことが多くある。勿論、歴史や外国語、数式学。そして剣術、馬術……男女問わず学び、王のためにこの身を捧げる。さてと、ジストリア国の地図を広げてみようか…」
黒服を着た男が古びた棚から今にも破れそうな地図を取り出しデスクの上に広げた。
「これがジストリア国だ。1区から261区までざっと分かれている。数字の数が少ないほど治安が良く、10区までは王に等しい存在となる。11区から20区までは、子どもしか存在しない。21区から50区は食うには困らない。52区から100区は新聞を使って民はこの国の状況を知る。それ以降は、奴隷区とされる。けがれた命を持つデッド・アイも奴隷区だ。かつて僕の執事であったチェスト・ダルもそこに住んでいた。さぁ、僕が語る。名を明かそう。僕はこの国最後の英雄『アルベルト・ゴットフリッド』。」
今日の街は朝から賑やか。いったいどのくらいの人が早起きをしたのだろうか。いつも9時にしか起きないトローンおじさんも起きている。
ゴッドフリッド学院ではもっと早い時間からひとりの少女が動いていた。ペンを持つ左手が怠いと語るかのように、ゆさゆさと揺れている。目の下にはクマが出来ており、本来さらさらなブロンド色の髪も悲鳴をあげている。そんな姿でも美しい。とにかく美しい。この世に天使が存在するならば彼女のことを指すであろう。そんな空気を壊す第一声が、これだ。
「眠たいのに、眠れない…違うのよ、眠りたいのに眠れない。なんて状況なのかしら…あぁ、けたたましいニワトリが今日は早くから鳴いてりゃあ!」
男なら一度は思うだろう。言葉遣いが荒くても、その唇にキスをしたい、と。
「リオン。そのような言葉遣いでしたらジャンヌになれませんよ」
茶髪のセンター分眼鏡執事が、リオンにキャンディーを渡す。
「…私が食べないの知ってて出すのね。」
「一応、執事のルールですから。それに疲れが少し取れますよ。俺がここの生徒だった時は、もうそれがご褒美でしたから。こっそり監督生の部屋に入って頂戴したこともございます。」
どうやら彼女を更に不機嫌にしたらしい。この執事はゴッドフリッド学院を次席で卒業している。
部屋には空瓶がいくつか置いてある。リオンはその中のひとつにキャンディーを入れた。
「悪趣味ですね」その言葉に舌打ちをする。
「スウィートドラッグ……ね。あいつにあげるわ。アルドの大好物だから」
「優しさ……ですか?」ハリスが質問する。
「さぁ……」
「あなたはいつから舐めなくなったのですか?」
「……記憶にないわね」
どうでもいい会話と思うリオンに対して、ハリスやロイにとっては重要な会話だ。朝飯よりも。
「ところでロイは?」
ロイというのはハリスの相棒のことである。ゴッドフリッド学院に通う子どもたちそれぞれに2人の執事がつく。執事から申し出をし、生徒が許可をする。時には生意気な生徒もいる。執事はゴッドフリッド学院を卒業し更に5区にある【マリア学院】を卒業しなくてはならない。才能ある努力者が何歳もの年下からこき使われるのは気持ちいいわけない。ある一部を除くが。
この国では子どもは宝物であり、失っては国を滅ぼすのも同じ。数十年前から女の子が生まれる確率が劇的に減り、噂では奴隷区に住む女性は次から次ぎと赤ん坊を生まされているとか…、貴族でもないのにゴッドフリッド学院に属しているとか…、今までのジストリア国の歴史を大きくかえる計画がなされている。
ゴッドフリッド学院には10才から18才までの男女が属している。貴族または貴族区に買われた者。奴隷区では生まれたばかりの赤ん坊から14才までの男女が人身売買にかけられている。女性の場合は子どもに限らない。命を授かることができる者は高く売られている。
「さてと…この国には美しい女がいましてね。それはそれは美しい。男であれば誰もが反応するでしょう。」
黒服の男がテーブルに資料と思われるものを丁寧に置く。
「彼女の名前はリオン・タッカー。ここの監督生をしていた。数式学以外はここのトップだった。だが、彼女は純血ではないのですよ……昔、謎の誘拐がありまして…1区に生まれた女の子がいたんだ。女の子。そう、王もかなり喜んで街でお祝いをした。盛大に。だが、すぐに行方不明になった。生まれてすぐの赤ん坊が歩けるわけもない、誘拐されたんだ。この国は女の子はとくに貴重だから生まれた日付は勿論、何時何分に生まれたなど正確な情報も残っている。でも街中には知らせはしなかった。皆の期待の星だったからね。それに、バレては困ることもあったからね。そして数年後…、彼女がいたんだよ……。奴隷区のお祭りバイマイサーカスショーに出てたんだよ、彼女が。貴族区では奴隷たちが何をしてるかくらい直ぐに分かるさ。どれだけ人が多くても、どれだけ内緒にしていてもバレてしまう。まぁ、あれは別だったけどね。それで、彼女はもの凄く高値で売れちゃってね……貴族が彼女を回収した。でも、彼女ったら8才まで奴隷区で過ごしたもんだから言葉遣いが荒くてね。学院でも運動神経抜群で僕なんて一度も勝てたことがない!自慢だよ、彼女は。まっすぐな瞳、それは汚れてなどいなかった。貴族の中には彼女のことを差別するものもいた。まぁ、仕方ない。奴隷区なんて貴族にとっちゃ何の関係もないからね!」
もの凄い笑顔と笑い声をあげ胸をときめかして話すアルベルトに黒服を着た男が咳払いをしてストップさせた。
「あっはっはー!ごめんなさい!」
するとアルベルトは真面目な顔をしてこう言った。
「リオンは誓ったんだ、ジャンヌになると。」
「そんなまさかぁ~!」
アルベルトは急に立ち上がると、瓶を棚から取り出した。その瓶の中には押し詰められたキャンディーが入っている。熱で変形したキャンディーや瓶の内側にくっついているものもある。
「食べる?」
口角を上げて問う。
「いらない!」
「だよねぇ。懐かしいなぁ、なぁ!」
黒服の男が初めて口を開いた。
「えぇ。懐かしいですね。アルベルト様、そろそろお時間でございます」
「そうか。もうそんな時間なのか。」
話しを聴いていた者は口をあけてガッカリしている。その者に背中を向けてアルベルトは部屋を出た。
「なぁ、あいつはお前になにを話していたんだ?」
杖を片手に持ち、廊下を2人が並んで歩く。
「そうですね…。今晩、ゆっくりとお聴かせ致しましょうか。リオン様からの伝言です。」
「伝言、か…。お前らしいじゃないか。」
「そうですか?それよりもそろそろ義足の調整が必要ですね。明日、はかり直しましょう。」
「あぁ。あいつを思い出す度足の付け根が痛むんだ…。」
「あらあら、まだカウンセリング必要でしたね。心の方も明日調整してみましょう」
大きくため息をつくアルベルト。
「疲れるんだよねぇ、カウンセリング。僕はまともだ!クレイジーなんかじゃない!」
下からギッと睨みつけるアルベルトに対し、黒服の男は微笑んでいた。
「大人になるのではなかったのでしょうか?」
「そういやぁ、そんなこと言ったかなぁ?いいから前に進もうか。」
「えぇ。」
2人の姿は薄暗い廊下の奥へと消えていった。
ーーーー
「ロイなら昨夜あなたに頼まれた用事をしに23区へ」
「あぁ、そうだった…。昨夜のことが一週間も前に感じる」
再びデスクに向かって腰を降ろすリオン。またペンを持ってゆらゆらと揺らす。これが彼女の癖のひとつだ。
「23区にいるシドノール図書館へはどういった用事で?」
リリーが描かれた可愛らしいティーカップにお茶を注ぎながら質問を続ける。
デスクにがくっ!と頭をおろしながら答える。
「ロイはまたあなたに言わずにでかけたわけね……、わかります。」
「彼は無口ですから。俺と違って。」
リオンのデスクにティーカップが置かれた。
「ありがとう。」
口は少々悪いが必ずお礼の言葉は忘れないリオンのことが美しいと思うハリス。
「んがっ!!!」
「何よ!?」
ハリスはリオンに背中をむけて何かとんでもないことを思い出したかのように頭と口を押さえた。
ーーー「はぁー!忘れろ!俺よ俺!」
それはそれは、リオンがゴッドフリッド学院に入ったばかりのこと。ハリスは一度リオンに告白をした過去があった。
「え?まだ生みたくないから、断る!」
と返事を返され、それ以降は年上の女性のみに告白すると誓ったハリスであった。
「気色悪い!」
「なんでもないっ!?なんでもありませんよ!」
リオンの頭の中には告白というシーンはいくつあるだろうか。きっと数えられないくらい眠っている。いや、ほかされているであろう。
「それにしても、事件が多すぎるわね」
「ひゃっ!?あ、そ、そうですね。気色悪いですね!」
眼鏡をかけ直しリオンを見るハリス。
ーーー「視線めっちゃこっちじゃねぇかよ!?」
「真似したわね」
「はい?!」
「気色悪い」
「……」
「とりあえずロイが帰るのを待つしかないわね、それまで少し寝るわ」
「ベッドにいかれますか?」
「ううん、ソファでいい。どうせ何時間も寝られないんだから、ここで十分よ」
部屋の真ん中におかれた大きめのソファに腰を書け、大きな欠伸をしながら横になるリオン。
どどどと大きな音をたてながら走る少年がいた。大きな音とは異なって、痩せ気味の体型だ。どちらかというと、今すぐにでも倒れてもおかしくない顔色をしている。なのに、全速力。
音はリオンの執務室へ近づいてくる。そして、ノックもせずに入ってきた少年の名は、アルベルト・ゴッドフリッド。
「お待たせして申し訳ない!」
目をうつろにしながら扉の方に目をやるリオン。やれやれと言わんばかりにため息をつくハリス。
「ハリス…はぁ、はぁ、はぁ…」
息を切らすアルベルトにハリスは先ほどリオンが瓶なつめていたキャンディを取り出して渡した。
「今はこれひつしかございません。」
キャンディを見ると目を真ん丸して、笑顔を見せた。
「ありがとー!リオン!」
慣れた手つきでキャンディを口に運ぶアルベルト。
「これがないと僕は死んでしまう」
「またたいそうな発言でございますね、アルド様」
「僕が早朝から来た理由はキャンディだけじゃないんだ!ハリス!」
ほっぺたをプクーッと膨らませてハリスを横目で睨む。やれやれと再びため息が必然と出てしまうハリスであった。
数分だろうか、数分だけでも目を閉じれたことが幸運だったのか…だがもっと寝たいと言わんばかりの顔でソファからリオンは身を起こした。
「リオン!持ってきたよ!」
ご機嫌うるわしゅうアルベルト。
アルベルトが出したのはこの国に存在しないはずの51区の地図だった。
「リオン、これは?」
ハリスが問う。この地図が51区であることはこの場にいる全員と出掛けているロイは知っている。
「反王政民が住むという…いや、集まっていると噂される場所。この国の廃棄物が山のようにある中、どこに集まる場所があるのかしら」
51区とはジストリア国には存在しない欠番の区である。その理由は明らかではないが、この区から怪しいにおいがしていた。
「アルド」
真剣な眼差しでアルベルトを見つめるリオンに対してアルベルトも真剣に答えた。
「僕が知ってる情報とリオンが知っている情報。僕たち2人は実際に51区をこの目で見たことがある。ただの廃棄物がおかれている場所ではなかった。それに迷路のようだ、あそこは。」
アルベルトが頭を押さえながら話しを続ける。
「ハリス、僕がこの国の王になるのはとうの昔に断っている。それにリオン、ハリス、ロイしか知らないこの左手の焼き印のおかげで王になることは不可能だ。なんせ汚れた僕たちだからね。なぁ、リオン。ほうだろぉ?」
「そうね…私たち2人が汚れた血であることをこの学院の生徒が知ればショック死するでしょうね。」
リオン、アルベルトは過去にトラウマを抱えている。
「かといって、私たち2人が51区の何を知ってるかと聴かれたら今の段階では情報不足だ。ハリス、あなたには地獄まで付合ってもらう」
「えぇ、お望みとあらば」
「僕も付き合うよ、地獄までね。このゴッドフリッドを甘くみるな。」
サブ物語り、スピンオフも書いていきたいです。
そこに味があるので。