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失われた世界で  作者: 笑わない猫
届かない訴えの代償
2/11

メカニックリュヒナ

 本編に入っていきます!







 リュヒナは極度のメカニックだ。メカニック中毒といってしまってもいいかもしれない。

 初めて機械に興味を持ったのは魔道具との出会いだった。魔素を用いて超能力を一般人が使えるようにするための道具。それは幼いリュヒナの心を射抜いた。


 恋をすれば、こんな気持ちなのかな。


 そんなことを本気で思ってしまうほどに魔道具に惚れ込んだ。

 といってもその魔道具は「近くの同じ魔道具と通信を行う」という至ってこれまでの科学でも実現でき、ネットワークが普通に使われていた二十年前から見たら使い物にならないようなものだが、ネットワークの構築が破壊され、電波を飛ばすこともできなくなった世界でのこの魔道具は数少ない通信手段になるものだ。

 自宅にあったその魔道具の虜になったリュヒナは一日中その魔道具を放さなかった。


 その魔道具に連絡が入ろうとも手から放さず、家族は迷惑をこうむっていたわけだが。


 いつの間にかその魔道具に対する興味は、どんな魔道具なのか、なのではなく、どんな風にできている魔道具なのか、という興味に変わり始めていた。

 要するに機能よりかは仕組みに注目しだしたのだ。


 「失われた未来ロスト・チルドレン」にしては暴走化の少なかったリュヒナはその家庭において虐待されるようなことはなかった。

 過程が裕福だったこともあったし、なによりリュヒナがおとなしいことが両親の「失われた未来」を抱えてしまったという精神的苦痛を和らげていたわけだが。

 しかし、実際その暴走化は何度も起こっていた。


 暴走化は二種類存在する。


 ひとつは、半魔獣化、または完全魔獣化だ。

 体内の魔気が体の一定制御ラインを超えたときに魔獣となってしまう暴走化だ。半魔獣化ならまだ魔気が落ち着けば元の姿に戻るが、完全魔獣化の場合もう手に負えない上に治ることもない。

 半魔獣の状態でも普通の人間ならば太刀打ちすることなんてできないから、結局の話、暴走化はどんな形であれ脅威であることに変わりはない。


 もうひとつが能力暴走化。

 能力が制御できず、勝手に発動し、また加減ができないことを言う。

 それだけならまだ救いようがあるのだが幼い子供たちは「能力が今発動している」という感覚がつかめないのだ。

 つまり意識できない暴走であり、それが一番厄介でもあった。

 唯一外見的に能力が発動しているとわかるのが「瞳の色」なわけだが、自身の瞳の色など普通にしていればわかるわけもない。

 暴走中と正常の境目がわからない。それが一番周りの被害を広めてしまう原因だ。


 リュヒナは後者の暴走をよく起こしていた。

 だが、それでもなぜその家庭は崩れず、まだ安定した生活を送ることができたのか、それはリュヒナの持つ能力が周りに大した影響を起こすものではなかったからだ。


 視界に入った情報を即座に理解、演算、計算し、脳内で整理。それを半永久的に保存する能力。


 【情報処理能力テクノロジャクション


 それが、リュヒナの生まれ持った化け物の能力だった。






「はぁ……いつ見ても素敵……」


 ほっ……と声を出しながうっとりとした表情でリュヒナはひとつの銃を握っていた。

 宿の一室。ワンルームの中にシングルのベッドが二つと小さな机が置かれただけの部屋でベッドに横になりながらリュヒナは銃を愛でていた。

 その様子をキリアは隣のベッドで胡坐を掻きながら見ていた。


「ケルベロスBR-Xモデル……あぁ……今ではもうお目にかかれないプレミア……」

「おい」


 キリアの呼びかけにも反応する様子もなく、リュヒナはケルベロスと呼ばれた銃に頬ずりを始める。

 ただその様子は恋する乙女、という比喩するにはあまりにも狂気じみている。

 マッドサイエンティストが実験をするときのような、そんな狂気。

 いつ見てもその様子にキリアは慣れなかった。


「このフォルム……一発で三発の魔弾を撃ち出せる特殊な銃口……そして……」


 独り言を続けながら、銃の持つ手が少しずつずれていく、そして檄鉄に手をつけた瞬間キリアがはじけるように飛び出し、銃を奪い取った。


「あっ!!」

「お前また解体する気だっただろう!!」

「え、えへへ、そんなことしないよ…!」

「説得力ないんだよ」


 ため息をつきながらケルベロスを机の上に置く。机の傍らには長剣が収まっている黒い鞘が置かれている。

 名残惜しそうにそのケルベロスを見るリュヒナにもう一度釘を刺す。


「もう触るな。一度解体されてから発射時間が微妙に狂って困ってるんだ」

「そんなまさか! ちゃんと元通りにしたよ! 少し回転率上げて引き金引いてから発射までの連動速度良くなるようにしただけだし!」

「それが原因だよ」

「良くなったんだからいいじゃん!」

「そういう問題じゃないんだよ」


 「情報処理能力(テクノロジャクション)」をメカニックのほうに使えるということに最初はキリアも感心はしていたがそれも度が過ぎれば迷惑なだけだ。

 ベッドにキリアは倒れこみ、もぞもぞと布団をかぶる。


「とりあえず、俺は一眠りする。お前もやりたいことがあるならしとけよ。というか元々お前の用件でここに来てるんだ」

「わかってますよーだ」


 眠りに就こうとするキリアに対し、リュヒナは立ち上がり物かけにかけていた黒いマントを手に取る。

 それをばさっと羽織り、そばの鏡に向いてツインテールの髪の毛を再度きつく縛る。


「もしなにかあったらすぐピアスを解放しろよ」

「はいはーい」


 布団の中からの声に鏡に向いたままこたえて、最後ににこっと笑顔を作る。

 うん、今日もかわいい! そんなことを思いながら耳にピンクのピアスが付いてることを確認する。

 マントの内側に「新たな希望ニュー・レジェンド」の証明カードをあることを調べてからぱたぱた走りながら玄関に向かう。


「いってきまーす」


 いってきます、なんて言うのはいつ振りだろう、そんなことを思いながらリュヒナは久しぶりの一人の時間を満喫するために街に出かけた。






 昨日の魔獣襲来は嘘のように街は元通りの喧騒を取り戻していた。

 ひょこひょこと小柄な体を跳ねさせ、街道を歩きながら、リュヒナは視線をあちらこちらに巡らせる。おいしそうな店がたくさんある……。

 楽しそうに会話をする人たちや客引きをする店員。微笑ましく、活気のある市場だが、そこに子供の姿はない。

 「失われた子供」の姿は自分以外にはここにないのだ。

 リュヒナ自身も自覚はしている。自分に対する時々感じる奇異な視線、侮蔑の視線。

 どうしてこんなところに? そういった懸念の声が耳に入るたびに胸が締め付けられる。こういう扱いには慣れてはいるが、平然としていれるほどメンタルが強いわけでもなかった。

 身なりからして旅人なのだとわかっているのだろう、町人も別に「失われた未来」とはいえ、外から来ているということがわかっている。つまり「関所を通ってきている」という事実があるわけだ。

 つまり害のない「失われた未来」だということ。


 害があるない、ってほんと私たちは邪魔な化け物なんだろうな。

 いまさらな話だが、再認識すると心が痛む。


「あっ……」


 そんなリュヒナの視界に飛び込んできたのは子供たちの姿だった。

 子供たち、つまり「失われた子供」だ。

 先頭を堂々と歩く白銀の髪をした少女はリュヒナとそう歳が離れていないように見えた。

 白いワンピースはやや薄汚れ、露出されてる足には切り傷やすりむけた跡がある。当然ながら足は素足だ。

 その子に続くように二人のさらに幼い少年達が歩いていた。身なりから三人が孤児だということはすぐにわかった。

 街道の端を隠れるように、いや、少女は堂々と普通に歩いているのだから隠れているつもりではないようだが、三人は建物の影をたどるように歩いていた。


 不思議なことに少女の顔を見ていてもいつものように悲しい気持ちにはならなかった。

 つりあがった目や眉からは強い意志を感じる。「生きること」を諦めていない強い意志が篭っている目だ。


 そんな風にじろじろ見られていることがわかったのだろう。道の真ん中で立ち止まって見ていたリュヒナと少女の目が合った。

 あ、と気まずく思ったリュヒナだったが、少女がすぐにふんっと顔をそらしたのでそれも杞憂に終わる。


 気が強そうな子……。


 むしろあれぐらい強くないとこの環境では生きていきにくいのも確かなのだけど。

 三人の子供たちは建物の間の路地に入ると姿が見えなくなった。

 ああして健気に生きている子供たちがいる。それだけでリュヒナのさっきのネガティブな感情は幾分か落ち着いていた。


 いこいこ。


 目線を前に戻して、元々自分がここに来たいと思った場所に向かって小走りで向かった。





 ベルフェリングは人口がフィッツ領の中で二番目という大きな街なのだが、ここが人気なのは大きな理由があった。

 大きな市場や豊富な品揃えはもちろんなことで、それとは別にひとつ。それは――、


 魔道具博物館、である。


 世界中の魔道具の情報が集まった博物館。世界有数の記録庫があることだ。

 情報がやり取りできないこの世界に於いて、情報というのはかなりの貴重価値だ。その情報の中で魔道具に特化した博物館。それがこのベルフェリングにはある。

 メカニックの、メカニック中毒のリュヒナにとってこれ以上に魅力的な名所はない。自分のほしい魔道具の情報がすべてここにある、そう思うだけでリュヒナの口からは涎が垂れる。



 じっくりたっぷりとその博物館で魔道具を堪能したころには外はすっかり暗くなっていた。

 街灯の光に照らされているとはいえやはり薄暗く、人通りも朝に比べてかなり少なくなっていた。それにこういった街では「失われた未来」の子供たちの迫害が顕著に出やすいため、暗がりにつけこんで悪戯や陰湿なことをされることがあったりする。ひどくなれば殺されたりすることもある。

 いくら「新たな希望」であっても見た目は「失われた未来」。油断はできない。

 リュヒナはピアスがちゃんとついているか手で確認してから博物館の出入り口から外に出た。


 八時を回った市場は静かだ。しまっている店がほとんどだし、開いていても店員が外で呼び込みをしているわけでもない。

 街を歩く人たちはもう帰途についている人ばかりで、かくいうリュヒナもそうだった。


「あー、楽しかった。んもう! 最高!」


 といっても高ぶった興奮がすぐに収まることはない。なんといっても生きてるうちに絶対にいきたいと願った場所にこんなに早くこれることになるなんてまるで夢のようであることに変わりないのだから。

 遠足は帰るまでが遠足ですよ、といわれて間違えた解釈をしてはしゃいで帰る子供のようにリュヒナはハイテンションで帰っていた。


 明日も来ようかな、とかなんとか、そんなこと考えながらスキップしていると、前から歩いてくる人影に気づく。

 街灯に照らされたその人影の髪はきれいな銀髪をしていてふわりと風になびいていた。

 その銀髪にリュヒナは見覚えがあった。


「あ……」


 進んできた人影の顔が街灯に照らされると、そこには朝すれ違った子供の少女の顔があった。

 この大きな町で二度も同じ顔を見ることになるなんて、そう思って運命的なものを感じたリュヒナに白銀の髪の少女は小さく呟いた。


「こっちに『来て』」

「え?」


 見つめられた瞳は紅く染まっていた。すぐに気づく。この少女は能力を使っている。

 「失われた未来」が能力をコントロールできるというのは結構少なかったりする。特に十四というリュヒナぐらいの歳ではかなり少ないほうではある。

 今の少女が能力を発動させていて、それは意図的なのか暴走化なのか判断することはできない。ましてやなんの能力かさえもわからない。

 同じ「失われた未来」の少女に抱く親近感と暴走化に対しての緊張感でリュヒナ自身少しずつ高ぶった感情が冷静さを取り戻していく。


 少女はリュヒナの返事を聞かないまま、傍の路地に入っていく。それについてくように自然とリュヒナは後を追っていた。

 街灯の光が小さく差し込む路地の中は想像しているよりも暗い。空の月明かりと街灯のかすかな明かりでぎりぎり壁との距離感がわかる程度だ。

 奥に進む少女の後を追い続けると、やや開けた広場に出た。


 広場といっても人が良く集まるような痕跡はない。

 偶然建物と建物の間にできた大きな隙間、空き地、といったような場所だ。

 そこまで来てやっと少女は歩みを止め、リュヒナに振り返った。相変わらず目は紅い。

 そんな少女にリュヒナはおずおずと問いかける。


「え、っと、私を呼んでどうしたの?」

「ううん、少しね、お願いがあったの」


 凛とした声。鈴が鳴るような通る声はしっかりとリュヒナに届いた。


「お願い?」

「うん。『食べ物分けて』くれないかな、って思ったの」

「食べ物?」


 食べ物を分けてほしい。

 孤児である少女からのお願いとしては至極単純でありきたりなことではあった。

 だが、いくら同じような年代、同じ「失われた未来」であったところで簡単に食べ物をほいほいと渡すことができる人間は少ないだろう。

 リュヒナはそっか、と答えてからマントの中からおやつ代わりの乾パンの入った袋を取りだし、それを少女のほうに渡した。

 本当に自然に。

 何の疑問も抱かずに。


「これぐらいしかないけど、いい?」

「うん。ありがとう」


 それを遠慮なく少女は受け取ると、厳しい顔を少し綻ばせた。

 目は紅いがこれといった能力の効果は出ていない。大丈夫かな、とリュヒナも少し緊張を解く。

 それに「失われた未来」の子と話せるというのも久しぶりで心なしうれしかったりするのだ。


「あの」

「ありがとう、それじゃもういくね。『ばいばい』」

「え、あ、うん。ばいばい」


 せっかくだし少し話をしようと口を開いたリュヒナをさえぎるように少女はさらに奥の路地に入っていった。

 食べ物をもらうだけもらってすぐどこかに行く。そんな扱いをされたにも関らず、少女に対して苛立ちなんてリュヒナは抱かなかった。


「うーん、仲良くなれるかと思ったんだけどな」


 残念に思いながら、帰ろうと思って路地にまた入ろうとする。そこでピタリと足が止まる。

 この広場、たくさんの路地繋がっているようだった。つまり、さっき少女が入っていった路地以外にも他に路地があるわけで、そしてこんな入り組んだ路地に入り慣れていなく、なおかつ枝分かれした広場。


 とどのつまり、リュヒナは帰り道がわからなくなってしまっていた。

 迷子だ。


「嘘でしょうぉ」


 自分でもあきれてしまう。

 やってしまったとその場にしゃがみこんで現実逃避してしまいたいほどの衝動に襲われるがなんとかモチベーションを保つ。

 ここでピアスを解放して、キリアに迎えに来てもらうのはあまりにも恥ずかしいし、なによりこんな路地で何をしていたと怒られるのは目に見えてる。

 なんとしてでも自力で脱出するしかない。


「とりあえず、大通りに出れたらいいよね!」


 ここにいても仕方ない。そう思って適当にひとつの路地に入ろうとしたとき。


 ジャリっ。


 と背後から足音が聞こえた。

 他の「失われた未来」だろうか? そう思って振り返ると思ったとおりそこにはボロボロの服を着た少年が立っていた。

 だがどうも様子がおかしい。


「……どうしたの?」


 少年は俯いてリュヒナの声に反応しない。だが、やや激しく上下に揺れる肩が不安を煽る。


 まさか……ね。


 一瞬過ぎる最悪な想像にぶんぶんと首を振る。

 とりあえず、少年に近づいてその揺れる肩に触れる。もし、体調を崩したりしてるなら介抱してあげたい、そう思って少年の顔を覗き込もうとした瞬間、ばっと少年が顔を上げた。

 うわっ、とびっくりしたのもつかの間、リュヒナは少年に思いっきり突き飛ばされていた。


 想定外ではあったが、なんとか受身を取り少年と距離をとる。


 リュヒナと少年の目が合う。少年の目は紅い。それだけじゃない。突き飛ばされた時の威力、そして激しい少年の動悸。これは――


「あちゃー、最悪だなぁこれ」


 ――半魔獣化。


 標的が自分であることに間違いはない。

 そう確信してリュヒナも能力を解放する。目が紅く染まり、視界に入るあらゆる情報が一気に頭の中に飛び込んでくる。

 その状態のままピアスに触れる。

 キリアを呼ぶため、という意味で触ったわけではない。実際、解放するのだからキリアを呼ぶことに変わりはないのだが、今このピアスを解放する一番の目的は、


「実践は久しぶりだなぁ」


 このピアスがリュヒナの武器、魔道具だからだ。

 白く光りだしたピアスは形を変え始め、数秒もしないうちに一本の十センチは超える大型のナイフに変わる。

 このナイフがリュヒナの武器。

 ナイフを逆手に右で持ち、腰を下げて半魔獣化した少年を見据える。


「すぐ、治してあげるからね!」


 少年がこちらに駆け出そうと足に力を入れた情報が頭に入ってくることを理解したリュヒナはすぐによける方角の演算を始める。

 予知に近いその能力を、目一杯使い、もしかしたら少年を傷つけることになるかもしれない。


 その覚悟を頭の端でしっかりするのだった。
















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