失われた未来
なんとか連載続けたい!
ということでしっかり設定も考えて書いたはじめて連載らしい連載を掲載します。
できるだけしっかり更新するのでよろしくお願いします!!
世界は一度終わった。
というのは人間を基準にした場合、のことである。人間を世界の中心にしたとしたら、そういう風に仮定したとしたのなら確実に世界は一度終わった。
一度終わった、という言葉からして「今は再度復活した」とばかり思うかもしれないが、ある意味ではそうであってある意味ではそうでない。簡単にとにかく今の現状を説明したとしたら
世界は失われた、というべきか。
今から二十年前、二〇五二年六月七日。世界全土を包む大災害が起こった。天変地異、世界が一変する瞬間だ。
隕石が振ってくる、コアが爆発する、ビッグバンが起きる、そういった現象と同じだ。人間という存在が一変する、いや人間だけではないが、生物全般が変異する大災害。
魔気傍流災害。
そう呼称されるようになる大災害だ。
世界には、酸素、窒素、二酸化炭素、そういった分子の中に「魔素」と呼ばれる原子が存在していた。その原子はどの原子や分子とも結合せず、ましてやなにかしら影響を及ぼすこともなく存在し、約五十年前までは発見さえされてなかった影の薄い物質だ。
その五十年前にある学者が発見した。「魔素」というものが「超能力」と強い関係にあることを証明してみせたのだ。
人間に先天的に授けられる能力。人としては過ぎたその能力を人々は超能力と呼んでいた。
空を飛ぶことであったり、手も触れず物質を動かすことであったり、透視であったり、さまざまなその能力はすべて「魔素」が関係していたのだと、その学者は熱弁した。
実際その通り、魔素の研究が進むにつれ、人間と魔素の間にある関係性が明らかになり始め、ついには「人為的に超能力を発現させる」域に達したのである。それは約三十年前の話だ。
人類の知能は高かった。たった二十年で魔素を取り込み超能力を発現させる、後に「魔道」と呼称されるものを作り出せたのだから。
しかしまた愚かでもあった。
いつの世もそういう者はいる。世界を我が物にと欲を出し、同じ命を殺し、自分の都合を押しつける者どもが。
そう、魔素を用いた魔道の戦争、「魔道戦争」が始まったのだ。
ひとつの国が起こしたその戦争は次第に戦渦の種をまき、それはすぐにでも芽を出し、世界すべてを包んだ。世界規模の戦争が起こった。「第一次魔道戦争」の開幕だった。
失われる命、自然、世界。海は枯れ、空は滅び、地は果てた。人類は自らの手で自らの首を絞め、それでもなお、その戦争を止めることなく、いつまでも続けた。
そしてそれは起こった。
第一次魔道戦争開戦から約十年、正確に言えば二〇五二年六月七日。「魔素」が何かしらの原因で化学反応を起こし、暴発。後に「魔気」と呼ばれる瘴気となって世界を覆い、世界を包み、赤い雨を降らせた。
世界が終わる大災害である。人間の手で起こした大災害。それは人間を、動物を、植物を侵し、変異させ、世界は終わった。
魔気傍流災害。その詳細である。
「失われた未来」
そう、キリアは呼ばれた。
キリアだけではない、「超能力」を持って生まれた子供たちは例外なくそう呼ばれた。
ただこれだけの説明ではただ単に特殊な子供が生まれただけ、五十年前までなら神童だとかそんな風に持て囃され、重宝されるような存在であるはずだった子供たちは例外なく差別され迫害された。
なぜか、それは魔気傍流災害の影響によるものだった。
魔気傍流災害以降、世界の魔素の濃度は上がった。それだけではなく、この世の生物は「魔気」を体に宿し生まれることを已む無くされた。それにより「魔道を先天的に使えるがコントロールできない化け物」が誕生することなったからだ。
大災害当時、その瘴気に侵されたものは先ほど記述したとおり変異した。その変異とは、まさに化け物だった。
一匹のねずみは人間を容易く食すことができる体格となり翼をはやした。
一羽の鳥は顔を三つ生やし、さまざまな動物の言葉を理解し、精神を支配する特殊な周波数を飛ばした。
一人の人間は理性をなくし、魔道を用いて人を襲い、姿かたちは醜いものに変わり果てた。
要するに想定外の化け物が現れ、後に「魔獣」と呼称される存在が世界を包んだ。
包んだ、その言葉だけでは曖昧として伝わりにくいと思う。だからひとつわかりやすくいうと、世界の人口の約五分の三は魔獣と化した。
文字通り世界は壊滅し、滅んだのだ。
もちろん、無事だった人類もいた。多くといえるかどうかはあるが、まだいた。
だがその体には魔気が溜まり、表には出ずともその体の奥底に眠り、それは子供たちに受け継がれることになる。
それが「失われた未来」だ。
魔気に多く侵された者は魔獣に変わる。だが人間と魔獣の境目、その間に存在する新たな生命、そういっても過言ではない。
魔道を使え、だがそれをコントロールすることができず、「人間の理性を持ちながら魔獣の力に苦しむ子供」がこの二十年生まれ続けた。
今の子供たち、つまり「失われた未来」には全員特殊な力を持っていることになる。
それはちっともうれしいことでもなく、しかし悲しむにはあまりにも悲惨な、そんな世界がここには出来上がっていた。
「正直な話、俺はここに来ること自体反対していたんだぞ」
「もー、まだそれ言ってんのー? そろそろいいじゃーん」
キリアの言葉に対し、もう何度目かとそろそろイラついてきているリュヒナは語気を荒げて言い返した。
歩くたびに揺れる結ばれた側頭部から伸びる二つの髪の毛はプリプリと怒っているかのようにも見えた。
その後ろをついていくように目がやや隠れる程度に伸びた髪を揺らしながらリュヒナを怒らせた張本人であるキリアが続く。
お互い、全身を黒のマントで覆い、そのマントには数多くの場所巡り歩いた際についた傷や汚れがついていた。
「着いたら先にギルドだ。わかったな」
「はいはい、わかりましたよーだ」
二人の歩く先には大きな町並みが見えていた。
ぐるっと町を一周するように三メートル弱の外壁が囲み、魔獣の進入を防いでいる。目の前の町ベルフェリングはこのフィッツ領の中では二つ目に大きな町である。
それこそ大災害の影響は計り知れなかったものの、今ではむしろ発展を続け、人口を伸ばす形へとなっている。
しかしそれは逆に「失われた未来」への抵抗も強い証拠でもあるのだけれど。
とりあえず二人はベルフェリングの関門に向かうことにしていた。
二十年前の大災害以降の子供には超能力がある、そう先ほど記述したとおり、現在のこの世界において二十歳以下の人間は「失われた未来」であるということであり、前々からいっている通り「失われた未来」は大変差別されている。
こういった町に入るときには「失われた子供」であるかどうかの検査が必ず行われるのは当たり前と言えた。
無論、「失われた子供」の町への出入りは禁止されている。その町にとってどんな被害が出るかわかったものではないからだ。
しかし例外もある。
そう、例外も。
二人が関所着くと、大きな門の前に立つ二人の若い男たちが二人に気づいた。その姿を見るや否や大きく顔をしかめた。単純な話だ。「失われた未来」が来たと思ったからだ。
まだキリアの姿は大人に見えなくもない。歳も十八であり、見た目も百八十という長身で大人びた細い目からはそれなりの貫禄を見せるのだから。
しかしその前を歩く少女はどう贔屓目に見たところで二十を超えている風には見えない。
事実、少女リュヒナの歳は十四であるし、大きな瞳とすらっとした鼻は元気のいい活発な子供を思わせる。そんな二人組の姿を視界に納めて、笑顔でいるほうがある意味難しい。
「通行を許可してもらいたい」
二人の男の前に立つや否やキリアは単刀直入に言った。
男たちはその姿を見てため息を漏らしながら、門の左側に立つ男が答える。
「残念ながら「失われた未来」の連中を通すわけにはいかない」
「お前らの年齢絶対二十超えていないだろ」
その言葉にリュヒナはふわぁ、とあくびを漏らしながらマントの中であるものを探った。
同じくキリアも自分の懐を探る。
こういった事態に慣れている二人である。いまさら戸惑うこともなくマントの中からその例外の証である証明カードを男たちに見せ付けた。
「私たちは「新たな希望」よ!」
胸を張り、その証明を見せ付けてくるリュヒナに関所の男たちは苦笑いをするしかできなかった。
流石、発展途上の町というべきか、その中は外壁の外からではなかなか想像出来ないような賑わいを見せていた。
災害から街、というものは廃れた。街を動かす人間が廃れば街が廃るのは当たり前のことで、町の導線は鈍り、電気の通らない場所ももちろんあった。
魔獣が街だけでなく発電所といった主要な場所でも暴れたのが一番の問題であったが、要するに一気に変化した環境に人間たちの文明はついてこれず、急変した食物連鎖の形に大きく翻弄されたことになる。
だが人間もやはり人間だ。環境に適応するのもそう時間はかからなかった。時間がかからなかったというの世界規模、または今までの人類の過程で見ればという話なのだけど、二十年でここまできたのはやはり大したものといえるだろう。
いまや自治は国ではなく領土や街ごとでそれぞれ行われているのがほとんどで、まず大きな範囲での連絡手段が災害から絶たれてしまったことから広範囲の自治が管理できなくなった。もう国としての機能よりかは街としての機能の方が充実して動いているかのように見えた。
このにぎわった町並みがいい証拠だ。
「やっとついたね! よしそれじゃ早速おいしいものでも……」
「ギルドだ」
「うっ……」
街の様相を見てはしゃぎまわるリュヒナに釘を刺す。
いいじゃん別に少しくらい、と唇を尖らせながらくるくる回りながら先行していた体をキリアの隣に移した。
ざわざわとした喧騒が、いやに二人の心を落ち着かせた。
「こういう感じ、すっごく懐かしい」
「そうだな、しばらく外を歩きっぱなしだったからな」
「ほんとに長かったよ! しばらくなんてレベルじゃないよ!!」
ベルフェリングに到着する前の町はここから歩いて一ヶ月はする場所にあったわけで、というかもはやフィッツ領ですらなかったのだが、どちらにせよ一ヶ月の長旅はリュヒナにとってはかなりのストレスだった。
慣れていないわけではないし、こういう旅が嫌いなわけでもない。目的もなくやっているわけでもないので、というかベルフェリングにいきたいといたのは他でもないリュヒナなわけだからも文句をたれる自体ずれているのだが。
どちらにせよ、リュヒナにとって、またキリアにとって街での喧騒は一ヶ月ぶりに安心して休める場所でもあるという証拠であるのだ。
「別にギルド寄ってなにか仕事受諾するわけじゃないでしょ?」
「あぁ、今日は仕事の依頼の確認をするだけで、何かをする気はない」
「じゃあ、確認済んだらおいしいもん食べて休めるとこ探さないとね!」
「食べる前に宿探しだ」
「えー、もうおなかすいた!」
進みながら仲良く話していた二人だが、ふとリュヒナが歩みを止めた。一歩遅れてキリアも止まる。
ある一点に視線を向けるリュヒナの目線を追うと、そこには建物と建物の間の隙間で座って俯いている少年の姿があった。金髪の髪の毛は煤け、服もぼろぼろに破れている。所謂捨て子、孤児であると理解するのにそんなに時間は要しなかった。
その少年の前には四方一メートルほどの大きな紙が置かれていて、紙には「ごはんをわけてください」と書かれている。ひらがなのその字はかなりへたくそだった。
「リュヒナ」
「うん、わかってるよ」
悲しげに目を伏せて、リュヒナはまた歩き出した。
「失われた未来」の差別化は目に見るに明らかだ。自分より下の少年がああして苦しんでいる姿がリュヒナの心をえぐった。
あの子だけではない。むしろ、ああいった子供のほうが多いのが現状である。二十年経った今でも魔気についての大きな研究結果は出ておらず、治療法もない。「超能力」暴走化を止める方法はまだ確立されていない。
だからといって差別がこうも黙認されていいのか、リュヒナはそんな言葉を心にかみ殺してきた。
しばらく無言なリュヒナの隣を黙って歩きながらキリアは、あることが気になっていた。
偶然、それは偶然だった。
ふと視線を上げた先、やや斜め上の上空だ。青い空と白い雲が浮かぶ晴れた空を見上げたそのときだった。
ふとちいさな点が目に写った。
雲の下を進む小さな黒い点。事実ここから見ては小さいかもしれないが、あの距離にある物体が小さくとはいえキリアのいる地上から見えるということはその大きさは少なくとも数十メートルは超えるだろう。
いまや飛行機も飛行船もヘリコプターも空を飛ぶことはない。場所によっては飛んでいることもあるが少なくともフッィツ領をまたぐように呼ぶ飛行機などあるわけがなかった。
空を飛ぶ魔獣に襲われる危険性があるからだ。もちろん、キリアはそれを知っている。だからこそ、上空のその黒い点が気になったのだ。
気になるも何も。
推測を立てようと、消去法で考えようと、出る結論ひとつしかないわけで。
「魔獣だ」
「えっ!?」
キリアの呟きにリュヒナはすぐさま反応した。キリアは目を見張るリュヒナの肩を掴んでピンクの真珠のピアスのついたその小さな耳に顔を寄せた。
「まだわからない。おそらく魔獣だろうが空を飛んでいるだけだ。ここにくるとは限らない」
「そ、そうかもしれないけど……」
キリアの小声につられるようにリュヒナの声も小さくなる。「飛んでいる」という言葉に顔を小さく上空に向けた。
小さな黒い点が見えるとリュヒナの体がこわばるのがキリアにも肩越しに伝わった。
「あまり騒ぐな。周りに伝わるとめんど――」
「まってキリア、あれ、近づいてきてない?」
「――なんだと?」
キリアはリュヒナから離れて空をもう一度見上げる。
点を探すように目を巡らせるとすぐに見つかった。さっきまでは目を凝らさないと見えないほど小さかった点は、明らかに大きくなっていく。
二人がそれに気を取られている間にもその点は次第に大きくなり――。
「魔獣だぁあ!!」
それに気づいた自分の店の前で客の引き込みをしていた男が叫んだ。
喧騒に包まれてい街道が静まり返る。叫んだ男に視線が集まり、その男が見上げる空に向かってまた他の人たちの視線が集まっていく。
「きゃーー!!!!!」
一人の女性の絶叫。それを引き金に一気に街道はパニックに包まれた。
その喧騒が悲鳴に変わるころにはその点は目の前にまで迫ってきていた。
「リュヒナ! やるぞ」
「わかってるよ」
運悪く、その黒い点、いや魔獣はキリアたちのすぐそばに降り立った。
大きな翼を生やし、顔は牛と馬を足して二で割った不気味な物で体はカラスを思わせる羽毛に包まれていた。
魔獣のかぎつめが地面につくと、そのつめが地面に食い込み、地面を割った。
街道の人々が叫びながら右往左往逃げ惑う。数十メートルは超える鳥の化け物は奇怪な声を上げながらさらに人たちの恐怖をあおった。
「情報を処理しろリュヒナ! 俺があいつを消す!!」
「わかった! 任せて!」
そういってマントを翻しながらキリアが化け物に向かって駆け出す。その速さは常人を逸していた。当たり前だ。「失われた未来」の子供たちは魔気の影響で身能力が常人より底上げされている。その脚力は一気に魔獣との差を詰めていく。
その一方、リュヒナはひとつ大きな深呼吸をすると、一度目を瞑り、ゆっくりともう一度深呼吸。
つぎにゆっくりと開かれた瞳は黒から深紅に変わっていた。
「くるよキリア!! 羽!」
その目に映った情報を元にキリアに大声で告げる。
キリアはその声を聞きながら、マントの中に潜めていた細い長剣を引き抜く。それと同時に目をさらに見開き、魔獣へと向ける。その瞳が黒から深紅に変わる。
「キャァエエエエエエェェ」
魔獣は悲鳴をあげると体よりも大きい真っ黒な羽を広げ、大きく一度払う。
それと共に数十の羽が弾丸のごとくキリアに迫る。
「二十三本! 八本かわせば問題ないよ!」
リュヒナが後方から叫ぶ。
キリアはその言葉どおりに音速に迫る羽の弾幕をかすることなく八本だけ避ける。
他の羽はキリアには当たらず地面に突き刺さり、容赦なく地面に罅を入れる。
その羽の弾幕を超えたキリアと魔獣の差はもうほとんどない。
キリアの長剣がやや掲げえられ太陽の光を反射させキラリと光った。
「やっちゃえ!!!」
「初めの月」
リュヒナの言葉とキリアの言葉が重なる。
次の瞬間には、魔獣の首から上の牛と馬の顔は真っ黒な胴体と切り離されていた。
切り離された傷口からは大量の血が噴出し、地面に真っ赤な水溜まりを作っていく。
それが足につくのもお構いなしでキリアはその場で長剣マントの中の鞘に収める。そんなキリアにリュヒナが飛びつく。
「やったねキリア!」
「ばか、離れろ」
ぎゅーと抱きついてくるリュヒナを引き剥がすようにリュヒナの頭を押すキリアにぱちぱちと小さな拍手が聞こえた。
離れたところから逃げて様子を見ていた一般人の一人の拍手だった。その拍手は波紋が広がる様に周りの人たちへと伝染する。
いつの間にか二人は多くの拍手に囲まれていた。
魔獣から人々を救う。それは特別な訓練と特別な武器を持った軍隊、軍人でしか出来ないことだ。普通の人間にそれをする術はない。
自分で自分の身を守る。それが魔獣には通用しない。
彼らがいなければ魔獣はこのまま暴れ続け、街の討伐隊がくるまでその被害は抑えることはできなかっただろう。
その拍手はそれだけ大きな感謝が含まれていた。
「やったね、キリア」
「そうだな」
魔獣と対等に、またはそれ以上に戦え、自分の能力に振り回されることなくコントロールでき、人類に大きく貢献すると認められた「失われた未来」に渡される称号。
唯一、「失われた未来」でありながら迫害されず差別されず、世間を歩くことができる。一人の人間としての扱いが受けることできる称号。
「新たな希望」
二人の姿は街の人々にとってまさに希望そのものに見えただろう。