第七話 「楽しくなさそう」
凄くお久しぶりです。
ようやく七話が書けました。
「お邪魔しまーす」
「ただいま」
二人で教室に帰るとその場が騒然となる。だから目一杯の上品な仕草と最高の笑顔で先手を打つ。
「期待に添えなくて申し訳ないけど、この人は彼氏じゃないからね」
場が分かりやすく安堵する。
それ以上の情報は与えず、三谷のもとへ行く。
「珍しいね。見時ちゃんが男子と二人とか」
「あんたもね」
三谷の向かいに座って昼食を食べている男子に目をやり、見時は言葉を返した。その男子は全く見覚えのない男子だった。
「あ、紹介するねー。一組の中田春輝君だよー」
「初めまして。中田春輝です」
中田は少し茶色がかった髪はきちんと整えられており、整った顔立ちも相余って万人受けしそうな見た目であった。中田はその万人受けしそうな顔で綺麗に笑い、握手を求めてきた。
見時はそれにちらりと、ほんの一瞬だけ目を向け微かに顔を歪めたが、直ぐに笑顔を作り微笑んで言った。
「そう。私は見時弥子よ」
中田は役目を成さなかった手を、何事もなかったかのように戻した。
「勿論、見時さんのことは知ってるよ。有名人だからね」
「ありがとう。光栄だわ」
見時は慣れたようにそう返して、近くの席に座った。
中田は三谷の前の席に座り、椅子を後ろに向ける形で弁当を食べていた。見時は三谷の隣に座り、高木に言った。
「あんたはそこね」
「はいはい」
高木は苦笑しながら、見時が指差す席、すなわち中田の隣の席に座った。
高木が席に着くやいなや、三谷が身を乗り出しながら口を開いた。
「さあッ、教えてもらうよ! 見時ちゃんとそこの君! 君たちは一体どういう関係かなッ!?」
「下僕」
「即答かよ!」
「息ぴったりだね」
やけにテンションの高い三谷の質問に、見時は真顔ですぐさま言葉を返し、間髪を容れず高木が突っ込んだ。それを聞いて爽やかに笑ったのは中田だ。
「そうはぐらかさずにさー。教えてくれてもいいじゃん」
三谷は口を尖らせた。
「別にあんたの気にするような関係じゃないわ」
三谷の言葉に見時は素っ気なく返した。
「高木……何だっけ?」
「悠介だよ!」
そのまま見時が昼食を袋から出し始めたので、この話は自然と打ち切られた。三谷も細かいことを気にするような性格ではないためあっさりと食べかけの弁当に手をかけた。
「見時、購買でも思ったんだけどな。それ少なすぎないか?」
高木が指差したのは見時が袋から取り出した、小さなサンドイッチと紙パックのカフェオレだった。
サンドイッチの袋に手をかけつつ見時は高木に顔を向けた。
「別に少なくないわよ。それにあんただっておにぎり一つだけじゃない」
「これは俺の金銭的余裕がないからであってだな……って、悲しくなるから言わせんなよ。金に余裕さえあればこんな質素な飯なんか食わねーっつの」
「何を言ってるの、金銭的余裕があったとしてもあんたの食事である限り質素なものに変わりはないわ」
「あぁ、お前はそういう奴だったな。俺を貶めるためなら質素の意味すら無視するやつだもんな」
「知ったような口を聞かないで」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑う見時を見て、三谷が呟く。
「見時ちゃんのこういうとこ珍しいかも」
「そうなんだ?」
聞き返した中田に、三谷は弁当の中の卵焼きをお箸でつまみながらまた呟く。
「見時ちゃんって、結構クールだし、あんまり口数多い方でもないんだけど。こうやって楽しそうに、しかも男子と話してるのとか初めて見た」
と嬉しそうに、寂しそうに話す三谷の俯いた顔を眺めながら、中田も呟く。
「いいことなんじゃないのか、それ。やっぱり色んな人と話すのって大事だしな」
「高木くん……侮れんな……!!」
わざとらしく三谷が作った声で言った。
「やっぱりサンドイッチだけじゃ足りないわ」
「と言いつつ何をしてるんだお前は! それは俺のプリンだ――!!」
「買ったのは私だもの」
「誰のために買ったプリンだ?」
「私」
「俺だよ!」
そうして変わらない調子でやり取りを続けていると、不意に見時が頬を緩めて微笑んだ。それは先程までの強気な笑顔ではなく、本当に自然で暖かい笑みだった。
「……?」
高木が思わず訝しげな表情で見時を見つめる。
「お前が自然に笑うと、怖いな」
「失礼ね。私だって普通に笑うわよ」
そして、なんで笑ったんだっけ、と考える。
只、高木と普通に話していただけなのに。
あぁ、なんだ。
普通に話せたことが嬉しいんだ。
普通に話せたことが楽しいんだ。
今だけは素直になってやらないでもない。
見時は高木だけに聞こえるように囁いた。
「私、貴男との会話――……好きよ」
「――……!? え!? ちょ、何急に!!」
分かりやすく驚く高木を見て見時はまた笑った。
「何慌ててんのよ。あくまで会話よ。貴男じゃなくて、会話」
「お前は自分の言葉の破壊力を知らないんだよ!」
「勝手に破壊されてなさい」
「普段通りだ!」
◇◆◇
何やら二人で騒いでいる高木と見時を横目に中田は頬杖をついて、三谷に話しかける。
「見時さんはさ。いつも、どんな感じなの?」
「んー? いつもって?」
「えーと、まぁ、高木君以外と話してるときとか」
うーん、と言って三谷は俯いて答えた。
「……いつもはもっと、静かで、落ち着いてて――」
三谷は一度言葉を切り、顔を上げ、見時の方を見た。
「もっと、楽しくなさそう」
中田くん登場。