第六話 「提案」
お久しぶりです。
ようやく六話目です。
見時が高木と会った日の昼休み。
「見時ちゃーん。弁当食べよー!!」
授業時とは打って変わったテンションの高さで、三谷が弁当を持って文字通り飛び跳ねながら見時のもとへとやって来た。
「三谷、少しは落ち着きなさいよ。後、悪いけど今日は私購買で何か買ってくるつもりなの」
「えー。じゃあ急いで買ってきてね? あたし食べながら待ってるから!!」
「食べながらってところが三谷らしいわね」
購買は、まだ早い時間だからか人が少なかった。もう少し経てば大量の人が押し寄せてくることは目に見えているので見時は早めに買い物を済ませることにした。
「あっ、見時先輩こんにちは!!」
「み、見時さんがいる!!」
「やっぱ美人だなー」
何処へ行っても注目を浴びるのはいつものこと。見時は笑顔でみんなに会釈して買い物を続行した。 みんな見時が通ろうとすると急いで道を開ける。もっと気楽に接してくれてもいいのだが、今更言っても聞いてはくれないだろう。
ふと、前に目を向けると一人だけ見時に目もくれず真剣に商品を選んでいる男がいた。
「……うーむ、やっぱりおにぎりを買うべきか、しかし一個買えば俺が毎回超楽しみにしていたおやつのプリンが買えなくなる。だからといっておにぎりを買わないという選択肢は俺の中には無いッ!! しかし!! 俺の全財産は200円……!!」
馬鹿、もとい高木であった。
「こんにちは、お馬鹿さん」
「ん? あぁ見時か。っていうか馬鹿って言うな」
「まぁ、いいじゃないの。見るからに馬鹿だったんだもの」
普通に話していると、遠巻きに眺めていた人たちが驚いているのが分かる。
「何か、凄ぇ悪意の籠った視線を感じるんだけど……」
高木が見るからに嫌そうな顔をする。
周りの人たちは「なに見時さんと普通に話してんだよ」「えッ!? えッ!? 彼氏!?」などと大騒ぎだ。彼氏というのは全力で否定したい。
「私と話してると絶好の嫉妬対象よ?」
「大変だな、お前も」
流石の高木も苦笑いである。
「俺、離れたほうがいい? 後で面倒くさいことになったりすんじゃねーの?」
あくまで普通の、しかし確実に周りには聞こえないであろう声量で見時は答える。
「お好きにどーぞぉ? 面倒くさいことになるのは貴男の方なんだから」
あー、そうかーと眉をひそめる高木。そしてふと思いついたように聞いた。
「お前はどうなんだ? そういう噂ってやっぱ気にするもんなのか?」
そういえば気にしたことがなかった。そういう噂が立ったことは今まで何度もある。自分が噂の立ちやすい立場にいることは理解していたが、その噂を気にしたことは無かった。
「どうでもいいわ」
要するにこういうことだろう。どうせ大した噂もないだろうし、気にする必要もない。
「んじゃあ俺もどうでもいいや」
と高木はあっさり言った。相変わらず単純、と考えてから相変わらず、と知ったような口を聞ける程の仲ではなかった、と思い至る。
――私、今日高木と知り合ったんだっけ。
「提案です」
見時は人差し指を立て、顔の横に添えて首を傾げた。
「私これから教室でお昼食べるんだけど――貴男もどう?」
唐突な誘いに高木は驚いて微かに目を見張った。当然といえば当然であろう。見時自信無意識の提案だった。
「俺はいいけど。いいのか? っていうか、急にどうしたんだ」
「私にも分からないわ」
「なんだそれ。なんか企んだりとかしてねぇだろうな?」
「失礼ね。企んでるに決まってるでしょう」
「何堂々と言ってんだよ!! 悪巧み前提の提案なんかしてくんじゃねぇよ!!」
「今なら私がプリンを奢ってあげないこともないわ」
「さーて、さっさと買い物を済ませて共に昼食をとろうじゃないか!!」
自分らしくない行動だとはわかっていても、
どうしてなのかわからなくても、
このよくわからない衝動が心地良かった。
貴男といると心地良い。
そう、だから、
貴男ともっと話したくなったの。
少し、休憩的な内容でした。